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青崎真司郎と取り引き

「さあ、何を知りたい? 魔法について? 外について? それともーー君自身について、かな?」


青崎の心を見透かすように薄ら笑いでスナルディは問うてくる。鼓動が一気に激しくなる。


「俺のこと、知っているのか?」

「……さあね?」


ふわふわとした態度で曖昧な返事を述べるスナルディに青崎は気持ちが焦燥する。

胸の内のイライラを隠すことなくわざとらしく表情に出した。


「まあそう焦るなよ。冷静さを失うと得られたはずの情報を取りこぼす。プロからのアドバイスだ」

「……」


スカしかした顔で言うスナルディに青崎のヘイトは増すばかり。


「プロの俺がタダで情報をやることはできない」


「……格好の餌を目の前に吊るして無理矢理にでも食いつかせる。 なるほど、確かにプロを語るに相応しい汚いやり口だ」


「ひどい言われようだが否定はしない。情報戦はいかに有利な立場を築くかが大切。これもまたアドバイスだ」


薄ら笑いのスナルディに青崎は深く息を吐いて睨みつける。

手口は汚いが手荒なわけではなく、あくまでフェアなやり口。油断すれば極少ない情報の対価に大量の情報を与えてしまうかもしれないという危険性はあるものの、得られた情報の正確性を見極める必要は無さそうだ。


「何が知りたいんだ?」


今度は逆に青崎が尋ねた。スナルディは顎に手を当て数秒考える素振りを見せてから、口元をニヤつかせた。


「ーーある男について聞きたい」

「ある男……? 悪いが俺はあまり顔が広くないからな、多分知らないぞ?」

「知らないなら知らないでいい。それも立派な情報だからな」


スナルディの考えは青崎には理解出来ない。しかし、警戒していたよりもずっと軽い情報で済むようであることは確かだ。


「まあいいぜ。で、誰だよ。ある男ってのは」

「そいつの名はーー」


次の瞬間、スナルディが口にした名に青崎は耳を疑った。


「ーー末高涼夜」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


傷だらけの体はとっくに限界を迎え、普段の何倍も重く感じた。

否、もうすでに重みを感じてすらいないのかもしれない。

ただそれでも白松は意地で歩みを止めない。


「ふざけやがって……青崎め……!! 力を隠して……味方のふりをして……嘲笑っていやがったのか……?」


やはりこの世の全ては強さ。強さこそが正義である。白松は改めてそう感じた。


「強い奴を倒す。全員倒す。この力で、俺は最強になる……!」


しばらく眠っていた野心が鋭い牙を備えて蘇る。何も変わらない、これまでそうして生きてきたように強い能力を持った強者たちをなぎ倒して行くことで自分を証明する。


「俺は強者になるーー青崎、俺は次こそおまえを超えて……」


瞬間、視界が揺らぐ。すると嘘みたいに全身の力がスッと抜けていった。

白松はその場に倒れた。


「冗談じゃねえ……クソが……動け、動きやがれぇ!!」


声を荒げると体が悲鳴をあげ、吐血する。


ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。


何度心中で繰り返しても体は言うことを聞かない。


なんで、なんで……!!


脳裏に草戯原が浮かぶ。戦いの最中、草戯原の声から脳に流れ込んできた奴の過去。 無能力者だった自分に苦しみ、力を得て復讐をした強者。

次には青崎が浮かんだ。本当の力を隠して、素手で白松や草戯原に戦いを挑んできた。

しかし彼の目はいつも命懸けの本気の目で、それを白松は知らず知らずに尊敬していたのかもしれない。


「その理想像が崩れたショックで、君は青崎を一方的に突き放した。 うん、死に際になってようやく君は本心にたどり着けたようだね」


どこか聞き覚えのある声がする。男の声。どこで耳にしたか。


「君は青崎に裏切られたなんて思っちゃいない。あいつが力を隠して戦いに全力を尽くさないタイプなはずがないと理解している」


知ったような口ぶりで一方的に語られる。いや、違う。語られてなどいない。

ーーこれは今自分自身が考えていること、思っていること。一字一句違わず自分の言葉。


「わかっているよ。そう、君は裏切られたと感じたわけでもなく、これから明かされて行くであろう青崎を取り巻く物語を恐れたわけでもない」


「君は君を恐れた」


「これまでと同じように」


「君の弱さを恐れた」


「青崎を取り巻く物語に置いてきぼりを食らってしまうことを恐れた」


「だから君は自分から物語の脇役を降りたんだ」


知ったような口ぶりはそこで収まり、途端に全身の痛みが消えて行くのがわかった。

視界が彩りを取り戻して行く。

頭にかかっていた靄が晴れるように思考が冴えて行く。


そして、声の主を思い出す。

同時に白松の視界は白松を見下ろす1人の男を捉える。 思い当たった声の主はどうやら正解らしい。


「おまえ、名前なんだっけな。 確か青崎のダチの1人のーー」


「末高涼夜。世界中の女の子の味方にして、モテない男子の目の敵さ」


末高が爽やかイケメンスマイルを浮かべた。その張り付いたような笑顔に白松は草戯原以上の不気味さを感じていた。

読了ありがとうございます。

気づけば平成最後の夏もあっさりと終わりを迎えるようですね……。

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