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のんびり異世界留学日記  作者: 茉莉
10/27

10.異世界に三種の神器(家電)はありません


 いつの間にか寝てしまっていたようで、目が覚めた時にはもう外は明るかった。

 この部屋には時計が見当たらないけど、今は一体何時なんだろうか。

 えーと、スマホ…は机の上か。明るいから朝と思ったけど、もう昼だったりして…。そういえばいつの間にかベッドで寝てるし…これはもう夢遊病確実なのでは?!

 これはちょっと真剣に悩んでしまう。自分んちならまだしもよそ様の家で徘徊って怖すぎる!ただの不審者だよ。もしかしてもう徘徊済み?!

 …朝一番に聞く質問が決まったね…。




「ひえぇっ…さっ寒いぃ」 




 とりあえず着替えてルーシーさん達を探さなきゃ。

 ベッドから出ると夏真っ盛りの日本とは違い肌寒い。キャリーバッグを開けて服を漁る。黒のスキニーパンツに白いTシャツを合わせ、上に黒のパーカーを羽織って廊下に出た。

 顔だけ出してキョロキョロと様子を伺うと、トントンと階段を上がってくる足音がして少しドキっとしてしまった。

 ル…ルーシーさんかな?昨日人拐いがどうとか言ってたからなぁ…ちょっと怖い。静かにドア閉めて中で様子みたみた方がいいかな?あぁどんどん近づいてくる~!




「カズハ?」


「ルーシーさん?はあぁ良かったー!おはようこざい…ま…す?」




 ルーシーさんの声を聞いてやっと安心したのも束の間、すぐ後に続いて見知らぬ男性もひょこっと顔を出した。ひょっこりはん?!…じゃないし、誰?男でいいんだよね?背は高いけどやたらに線が細いし肌も白い。男性に言う言葉じゃないけど美人だと思う。




「おはようカズハ。下に降りて朝ごはん食べましょう」




 小さくぐうぅぅと鳴った正直なお腹に赤面しつつ、後をついて行った。












 ご飯を食べながらこの国のことを教えてもらった。

 ここはフルーベルという国で、三十年程前に大きな戦争が終結し幾つかの国が吸収・合併により周辺では最も広い国土を持つらしい。元々大きくはなかったフルーベル国だが、軍事力に長け少数精鋭の軍隊で世界の頂点となった。…世界の頂点ってどうやって決めるんだろ…。

 ただ力だけを誇示し他国を殺戮や略奪で支配しようとする国々とは違い、フルーベルはそれらの国からの防衛として軍事力に力を入れ、見事勝利したわけだが、敗戦国の民は自国民を省みない王政に常々不満を持っていて、敗戦を好機と捉え是非ともフルーベル国民として忠誠を誓いたいと申し出たらしい。

 歴史の授業のようにサラッと言ってるけど、まぁクーデターとかいろいろ行動を起こして認めてもらったんだろう。だって普通昨日まで敵として戦っていた国の人間に「自分の故郷に嫌気がさしたので、そっちに仲間入りさせてください!」と言われても…ねぇ。

 敗戦国の王族や戦犯貴族は処刑され、王族に至っては断絶したようだ。一つの国の民が起こした行動が、同じく敗戦し自国の王政に不満を持つ周辺諸国の国民達に伝染。同様の行動を起こし始めたらしい。そこでフルーベルの当時の王が改宗その他諸々の条件で受け入れたと。




 …終わった?この授業終わった?!しんどい…全っ然興味無いから頭に入らないわ。わたしの世界の国じゃないから覚えたところでテストに出ないし。一年後帰るし!あぁぁでも抜き打ちで質問されたら窮地…。あとで日記に書いておこう…その時まで覚えていたら、だけど。




「ところでカズハ、僕の名前覚えてるかい?」


「ぐはっ…!」




 まさかのそっち!




「よ…よー…ヨーヨー?」


「おしい。ヨアンです。」




 全然惜しくない!優しさが胸に刺さる…。名前間違うって失礼だ。しかもさっき教えてもらったばかりだし、ヨアンさんはわたしの名前しっかりと覚えてるし。日記に書こう、『線の細い美人男子=ヨアン』こんなもんかな。






 朝食と歴史の授業の後は特にわたしのことは聞かれることなく、裏庭の畑で収穫を手伝った。今日のお店に出す料理に使うみたい。自給自足なのかな。久しぶりに土いじりをしていい年の大人がはしゃいでしまった…。

 そんなわたしをルーシーさんとヨアンさんは子供を見守る親のような眼差しで微笑んでいた。何だろう、腑に落ちない!




「そういえばレイナルドさんとジルさんは?」


「もう仕事に行ったわよ?どうかしたの?」


「いえ、昨日は色々とご迷惑お掛けしたのできちんとお礼を言おうかと思って…」




 変態とはいえ、此処まで運んできてくれたのも、此処を紹介してくれたのも、野宿にならずに済んだのも、きっと第一異世界人発見者が二人でなかったらまだ湖の辺りで寒さに震えていたに違いない。感謝感謝だ。でもそうか、そりゃ仕事してるよね。



「うーん、カズハはずいぶんと考え方も発言も大人びているけれど、一体いくつだい?」




 はい、キターこの質問!正直に言ってもいいかなぁ?でも何となく子供と思われていた方が今後も有利に働かないかなぁ?例えば子供だったら帰る当てのない状況で無下に追い出したりしないんじゃないかとか。流石に二十歳超えてたら「もう大人なんだから自分で衣食住確保しなさいね」ってなると思うのよねぇ。


 いや、待てよ、そもそも本当に子供に見られてるのか?

 …ダメだ、一つ嘘をつくと辻褄合わせにどんどん広がって大概ボロが出るのよね。それに彼らの良心を利用して騙しても、多分自分が良心の呵責に堪えきれなくなる…と思う。




「に…ニジュウイチ…です」


「「?!」」




 あ、固まった。それどういう意味デスカー?




「二十一ですって?!」


「…今年成人を迎える弟より年上…」




 そんな驚くこと?




「この国の成人はいつくなんですか?」


「十六だよ。君の国は違うのかい?」


「…二十歳です」




 ちょっと待て。わたし、十六歳以下に見られてたの?!キツイよ、この歳でセーラー服とかナイよ!

 なるほどね、そりゃあ優しくもしてくれるわ。




「あのー…、わたし後で荷物まとめたら出ていきますね。お世話になりました。ご飯までいただいちゃって」


「こらこらこら!何言ってるの!昨日散々言ったでしょ、また狙われる可能性があるって!」


「いえ、でも甘えるような年でもないし適当に―」


「「無理」」


「・・・」


「今解決策を決めてるところだからもう少しここにいなさいよ、ね?」


「いいんですか?」


「もちろんよ!そのかわり、また収穫手伝ってもらうわよ?」




 え?そんなんでいいの?はいっ喜んで~!とついつい居酒屋のような返事をしてしまった。ヨアンさん、その「え?何?その合いの手は」的な目で見ないでください。










 あれから五日ほど過ぎ、今もルーシーさんのところでお世話になっている。宿屋なのにわたし以外の客が泊まったところを見たことがない。実はそんなに繁盛してないのかな?他人事ながら収入源が気になってくる。

 ただ、下のヨアンさんのお店は開店中はほとんどずっと満席状態。最初はヨアンさん目当ての女性とかかなぁと思ったりもしたが、客層は様々で、若い女性客も特にヨアンさんを意識している様子もない。地元民に愛される食堂という感じなんだろうな。

 わたしは目立つ容姿ということで、人前に出ないよう言われているので、階段のところからこっそり覗いたりしている。暇だー。

 この世界は娯楽が無さすぎる!テレビ見たい…いや、せめてラジオでもいいよ。聞いてみたけど「何だい?それは」と返されあえなく撃沈。

 ポリポリと残りのお菓子を食べつつ窓からぼーっと外を見て過ごす。


 ダメだ…このままでは怠惰な人間に成り下がってしまう。というか、心なしか体が丸くなってきたような…気がする。




「そうだ!」




 六日目の朝食の時にルーシーさんとヨアンさんにある提案をした。




「「家事手伝い?」」


「はい。といってもスーパー主婦でもないのでたいしたことは出来ませんが、例えば裏の方でお店の食器洗いとか、開店前のお掃除とか何でもやりますよ!食器洗いだって厨房の奥にシンクがあるみたいだし、誰にも見つからないと思います!」


「うーん、カズハは充分収穫のお手伝いしてくれてるからねぇ。気にしなくていいんだよ?」


「そうよ。それに厨房の奥とはいえ、厨房内には料理人が何人かいるから姿を見せるのは…やっぱり危険よ」




 むむ…やはり一筋縄ではいかないか…。でも真面目な話、今後もこの生活は辛すぎる。現代っ子のわたしは娯楽が無いと死んじゃうよ!




「ちなみに、卵と砂糖と牛乳なんてあったりします?」


「あるよ。どうするんだい?」


「暇過ぎて死にそうなのでキッチン借りてもいいですか?」


「あと二時間程で料理人が来るからそれまででもいいかい?材料もその三つなら好きなだけ使ってもかまわないよ」




 っしゃ~!この三つさえあれば簡単にプリン作れる。ラノベ的お約束として砂糖は高級品と覚悟してダメ元で聞いてみたけど、好きなだけってことはそんなに貴重なものじゃないみたい。よしよし!この国にもプリンなんてもんは当然あるとは思うけど、ようは気持ちよ!感謝してますってことで伝わってくれたら嬉しい。


 両腕を捲って早速始める。卵は…六個くらいもらおうかな。黄身と白身が分離しないようによーく混ぜる。そうしないと出来上がった時にむらが出てしまうから。

 そして砂糖を…甘さ控えめにしようかな、少しずつかき混ぜて、更に鍋で少し温めた牛乳も何回かに分けながら加えその都度優しく撹拌。

 別鍋にはカラメルソース。砂糖と水を沸騰させ狐色になるまで弱火で煮詰める。濃くなればなるほど苦味も出てくるから気を付けないと…。程よい苦さが甘いプリン液には合う。まぁ、好みだけどね!以前、小学生だった姪には苦い!って言われたからね…。

 最後に煮詰めたカラメルソースにお湯を少し入れて溶く…あっつぅ!これ毎回危険なんだよねぇ!お湯を加えた途端蒸発したのが飛んでくるからヒヤヒヤするよ。あとはカップ…代用できるもの無いかなぁ?…あ、コップ、耐熱かなこれ。

 ぐるりと周囲を見回すと、グラス専用の棚が目に入った。ワイングラスの様な背の高いものからジョッキみたいにごついもの。目線をずらしていくと子供が持つのにちょうど良さそうな大きさのコップがある。プリン液八分目くらいまで入れたらだいたい一人分の量になるんじゃないかな?それに耐熱容器か疑問だけど触った感じ厚いガラスだから大丈夫そう…かな。カラメルを入れて、その上から濾しながらプリン液を流し込んで…完成!ではないけど、あとは蒸して冷やすだけ!



…あれ?冷蔵庫ってあるの?




「やぁカズハ、凄く甘い良い匂いがするね~。もう出来たのかい?」


「あっヨアンさん!冷蔵庫ってあります?」


「レイゾウコ?何だいそれは?」




 はい出ました~!得意の「何それ?」~!やっぱりないか…だよねぇ…。収穫した野菜とかを入れておく冷暗所はあるんだけどなぁ…。此処まで作ってまさかのお預けって…。いや、茶碗蒸しって別に蒸した後冷蔵庫にわざわざいれないよね?要は早く食べたいから冷やすわけで、時間かかるけど常温で待てばいいわけで。


 そういうわけで、プリンは邪魔にならない所に避難させ料理人が来る前に早々に部屋に戻った。うん、久々に有意義な一日だった気がする!




 あれから少しうとうとし始めたため、お昼寝と称してベッドに横になった。あっという間に睡魔が襲いズブズブと意識が沈んでいった。






 どれくらい寝ただろうか、ガチャという音で全身がビクンッと揺れた。瞬間目が覚めたのだけど、視界は暗く、どうやら夕方過ぎているようだった。ただ、暗闇の中に確実にしかもわりと至近距離でわたしを覗きこむ人影だけはハッキリと輪郭を捉えた。




…誰?





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