青崎真司郎と草戯原野兎李
「これで耳は塞げない。終わりだ。」
勝利を確信した笑みを浮かべる草戯原が息を大きく吸い、声を出そうとする。しかしその時草戯原の背中に激痛が走り、動きが止まる。
「油断したな草戯原……!」
「白松、てめえ何故起き上がれる!?」
確かに自分の攻撃をまともに食らったはずの白松が平然と立ち上がることに草戯原は理解が追いつかない。
「何故ってそりゃ、耳塞いでたからだろ。」
「なんだと? だがおまえは確かにダメージを!」
「吐血の話か? それが情けないことにまだデカイ鉄を操るのに体の負担が大きすぎるみたいでよ、キャパ超えちまうんだわ。
おまえの背中の激痛の正体、なんだと思う?」
草戯原は手に握った手裏剣を見る。その後周囲を見回すが特に武器になりそうな鉄はない。そう思った矢先、草戯原の目には蓋の消えた排水溝が映った。
「排水溝の蓋を長方形の形のまま32本の連続した鋭い針にして刺した。形状変化と気づかれないように操作するのはなかなか難易度が高かったぜ。」
「排水溝の蓋だと……!? 侮辱行為だ。僕様に僕様にそんな物を……!!!」
「女々しいな中二病少年。龍王天理界にいた時からずっと思ってたんだけどその痛々しい一人称やめたらどうだ?
おまえは何も特別なんかじゃねえよ。」
白松がそう言った瞬間、草戯原は目を見開いて頭を抱えた。次第に痙攣し始めそれはなにかを恐れているかのように見える。
「やめろ……やめろ……僕様は……僕はっ!!」
ーーーアイツ、生きてて恥ずかしくないのかな?
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「あー、草戯原 野兎李のこと?」
「そうそう。運動も勉強もできないじゃん? 友達もいないし、てかもう声覚えてないくらい喋らないし。清潔感ないし生ゴミ臭いしおまけにあれでしょ? 無能力者なんでしょ?」
そんなひそひそ話が聞こえてこない日はなかった。
草戯原が小学3年生の時の話である。
能力がすべてのこの街では皆能力覚醒促進の注射を打たれ、大抵のものが物心ついた頃に能力が発症する。
しかし稀に何の能力も生まれない、無能力者もいる。そして無能力者とはそれだけで存在を否定されて、下に見られて、蔑まれる。
それは何も街を行く人々や学校の奴らだけの話ではない。血の繋がった家族ですらそうなのだ。
小学生になっても能力が発症しなかった草戯原は親に見放された。捨てられこそしなかったものの親のストレスが溜まればサウンドバック代わりにされ、話しかけるだけで怒鳴られ、そこには普通の親子を結ぶ温かさや愛が存在しなかった。
毎日散々バカにされた。おまえはクズだ、底辺だと。それが草戯原は悔しかった。
その気持ちを草戯原は自分に能力が生まれたときどんな言葉をぶつけて、どんな仕打ちをしてやろうとイメージすることで抑えた。
自分をバカにした奴らの死体を絵に描いて笑った。
「僕様……は! 僕様は特別だ! この力があれば誰にも負けない、誰もバカにできない!」
青崎にはそれは草戯原が自身に言い聞かせるように見えた。
「おまえもまた、この街の犠牲者なんだな。」
「そんな目で僕様を見るなあ!!!」
少し頭がピリッとくるが青崎は意識を失うことなくしっかりと立ち、真っ直ぐに草戯原を見る。
「こんなはずが、こんなはずがない! 僕様は最強なんだ。そうさ、奴らだってみんなそうだった。散々バカにしておきながら誰一人僕様には敵わなかった!! この力は最強なんだ!」
「ーーーっ!! 白松、もう一回耳塞げ!!」
「耳を塞ぐなどそんな程度で僕様の力を防げると思うな!! おまえらもあいつらのように、この力で殺してやる!!」
草戯原は血走った目で口元に笑みを浮かべて一呼吸開ける。
「滅びの鎮魂歌ーーー!!!」




