青崎真司郎と上位ランカー戦
『試合開始です!!』
合図とともに通山が一直線に殴りかかる。その様子を見て、薄ら笑いを浮かべていた常坂が目を見開く。
その瞬間、通山の姿が消える。
いや正確にはスピードが加速して一瞬のうちに常坂の後ろへ回り込んだのだ。しかし常坂からすれば消えたような感覚を覚えるだろう。そのまま常坂は反応することなく背中にパンチを1発もらう。
『さあ先制攻撃に成功したのは通山だ!! 相変わらずの超スピードに常坂も反応できません!』
さらにそのまま通山は正面、背後、上を使い分けて絶え間ない攻撃を繰り広げる。
「なるほど。風を纏ってるのか。能力名とは裏腹に緻密な能力の使い方するな。」
「あのスピード体感したらどんな何だろうなあ。1度闘ってみたいぜ。」
通山についての分析を始める俺と白松に堀川と末高は絶句する。
「知らぬ間に青崎が脳筋になっとる……!」
「星宮さん美しいあなたがこんな奴らと関わるのは悪影響だ。どうかな? 今度俺とカフェにでも行かないか?」
「……静かにしてもらえるかしら。集中してみたいの。」
星宮は見向きもせずに末高をあしらう。イケメン趣味ナンパの末高からしたらそれがショックだったのか石像のように固まってしまう。女王様半端ねえ。
『おっと! ここで常坂に動きがありました。右手を掲げます、何をするつもりでしょうか?』
「ひらめいたあ~~~! 命名、ハエたたき。」
常坂が右手を振り下ろすと黒い靄のようなものが生まれ、それが手の形をして地面へ一直線に叩きつけられる。超スピード移動をしていた通山を黒靄はしっかりと捉える。
『出た!! 常坂の得体の知れない能力が炸裂!!会場中に振動が伝わりその威力を示しています。これは通山大ダメージか?』
「ありゃ~失敗。潰せると思ったのになあ~~。」
常坂が呑気な声をだすと同時に黒靄が上に弾き返され、右の握りこぶしを突き上げた通山が現れる。
「あまり俺の風を舐めない方がいい。痛い目見るぞ。」
刹那常坂の頬に擦り傷が走って血が垂れる。
常坂は一瞬目を丸くしてまた笑う。
「おもしろ~~い。何をした?」
「知らなかったか? 高速の鋭い風は牙になり得ることを。 カマイタチっつってな!!」
何度も何度も風が吹き荒れ、その度に常坂の傷が増えていく。速い上に風は目に見えないためほぼ不可避の技。
『止まない攻撃! 常坂は打つ手なしか?』
「このままじゃ常坂はジリ貧だな。」
「そう見えるか?」
白松の言葉に俺は問いかける。
「どういう意味だ?」
「あれは要するに核を潰せば防げる技。常坂の得体の知れない能力はそのくらいやすやすとやってのけそうに思えるけどな。」
すると視線の先の常坂は奇声にも聞こえるような笑い声をあげる。
「ふ~~ひひはふぁ~~~~!! また思いついたあ!! 命名蚊潰し。」
常坂が合掌すると再び手の形をした黒靄が現れ、常坂と同じように勢いよく合掌をする。
「逃げた~~~。」
通山は風を纏い俊足で回避する。
「けど攻撃は止んだ。」
俺は言いながら息を呑んだ。常坂はこの好機にどんな攻撃を仕掛ける?
「そのビュンビュン動くのうざいな~~~。そろそろ良いよね?」
そう言って常坂はどこかに視線を向ける。
誰かに確認してる? どこを見てるんだ? 観客席……じゃない。その上か? まさか、VIP席!
上位ランカーがVIP席を気にするとしたら客じゃなく運営側。つまりここにいるんだ……!! この街の上層部が!!
「まさかこんなにも早く会えるなんてな。俺の企みは意外と早く達成できるかもしれない。」
「青崎君? 何を独り言呟いてるの?」
「悪い星宮、俺ちょっとトイレ行くわ。」
そう言って俺が席を外すのとほぼ同時に実況がまた盛り立てる。
『出た!! 常坂のブラックホールが本領発揮です! 繰り出されたどす黒く大きな黒靄の球体は凄まじい引力を誇り幾多の戦士たちを打ちのめしてきた。 さあ通山はどう対応するのでしょうか?』
「僕のブラックホールは~~~~残念だけど君には攻略できないよ~~。」




