星宮柳と作戦
「……へえ。背後を隙だらけにしたのは誘ってたのか?」
「ええまあ。でもまさかこんなわかりやすい誘いに乗るとは思わなかったわ。」
星宮の背後にテレポートした渡利によって放たれた銃弾は氷の壁に防がれ、刹那に渡利の顔以下が凍り付けにされた。
「君が仕掛けた罠ならどんなものにでも引っかかるよ僕は。」
「はっきり言ってキモいわね。」
言葉と同時に無数の氷の礫が放たれ、辺りには煙が立ち込める。煙が晴れたときには既に渡利の姿はない。
しかし星宮は何も驚くことはなく、手のひらを空に掲げて最大出力でこれまでで一番大きいドリルのような形の氷を生成する。
そしておもむろに一軒の家の屋根を見る。
「そこ!!」
星宮が生成した氷を放つと丁度そこに渡利が現れる。
「ーーーっ!?」
そしてついに星宮の攻撃が渡利にクリーンヒットした。
「……これまたどんなカラクリだい? マイプリンセス。」
「さっき凍り付けにしたとき、一部分だけ服の内側まで凍らせておいたの。私は自分の出した氷が無くなるまで位置を知ることができる。」
「なんと、さっきの大技すらもフェイクというわけか。実にトリッキー。」
渡利は称賛の声をあげる。星宮自身にもここまで狙い通りになったのは奇跡的に思えた。
……でもダメだ、確かに作戦は狙い通りにいったけど最後の最後で誤算だった。あいつ、テレポートっていうチート級能力だけで副隊長になったんじゃない。
基本的な体術のレベルも高い。トドメの一撃のつもりだったのに、うまい具合に急所を外された。
「んー冷たくて鋭いのが刺さって左手に感覚が無いや。でもいいか、これは僕への愛だもんねマイプリンセス。 だったら僕も目一杯愛し返してあげなきゃね!!」
不気味な笑顔で舐め回すように星宮を見る。
星宮には焦りが生じる。
「まずい、もう限界……。」
星宮はそうつぶやくと膝をつく。すると星宮がこの戦いで生成した氷が全て原型をとどめられずに砕け散る。
「ああ、愛しい。愛しすぎるよマイプリンセス。君の全てが美しい!」
「副隊長、女は弱ってるみたいなので後は我々が引き受けます。副隊長は隊長の援護に向かわれては?」
一人の男が渡利に提案する。
「ーーーおまえ、今なんつった?」
渡利は男の前にテレポートし、頭に銃を突きつける。表情は先程から一変し、今にも引き金を引きそうな殺意にまみれた顔だ。
「す、すみません! 出過ぎたことを!」
「おまえ僕のプリンセスを取ろうとしたのか? ああ? いいか、僕は隊長が死のうが龍王天理界の誰が死のうが興味ない。今の僕には彼女こそが全てだ。」
「は、はいっ!」
「というか、龍王天理界ってのはそーゆーところだ。一歩兵ごときが立派に仲間想いとかしてんじゃねえ。誰を犠牲にしても目的が達成されればオールOKがうちのルールだ。」
それを聞いた星宮は挑発するように笑う。
「薄情な組織ね。屑の組織は立場が上がるほど屑なのかしら。」
「酷い言い様だね。けど果たして本当にそうだろうか? 大いなる目的のためにはどうしたって犠牲がつきものだ。そのことを初めから理解していなければ綺麗ごとをいくら並べても、仲間ごっこをしていても目的は達成されない。
甘さを捨てる覚悟がないほうがよっぽど屑だと僕は思うよ。」
「そう、安心したわ。私たち気が合わないようね。」
「ふふふっ。愛してるよマイプリンセス。」
渡利は銃口を星宮に向ける。星宮はもう一歩足りとも動けない。
もう、ダメだ……私はここで……
「あっれー? そこにいるのもしかしてほしみん?」
星宮が諦めかけたとき背後から気の抜けるような明るい声がした。星宮はその声に聞き覚えがある。
そしてその声の主が近寄ってきて顔を覗きこんでくる。上下灰色のラフな格好でコンビニのビニール袋を片手に持っている。
茶色というか黄土色に近い髪をツインテールにして表情は天気でいうところの快晴。
「やっぱほしみんじゃん! やっほーこんなとこで奇遇だねえ!」
「成海先輩……!!」
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ーーー同時刻。
五重に固く閉ざされた扉の前では毎日代わりで見張りがつく。ヘブンイレブンは他の都市や国との連絡を一切断ち切り、常に厳重体制で外の者の立ち入りを禁止している。
そのことは外の世界でも有名な話で、わざわざこんなところに入り込もうとするような輩は滅多に現れない。
しかし、今日は違った。
一番外側の扉に設置されている監視カメラが破壊され、同時にセンサーが働き警報が鳴らされた。その瞬間分厚い5つの壁に一瞬にして大穴が空けられた。
破壊音と衝撃波を伴いながら30人の見張りの前に現れたのはたった1人の男。
「貴様何者だ!? ヘブンイレブンでは外の者の立ち入りを固く禁じている。それ以上進めば壁の破壊を含め貴様には重罪者としてここで消えてもらうことになる。そこで止まれ。」
「んーなんだあ、見張りには常に上位ランカーがいるって話だったのに」
男は喋りながら指を一度パチンと鳴らす。すると見張りの1人1人の前に赤い変な紋様が現れる。
「な、なんだこれは……?」
刹那、その紋様は爆発を起こす。結果として30人の見張りは一瞬のうちに皆殺しにされてしまった。
「雑魚しかいないじゃんつまんね。これじゃあ準備運動にもなりゃしない。」
「上位ランカーならここにいるよぉ~~~? ちょっとトイレ行ってたの~~~!」
「……え? 君みたいなのが上位ランカー? なんかイメージと違う。そんな学生みたいな歳の子じゃなくてもっと大人だと思ってたよ。」
「大人もいるよ~~~? おじいちゃんとかも。」
「そうなんだ。まあなんでもいいや、強いなら!!」
男は先程同様に指を鳴らし、常坂の前に紋様を出現させる。そして爆発を起こす。
しかしそれに常坂は動じることなく、爆発は常坂が生み出したブラックホールに飲み込まれる。
「へえ? それが君の能力ってやつ?」
「魔法陣だあ~~~! 魔法使いさんだあ~~~!」
「おっ、魔法を知ってるのか。どうやら君が上位ランカーってのは本当らしいな。てことは、この街の能力者たちの強さは君と戦えば大体わかるわけだ。」
表情を真剣にした男が今度は赤い魔法陣を自分の目の前に出す。
「お手柔らかに~~~。」
常坂は楽しそうに笑みを浮かべた。