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のんびり異世界留学日記  作者: 茉莉
16/27

16.囮捜索開始です


 『木漏れ日』から迷路のように続く砂利道を五分も歩くこと無く出た所は既に街の中心街のような賑やかさで驚いた。『木漏れ日』がまるで閑静な住宅街にひっそりと在る芸能人御用達隠れ家的お店のように、開店時以外は物凄く静かで穏やかな雰囲気だから尚更そう思う。

 店と裏庭の広大な敷地がヨアンさんの持ち物らしく、その敷地内から一歩も出たことがない。

 故にこっちの世界に来てから十日以上、限られた人達としか直接会っていなかったため油断していた。




「うっ…ヤバい…吐きそう…」


「カズハ殿、大丈夫ですか?」


「だ…大丈夫…とも言えなくもなくない…」




 そう、わたしは只今絶賛人酔い中でなのだ…。

 元々人混みは苦手だけれども…アジア系とは正反対の彫りの深い顔オンリーは見慣れなさすぎてまさかの体調不良をきたしている。日本人にだってソース顔というジャンルもあるのに…いや、そもそもヨーロッパに留学予定だったくせにこの様は何とも情けない!あぁ…目が回りそう。テレビや雑誌なんかで色んな人種を見慣れてるハズなのに…日本にいた時だって身近にもたくさん外国人はいたのに…何故だ!


 そんなわたしを心配そうに覗き込んでいる女性は保護者役のジネットさん。なんと女性騎士だそうで、長身でミルクティーの様な優しい髪色の、ショートカットがとても似合う超絶イケメンだ。

 同性の中性的なイケメンは大好物です!


 今回の作戦でわたしは街をブラブラするだけなのに、過保護なレイナルドさん達によって『外見的な差別から逃れるために最近移住してきた姉妹』という安易な設定のもと、護衛目的でジネットさんが付けられた。


 うーん…初対面で姉妹のように親密な雰囲気で歩くってちょっと厳しくない?絶対無理があるし…というか、どっからどう見ても姉妹なわけないじゃん。こんな濃淡差が激しい姉妹いる?!民族差がありすぎて突っ込みどころ満載だよ!そう訴えたけれど、異母姉妹で通せると言い切られてしまった…。


 ジネットさんは騎士と気付かれないよう街娘の一般的な普段着を着ていて、イケメンなのに似合ってしまうのが不思議だ。ほんと美形は得だな!

 わたしは髪色を隠すためフード付きのパーカーを着ている。そう、パーカー…つまり、わたしはわたしの普段着。こちらの衣装ではなくあくまで日本から持ってきている服。あ、でも出来るだけこっちの服のデザインに寄せて選んで着てるよ?

 この国の女性はズボンは履かないと言うから薄手のパーカーの下はリネンの膝下ワンピースにクシュクシュレギンスを合わせてナチュラルファッションスタイルだ。足下は動きやすいようにスニーカーを履いている。さすがにスニーカーは異質感が凄いけどね。


 フードは深めに被りわざとサイドの後れ毛をチラつかせている。此方には無い服装と色素の濃い髪で異国から来ましたアピールというわけだ。

 それと同時に例の集団にも目を付けて貰うため。あまりにあからさまに髪を靡かせて歩いてもかえって怪しまれて手を出して貰えない可能性もあるしね。今は街中で誘拐事件は話題の中心になってるようだし、そんな中ターゲットになりうる人物が何の警戒心もなく『わたし珍しいですよ~どうぞ拐ってくださ~い』と言わんばかりの闊歩はどう考えても怪しすぎてそりゃ避けられるだろう。


 そもそも一日で犯行が行われるとは思えないので一週間はこうやって出歩くつもりでいる。

 まぁわたしとしてはそれを口実に鬱積を晴らすように街歩きを堪能したいのだ!

 頼むから三日くらいは現れないでくれと、切に願う!




「それではカズハ殿、ここより私達は姉妹です。私のことは『姉さん』と。カズハ殿のことは…大変恐縮ですが『カズハ』と呼ばせていただきます」


「は…はい!お姉様!」




 イケメンスマイルに腰が砕けそうになってしまった!わたしの発した『お姉様』も何となく違う意味合いになってしまうのはどうしようもない。あぁ…一生ついていきますわ!お姉様!




 っと…つい妄想が…。『木漏れ日』からの砂利道もあと数歩で整然とした石畳に変わるところで作戦はスタートする。ジネットさんは短い髪を隠すため、腰まである鬘を被るともう超絶イケメンから超絶美女に変身してしまった。




「はうっ!!おっ…お姉様!」


「どうしたの?カズハ」


「ぐはっ…!破壊力が半端ない!」




 もう演技が始まってました…。カズハと呼び捨てにされて今度こそ立てなくなると思った!わたし女性が好きなのだろうか?美しすぎるって色々と覆してしまうのか…凄い!


 ヨロヨロとジネットさんに手を引かれてどんどん進んでいくと、徐々に道は開かれ、更に人混みも増してわたしの人酔いもマックスになろうとした時顔に軽い衝撃があった。ジネットさんが足を止めたのに気付かず背中に顔面をぶつけてしまったみたいだ。うう…低い鼻が更に低くなったらどうしよう




「カズハ、ここが中心地よ」




 ぶつけた鼻をさすりながらジネットさんの言葉に顔を上げた。




「うわぁ…!凄い!!」




 目の前には爽やかなパステルカラーで彩られた建築物が並び、まるで絵本から飛び出てきたような世界が広がっていた。広い公園のような広場の真ん中に大きな噴水が鎮座し、それを囲むように何色もの可愛らしい花が絵画のように緻密な計算で配置された花壇がある。そしてそこを中心に放射線状に伸びるいくつかの通りには沢山の路面店が並び、これはもう女子必見!最強のインスタ映えスポットじゃないかというくらい可愛い景観が広がっていた。今すぐにでもスマホに残したい!




「はぁ~…まるでフランスの凱旋門みたい」


「フランス…?」




 フランスの凱旋門も有名なシャンゼリゼ通りを始め12の通りが放射線状に広がっていて、地図で見ると星の輝きに見えることから星の広場とかエトワール(星の)凱旋門等と呼ばれてるんだよね。勿論此処には凱旋門は無いし、実物も写真や映像でしかお目にかかれたことは無いけれど、大きな噴水から広がるこの光景はそれを彷彿とさせる。

 この世界にフランスなんて国は存在しないので説明に困る…。わたしの国にそういう場所があるんです、と濁しておいた。




「此処も『星の広場』と呼ばれているのよ」


「へぇ!凄い偶然!」




 似たような構造だし、人間の考えることなんて割と似たり寄ったりなのかも?




「由来等は今度ゆっくりレイナルド団長から聞くといいわ」


「へ?何で?」


「カズハを一番に案内をしたかったみたいよ。今回任務とはいえ、私にその役目を取られてしまって相当残念そうにしていたから。フフッ」


「うーん…何というか…この国の人達って皆さん面倒見が良いというか、とても親切ですよね。国民の幸福指数高そう」


「そう言っていただけると嬉しいわ。私もこの国を誇りに思って仕事に従事しているから。他国の方にもそれが伝わっているのならこの上ない幸せよ…っと、姉妹でするの会話ではないわね。任務に集中よ」




 それはそれは嬉しそうに話すジネットさんは、それが本心だとわかるくらいに自然に笑顔だ。きっと今のこの国の統治者が素晴らしい治世を作っているんだろうなぁ。どんなに優れていても不平不満が皆無の政治なんて有り得ないけれど、それでも此処を行き交う人々はとても穏やかで輝いているのは現状に満足しているからこそなんだろう。




「さてカズハ。今日はどの通りを行こうか?何か気になるお店はある?姉さんがいくらでも付き合うわ」




 ぐっ…!敬語からのタメ口変換はもとより、ウィンクなんかされたら心臓を射ぬかれる!キュン死があるならまさにこれね!

 わたしは心臓の辺りを押さえながら必死に言葉を絞り出した。




「ざ…雑貨屋巡りがしたいです」








*****************






「首尾はどうだ、レイ」


「それぞれ配置についてますよ」




 この一ヶ月突如として現れた人拐い集団は、こちらの動きを全て把握しているかの如く作戦の網を見事に潜り抜けていた。騎士団の内部に内通者がいるのでは…と疑わざるを得ない。少しの綻びが大きな失態となってからでは遅いのだ。


 そこで責任者の交代と任務を遂行するメンバーを少数に絞り、各団長とそれぞれが信頼のおける部下を選考した。

 カズハの護衛を任せたジネットもその一人で、騎士としての実力は男性団員含め上位にあるだろう。至近距離で何かしらの攻撃を加えられても彼女なら応戦出来る。

 ジネットの他にも二人を囲むように自分を含め数人の団員が軍服ではなく私服で見張っている。




 囮という危険極まりない役目をさせてしまっているカズハには、少しでも不安材料を取り除こうとまわりにも騎士を配置していることを伝えたが、『違反を取り締まる覆面パトカーみたいですね!』と何故か目を輝かせていた。…覆面パトカーとは何なのか…。

 ジネットを紹介した時もそうだ。『宝塚時代の天海祐希!!と…尊い!』と、またよく分からない単語が出てきた。会話から『アマミユウキ』は人名なのだろうとは推測できるが、女性(ジネット)相手に目を潤ませる気持ちがよくわからない…。


 カズハは最初から不思議な娘だった。私の名前を聞いても、見目が良いヨアンやジル、イヴァンを目の前にしても、他の女達の様にきゃあきゃあと黄色い声を出すこともなければ甘い雰囲気ですり寄ってきたりもしない。

 初めはカズハがまだ子供で成人男性をそういう対象で見ることがないからだと思っていたが、まさかの二十歳過ぎた女性だったとは…。

 それまでカズハにとっていた自分の行動の一つ一つを思い出され、まさに『穴があったら入りたい』を、実行したい衝動に駆られた。成人女性に対する礼儀も欠いていたし、かなり際どいこともしたような気がする。『変態紳士』と言われても仕方ないと今なら思う…。いや、変態と紳士は真逆では…と思わなくもないが、そこは黙殺した。




 カズハのことを考え出すと途端に気になり出す。





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