青崎真司郎と拳で
脳内に強制的に流れてくる不協和音。それがじわりじわりと理性を蝕んでいく。意識が遠のいていく。
これは叫びなのだろう。草戯原の魂の叫び。弱さに苦しんだ少年草戯原の、力を得て強者であり続けようとする草戯原の。
彼は弱者の思いを知っているからこそ必要以上に強者であろうと振る舞う。自分で自分を愛そうとする。
音が青崎にそんなことを思わせた。
加えて「滅びの鎮魂歌」などという大層な名前に恥じぬ強力な威力で脳が破裂してしまいそうなほどに頭の奥の奥深くから痛みが走る。
「クソが……!!」
白松が必死に耐えようと声を上げる。草戯原を止めなければ恐らく2人とも死ぬ。だから前に1歩踏み出そうとするが体が言うことを聞かない。
……諦めるわけにはいかない、俺はやっと見つけたんだ。居場所を、やりたいことを!!
「そろそろこの不愉快な音を止めて貰おうか!!!」
青崎は歯を食いしばり、力を振り絞り、なんとかギリギリの状態で草戯原に近づく。拳を握る。こんな状態でパンチを打ったところで避けられることは容易に想像できる。しかし、青崎には無駄な抵抗もしなければいけない理由がある。
「ああああああああああ!!!!!!」
ぐっと握りしめた右手を振りかぶり青崎は120%の力を拳にのせてパンチを放つ。
そして絶対に避けられるだろうと思っていた青崎の拳が一直線に草戯原の頬へと吸い寄せられていく。不思議に思って拳が当たる直前に草戯原の目を見た。
ーーー草戯原の目は現在を見ていなかった。
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「成海先輩……!! どうしてここに?」
「ちょっくらプリペイドカードを買いにコンビニにね~。ほしみんはこんなとこで日向ぼっこ……ってわけじゃなさそうだね?」
「誰だおまえ。僕とマイプリンセスの愛を邪魔するなよ。」
渡利はすかさず銃口を新たに現れた女へと向ける。
「人にものを訪ねるときはまず自分から名乗りな?」
成海はカッコつけて言うと「くぅ~!!」とガッツポーズをしながら何かの感情を爆発させていた。
「死ねまでに一度は言いたいセリフNo.18がついに言えたよ!」
すると渡利が成海の背後へとテレポートして後頭部に銃口を突きつける。
「どうも、龍王天理界第8隊新副隊長の渡利舜です。これでいいか?」
「ほしみんと同じ東高の生徒会役員で2年の成海夜子。とりあえずうちの後輩を可愛がってくれちゃった罪を償って貰おうか。」
いつもおふざけばかりの成海先輩のこんな顔見るのは初めて……。
凍りついた表情の成海をみて星宮は少し驚く。
「あーあと忠告。その銃もう使えないから新しい武器だしな。」
「あ?」
すると銃があらぬ方向へとひん曲がる。
「何をした?」
「先に言っておくけど謝られても許さないよあたしは。」
成海はポケットに突っ込んでいた手を出して手招きするような動作で渡利を挑発した。




