青崎真司郎と青崎真司郎
「ハハハハハァア!! コワレロ!!コワレロ!!スベテコワレテシマエ!!!」
その叫び声がそのまま全て攻撃に変わり、辺りに尋常じゃない衝撃波を飛ばし続ける草戯原。 それは付近の建造物だけになく、青崎たちが目で捉えられる範囲の信号、電柱、家屋、アスファルトが無差別でランダムに被害に遭う。
ただでさえ適正値Aランクのチート的な能力だというのに、厄介なことこの上ない。
「ヤロウ、自分の通ったところを破壊しながら進んでやがる! 台風かよ!」
「言ってる場合か。巻き込まれたら死ぬぞ!」
秘策に効果があるかないか以前に公園に着くまでに殺されてしまっては元も子もない。
しかし、気持ちとは裏腹に体は思うようには進まず、草戯原との距離はジリジリと近づいてくる。
表情を笑顔で硬直させている草戯原は悪魔のように高らかに笑い声をあげる。
青崎は口の中に得体の知れない苦味を感じて顔をしかめる。
(考えろ、この状況の打開策は……!!)
青崎は思考を必死で巡らせる。
能力の弱い青崎が強者と渡り合うには考えるしかない。
今起きていること、自分にできること、自分にとっての最悪の結末、それら全てを甘味した上での策を。
「ーーーッ!?」
その時、頭痛がした。しかし、感覚的にわかる。
ただの頭痛ではない。
焼けるようなその痛みは広がっていき、頭全体を支配する。
同時にまぶたの裏にある情景をみた。
それはどこか懐かしいようで、でもどこなのか思い出せない場所。
ーーーそこが何度も夢で見るあの場所だと気づくまでに、数秒時間を要した。
「誰だおまえ。」
目の前に1人の男がいた。その背中からは偉大さと勇ましさがあふれ出ていて迫力を感じる。
戦場に立つ戦士は燃え盛る街を前にただ、強く立ち続ける。
男はゆっくりと振り返り、青崎はその笑顔に驚愕した。
「な、んで……?」
その男は、青崎真司郎。自分自身だった。
『魔法陣を構築しろ。イメージは火炎。形状は竜。方角は直線。名称ーーー』
「青崎っ!!!」
気づけば足を止め、地面に這うように倒れてしまっていた。
異変に気がついた白松が振り返り、声をかけたときにはすでに、頭上には狂気まみれの笑顔がこびり付いた草戯原がいた。
しかし奇妙なことにも先程まで感じていた途方も無い絶望感も、果てしない危機感も、思考を狂わせる焦りも消え去っていた。
代わりに青崎の脳内を埋め尽くしたのは、懐かしい痛みと自分の知らない自分の言葉。
「炎魔法第25術 竜炎の舞ーーー!!」
口から滑り出るように青崎はその言葉を口にした。
すると、眼前には赤い円形の紋様が生まれる。
それには見覚えのない文字が書いてあり、光を帯びている。
「なんだコ……」
青崎自身が驚くのも、危険を感じて草戯原が青崎から離れるのも、数瞬遅い。
現れた紋様からは火炎が飛び出し、竜の形を描きながら草戯原に襲いかかる。
「ーーーガアアアアアアア!!!!」
うめき声をあげる草戯原の体は竜を模した火炎につつまれ、それに競りあげられるように家屋の屋根なんかより遥か高い空中へ。
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「ーーーん? あれは……竜炎の舞?」
青崎たちがいるところより少し先、男は少し高い作りのビルの屋上に立ち、空をかける炎の竜を目にした。
「有名な魔法だが、それなりの実力者じゃなきゃ使えない代物だ。僕の他にも魔法使いが侵入してるのか。
ーーーなら尚更さっさと仕事を終わらせちゃおう。 この街の能力者は大したことなさそうだしね。」
ニヤリと笑みを浮かべて、男は目の前にそびえ立つこの街で一番高い建物を見つめた。




