星宮柳と成海夜子
「おまえはダメだ美しくない。消えろ、醜い雌ブタが!!」
成海の挑発にまんまと触発された渡利が苛立ちの表情を浮かべて言い放った。
渡利の考え方、つまりヤンデレの思考というのは基本的に女性を見下した考え方だ。相手の尊重を受け入れようとせず、ただ自分の愛情を受け止めることだけを望む。
その結果として渡利は星宮を殺そうとしているのだ。 では、そんな男が女に挑発的な態度を取られたらどうなるであろうか。
「戦場では冷静さを欠いたやつから死んで行く。オンラインゲームの基本だよ。」
渡利は武器を手に取ることも1度距離を取ることもせず、殴りかかるという短絡的な行動をとった。
だが、その手はーーー否、渡利の全身がピクリとも動かなくなる。
「な、何故……」
「あたしの能力はサイコキネシス。勝負あったみたいだね。」
「バカが! こんなものテレポートしてしまえば関係ない!」
「試してみれば?」
渡利はすぐさまテレポートを試みる。すると体が一瞬は消えかけたが、すぐさま弾かれるように同じ場所に出てくる。
「ーーーッ!?」
「テレポートってのは消えて現れるように見えるけど結局は移動なんだ。それを押さえつけさえすればテレポートは阻止できる。自分の能力をもう少し知っとけ。」
言いながら成海は指で何かを操作する。すると看板が壁から外れて成海に吸い寄せられるようにこちらに来る。
「こんなはずが……こんなクソ女に負けるなど……!!」
渡利は顔を引きつる。対象的に成海の顔は怒り色に染まっていく。
「あのねぇ……私のどこの辺がクソだこの野郎!!」
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「んあー、久々に能力使うと肩凝るわー。」
気絶した渡利をサイコキネシスから解放すると成海は自分の肩を叩きながら言った。
「助かりました、先輩。」
「ほしみんも頑張ってたけどねー。」
と言って成海は星宮に手を差し伸べる。星宮はその手を掴みフラフラしながら立ち上がると「ん?」という声を漏らす。
「先輩今なんて言いました?」
「肩凝るわーって。」
「その後ですよ!」
「ほしみんも頑張ってたけどねーって。」
「そうそれです! 先輩もしかして私が戦うところを見てたんですか!?」
「見てないとは言ってないよん。」
「いつから!?」
「〝心配しないでも大丈夫、それより早く青崎くんの援護に!″」
成海は声音を上げてポージングしながら、どこか聞き覚えのあるフレーズを口にした。
「最初からじゃないですかっ!!」
星宮はムッとした表情で成海に顔を近づける。成海は顔をそらして誤魔化すように笑った。
「ま、まあ、後輩ちゃんの成長を見届けるのも先輩の役目じゃない?」
「そうやって先輩たちが仕事放棄してるせいで実質生徒会として活動してるの私ぐらいなんですからね!? 生徒会は警察同等の行使力と権利が与えられてあり、生徒の中から選ばれた存在なんです! もう少し自覚持ってください!」
「ま、まあそんなに怒らないでもさ、最終的には助けたんだしよくない?」
「よくない!! だいたい成海先輩新学期入ってからまともに学校行かないで何してたんですか?」
「げ、ゲームを少々……」
「そっちの方がよっぽど肩凝りますよね!!」
止まらぬ星宮の言葉攻めに成海は目線を下に落としていき、体はだんだんと縮こまり、ついには「すいませんでしたー!」と土下座までしてしまった。
「いやー相変わらずだね、ほしみんの女王ぶりは。」
「今のは口調をきつくとかじゃなくて全部正論ですから。」
「反省……してます。」
すると星宮の視線は倒れている渡利へと向けられる。星宮があれだけ苦戦を強いられて、能力を限界まで使い果たしても倒すことのできかった渡利を成海は一瞬で倒してしまった。任せろと啖呵切っておいて結局他人の力を借りてしまったのだ。
「先輩、私なんかが生徒会にいてもいいんですかね。」
星宮は消え入りそうな声で不安を口にする。すると成海はニッと笑う。
「ほしみんはさー、能力すっごいし責任感あるし真面目だし生徒会にいるべきだよ。
ただちょーっと闘いが下手っぴかな。けど最後の凍りづけ作戦は良かったよ!」
「結局その作戦も失敗でした。」
「んや、あれは8割成功だね。さっきも言ったけどテレポートは消えてるわけじゃない、目に見えない超スピードでの〝移動″なんだよ。だから場所を固定させてしまえばいい。
ほしみんの敗因は能力の力負けだね。力が強ければテレポートを防げてた。 まあ顔まで凍らせるのもアリだったけど優しいほしみんは万が一のことを考えてそうしなかったんだろうけどね。」
成海はポキポキと首の関節をならすと視線を数人の男に向ける。
「まだ少し起きてるやついるけどどうする?」
「戦意がないなら戦う理由はないです。」
「りょーかい。」
そんな会話を交わした刹那、少し先から唸り声のような大きな音が辺り一面に響きわたる。
その声を聞くと突如として全身の痛みが襲いかかる。星宮や成海に限っての話ではない。龍王天理界の男たち、恐らく周辺の住民や通行人もみんな巻き添えを食らっているはずだ。
音の性質は唸り声だがその音量は計り知れず、どこまで届いているのか検討がつかない。車のクラクションの音や急ブレーキの音、さらに爆発音まで聞こえてきて、煙があちらこちらから立ち昇る。
まさに地獄絵図と呼ぶのにふさわしい光景が星宮たちの目の前に広がっている。
「はは、あっちが暴走かな……!」
「……青崎くん」
星宮はこの膨大な力の主に立ち向かっている彼の名を、小さく呼んだ。




