12.少し動きがありそうです
初めて作ったプリンは、普段からお世話になっているルーシーさんとヨアンさん、ここまで連れてきてくれたレイナルドさんとジルさんに感謝の言葉と一緒に渡した。皆美味しいと言ってくれて、お世辞でも嬉しい。
あれからたまーに作っている。勿論押し付けではなくて、食べたいと言われたら、ね。
異世界に来て十日目の朝、ヨアンさんの店『木漏れ日』はまだ開店前だと言うのにガヤガヤと騒がしい。
何かあったのかな?貸し切りとか?どっちにしてもわたしは下には降りられない。それよりも、お腹減ったー。ちょうど朝食時の早い時間帯だからなぁ…なんでこんな朝早くから貸し切りなんだよー!
仕方がないので、残り少なくなってきた日本から持ってきていたお菓子を摘まむ。
うぅ…ポテチの塩分が体内の水分を吸い取っていくぅ…。
多少空腹が和らいだところにコンコンとドアがノックされた。
「おはようカズハ。朝食を持ってきましたよ」
この声はレイナルドさん?来てたんだ。
どうぞ、と声をかけ部屋に招き入れた。空腹にポテチというこってりハイカロリーを水分無しで食べたせいか、軽く胸焼けを起こしていたので今更朝食はキツイ…。でもせっかく用意してもらったわけだし…時間かけてゆっくり食べれば大丈夫…だろうか?
「あれから怖い夢は見てませんか?」
怖い夢?はて?何のことかと思ったけど、そういえば銀髪発光美女様がここに現れた時にそれっぽいこと言って誤魔化したんだったな。
「はい、今は毎日快適無敵快眠です」
「それは良かった」
レイナルドさんは柔らかく微笑んで向かいの椅子に腰をおろした。え?何故座る?食べ終わるまで見張ってるの?!ゆっくり食べられないんですけど?!
「あのですね…あとで自分で食器下げるので下に戻っていいですよ?」
てゆーか、戻れ。
「食べながらお話をしようと思ったのですが、迷惑でしたか…?」
お話って?!もしかしてまた地獄の歴史授業のことですか?!断るっ!…とは言えない…そんな捨てられた仔犬のような顔をするなんて!何て卑怯なの?!くっ…!
「わ…わーい。お話したーい…」
凄い棒読みになってしまった。レイナルドさんはふふ…と顔を背け笑いを堪えているようだ。おい…確信犯だな?
朝食は無理矢理口に運んで何とか食べきった。
ワタシ、ガンバッタ…。
お腹を落ち着けたくて暫く椅子に座ったまま休んでいると、一時間程経った頃またレイナルドさんが部屋まで来て散歩に行きましょうと言ってひょいっとわたしを抱き上げた。今度はお姫様抱っこではなく、子供を抱き上げるような縦抱きで。…うん、これ完璧子供だと思われてるわ…。
二十歳過ぎて子供抱きって…悲しすぎる!
「裏庭の奥にある雑木林に木苺なんかも自生しているんですよ。食後のデザートを食べに行きましょうか」
うぷっ…もう限界です!これ以上は食べられない…絶対吐く!確実に!
「もうお腹一杯で無理です…。というか下ろしてくれませんか?わたし子供じゃないので一人で歩けます」
「わかってますよ。女性はいくつであっても立派なレディーです。ただ、今は私を兄だと思って甘えてください」
いや、わかってないでしょ?!子供だって疑ってないでしょ?!しかもここまで似てない兄妹いないから!顔の造りが正反対だし!催眠術でもかけない限りどう頑張っても兄とは思えないわ…。
そもそも、何故この人はこんなにも過保護なんだろうか。仮にわたしが本当に子供だとしても、赤の他人をここまで保護する義理はないと思うんだよね。遠い異国から人身売買集団に拉致されたと思ってるようだし、憐れんでいるんだろうなきっと。
わたしは肯定したわけじゃないけれど、はっきりと無関係だとも言っていない。なんか罪悪感が半端ない!
「さぁ、カズハこれを着て下さい」
バサッと小さな外套のようなものを羽織らされ、フードで髪や目を隠すように深く被らされた。
「いつどこで誰に見られるかわかりませんから。まぁ、この雑木林もヨアンの私有地なので大丈夫とは思いますが念のため」
私有地?!どんだけ広いんだ?ヨアンさんってセレブなの?
そんなことを考えてる間にもわたしを軽々と抱っこしたまま林の中へと歩いていった。
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「おい、あれレイナルドじゃないか?フードが深くて顔は見えないが抱えているのは子供か?」
「本当だ。ヨアン、誰か知ってるのか?」
「え?…あぁ、ルーシーのところの可愛いお客様だよ」
「は?客だって?宿泊客のことか?親も滞在してるのか?」
「いや、一人だよ。毎日店の手伝いをしてくれる可愛い女の子でね。最近はレイのお気に入りのようだよ」
「女児?何故一人なんだ?親はどうした。」
「そこも気になるが…お気に入りって…犯罪に手を染めてるわけじゃないよな?!レイナルドのやつは!」
男色の次は小児性愛者の噂が流れるかもしれないと思うとルーシーとヨアンは笑いが止まらない。何とか堪えて今目の前にいる客に平静を取り繕う。が、肩の震えが止まらない。
「ヨ…ヨアン!駄目よ笑っちゃ…プッ…フフッ」
「ルーシーこそ…フフッ…堪えてください…」
カズハの実年齢を知っている二人は敢えてレイナルドとジルには教えていないのだが、特に意味は無くただ面白いからというだけである。
「うわっ!見てくださいよ団長!レイナルド団長顔が緩みまくってますけど!普段からああいう風に柔らかく微笑んでたらいいのに…マジ訓練キツイっす…」
「本人に言え。それより何故外套のフードを被ってる?もうそろそろ暑いだろう、この時期は」
確かについ最近までは肌寒かったり暖かかったりと安定しない天候だったが、この数日は本格的な夏に向かいだいぶ安定して暖かい。着る物も半袖に衣替えが始まっている。そんな中での外套フードつきはかなり違和感があり、ヨアンもつい苦笑いになってしまった。
「ええ、まあ、色々と理由があってね」
「そ、色々あるのよ~…」
「それよりも君達、こんな朝早くからこの店を貸し切っているんだから早く会議を始めたらどうだい?」
「そうしたいのは山々だが、レイナルドが行ってしまったからなぁ。先に進めるか?」
「そうっすねぇ、姿見えなくなっちゃいましたし?まだ戻ってきそうにないっすよ?」
「カズハと散歩に行くと言っていたからねぇ、まぁ恐らくそんなに時間はかからないとは思うけれど」
「「「「カズハ?」」」」
突然耳慣れない響きの名前を発したヨアンに視線が集まる。再び苦笑いになってしまったヨアンは此処に来た経緯とカズハの珍しい外見には触れず、ただ遠い異国から流れてきた少女だと説明するに留まった。
「何でまたそんな遠い国から一人で?間者…じゃないよな?子供を物心つく前から暗殺者に育てるような糞みたいな国もあったからな、昔は…」
「いやいや、それはないと保証するよ」
「…まぁ、ヨアンが言うならそうなんだろうな」
まさかスパイ容疑がかかるとは思わず、ヨアンは内心慌てて否定した。
会議を始めると言いつつ、雑談に花を咲かせ一向に進まない。そうこうしているうちにレイナルド達が雑木林の中から戻ってくるのが窓から見えた。レイナルドの片腕に周囲から隠すように抱き抱えられた少女も一緒に。そして建物の裏のドアから入ってくる。
「おかえり、カズハ」
「ヨアンさんただいま。木苺いっぱい採ってきました~!」
「あらカズハ、凄いじゃない!店の料理人にデザートか何か作ってもらいましょうよ」
「ルーシーさんただいま。デザート?やったー!賛成!」
キャッキャッとはしゃぐカズハに視線が集まり、それに気付いたレイナルドはすぐさま自身が壁になり隠してしまった。
「おいおい、レイナルド。そこの可愛いお嬢ちゃん俺達に紹介してくれないのか?」
「…今日の本題が解決したら紹介しますよ」
「そりゃいつになるかわからん話だな」
「ええ。ですが必ず解決させますよ…塵一つ残らず殲滅させます」
「お前が言うと相手が気の毒になる時があるな…ただ今回の件に関しては全面的に同意だ」
二人の会話にその場にいた皆が険しい顔で頷く。
「カズハ、申し訳ありませんがまた部屋に戻ってもらえますか?」
「はい。えと、では失礼します」
ぺこりと頭を下げて階段を上ろうとした時だった。
バンッ!と勢いよく店の扉が開き、そこに立っていたのは息を切らせたジルだった。そして
「マノンがっ…きっ…消えた!例の集団だ!た…頼む!早く…早く見つけてやってくれ!!」




