1.留学先変更です!
初投稿です。お話の内容に特に目的もなく、ただただのんびりと書いていこうかなぁと思っています。
ボキャブラリーの貧困さと内容の粗さが目立つ作品かと思いますが、何卒広い心で読んでいただけたらなぁと…。
「パスポート…持った、国際学生証…持った、あとは少々の現金とカードっと…」
キャリーバッグに詰め込まれた物を、自筆のメモと照らし合わせ一つ一つ最終確認していく。
「よし!最低限必要なものはオッケー!」
あとで足りないものが出てきたら現地で買えばいい。
そう、わたし谷川万葉は、今日未知の世界へと一歩を踏み出すのだ!…と一人意気込んではみたものの、大学最後の夏休みを利用して二ヶ月間フランスへ語学留学するだけのこと。
それでもわたしにとっては十分すぎる冒険なのだが…まぁ二ヶ月だしね、必死で貯めたバイト代だってそう長く続くわけもないし。
ちなみにフランス語は全く話せない。頭の悪そうな発音でボンジュール!マダ~ム!くらいだ。
無謀である。完全に遊びが目的である。
はっはっ!人生何事も経験さ!こちとら毎年国内極貧一人旅を実行するにあたり野宿なんて当たり前にやってきたんだし。海外だろうと途中で資金が尽きても何とかなる!…はず…きっと…多分…。
まぁ、例え資金が底をついても往復のチケットは確保してあるし、通う予定の語学学校にも二ヶ月分の授業料と生活拠点の学生寮へは支払い済みなのだ。困ることがあるとするなら…遊ぶお金がなくてフランスまできて引きこもり生活になることくらいか…。
ふむ…節約を心掛けよう。
「さて、そろそろ家でますか!」
いざ!おフランスへ!
ガチャリ…アパートの扉を開け足を一歩踏み出した。
ガクンッ
―――と、同時に浮遊感に襲われる。例えるなら、階段を降りる際最後の一段に気付かず思わずガクッとなる感覚というか、ジェットコースターに乗った時の一番高い所から一気に落下時の胃が浮き上がる感覚というか。
踏み出した足がいつまでも地面に着かない…つまりは只今絶賛落下中なのである。
「ぎっっっ!ぎゃぁああああああっっっ!!!…オエェェ…」
まさに断末魔。
アパートから見えていたはずの街並みなどは一切消え去り、突如空に投げ出されていた。落下している方向を見るが地面は全く見えてこない。
「ちょっ…ちょっと…オェェ!なっ何?!何なの?!…うっ…オェ…」
下から突き上げる様な風圧が落下スピードの早さを物語っている。気持ち悪くてうまく言葉が続かない。更には、風圧でボフボフと頬の肉が波打ち、今物凄いブスになっているであろう自信がある。
そんな自信はいらないけどね!
「いやーっ!もうどうなってんのーっっ?!何で急に空飛んでんの、わたし!!いや、落ちてんのか!…どっちでもいーわっ!!」
もう一人ツッコミだよ!
ひっ平泳ぎ!いや、ここはバタフライの方が空気抵抗が…などと、激しく混乱中のわたしは無駄な足掻きとばかりに全力で空中を泳ぐ。
ヤ…ヤバイ…本気でこれそのうち地面に激突じゃない?!一向に地面が見えてこないんですけど…?!
フフッ
轟音ともいえる風を切る音だけが聴覚を支配しているはずなのに、まるで鈴の鳴るような声が不思議にも通りよく耳朶をうつ。
ビクッ!と反射的に振り向くと一人の女性が口に手をあて目を細めながら微笑んでいた。
うぉおおお?!なんだこの物っ凄い美人はーっっ!!
陳腐な表現になってしまうけど、この世のものとは言い難い美しい容貌でまさに精霊とか妖精とか、なんだったら女神様などという言葉が相応しい。眩いほどの銀髪はフワフワと風に舞い、髪色と同じ大きな瞳は心ごと吸い込まれてしまうような神々しさがある。
ん?眩い…いや、実際光ってね?比喩とかじゃなくマジで光ってね?!全体的にキラキラというか、薄く発光しているというか…しかも耳尖ってね?!
いやいやいやいや、そ・れ・よ・り・も!!
「いやいやいやいや!あなためっちゃ余裕で微笑んでますけど!!これ落下中ですよ!!そのうち御臨終の末路ですよ?!」
「ええ。ごめんなさいね、わたしのせいで。あなたを巻き込んでしまったみたい」
「…はい?」
ん?今何か爆弾発言が聞こえたぞ?
巻き込んだ?
『わたしのせい』?
「い…いや、あの、よくわからないんですが…?」
フワン
今まで気持ち悪かった胃のあたりが急に穏やかになる。いつの間にか薄い膜が現れ球体となり、その中にわたしはすっぽり収まっている状態で落下速度は緩やかになった。
まるでシャボン玉の中に入ったような光景である。
それでも僅かながらにも落下しているのには変わりはない。ただこのままいくとそれほどの衝撃もなく地面に着地出来そうだな、と小さじ一杯ぐらいの不安は消える。小さじ一杯だ。三回言おう、小さじ一杯程度しか安心出来ない!
「ふふ。少しは体が楽になったかしら?」
「このシャボン玉みたいなのはあなたが?…え?魔法使い?怖いんですけど!」
「ふふ…ヒミツ」
…中二病みたいなことを言ってしまった!魔法使いって…魔法使いって何だよ!
「えーと…あなは今のこの状態の原因がわかるんですか?」
「ええ。簡単に言うとあなたは妖精の『道』に巻き込まれちゃったみたい。ごく稀にあるのだけど…運が悪かったと諦めて?」
ごめんね?とコテンと頭を横に傾げバツが悪そうな顔で謝られた。
うん、説明が端折り過ぎて全く意味がわからない。頭の上が疑問符だらけのわたしに気付くこともなく淡々と話を続ける。
「ついさっきあなたの世界とこちらの世界を繋げたのだけど、その『道』の真上に立ってしまったみたいね。一方通行だから元に戻ることは出来ないの」
「諦めてって…わたし空港に向かうつもりだったんですけど…間に合わないと困る!何だかよくわかんないけど、これってあなたのせいなんでしょ?そっちの落ち度でしょ?一方通行ってんなら今すぐこっち側からあたしのアパートまでの『道』とやらを繋げて帰してください!なんだったら空港までの直通でもいいですけど?!」
然り気無く個人的な要望も付け加えてみた…。だって、飛行機乗り遅れたら一年間のわたしのバイト代が無駄になる!全くの徒労ではないかと、捲し立ててみた。
とにかく二ヶ月間で身も心もパリジェンヌになって帰ってくるという(アホみたいな)目標は譲れないのだ。
軽く睨みながら訴えるも返ってきた言葉は、
「無理!」
「早っ!なっ何で?!もうちょっと悩んで!」
「そもそも、あなたの住む世界と今いるここの世界では存在する空間がまず違うの。その空間を繋げることは消費する力が尋常ではないということ。一度その力を使ってしまうと少なくとも人間の時間感覚で数ヶ月…いえ、一年は待ってもらわないとわたしも力を蓄えることは難しいわ」
は…?今なんつった?い…一年?一年って…一年後ってこと?
「・・・」
待て待て待て待て待てーいっっ!
一年後って普通に考えたら社会人一年目じゃん…就職浪人決定じゃん?!いまだに内定貰ってないのに一年も就活出来ないって致命的じゃないかーっっ!
そもそも卒業出来ない?卒論だって出せないんだから…うそ…留年?おっ…親に殺される!!
あわあわと取り乱しながら更にもう一つの疑問が湧く。
「ん?じゃあ、その一年間はわたしはどこで生活するの?」