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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
90/165

【 襲撃と討伐 】


ーーー数日前


セントクルス大陸南部にあるディミドという小さな国のヌエンという小さな村が魔獣の襲撃を受けていた。


ヌエン村は人口がとても少ない。


その為 村人全員が知り合いであり、いつも助け合っている大家族のように平和な村であった。


悪さをする子供のイタズラも、畑の野菜を盗んで隣人のおじいちゃんにあげるという微笑ましいもので、争いなどとは無縁の生活を送っている村だった。



しかし、今回は争いとは無縁のその平和が裏目に出てしまった。


武器も闘争心も持たない村人が集まるヌエン村に、武器と闘争心があっても勝ち目のない魔獣が大雨に紛れて侵入してしまったのだ。



村は外壁に囲まれてはいるが所々に穴があり、門以外の出入り口になってしまっている。


普段は村の外に出る時にわざわざ門を通らなくても良いのでそのままにしてあったのだが、どうやらそこから魔獣が入ってきてしまったようだ。


村の中央にある見張り台も、戦争があった時には人が立ち 外敵が来たら鐘を鳴らして危険を伝える役割であったが、戦争がなくなってからは村人の結婚式の時に祝福の鐘を鳴らすだけになってしまっていたのも、危険が迫っている事をすぐに気付けなかった理由の一つかもしれない。





ザァーーーー・・・・



グギギッ グギャギャギャーーー

人間を捕まえて走り回る猿のような魔獣は、頭部の潰れた人間の足を掴むと タオルの様にブンブン振り回し、壁や木に叩きつけては赤い色を撒き散らしていき

〝きゃあぁぁ!助けてっ!誰かぁ!〟

メキッ、ゴリッ、ブチッーー



牙と爪が成長し過ぎた狼のような魔獣は、素早い動きと見事な連携で 逃げようとする人間を囲み、岩をも引き裂く鋭い爪で人間の四肢を切り落として動けなくしてから、獲物がすぐに死なないように下半身から徐々に噛みちぎっていった。

〝ど、どうして魔獣がこんな所にっ。やはり昨日の不吉な雨はうわぁぁっ〟

ガルルルルルッーーーグシャ


そしてゴブリンのような魔獣は、小さな体に似合わない怪力で 体よりも大きな棍棒を振り回し 家や人間を叩き壊していく。

〝子供達を早く家の中へ!男達はなんとか魔獣を村の外へ追い出すんだぁ!〟



ザァーーーー・・・



雨音に混じるのは悲鳴と怒号と人がただの物へと変えられる無惨で不快な音。


魔法を使って応戦する者や料理包丁や斧で立ち向かう者もいたが、魔獣には全く歯が立たず 次々と命が消されていった。


猿も狼もゴブリンも、人や家をただ破壊していく。


殺した人間を食すわけでもなく、何かを持ち去るわけでもなく、破壊のみが目的であるかのように…





蹂躙を受けているこのヌエン村には元々300人の村人が住んでいたが、たった10匹の魔獣により30分も経たずに200人にまで減ってしまっていた。



しかし100人の犠牲により多少の時間稼ぎが出来た村人達は、身を隠しつつディミド小国の軍に連絡を入れる事が出来た。



ーーーーー


ーーー




魔獣の襲撃が起きていると報告を受けたディミド小国の軍は部隊を編成し、すぐにヌエン村へ進攻を開始した。



隊長を務めるのはアックス少佐と呼ばれる40代の屈強な男で、元々はセントクルス王国の軍に所属しており様々な戦争でその力を振るっていたがリードイストが王になってからディミド小国に栄転された男である。


アックスは昔 魔獣3匹を1人で討伐した事もあり、己の腕には相当な自信を持っていたが今回は10匹もの魔獣が出たと聞き、80人の部隊を組み魔獣討伐と村人の保護に向かったのである。


ーーーーー



それぞれの国に必ず配属されている転移が得意な兵士によりヌエン村の近くまで転移してから、アックス達は大きな音を鳴らしながらヌエン村へと近づいて行った。


ザッザッザッザッザッザッザッ


ファーパパパーン パッパッパーン


ザッザッザッザッザッザッザッ


ドンッドンッドドドン


ファンファーレのように楽器を鳴らしながら規則正しく行進をする鎧を身に纏った80人の兵士達。


わざわざ爆音を響かせるのは、村人達に援軍が来たと伝える事と魔獣の気を村人からこちらへと向けさせる為である。


80人の先頭を歩くアックスの足取りは軽く、どこか高揚とした表情を浮かべていた。



「どうしたんですか、アックス少佐。なんかやたら嬉しそうじゃないですか。その顔は不謹慎を通り越して不気味ですよ」


アックスの隣を歩く鎧を着ていない背の高い男が、溜息混じりにアックスの顔へのクレームを言った。


隊長であるアックスへの不敬な発言にもアックスは気を悪くした様子はなく、普段から2人の関係が良好なものである事がわかる。



「久方振りの戦闘だからな。血が騒ぐのは仕方ないだろう?こんなど田舎に飛ばされた時は本気でテロでも起こしてやろうかと思ったけど、まさかまた実戦で斧が振れるとはなっ」



「何言ってるんですか。ディミドに来た時はアックス少佐めちゃくちゃ喜んでたじゃないですか。『俺を栄転とはあの若い王様 俺の実力をよくわかってるじゃないか!』って言ってたの覚えてます?」



事実アックスは栄転でディミド小国へとやってきた。


本人も当初は1階級昇進された事に浮かれていたが、あまりにも平和な日が続き 勤務中に昼寝をするのが当たり前になった辺りから 実は栄転ではなくて左遷されたのではないかと思うようになっていたのだ。



「覚えてないな。それにしても王様が俺をディミドに配属させたのは、まさかこういう事が起こるって予想してた…なんて事はさすがにないよな?」


「どうでしょうね…さすがに魔物が出るのを予想するのは無理だと思いますけど、あの王様は化け物ですからね。もしかしたら何かしらの予想はしてたのかもしれませんね。でももし魔獣が出るってわかってたなら、アックス少佐じゃなくてジャスティン様とかを派遣してくれたらよかったんですけどね」


「おいガイこのやろう。そりゃどういう意味だ?俺はあのレスカーウッドベルに剣術指南を受けた事もあるんだぞ!魔獣なんか俺がいくらでも斬り伏せてやるわっ」


「はいはい、その話は何回も聞いてますよ。おっと、そろそろ着きますね。では私は陣形の指示をしてきますから、アックス少佐はこのまま村の入り口まで進んで下さい。絶対勝手に中に入らないで下さいよ」


ガイと呼ばれる男の分かり易い揶揄いに、アックスは顔を真っ赤にしながら自分の強さをアピールしたが、40代半ばのアックスより少し若い30代後半のガイはアックスの扱いにだいぶ手馴れているようで、さらっとその場を後にした。


ガイは痩せ型で身長が高く、小柄で体格の良いアックスとは正反対といえるだろう。


顔つきも 太くて多い髭を生やしたドワーフのようなアックスとは違い、戦闘には向かなさそうな眼鏡に色白の肌といった真逆っぷりだ。


ガイはアックスがディミド小国にやってきた時からの付き合いで、戦闘には直接参加せず 部隊の軍師と補助を任されている。




「総員止まれぇ!楽器はここに置いておけ!ガイの指示ですぐに戦闘を開始するぞ!」


ザッザッザザッーー


ガイがアックスの元を離れて少しすると アックスは村の入り口に辿り着き、ガイの指示通り村へは入らずに待機した。


アックスの大きな声の指示に従い、兵達は楽器を地面に置きその場で各々の武器を持ち、魔力を練り始める。


「準備は整いました。私がまずは進路を確認します。報告によると猿鬼3匹 ゴブリン2匹 牙狼5匹と聞いていますが、他にもいるかもしれませんので注意してください」


各員の準備が万全だと判断したガイがアックスの元に戻り、外壁で中途半端に守られた村の門を少しだけ開けて中の様子を1秒だけ覗いた。


「ーーーー」


中の様子を見たガイは、雨でも流しきれないほどの鮮血と異臭に一瞬だけ顔をしかめたが、状況は的確に把握した。


「左に牙狼が固まっています。群れでいる限り私達に勝ち目は少ないので、まずは分散させましょう。幸いと言っては失礼になりますが、殺された村人を解体するのに夢中になっているので遠距離からビリルを浴びせれば一瞬だけ動きを封じる事が出来ると思います。その隙に1匹に対して3人ずつで攻撃を加えながら5匹を引き剥がして下さい」


単体の危険度でいえば1番厄介なのはゴブリンで次に猿鬼そして1番弱いのが牙狼なのだが、連携を得意とする牙狼は2匹いるだけで強さが数倍に跳ね上がる。


「よし、牙狼討伐部隊は前に出ろ!お前達の初撃を合図に全員で突入するぞっ」


「では、皆さんお願いします!」


ーービリルツアートーー

ーービリルツアートーー

ーービリルツアートーー



ガイの合図で牙狼討伐部隊が村へ入り、既に詠唱を済ませておいた魔法を一斉に放出した。



報告を受けた時点でどの魔獣がいるかは知っていたので、その魔獣に相性の良い兵士を選出していたのが功を成し、初撃はガイの狙い通り雷の攻撃魔法ビリルの上位魔法であるビリルツアートの集中砲火により牙狼の動きを封じる事が出来た。



「初撃は狙い通りでしたね。アックス少佐達は村の奥にいるゴブリン2匹に向かって真っ直ぐ走って下さい!あのゴブリンが今攻撃を加えている小屋に村人が大勢隠れているはずですから、ゴブリンの撃破が急務です!猿鬼担当の兵は右奥と中央へ!各個撃破に専念し、魔獣同士が近づいて連携を取られないように注意して下さい!討伐が終わり次第 他の討伐援護に向かい、怪我人や村人の救出は最後に回して下さい!」



「全員聞こえたなぁぁっ!行くぞぉぉぉっ!」


〝おおおおぉぉぉぉぉぉっっっ〟


〝魔獣を殺せぇぇぇぇぇっ〟





ビリルツアートを合図に駆け出した牙狼討伐部隊は予定通り1匹につき3人で囲み、他の牙狼と孤立させていく事に成功した。


攻撃役3人の後方に補助役が付き、回復と強化をしながら計5人で慎重に1匹の魔獣と向き合っていく。


牙狼は地属性である事が多く、雷属性に弱い。

その為、牙狼討伐部隊の兵士達は雷属性が得意な者達で組まれている。


しかし、個の力となると人と魔獣では圧倒的に差がある為、毎日訓練をしている兵士といえども簡単に勝てるわけではない。


5人1組のチームを10組作り、リーダーが指示を出しながら戦うのが今回の陣形で、残りの30人は魔獣が村の外に出ないように2人1組になり村の周りで待機し、討伐隊に怪我人が出た場合は即座に救出し交代するようになっている。



「爪と牙には気を付けろ!正面には立たずに背後からのみ攻撃を加える!牙狼のコアは首の付け根だが絶対に無理に攻めるなっ、少しづつ攻撃を当てて弱らせていけばいい!」


「了解!」


ガルルルルルッーーグサッ


グルルルルルッーーザクッ



作戦通り一太刀ずつ的確に牙狼の後ろ足を斬りつけ、剣に纏わせた雷の魔法でダメージを蓄積させていく。


ガルッーーグサッーーーグルッーーザクッ


グルルッーーザクッーーガルルッーーグサッ



「よしっ、大分弱ってきたな。補助兵!全員に強化魔法を掛けろ!トドメを刺すぞ!」


「了解!」



ーーグサッ ズバッ


ギャウゥゥッ・・・・グサッ



ヒットアンドアウェイを繰り返し、好機と判断したリーダーの合図で一斉に斬りかかり、牙狼が力尽きて倒れたのを確認した後、魔獣の心臓と言われているコアをリーダーが剣で貫き なんとか1匹目の牙狼討伐に成功した。



しかしまだ残りの魔獣がいる為 休む暇はない。


「よし、では援護に向かうぞ!」


リーダーの声掛けに残りの4人が返事をし、残りの魔獣討伐の援護に向かう。


魔獣の数が減れば兵士の戦力を固めて戦う事が出来るので、いち早く牙狼を討伐したこの部隊の活躍は大きかった。



ーーだが、どこの部隊でもそう上手くいくわけではないのが 命を懸けた戦いという物である。




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