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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
95/165

【 小国の中の軍師、最凶を知らず 】




転移で玉座の間に入る事は出来ない為、城の前まで転移をし、そこからは強化魔法で身体能力を上げて 小柄とはいえ重量のあるアックスを担いだまま全速力で王の元へと走った。


バンッーー


「おお、ガイか。兵から話は聞いた。アックスは…やはり助からなかったのか」


ガイに担がれたアックスの状態を見たモーリス王は、アックスがすでに事切れていると思い 沈痛な面持ちでそう言ったが、時間に余裕のないガイは説明を省き、用件だけを伝えた。


「モーリス王!大変申し訳ありませんが時間がありません。瀕死の重体であっても治す事が出来る治癒術師をご存知ありませんでしょうか!」



ガイの切羽詰まった進言を聞いたモーリス王は、自分の知る治癒術師を必死に頭の中で検索をすると、思い付いたように顔を上げた。


「セントクルス王国へ行けば優秀な治癒術師が何名もおるが、受け入れまでに多少時間が掛かるはず。ならば、あまり面識はないが学園島に頼む方が助かる確率は高いであろう。しばし待っていてくれ、すぐに連絡をつけ 頼んでみよう」


「お願いします。アックス少佐を、ここで死なすわけにはいきません」



・・・・・・・


・・・・


・・



深く頷きモーリス王が貧弱な足で走って出て行ってから5分。


死へのカウントダウンが再開されるまで後20分。


焦る気持ちがどんどん強くなっているのを感じていると、モーリス王が息を切らしながら戻ってきた。

出て行く時は1人だったモーリス王の後ろには転移兵が1名付いて来ており、モーリス王と一緒に玉座の間へと入ってきた。


「ぜぇ、はぁ、学園島が受け入れを承諾してくれた。今すぐ学園島に向かってくれ。アルバティル学園に行けばサラ様が病院まで連れて行って下さる。ーーーアックスを頼んだぞ」


「感謝します、モーリス王。必ずや間に合わせます。転移兵!すぐに学園島へ!」



ガイは学園島へ赴くのは初めてであった為、モーリスが連れて来た転移兵の転移で学園島へと飛んだ。




ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー



「ここが、世界最高峰のMSS教育機関アルバティル学園か…」



タクト達の通うアルバティル学園の正門前に転移して来たガイは広大で巨大な学園に気圧されてしまっていたが、すぐに我に返り目的の人物の居そうな建物を探す為に全体を見回したが…


「広いとは聞いていたが、広すぎるっ!どの建物に入ればいいのだ!?ーーくそっ、誰かいないのかっ?早くサラ様を探さなければ間に合わなくなってしまうっ」


正門をくぐってからは学園全体を包む結界によって雨の猛威は遮られており視界は良好だが、夏休みであり 更にはこんな大雨の日に外に出ている人物は見当たらず二の足を踏まされてしまった。


悪天候でなければ正門には警備員が常に配備されているのだが、大雨の為 ソガラムの計らいで警備員が不在であったのは不運としか言いようがなく、一緒に来ていた転移兵も学園の中にまでは入った事がない為、焦るガイに助言する事が出来なかった。


ーーーびくっ


「あらあらあらあら、とても気持ち良さそうなお怪我をされていらっしゃいますね。ふふふ、あぁ私もその痛みを感じたいのですが、あぁでもその痛みはその方のモノですから奪ってしまうのは申し訳がないですね。我慢…我慢…我慢…ふふふ我慢すれば我慢しただけ次の痛みがより快楽を与えてくれる…ふふふフフフふふふ・・・」


「ーーっ!?」


ガイは戦慄した。


焦っていた自覚はあった、いつもより視野が狭くなっていると言われれば否定は出来ない…だが、知らない土地で油断などは決してしていなかった。


一瞬。ほんの一瞬の出来事だったのだ。


サラが居そうな建物を探す為に、左の建物を見て 右の建物へ視線を移した途端、目の前に全身真っ白な女が立っていた。


禍々しい程の魔力を内に秘めた白い女性は、アックスを見ながら不気味に笑い、ブツブツと何かを呟いていた…


「ーーーーー」


本来のガイであれば即座に撤退していたであろう異常事態であったが、アックスを救いたいという強い気持ちが足を踏みとどまらせていた。


そしてガイはこの異常事態を好機と判断し、不気味な白い女に声を掛けたーーー


「突然お邪魔して申し訳ありません。私はディミド国軍のガイ・ナッシュソウグと申します。サラ様に火急の用があるのですが、どこにおられーーー」


「ギャハハハハ!なんだこいつ!この前のマゾエルみてぇになってんじゃねぇーか!チビデブドーナツオヤジとかギャグにもなってねぇよ!まずそうで殴ってやる気にもなんねぇーな!ギャハハハハ」


「ーーっ!?」



再度 言おう。


ガイは決して油断などしていなかった。

不気味な白い女が突然現れた後からは更に警戒を強めていた。

だが、またしても意識の隙間から入り込むように真っ赤で品の無い女が現れた。


女はガイが必死に救おうとしているアックスを見ると下品に笑い、人々を守る為に絶望ともえいる戦いに身を投げ出して今にもその勇敢な命の炎が消えてしまいそうな男に対して侮辱の限りの暴言を吐いた。


「だ、ダメだよサディちゃん。そんな事を言っては失礼ですよ。それに、この怪我をされてる方はどうやら人ではなく魔獣にやられたみたいだから私とは違うよ。オーガ・・大きさからしてオールドオーガにやられたのでしょう……羨ましいですね。オーガなんかの攻撃で痛みを得る事が出来るなんて。私もそれくらい脆くなれればーーーーーあぁ、お連れの方 申し訳ありません。私としたことが心無い事を言ってしまって。いえいえわかっています。謝罪では許されませんよね?わかっていますわかっています。もちろんふふふ覚悟はしております。さぁどうぞ、怒りの感情の赴くままに私を痛めつけて下さい。さぁ、さぁ、さぁ」



なんなんだコイツ等は・・


今すぐにでもその華奢な体に魔法をぶち込んでアックスよりも酷い状態にしてやりたい……



だが、私にはやるべき事があり、時間がない。


今はサラ様を探してアックスを救うのが最優先事項だ。


・・・いつか必ず殺してやーー


「おいコラひねくれメガネ。てめぇ今あたい達に殺気ぶつけやがったな。ザコでもあんま調子に乗ってっと、引き千切んぞ」


「ーーーっッ」


ガクガクガクッッーーー


(な、なんだ…一体何だと言うのだコイツは!わ、私が震えて動けなくなる…だと?)


死地へは何度も足を運んだ事がある。

戦争も経験している。魔獣との戦いでは軍師の立場でありながら重傷を負わされた事もあり、恐怖への耐性は一般人とでは比較にならないのは間違いないはずの私が…恐怖で動けなくなったとでもいうのか!?



世界一の剣豪レスカーとも何度か会っているし、リードイスト王とも面識があるガイは自分が特別に優れた存在だとは思っていなかった。


格の違いは確かに存在する、埋められない差は確実にあると知っていたからだ。



しかし、次元の違いを感じた人間に出会ったのは生まれて初めての経験であった。


まるで大型の魔獣の口の中に放り込まれたような恐怖と絶望……喰らう者と喰らわれる者の立場を認識させられるような、自分がひどく脆弱な存在なのだと自覚させられるような経験は今まで味わった事がなく、瞬きも呼吸も忘れて硬直してしまった。



「ーーーーー」


「やめなさいサディスさん。ーーーうちの生徒達が大変失礼を働いてしまったようですね。申し訳ありませんでした」


赤い悪魔に噛み殺されるのをただ待たされていたガイの耳に新たな声が聞こえ、声の主人はガイの背後、正門の方から歩いてきた。



「い、いえ。私の方こそ失礼な態度で不快にさせてしまったようで…申し訳ありませんでした」


サラの姿が見えた事により、なんとか硬直の呪縛から解放されたガイは深く頭を下げてサラと赤い悪魔と白の不気味な女に謝罪をした。


サラが頭を上げて下さいと言うのを待ってから頭を上げると、すでに赤と白の女達の姿はなかった。


「彼女達は一体・・いやそれよりも。お初にお目にかかりますサラ・ストイクト様。私、ディミド国でモーリスーーー」


「貴方の事は存じておりますので挨拶はまたの機会に。今はこちらの方を病院へ連れて行くのが最優先です。転移車を用意してありますのでこちらへ」



そう告げたサラは正門の方へとスタスタ歩いて行き、ガイはアックスを担いでその後ろを追った。


一緒に来ていた転移兵は、どうやら赤い悪魔の殺気にやられたようで泡を吹きながら気を失っていたので、その場に置いて行った。




ガイは指示されるままにアックスと共に後部座席に乗り、運転はサラに任せた。


今の時代の車は全て魔車という種類で、バスやタクシーそれに今乗せてもらっている外交用の車も全て魔車だ。


一般家庭では需要がなく、自家用車を持っているのは見栄っ張りの富豪くらいなもの。

転移や公共の乗り物が主な移動手段である為 操作や運転が出来ない人がほとんどだが、軍人の一部や国政に関わる人間は大体運転が出来る。



なにはともあれ、レスカーの設けたタイムリミットまで後5分。


油断は出来ないが、なんとか間に合いそうでよかった…


ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー



転タクと同じように一瞬の浮遊感を感じると、目的地である大きな病院の前に到着した。


サラの案内で病院内へと入って行くと、既に治療班がガイ達の到着を待ってくれていた。



「ロキソ先生、わざわざ大病院へ来て頂きありがとうございます。こちらが例の患者ですので、よろしくお願いします」


「いえいえ、この雨でみんな外出は控えてるみたいですからMSS病棟は暇で暇で。まぁいい事なんですけど、実はちょっと寂しかったんですよ。怪我や病気って治るとすぐに辛さを忘れてしまうでしょ?それと同じで怪我でもしてくれないとみんな僕の事も忘れちゃうじゃないかってね…あはは、三十路の医者がそんな事言ったらダメですよねぇ」



ガイ達の到着を待ってくれていた医師達のリーダーらしき人物は大怪我で瀕死のアックスを目の前にしているにも関わらず、のほほんとした口調でサラと日常会話を楽しむように談笑し始めた。



一刻を争う事態に全力疾走し、赤と白の女達に心を砕かれ、身も心も疲労困憊だったガイであったが、まさかやっとの思いで辿り着いた病院でまで心労が増えるとは思ってもいなかった。


疲れと焦りは徐々に怒りへと変わっていったが、大きく深呼吸を一つして今にも噴火してしまいそうな焦燥感をなんとか抑え込んだ。



「ちゃんと助けて…頂けるのでしょうか?医療の知識が無い私が言うのも失礼だとは思いますが、私はアックス少佐を助けて欲しい一心でここまでやって来たのです。それを…患者を見ようともせず……これでもしもアックス少佐がーー」


小刻みに震えながら訴えかけるガイ。

怒鳴り散らさなかったのは元々の性格もあるだろうが、なにより自分の力ではアックスを助けられない事は確実であり、今アックスを助けられる可能性があるのは 目の前で緩い態度を取るロキソという医者だけだからだ。



「おっとこれは失礼。大丈夫ですよ、ちゃんと見ましたから。ただこの固定された物が外れるまでは何も出来ないのでもう少しお待ち下さい。それと、無くした臓器を再生してもすぐには退院出来ませんのでご了承下さい」


「アックス少佐は、助かる…のですね?」


「はい、絶対に治ります。良くここまで命がある状態で連れて来てくれました。貴方もだいぶお疲れの様ですね、奥で少し休んで行って下さい。貴方が目を覚ます頃には、こちらの男性の治療も終わっているはずです」



「そう、ですか…。では、すみません、が……よろしく、おねが………」



そこまで言うと、ガイは極度の緊張から開放された事も相俟って力尽きるように倒れ、深い眠りに落ちて行った。




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