青崎真司郎と英雄
「青崎……それがおまえの名前か。 よくここが分かったな。嬉しいぜ?」
白松はニヤニヤしながら立ち上がって言う。
「鼻が人一倍効くんでな。 それよりテメェ覚悟はできてるんだろうな?」
青崎は威圧するように奴を睨みつける。
「いいねえ、その目。ゾクゾクする。 なぁ、早くやろうぜ? 俺は待ちくたびれちまってんだあ!!」
「心配しなくても最初からそのつもりだ。」
青崎は拳を握るといきなり白松に殴りかかる。白松は全く反応できずに青崎のパンチをモロにくらう。笑顔で。
「鉄を殴った気分はどうだ、青崎?」
「ゲロ吐きそうだ。」
すると今度は白松が仕掛ける。先ほど星宮にやってみせたようにデコピンの形を作ると照準を青崎に合わせて乱れ打ちをする。
青崎はそれを全て見切って避けてみせる。
「さすがに速い。けどそのスピードいつまで持つかな?」
「それより先におまえが弾切れになるんじゃないか?」
「ッ!! ……へえ、今の一回だけで気がつくとはなかなか目がいいな。」
あいつの能力はだいたい分かった。鉄の形状変化と自身の鉄化。
「鉄を多く得るために工事の廃墟に誘い込んだんだろ? ここがおまえにとって1番実力を発揮できる場所な訳だ。」
「そうさ、ここでおまえは俺に完膚なきまでに殺される。」
白松はまた指を構えて、青崎へ放つ。青崎は回避しつつも近づこうと試みるが、次々と放たれる鉄塊に付け入る隙がない。
「どうした!? 能力が分かったところで逃げてるだけじゃ俺は倒せねえぜ!?」
防戦一方の青崎に白松は挑発する。
クソ、このままじゃラチがあかねえ。1度距離を取るか?
そう判断して青崎は回避からの接近を諦め、後ろへと後退する。
「おいおい、そーゆーつまんねえことすんなよなぁ、青崎ぃ!!」
白松は距離を取ろうと走る青崎の背中を狙い、鉄塊を打ち続けながら歩いて追いかける。
青崎はなんとか避けつつ身を潜められる場所を探す。すると大量に積まれたコンクリートブロックの山があり、そこに身を隠した。
「隠れたって無駄だぜえ!!」
声と匂いで白松が近づいてくることを青崎は理解する。
なにか、鉄のあいつにダメージを与える手段はないか?
青崎は自分の身を隠しているコンクリートブロックを一つ手にとり、考えを巡らせる。
……試してみる価値は、あるか。
青崎は目をつむり、神経を嗅覚に集中させる。
距離10m、歩幅約75cm、約14歩でこちらに到達。鉄塊はあと40発分持っているみたいだな。
他には特に武器を仕込んでいない。つまり、あとは奴の虚をつけばイケる!
「さあ、かくれんぼはおしまいだ青崎!!」
白松は指を構えると勝ち誇ったようにコンクリートブロックの山の後ろへと回る。
その刹那、顔面に目がけて飛んで来たコンクリートブロックに白松はとっさに体を鉄化する。
すると今度はコンクリートブロックの山がこちらに雪崩れてくる。白松は直撃を避けられない。
「クソガァ!!!!」
白松は体の所々から血を流しながら立ち上がり、怒りをあらわにする。しかし畳みかけるように青崎が白松に襲いかかる。
白松は鉄塊を放ち向かってくる青崎を迎撃しようとする。
「遅い。」
白松が鉄塊を放った瞬間、既に青崎の拳が白松のみぞおち辺りを捉えた。
白松が痛みに顔をしかめるとさらに青崎の蹴りが白松の顔面を強襲した。
「やっぱりな。おまえの鉄化は一定量以上のダメージで解け、もう一度鉄化するまでには少し回復の時間つまりラグが生じる。」
「何故……わがっだ……!?」
頭、鼻や口からも血を流す白松が問う。
「ただの勘。というか、賭けだ。」
「勘、ねえ……。」
白松はニヤリと笑う。それが青崎には妙に思えた。
「何が可笑しい? おまえにもう笑えるような余裕はないはずだぜ?」
「いいや? ただ、惜しいなって。」
「惜しいだと?」
「ああ。おまえの勘とやらがな。」
「どういう……」
「答え合わせといこうか、青崎ぃ!! 俺の能力は自分を鉄化できることと、
手に触れた鉄を30分間操ることが出来ることだ。」
「は?」
青崎は目を丸くする。
「青崎君後ろ!!!」
星宮の叫び声が工場に響き渡る。
次の瞬間、槍の形をした鋭い鉄塊が青崎の右肩を貫通した。