青崎真司郎と奉仕活動
能力至上主義都市ヘブンイレブン。それがこの街の名前だ。
人口の8割、20万人に及ぶ人々が科学や人間の常識を超えた超常能力を持つこの街では強さこそが正義であり、全てだと考えられている。
能力を持たない他の都市からの通信や貿易の一切を禁止とし、外部の人間の進入を断固として受け付けない。
そんな孤高の大都市には外の世界で許されるはずのないランキング戦というものが存在する。
能力者たちがしのぎを削り合い、互いを傷つけ合い、ただひたすらに自分のランキングを上げようとする。
ランキングが上になればなるほどいろんな権利が持てるし、金が持てるし、何より強者であることのいい気分に浸れるからであろう。
そんな人間の心理を巧みに利用して能力者たちを争わせようとするこの仕組みが俺は大嫌いである。
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去年中学3年生の春は毎日病院暮らしだったので全く気がつかなかったが、まだ5月だというのにこの街の春は暑い。
お日様サンサンの中でトングとゴミ袋を手に街の隅々を見て回る地獄の作業は汗をかかずにはいられなかった。
隣で大胆なポージングで空き缶を拾う星宮の頬からも汗が輝きを放ちながら滴り落ちる。
……なんつーかなんとなくごめんなさい。
生徒会の構成は校内でランキングが20人から選抜されるらしいことを入学当初に堀川から聞いた。生徒会など運営の役割を与えられているものはランキング上位の者と同じ扱いをされる。
だから星宮が最初に生徒会と名乗ったときには俺の嫌いなこの街の制度にどっぷりと浸かりきった奴かと勝手に嫌悪感を抱いたのだが。
星宮はなんとなくそういう奴らとは違うと思った。根拠を聞かれてもそれらしい返答は用意できそうにないけど。
「ふーう、結構集まったわ。」
汗をタオルで拭きながら満足気に星宮はいう。ゴミ袋は空き缶やビニールゴミでいっぱいになっている。
「じゃあ今日は終わりということで。」
「待ちなさい。どこに行く気?」
うわお、ものすごいデジャヴ感。
「ゴミ袋いっぱいになったし、そろそろ暗くなるし、今日はこれにて解散ということでよくない?」
すると星宮は目配せで何かを伝えようとしてくる。
「なんだよ?」
「静かに。あそこ見て。」
言われて目を向けるといかにもやばそうな雰囲気を醸し出している大人の集団がいた。今朝俺に絡んできたような粋がった学生ではなく、ホンモノだ。
「さすがにあれは高校生の生徒会が相手するような奴らじゃないんじゃないか?」
「何言ってんの。目の前に悪があって見過ごすなんて生徒会の恥さらしだわ。怖いならあなたは帰ってもいいから!」
そういうと星宮は走り出した。
「あ、おい! ……ったく。」
さすがに女子高生に1人であんなところに首を突っ込ませるわけにはいかないだろうが。
気分は乗らないが仕方なく俺もついて行くのだった。
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「だからぁ、金がないなら体でいいって言ってんだよ!」
声がして星宮は物陰に身を隠して様子を伺う。
荒々しい声の主の男が振り上げた拳を勢いよく振り下ろすのを確かに目にした星宮は、暴行事件であることを確信した。
「あなたたちそこで何をしてーーー」
星宮は言葉を失った。男たちが囲んでいたのは裸にされた女子高生。
顔や体にいくつもの傷を負っているその状態は刺激が強すぎて、星宮は恐怖を覚えてしまった。
「なんだぁ? おまえ。」
こんなの常人のやることじゃない! そこらへんのチンピラとかとは格が違う。これが、ホンモノの……!!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いーーー。 次は、私が…………!!!
「あんたらが誰かもその子が誰かも知らねえけどさ、こちとら罰則の奉仕活動中でね。見過ごすわけには行かねえんだ。」
ぽんと肩に置かれた青崎の手は服越しでも伝わるほどに温かくて大きかった。