13.そういえばご職業は?
ジルさんが店に飛び込んで来てすぐ、わたしは二階の自室に戻るよう言われたため、気を利かせたヨアンさんが一緒に部屋へと向かってくれた。…ようにみせかけて、階段を登らず厨房に繋がる裏の扉からまた店内へと誘導してくれた。
といっても、カウンターに隠れてこっそり覗いている状況。盗み聞き状態でいいのかな?と思ったけど、ヨアンさんが「だって気になるでしょ?」と言うので素直に野次馬根性に従った。
ヨアンさんとわたしがカウンターを挟んで厨房側に、ルーシーさんはカウンターの客席側に座っていて、レイナルドさんとジルさんその他数人がカウンター近くのテーブル席について話を始めた。
しかし…なんだろう、この暑苦しさ…そして湿度。…マッチョ率高くない?!レイナルドさんとジルさんが細身に見える。なんだったらヨアンさんなんて小枝にしか見えないよ!本人には言えないけど。
その他数人というのが男性が五人で、うち四人が筋骨隆々でたくましいし、もう一人の男の人もソフトマッチョで服の上からでも筋肉の盛り上がりがわかる。皆さん服のサイズ合ってます…?心なしかガラス窓が曇ってきてません?深刻な話をしているみたいだけど、そこが気になって話が入ってこない!
「それで、どうしたって?」
「マノンが消えたんだ!俺は例の集団だと思ってる…」
例の集団って人身売買集団のことなのだろうか。また被害者が出たということ?それも今回はジルさんの知り合い?
「マノンは俺の恋人(予定)だ」
一同シーン。
え…ジルさん?小声だったけど…消えそうなくらいボリューム小さかったけど!予定っていった?告白して返事待ちなの?
そこにいた誰もが何とも言えない複雑な表情をしている。
「えー、ジル?消えたというのはどういうことだい?何故人身売買事件に繋がっていると思ったのかな?」
ヨアンさんがいたたまれない空気を切り替えるようにジルさんに疑問をぶつける。グッジョブ、ヨアンさん!
確かに、消えたというのはどういうことなんだろう?目の前で拐われた?いや、拐われたなら拐われたと言うよね。
「今日は彼女と約束してたんだよ。だけどいつまでも現れないから不思議に思って住み込みで働いている職場に行ったら、俺と約束があると言って出ていったって…。」
一同シーン。
え?デジャブ?まさかそれだけが理由なの?
「えー、ジル?そのマノン嬢は標的になるような特徴でも持っているのかい?」
グッジョブ、ヨアンさん!
さっきからいい仕事してますね~!そこよ、聞きたいのは。もう周りの反応と空気といったら!下手したら今日でジルさんの評価だだ下がりだよ?イタイ人認定だよ?
「此処にいる者は誰もマノン嬢を知りませんからね。どういう方なんです?」
「マノンはレスター国から移住してきたんだ。左右で色が違う珍しい目を持ってる。それが原因で生まれながらに呪いを受けているだの、神から見放された子供だのと言われて相当な嫌がらせを家族で受けていたらしい」
ふむ、いわゆるオッドアイというやつか。
そのマノンさんと家族は逃げるように転々と生活拠点を移すものの、その度に同様の嫌がらせを受け続け最後に辿り着いたのが国境を越えたこのフルーベル国。
二度に渡る苦痛の歴史授業によると、フルーベル国でも特にこのヴェネクト領は国境沿いということもあり、いろんな国の行商や旅行者、先の戦争により自国を捨てた人々が集まり、多種多様のコミュニティーが出来上がってるらしい。つまり、そこに住む住人は人種も違えば文化も違うわけで。ちょっとやそっとの見た目の違い等簡単に埋もれてしまうらしい。それでもオッドアイというのは目立つ。
片方がブルーで片方がアンバー、琥珀色のマノンさんは左右の色の違いが一目瞭然よね。
「両目で色が違う?そんなことがあるのか?」
「だからマノンがそうなんだっつーの!すげーキレイで…吸い込まれそうになるんだ。でも…油断した!もっと気にかけておくべきだった!住み込みだし…一人になることはないと…信用するんじゃなかった、彼女の同僚も雇い主も!」
「ジル…」
ダンッ!とテーブルに拳を叩きつけ、血が滲んでいる。そして、更に状況が悪化していることが告げられた。
「マノン嬢のことは今知ったが…、昨日の報告では孤児院の子供が何人か消えた。共通しているのは欠損だ…」
「欠損…ですか」
「ああ。生まれつき四肢に欠損がある子供達だ。性別や年齢に関係性は無い。下は五歳、上は十二歳。抵抗されたところで連れ去るのは簡単だろうな」
「クソがっ…!」
五歳から十二歳って…。まだまだ子供じゃない!本当に…クソが!だわ…。
実はぼんやりとだけど、わたしは考えていることがある。多分反対されるだろうなと思って誰にも言ったことはないのだけど。でも小さな子供達まで被害が及ぶと知ってしまったら黙ってはいられない。…そういうと聞こえは良いが、ぶっちゃけわたし自身もこの軟禁状態に限界がきていたので、この状況を打破するためなら尽力したい!
カウンターの内側に体育座りで陣取るわたしのすぐ横にヨアンさんが立っている。手を伸ばしてヨアンさんのズボンをクイクイッと引っ張ると、それに気付いた彼は落し物を拾うような仕草で屈んでくれた。
「どうかしたかい?」
「あのー、ちょっとわたしに考えがあるんですけど…」
隠れていることがバレないよう小声でヨアンさんに耳打ちしたが、次の瞬間その努力が無駄になった…。
「絶対に許しません!」
「ちょっ!ヨアンさんっ!シーシー!」
初めて聞くヨアンさんの大声に驚いたのはどうやらわたしだけではなかったようで、その場にいた全員が目をパチパチとして信じられないものを見た時の顔になっていた。
レイナルドさんがすぐ正気を取り戻し、様子がおかしいことに気付いたらしい。ツカツカとカウンターまで大股で歩いてきたと思ったら思いっきり上から覗かれた。…凄いな、この高さからカウンターの反対側を覗けるなんて!
この国、ほんと長身大国!ルーシーさんも軽く百七十センチはあるからね!オランダの平均身長と同じじゃないのか?…おっと、軽く現実逃避してしまった!
「カズハ?!二階へ戻っていたのではないのですか?何時からそこに?」
「あー…うー…最初から?」
「ヨアン」
うおー!レイナルドさんの眉間のシワが凄い!えーと、怒ってます?
「あなたではなくヨアンに怒ってるんです。このような話を子供に聞かせるものではない」
「まぁまぁ、レイ。カズハにだって聞く権利はあると思うよ?」
さっきの大声はどこへやら…何時ものように飄々とした態度に戻っていたヨアンさんに、レイナルドさんは苛立ちが隠せないでいた。うむ、確かに最後はわたしの意思でここに残ったわけだから、ヨアンさんを怒らないでほしいな。
ハラハラしていると、何だか視線が突き刺さる…。な…なに?何で皆ポッカーンな顔してるの?!そんなにブス?わたしそんなにブス?!顔の造りがそんなに地味すぎた?!
「カズハ、外套はどうしました?!」
「あっ…やべ…」
時間と共に気温が上がっていったから暑苦しくて脱いでたんだ…。どうせ隠れてるしと思って。ポッカーン理由はわたしの髪と目の色かな?
「まぁまぁいいじゃないか、レイ。ここにいる者は皆信用出来る同僚だろう?考えによってはカズハに味方が多く付いてくれた方が安心だと思わないかい?」
「ヨアン!はぁ…まぁ、もうここまでバッチリ見られたらどうしようもないですからね」
何とか丸く収まった…かな?
「おいおい!お嬢ちゃん、本当に人間か?!黒い目なんて見たことも聞いたこともないぜ?」
「…厳密に言うとわたしの目は濃い茶色ですけどね。というか、人間です。わたしの国ではごく一般的な色なんです!人間に見えないくらいわたしってブスなの?!」
「カズハは可愛いわよ?」
「ええ、カズハは可愛らしいですよ」
えーと…あれ?何だろう…ルーシーさんが間髪入れず可愛いと言ってくれた時は何でもなかったのに、レイナルドさんが可愛らしいと言った瞬間何故皆一歩後ずさった?!しかもよく見るとルーシーさんとヨアンさんの肩がプルプル震えてるし…レイナルドさんも「…違いますから」と軽く殺気の含んだ静かな声を発してるし…。誰か説明プリーズ。
んんっ…!と、わざとらしい咳払いで話の軌道修正をするマッチョさんは改めてわたしをじっと見ると、成る程な、と頷く。
「お前達が彼女を人目から避けるのは、その容姿のせいか?」
「ええ、そうです。私とジルが保護しました。事件解決まではここでルーシーが世話をしてくれます」
「軟禁状態だな…。まぁ仕方ないのか。悪いな、お嬢ちゃんもう少し我慢してくれな」
申し訳無さそうに微笑むマッチョさんだけど、全くもって謝る必要がない。それよりも気になることが。
「あの、皆さんは警察の方?」
「ケイサツ?」
「事件を解決したり、秩序の維持や…市民の安全のために働く職業のことかな」
「カズハの国ではそれをケイサツというんですね。この国では騎士がそれにあたります。私を含めここにいる皆はヴェネクト領の騎士団に所属していますよ」
「騎士?!」
「ニホンにはいませんか?」
「…だいぶ昔に武士なら…」
「また聞き慣れない言葉が出てきたな!」
赤髪のソフトマッチョがキラキラとした目で見てくるけど、武士とは何ぞやと聞かれてもよくわからないので、深くつっこまないで欲しい。武士と騎士でどっちが強いかとか聞かないで…。だから知らないってば!
また話が脱線してしまった…。さっきヨアンさんに話した内容をもう一度、今度は皆の前で提案することにした。




