星宮柳とヤンデレ
空をオレンジに染める沈み出した太陽の光が窓から差し込む部屋でゲームのコントローラを握った男と携帯をいじっている男が画面の中の彼女について語る。
「俺ヤンデレってどうにも好きじゃなくてさ、なんつーか普通に怖くね?」
「んーまあ、そーゆー愛の形もありかなって俺は思うけどな。ほら、狂うほど愛してくれる女ってなんか萌えない?」
「.……おまえもういっそ女なら誰でもいいんじゃねえの?」
「まあ否定はしないかな。女の子はみんな恋愛対象だよ。」
「死ねクソたらしが。」
そこで一回会話が止まり部屋の中はゲームの登場キャラのボイスが響く。
すると不意に末高は携帯の電源を切って、ゲームの画面を見る。
「そう。たらしだよ俺は。女の子が大好きなんだ、なのに何が悲しくて放課後男2人で狭い部屋で恋愛趣味レーションゲームしなきゃいけないわけ? なにこれ拷問?」
「いや青崎も誘おうとしたんだけどあいつ忙しそうに教室出て行ったから。
てか悪口叩くのはいいけど狭い部屋は俺のオヤジに謝れよ。」
「大丈夫、堀川のとこ父さんより母さんのが強いから。」
「落としたのか!? おまえ俺の母さん落としたのか!?」
「……なんの話だっけ、ヤンデレ?」
「話逸らしてんじゃねえそして俺の目をみやがれ~~~っ!」
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「君は今から夜空に浮かぶ綺麗な星々の仲間になるんだ。永遠に僕のものさ!!」
「ちょっと発想がぶっ飛びすぎてて笑えないわね。」
星宮は顔を引きつった。
まただ、また私は怯えている。ちょっと強そうな相手を前にしたらすぐに怖気付く。変わろうと決めたのに。
「足が震えてる。怖いんだね? 大丈夫だよ、なるべく痛くないように傷つかないように一瞬で終わらせるから。」
変わる、変わらなきゃ私はいつまでも青崎くんの隣には立てないからーーー!
「はあっ!!」
星宮は男が引き金を引くより早く氷で作った矢の雨を降らせる。しかし既にそこに男の姿はない。
「そうだ。まだ名前を教えていなかったね。渡利舜。忘れないようにしっかりと胸に刻むんだよ?」
声は上からする。男は家の屋根に立っていた。
「テレポート、それがあなたの能力ね。」
となると物理的な攻撃の私の能力は分が悪い……いや、やりようによって勝機は必ずある。今だって青崎くんたちは分が悪い相手に立ち向かっているんだ。
今は震えてでもいい。みっともなくてもいい。私は私の全力を、私なりの戦いを!!
覚悟を決めると星宮は再び矢の雨を降らせる。しかし案の定渡利を捉えることはできない。
「いい顔だ。美しいよ、マイプリンセス。」
星宮は反応を示さずに思考を巡らせることだけに集中する。
どんなに威力の強い技であれ当たらなければ意味がない。スピードがいくら早くてもテレポートされたんじゃ当てようがない。
ならテレポート先を予測、いや誘導すれば良い。
星宮は攻撃の手を緩めずテレポート先をすぐに攻撃することを続ける。能力の発動スピードには多少自信があったのだが、やはりこのままでは一向に攻撃を当てることはできない。
「なら……!!」
星宮は今度攻撃の形を変えてみる。矢を降らせるように攻撃していたのから、渡利の足元から針の山を出す攻撃へ。これならかわされればかわされるほどに相手の足の踏み場を無くすことができる。
そしてその攻防は何十と繰り返され、ついには周辺の道は氷の針で覆われた。
「底なしの能力。さすがにちょっと驚いたよマイプリンセス。」
「その割にはまだ余裕そうなのがムカつくわ。」
そう言う星宮は息切れし始めている。
「本当に美しいな君は。僕が君の全てを愛してあげるよ。そう、君はもうーーー」
瞬間、渡利の姿が消えて短い沈黙が訪れた。星宮は再び現れた場所に攻撃するために構えて待つ。
「僕のものなんだ。」
カチャという小さな音と愛に狂った男の上ずった声が無防備な背後からして、
その刹那に銃声は鳴り響いた。