11.悪夢は続くよどこまでも
誰?と問いたいけれど声が出ない。というより、金縛りのように体が動かない。
えーと、あれだ、こういう現象は、そう!
心 霊 現 象 !!
あわわわわわっ!まさかの心霊初体験が異世界だなんて!この人影も幽霊だよね?異世界のしかも宗教も違うけど念仏唱えてどうにかなるものなのかな?!十字切りたいけど金縛りで腕も上がらないし、何故か声も出ないから念仏も唱えられないし!ここはもう誠心誠意訴えるしかないってことだよね?
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいすみません!わたしには霊感も無ければ天に上げる力もありません!なので、他あたってください!此処で成仏は叶いません!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーっ!)
夏の風物詩である心霊特番とか結構好きで必ず視てはいたけど、実際体験するとこんなにも怖いなんて!あぁ…興味本意で心霊スポットを巡った過去の自分を殴りたい!本当に心から謝罪するから許して!
半泣きで謝罪を繰り返しているとふわりと人の手の様な感触に頬を包まれる。えっ?!幽霊って触れるの?!本気で殺される?
ぎゅっと目を瞑って半泣きからガチ泣きになりかけた時、聞き覚えのある声がした。
「カズハったら、わたし怨霊でも悪霊でもないんだからどんなに念じても無理よ~!」
「…へ?」
幽霊に名前を呼ばれた?!バッと顔を上げるとそこには発光していない銀髪発光美女がクスクスと笑いながら見下ろしていた。
「え…えー?!銀髪発光美女様ー?!」
「そうよ~!…ねぇ、そのあだ名みたいなのはなぁに?わたしの事なのよね?」
「はぁ、初対面の時薄ーく発光してたので…。というか、名前知りませんし。何者か聞いたときだってヒミツって言ってたし」
相変わらずの美女だけど、今日は何故か発光していかったため全く気付かなかった。部屋も暗いしね!暗闇に目が慣れてきてやっとわかったくらいだ。
銀髪発光美女様がパチンと指を鳴らすと部屋全体が少し明るくなる。どういう仕掛けなのか、発光源がよくわからない。ベッド横のライトも消えたままだし、銀髪発光美女様も今日は自家発電ではないようだし。うーん、謎!魔法すげーっ!
金縛りもいつの間にか解けていて…いや、正確には寝違えて体が痺れて力が入らなかっただけなんだけど。
「空気中にある電気物質にちょっと細工しただけよ~」
え?意外と科学なの?魔法って科学とのコラボなの?ますますこの世界の常識がわからないわ。実はルーシーさん達も魔法を使えるのだろうか…。
「人間も魔法は使えるわよ?程度の差があるし全ての者が、というわけではないけれどね。昔は大多数の人間が使えていたけれど、今は少数ね。宗教戦争で魔術に強い民族は根刮ぎ消されちゃったみたいだし。人間ってほんと浅ましく愚か。でも、…面白いわ…フフッ」
どうやら世界は違えど宗教というのはやっぱり根強い何かがあるらしい。神の思し召しと銘打って人の命を奪う…でもそんなの許す神様ってどうよ?皆仲良くしましょうよ、人類皆兄弟!隣人を許しましょう?神様が何人いたっていいじゃない!八百万の神の神がいる日本なんてどうすんのよ。クリスマスだって祝っちゃうよ?
そもそも魔術が原因の戦争って宗教戦争って言うの?
銀髪発光美女様が言うには、魔力に疎い民族が、生まれながらに魔力の強い民族を恐れ、彼らが信仰する神は邪神だと言い出したのが始まりらしい。自分に無いものを妬み嫉み畏怖し協賛国を募って多勢に無勢で一つの民族を潰したようだ。
最低だな。
「神はね人間に何も求めていないし期待もしていない。それを勝手に盲信しては勝手に見限る。人間なんていっそのこと一掃してしまおうかしら…あらやだ、ダジャレ?!」
銀髪発光美女様…最後の一言でシリアスが霧散しましたよ…。
一体何しにきたんだ、この人は。もしや超フライングで一年待たずしてもう元の世界に帰れるとか?!期待の眼差しで見つめたが、え?違うわよ。とあっさり返されてしまった。本当に何しに来たんだ…。
「特に用は無いわよ?どうしてるかなぁと思って様子見に来ただけなの。…暇だし」
まさかの暇潰し?
「そういえば、わたしの名前知ってるんだ」
「ええ、勿論。わたしのミスでこちらに連れてきてしまったんだもの、一応アフターサービスでたまに覗き…見守ってるのよ?」
今覗きって言った…。言い換えてたけどわりと最後まで言っちゃってましたよ。まさかストーカー行為をされてるとは知らなかった。ずっと傍にいたということだろうか?と聞くと、それはないらしい。そこまで暇じゃないと。
空間の移動は簡単で、小難しい説明をされたけど、つまりは未来の猫型ロボットが出す『何処へでも行けますよドア』のように実際の距離とは関係なくポンッと移動出来るとのこと。勿論、何の道具も無く。
魔法すげー。
でも密入国扱いになったりしないのだろうか?パスポート無くても行けるってことでしょ?そもそもパスポートって無いのかな、この世界は。
「そんなことまで出来るのにわたしはまだ元の世界には帰れないのよね?」
とにかく暇過ぎて死にそうだ。
「テレビとか出してもらえない?ポケットか何かあるんでしょ?御都合主義な道具がわんさか出てくるような。あ、もしくはWi-Fi通して欲しい!動画見たい!連絡取りたい!」
ここぞとばかりに要望を出してみたけど案の定全て却下された。わたしに死ねと…?
「時代にそぐわない物は駄目よ。今のこの世界の文明では技術が追い付いていないもの。未来が変わってしまう可能性が高いわ」
なるほど、オーパーツというやつか。昔テレビでやっていたのを思い出した。『時代錯誤の工芸品』と呼ばれたりすることもある。テレビをここに出したとして、それがどう危険な産物に変化するのか見当もつかないけれど、『絶対大丈夫』は、ない。
ん?ちょっと待てよ?わたしの荷物の中身はオーパーツだらけになるんじゃないの?
「ほんとそうよ?あなたが書いてる日記だって紙自体はもう珍しい物ではなくなったけれど、使っているペンはまだ無いわ。ペン先にインクを都度付けて書くスタイルだもの。一本で何色ものインクが出てくる物は存在しない。そもそもキャリーバッグと呼ばれるそのカバンだってまだまだ開発されていない材質だしねぇ。だからある意味今更なんだけどね、時代云々言うのは」
困った困ったとため息をつかれた。今更と言うならテレビ出してくれとしつこく食い下がったけど、電気すら発明されてない上に番組だって無いわよ?と返された。なんと…この世界にはトーマス・エジソンもニコラ・テスラもいないのか…。魔法があるからあまり科学の発展はないんだろうか。
そうだ、魔法といえば…。
「わたしに危険を察知出来る魔法か、もしくは危険から守ってくれる魔法かけてくれません?」
「あら、どうかしたの?」
「ちょっと危険な集団の的になりそうだと言われたから予防はしておきたいの。あ、髪と目の色を変えてくれるだけでもいいんだけど」
「出来なくはないけれど…あなた魔力の耐性が無いから副作用が心配なのよねぇ」
なんと!魔法には副作用があるの?!
身体的変化は最悪元に戻らない可能性も。つまり、今魔法で金髪碧眼にしてしまうと、一生そのままでいることになる。あくまでも可能性であって絶対ではないのだけど、危険な橋は渡りたくない。うーん…と悩んでいると、物凄く凝視された。何?
「…あら?あなたもう守りがついてるじゃない。しかも強力な」
「へ?わたしに?」
何の話?…はっ!もしや守護霊的な?!強力って…超有名戦国武将的な?!後方斜め上を凝視したけど全っ然視えない…。霊感ゼロだしね、気配すら感じないよ。
「どうして後ろを見るの?」
「守護霊と言えば背後に寄り添ってるイメージなので」
「霊とか好きね~。あまりそういう概念が無いわ。いわゆる死人の残留思念でしょ?そうねぇ、ちなみにこの部屋にはあそこ「ギャーッッ!言わないで!特定しないで!指差さないでーっ!もうこの部屋で眠れなくなるからーっ!!!」」
ほんっとにやめて!!と思わず叫んでしまった。だって無理でしょ?!霊感無くても居るってわかったら視えてきそうじゃない!!
場所を指そうとしている銀髪発光美女様の人差し指を掴み、ギリギリとあらぬ方向へ力ずくで曲げようとしたら急に自家発電して目潰しされた。眩しいっ!自由自在に体を発光出来るなんて…夜道には便利だ。
ドタドタドタドタドタドタッ バンッ!!
「カズハ!どうしました?!」
「ひいっ!!」
物凄い勢いで階段を駆け上がりドアを開け入ってきたのはレイナルドさんだった。心霊話の流れだったので心臓が飛び出そうなくらい驚いた。動悸がヤバイ!
「さっき下にまで叫び声が聞こえましたが、何があったんです?!……泣いていたんですか?」
「い、いえ何でもありません。大丈夫です…」
オメーだよ!泣くほどヒビッたわ!てか、ノックしてから、そして返事を返したら入ってきて!着替え中だったらどうするのよ!わたし着替えの時はとりあえず一度全裸になってから着ていく派ですから!全裸の瞬間に開けられたら一生立ち直れない自信があるわ!
あっ!…銀髪発光美女様また消えてしまった。
「話し声も聞こえた気がしましたが…カズハ一人ですか?」
「えーと、…ちょっと怖い夢を見て現実でも叫んでしまったみたいです。寝言です。ごめんなさい」
「いいえ、無事ならそれでいいんですよ。ただ、また怖い夢を見たんですね…」
え?また?いつの話?もしや馬車で寝てしまった時も寝言を言ってた?うわー…夢遊病に続き寝言もか。ますます自分ハズっ!
「大丈夫ですよ。ここにいる間は怖い思いはもうさせませんから。きちんとご両親の元に届けますよ」
「は…はぁ。ありがとうございます?」
何故こうも子供扱いなのだろうか?もしかしてルーシーさんもヨアンさんもわたしの年齢伝えてないのかな。二人はわたしを十三歳くらいだと思ってたみたいだし、多分レイナルドさんもそうなんだろう。
「あの、レイナルドさん。わたしの年はー」
「さあカズハ、お腹が空いたでしょう?下でご飯を用意してますから食べましょう。」
実年齢をカミングアウトしようとしたら被せてこられたため、結局誤解されたままになった。
その後用意してくれた夕食をわたしとレイナルドさんの分を部屋まで持ってきてくれて二人で食べた。その間、まさかの二度目となるこの国の歴史の授業が始まり悪夢に泣きそうだった。




