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青崎真司郎と上層部

最初に目覚めたとき俺は物凄い違和感に襲われた。


何故だかわからないけど目覚めた世界が自分の生きてきたそれと違うと一目見て感じたのだ。 だが、自分の過去を思い出すことができず、ただただ違和感まみれの世界に埋もれた。


記憶喪失といえば自分自身のことすらも全て忘れてしまうと言うイメージがあったが、俺は違った。知識知能に問題なく自分の名もしっかり覚えていた。

感覚的に言えばある事柄についての記憶のみが消えてしまった感覚。それは言いようのない恐怖だった。


病院にいる間に少しだけこの世界のことを知った。力に縛られた世界、戦いを強要された世界。俺の印象はそんな感じで知れば知るほどこの世界を拒絶した。


戦わなければいけない意味がわからなかった。理由がわからなかった。


街は発展していて一見人々は自由にのびのびと生きているように見える。


だから俺は考えた。


「戦いを強要する制度が消えてなくなればこの街は平和の溢れた理想郷になる、と。」

「それっておまえ……」


黙って聞いていた白松が驚愕の表情で重たそうに口を開く。今のところまでで俺が何をしようとしているのかが伝わったのだろう。


「俺は実験だかなんだかでこの街を取り仕切っている連中をぶっ潰すつもりだ。」


俺ははっきりとした口調で反逆の意思を示した。自分は犯罪者になると宣言したのだ。


「ーーーハッ。ハハハハハ! いいなそれ。そんな面白そうなこと1人でやろうとしてんじゃねえよ。」


「白松?」


「そんなすげえことを1人でやられちまったら完全に俺の負けだろうが。だから俺も混ぜろ。」


「はっ? いや、でもおまえ……」


「それに良く考えてみたら俺も大嫌いだわ。この街の制度ってやつ。」


白松は恨めしいといった表情で自身の手を見つめる。確かに白松はこの街の制度の犠牲者の一例であるかもしれない。白松はこれまでの人生を強さだけに縛られて生きてきたのだから。


「わかった。さすがに1人は無理あるしな。」


「よしきた、なら早速だが今VIP席にいって上層部に接触しようとするのはやめた方がいい。」


「その心は?」


「連中には必ず10位以上の上位ランカーが2人護衛についている。接触はもっと緻密な計画を立ててから試みる方がいい。下手したらあっさり消される可能性もあるからな。」


「……なるほど。俺が焦ってたのもあるけどおまえそういうところ頭いいんだな。」


「まあ龍王天理界もいってみれば常に街を敵に回してるようなもんだからな。」


すると突然歓声がマックスになってアナウンスが入る。


『試合終了~!! 対決を制したのはランキング5位常坂!!!』


「んああああ!! 青崎ぃ!おまえが余計なことしたせいで1番大事なとこ見逃したじゃねえか!!」


胸ぐらを掴みながら発狂する白松に俺は気が抜ける。


「わ、悪りい。」

「何笑ってんだコラァ!」


そのとき、ガチャという音が2人を一気に緊迫させた。観客席より上に上がるための階段、つまりVIP席へと繋がる通路の扉が開いたのだ。

そして偉そうな装いをした1人の男とそれに付き添う2人の男が現れる。恐らく否、確実にこいつが上層部の人間であると俺は感じた。そして一瞬、目があう。


ーーー目があうだけで感覚的に負けを意識させられる、なんて威圧!! 目的の人間が真横を通り過ぎるってのに、体が萎縮してしまっていうことを聞かない! 1ミリも動かない……!


「そこの餓鬼ども。一応忠告しとくがそこから先は関係者以外立ち入り禁止だ。君たち部外者が入るべき世界ではない。」


爆発するような歓声の中でもその小さく低い声はハッキリと耳元に届いた。そしてそれ以上何をいうこともすることもなく、下へと続く階段の暗闇へと消えていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「でさ! その黒い玉がぐんぐん大きくなっていって! 最後にはトルネードを吸い込んじまったのよ! って聞いてる?」


ハイテンションで堀川が俺たちが見逃した最後の部分のことを語る。


「ん? ああ。」


しかし今は全くその話が頭に入ってこない。横を過ぎ去るあの男が脳裏に焼き付いて離れない。近くでも遠く感じるあの男の存在が頭から離れない。


「青崎くん……?」

「青崎おまえ明らかにトイレから帰ってきてから様子がおかしいぞ。何かあったのか?」


末高が俺に問いかけてくる。


「いや。何にもないさ、ただちょっと人混みに疲れてな。」

「確かに人混みは疲れるよな!てかもしかして青崎人混み初めてか?」

「そうだな、あそこまでの人混みは記憶にないかも。」

「そっかそっか、そりゃ疲れるわなー!」


……なんというか、いつもは鬱陶しい堀川のうるささが今は救いだな。


「じゃ、俺こっちだから。」


曲がり角で末高が言った。


「またな、末高!」


堀川がテンションハイなままで挨拶をする。


「おう。星宮さんと青崎、あと白松さんも。」

「さようなら。」

「またな。」


白松は返事をせず顔を背ける。そして末高が背を向けると少し先まで進み、3本の分かれ道に出ると白松も口を開く。


「俺もここで別れる。」

「ああ。」


お互いたぶん同じことを考えている。とりあえずアイコンタクトで諸々の事について意思疎通をすると、白松は右に曲がっていった。


「堀川はそっちだろ? またな。」


俺が左の道を指して言うと、堀川は言いづらそうに口を開く。


「青崎、ちょっといいか?」


また星宮になんか頼んで欲しいみたいなことか? そう思ったが堀川の顔はいつになく真剣であったため星宮に一言断りをいれて堀川に近づく。

すると堀川は顔を近づけ絶対に星宮に聞こえないように配慮したような小さな声で話題を振る。


「おまえトイレなんて嘘ついてあんなとこで何やってたんだ?」


一瞬、心臓が「ドキっ!」といった気がした。


「……なんで感知使った?」

「おまえの顔が深刻そうだと思ったからだ。嫌だったなら謝る。」


堀川なりに色々考えてくれた結果というわけか。それにしても白松だけでなく堀川にまで見抜かれるとは俺はどこまで詰めが甘いのか。 いや、2人だけじゃなく星宮も末高も問い詰めてこないだけで違和感を覚えてる。

情けない話だ。


「ちょっと見覚えがある人な気がしてな。記憶を取り戻すきっかけになるかと思って。」


今度は最大限警戒して今思いつく最高の嘘で堀川を騙す。

さすがに心配してくれている友達を騙すのは心が痛むがこれ以上誰かを巻き込むわけにはいかない。


「……なるほど! だから焦ってたのか! なんだよそのくらい言ってくれたらよかったのに!」


「……悪いな、取り乱してた。」


「あー、スッキリした! んじゃ俺帰るわ! あ、星宮さんに手出して抜け駆けしたら許さねえからな?」


「しねーよ。」


堀川に笑顔で別れを告げると星宮が不満そうな顔をする。


「男同士秘密のお話なんてはしたないわ。」

「そんな話じゃねえよ。」

「そう。別に興味ないけど。」

「帰ろうか。」


星宮はそれ以上何も問おうとはしなかった。

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