青崎真司郎と殺気
長い。長すぎる。会場に入るまでに4時間弱かかったぞ。そしてやっと会場に入れて席を探していたら……
「見つけたぞ青崎真司郎! おまえ毎日毎日怪しいと思っていたがとうとう証拠を掴んだぞ。やはり星宮さんと一緒ではないか! 許すまじ!!」
「星宮さんこんにちは。偶然で君に会えるだなんて僕たちはなんて運がいいのだろう。
長時間の行列でお疲れなら飲み物でも買ってこようか?」
「は、はあ……。」
俺たちは堀川と末高に遭遇していた。こいつら星宮を前にしていつも以上にテンション高い。
「おいコラ涼夜! 何1人でナンパおっ始めてんだよ! 俺だって星宮さんと話してえええ!!」
発狂する堀川を他所に星宮がひそひそと尋ねてくる。
「この……元気な子たちは誰かしら?」
「変な気遣いはしてやるな、NHKの教育番組みたいな呼び方になってるぞ。 このバカ共は俺のクラスメイトの堀川 拓海と末高 涼夜だ。」
顔を引きつっている星宮に2人を紹介してやる。ドン引きしてるじゃねえか。
と思ったら今度は堀川と末高がひそひそとと話しかけてくる。
「おい誰だよあの目つきのやばい奴。威圧感が半端ないんだけど!」
「おまえ最近付き合い悪いと思ったらそういうことか。そっちに走ったのか。やめとけ、高校生の遊びはケンカじゃない。女だ。」
「……安心しろ。おまえらよりよっぽど健全な奴だ。」
呆れるように俺が言うと白松と目が合う。白松はどこかピンときたような顔をすると笑顔を浮かべる。
「おお! おまえら青崎の友達か! てことはあれか? 強いのか?」
白松が関節をポキポキ鳴らしながら尋ねるので堀川と末高は完全に青ざめてしまっている。
「おい、どこが健全なんだよ。返り血とかめっちゃ似合いそうだぞ。」
「少なくとも普通のやつが初対面のやつに見せる威圧感ではないのは確かだ。」
「そりゃそうだ。あいつこの前まで龍王天理界とかいうヤンキー軍団の一員だったからな。」
俺は2人が怖がるのを面白がってさらに怖がる情報を加えてやる。
すると末高は尋常じゃないくらい手を震わせながら髪を無限に整えだし、堀川にいたっては泡吹きそうな顔をしている。
さすがにビビりすぎだろおまえら。
「意地悪なことするわね。」
様子を見ていた星宮が呆れたように言う。
「白松。こいつらはケンカはてんで弱いけど面白いやつらだから仲良くしてやってくれ。」
「なんだ弱いのか。つまんねえな。」
白松のため息と堀川末高の安堵の息が同時に聞こえてきた。
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『レディース&ジェントルマン、ボーイズ&ガールズ!! お待たせいたしました皆さん!
いよいよ上位ランカー戦の始まりです! 実況は私、ランキング20位 秋葉原 美恵子がお送り致します!』
秋葉原のアナウンスが会場内に流れると歓声が大きく上がり熱気が増す。
幅広い年齢層の声が耳に響いて少しうんざりしていると横でアホの堀川と元ヤンの白松が騒いでいた。すっかり仲良しかよ。
「上位ランカーには女もいるんだな。」
何気なく俺が問うと横にいる星宮が冷たい笑顔で答える。
「あら青崎君。女を舐めると痛い目見るわよ。」
……癇に障ったみたいだ。気をつけよう。
「しかも20位の秋葉原ちゃんはなかなかの上玉だぞ?」
「おまえはそこにしか興味持てないのか。」
「声やキャラとは別に体は21歳らしい大人の色気が増してきてるんだ。」
「しかも年上かよ。」
上位ランカーをグラビアアイドルのように品定めする末高に呆れ果てていると再びアナウンスが入る。
『さあそれでは本日会場を沸かせてくれる選手の紹介並びに登場です! まずはランキング12位 通山綱吉!!』
コールと共にスモークが焚かれ、その中から1人の男が姿を現わす。身長は170前後と平均的で年齢は恐らく20代前半。自信に満ち溢れた目には確かな殺気と迫力を感じられる。
男が慣れた様子で観客の歓声に答えるように両手を突き上げる。
『能力はハリケーンという名称で恐れられ、風を操る力での豪快な力押しを得意とし、わずか12歳で上位ランカー入りは歴代最年少記録として現在も保持されているまさに戦闘の天才。
そんな彼も今や24歳、上位ランカーとして12年目の今年彼はどのような戦いぶりを見せてくれるのでしょうか!』
アナウンスが盛り上がりを掻き立てたところで反対方向にもスモークが焚かれる。
『続いてはこの男! ランキング5位 常坂雄馬!!』
コールと共に現れた男は異様なオーラを放つ。
薄ら笑いを浮かべているが観客の歓声に答えることは一切せず、猫背に長めの髪と姿だけで言えばランキングが5位に上り詰めるほど強そうには思えない。
だが俺は上位ランカーの恐ろしさを常坂に覚えた。
「やばい、あいつの殺気マジでやばいよ。こんなの初めて見た。」
「殺気を見るって?」
「堀川は人のオーラや気配を感知する能力者なんだ。」
星宮が不思議そうに尋ねるので軽く説明を入れる。
「にしてもこの距離でこんな殺気を感じさせるなんて化け物かよ。あいつこの人数の前で人1人殺す気か?」
「それはない。ランキング戦は殺すことだけは出来ないようになっているんだ。」
俺の疑問に末高が答える。こいつの真面目なトーン今日初かもしれない。
『能力はブラックホールの名で呼ばれ、その得体の知れない能力の前に立ちはだかることすらも出来ずに敗北するものが多数。
不気味な笑顔の裏に隠された闇の力で天才通山相手にどんな戦いを見せてくれるのか!』
アナウンスを他所に常坂は通山へと近づく。
そして手を差しだすと握手を交わす。
「常坂君。勝負受けてくれてありがとう!いい試合にしよう。」
「よろぴ~。」
爽やかな笑顔で挨拶をする通山に常坂は不気味な挨拶で返す。それが会場にマイク越しに響き渡ると歓声がピークを迎えた。
その瞬間すっと通山が顔を近づけ、マイクに通らないように低い声で告げる。
「ーーーテメェは俺が潰してやるよ。」
「いいね~それたのしそ~~~す。」
観客のほとんどには分からないだろうが恐らく何人かはその会話の内容まで把握しただろう。
「裏表のある人って怖いわね。」
星宮が俺にだけ聞こえるように言ってくる。
「さすが。口の動き読めたのか。」
「これでも選ばれし生徒会ですから。」
少し嬉しそうに星宮が言った。
『さあでは、皆さんご一緒に試合開始の5カウントしてください! 行きますよ! 5! 4! 3!』
カウントが始まると通山は距離を取って構える。常坂の様子は変わらない。
『2! 1! 試合開始です!!』
こうして熱狂に包まれた会場で上位ランカー戦が幕を開けた。




