青崎真司郎と一触即発
「奉仕活動だあ? おいおいおいおいなんかおまえ状況理解できてないんじゃねえの?」
男たちの数は4人。状況としては少女を集団強姦してたってところか。
「愚図共が。」
自然と口から言葉がこぼれた。右手越しに星宮が震えているのがわかる。
「かっこいいねえ。じゃあその奉仕活動ってやつやってみろよ。 英雄気取りの高校生!!」
超常能力者ばかりのこの街でケンカをする際に考えなきゃいけないことは、相手がどの程度の適正値のどんな能力を持っているか。
だから俺がとるべき最善手は!
「ごちゃごちゃ考えてるのが丸見えだぜ高校生!!」
言葉と同時に男は青崎へ襲いかかる。青崎はパンチとキックがうまくコンボされた攻撃を凌ぐので精一杯。
やはり戦い慣れしているようだ。
「いいねえ、ちったあやるじゃねえか!」
「そんな攻撃じゃハエも仕留めれないぜ。勿体つけずに出せよ、おまえの能力。」
「それはもっと俺を楽しませてから言うんだな!!」
「ーーーぐっ!!」
男のパンチを1発頬にくらい、青崎は後ろにひいて距離をとる。
このレベルが4人と考えるとなかなかきついか……?
「どうした? まさかその程度で痛えとか言うんじゃねえだろうな? テメェはハエ以下か!?」
「うるせえ。」
「ああ? なんだって? 声の音量までハエ並みかよ!?」
瞬間、男たちも星宮も青崎を見失った。正確には目で追えなかった。
軽快にして無駄のないステップは青崎と男の距離を一気に縮め、青崎の右手が鈍い音とともに男の頬を確実に捉えた。
「ーーーぐっ、あ!?」
男はその勢いのままに地面へと叩きつけられた。
「あんまりうるさくされたら頭が回らなくなって、手加減とかも全部忘れちまうだろうが。」
上から見下すようにした青崎の目は一学生のするような目ではなく、どこか殺気とおぞましさが込められていた。
「ふっは、ははは! いい目するじゃん! いいねおまえ。最っ高だよ!! いいぜ。望み通り見せてやるよ、俺の能力! その代わり死んでも知らねえけどなあ!!」
「白松。そこまでだ。」
割り込んできたのは低くて威圧感のある声。男たちの中で中心にいるやつだ。
「はあ? これからがいいとこなのわかんだろうが! 草戯原さんよお!?」
「冷静になって耳すませろ。」
そう言われて白松は我にかえるとパトカーのサイレンが近づくのがわかる。
目をやると女のほうの高校生が携帯電話を握っていた。
「クソ女があ! 余計なことしやがって!」
「今警察に会うのは面倒だ。その女も用済みだ。置いて行くぞ。」
「……ちっ!」
白松は立ち上がるとバツが悪そうに歩きだす。何歩かいったところで青崎のほうを振り返った。
「また続きしような~、絶対に。」
そう言って白松は楽しげに笑う。
「おい待て、草戯原!!」
青崎は今耳にしたばかりの名を叫ぶ。
中心に立ち、命令を出すあいつは間違いなくあの中のリーダー的存在に違いない。
つまりあの女子高生にあんなことをしていたのは草戯原の命令だということだ。
「僕様の名前を気安く呼ぶとはとんだ命知らずのようだな?」
草戯原はこちらを振り返った。青崎は草戯原を睨みつける。
「なんでこんなことを……この子が何したってんだ!!」
「それはそいつを検査すればわかるのではないか?」
そう言ってまた背を向けた草戯原たちの服に何か共通の紋様のようなものがあることに青崎は気づいた。
「龍王天理界……?」
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その後駆けつけた警察により、被害者の女子高生は無事保護された。
「龍王天理界、確かにそう書いてあったの?」
「有名なのか?」
問いに問いで返した星宮の意図を青崎は読み取る。
「この街で1番って言われてるほどヤバイ組織。なんでも総員は1万人を超える大組織で金とか薬とか殺しとか危ないことには全部龍王天理界の関わりがあるって言われてるの。」
「でもこの街の隅から隅までシステムが管理してるんじゃなかったか? だったら組織がどんなにデカくなっても警察に筒抜けなんじゃ?」
「うーん、なんていうのかな、システムはそんな善良的なものでもなくて……って暗くなってきたしこの話はまた明日にしましょうか。」
言われてみれば既に日が落ちていた。
「送るよ、家どっち?」
「え、い、いらないわそんな気遣い! 私は生徒会員よ? 自分の身くらい守れるわよ!」
「余計なお世話でもなんでもいいよ。
ーーさすがにそんなに震えてる女の子を1人で帰らせるわけにはいかねえからさ。」
すると星宮は何か思うところがあったのか、震える自分の手を見てグッと握る。そして右を指差し、顔を赤らめながら小さくつぶやく。
「……こっち。」
「おう。」
青崎たちは右に歩みを進める。
「ほんと、情けないなあ。私は。」
星宮が空を見上げながらそんなことを言った。
「十分に立派だろ、君は。」
「何それ。適当だなあ。というかあんな怖い人にはいきなり呼び捨てして私には他人行儀なんだ。」
今んところ青崎の印象では星宮のほうが怖いのだが。
「じゃあ、十分に立派だ。星宮は。」
青崎の言葉に星宮は静かに首を振る。
「ダメダメだよ私は。 生徒会だからって学生の前では正義感気取って、いざという時には怖くて何もできなかった。」
「それは違うだろ。」
俯く星宮の言葉を即座に否定する。
「おまえが助けようって言って踏み出したから彼女を助けられたんだよ。」
「青崎君がいなければ私も一緒の目に遭わされていたかもしれない。 全部あなたのおかげじゃない。」
「星宮が動いてなかったら俺は警察に連絡してその場を去っていた。おまえが、おまえの正義感が俺を動かしたんだよ。」
そう言って青崎は笑いかける。すると星宮も少しだけ笑顔を取り戻してくれたようだ。
「というか星宮はなんで俺の名前を知っているんだ?」
「なんでって当然、罰を与える時に名簿みたし、反省文にも書いてあったじゃない。 あなたも反省文に書いてあった私の名前を見たから知っているのでしょう?」
「いや、俺は友達に聞いたんだ。なんつっても星宮は有名人だからな。」
「ちょっとあなたそれ、変な噂じゃないでしょうね?」
「全然そんなものじゃないから安心しなよ、女王様。」
「それのどこが違うって?」
三度青崎は氷の結晶を目にした。
「ちょ、ちょっと? 明らかに俺は悪くないよね? 聞かされただけなんだけど、ねえ!?」
すると星宮はマジの顔から一転して笑顔を弾けさせた。その笑顔のあまりにものまぶしさにつられて青崎も笑った。
こうしてなんとか奉仕活動の1日目を終えた。
……てか、まだあと2日もやんのかよ。




