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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 依頼は嵐と共に 】

「タクト・シャイナス君だね?少しいいかな?」


笑っているわけではないのに微笑んでいるように見えるほど柔らかい雰囲気を纏ったまま、生徒会長が目の前まで近づいてきた。


憧れの先輩なうえに今までろくに会話すらした事がないので、かなり緊張しながら返事をしてしまった。


「じゃあ私は先に噴水の所でセルス君と待ってるね。会長、お先に失礼します」


話の邪魔になると思ったのかイリアは俺に声を掛けた後、会長にお辞儀をして体育館を出て行った。


朝の事があったので少し心配にはなったが、今学園に残っているのはLV3と部活をしている生徒くらいだし、そこまで過保護になるとさすがに気持ち悪がられるかもと思い、そのまま見送った。


「すまないね、あまり時間は取らせないよ」


心配が顔に出てしまったいたのか、俺の顔を見て会長が謝罪をしてきてしまったので、これはまずいと思い頭を切り替える。


「いえ、大丈夫です。それより生徒会長が俺に話し掛けてくれるなんて驚きです。何か用事ですか?それともセルがなにか…?」


生徒会長から話し掛けられた理由が思い浮かばず、ついセルが何かやらかしたのではないかと考えてしまった。


同じクラスで親友のセルは生徒会の経理をしているので、俺と生徒会長の接点といえばMSSかセルしかないからだ。


「ははは、君はセルスと仲が良いんだったね、セルスから聞いているよ。でも大丈夫、彼はしっかりやってくれているよ。くだけすぎた雰囲気はあるが彼は優秀だからね。それと、僕の事は生徒会長なんて肩書きじゃなくクローツと呼んでくれ」


楽しそうに笑うクローツ先輩がセルの無罪を証言してくれたが、それなら尚更話し掛けられた理由が思い浮かばないので単刀直入に聞くことにした。


「そうですか、わかりました。それでクローツ先輩、セルが何かしたんじゃないなら俺に何の用事ですか?」


クローツ先輩は、おほんっと咳払いして笑いを消し本題に入る。


「今週末の遠征の事なんだが、君には王城の巡回を担当してもらいたんだ」


「王城ですか?俺はまだ高1ですけど、いいんですか?」


王城の巡回は毎回、高3と生徒会と教師が担当している場所で、経験の少ない1年の俺が行く事はまずありえない場所だ。


「実は今回、業族と言われている過激派の一部が王城を攻めると情報が入ってね。それをこの学園の生徒を中心としたメンバーで討伐する事になってしまってね」


「ごうぞく?聞いたことないですね。それに王城を狙ってるようなやばい奴らなら、軍や警察が防衛に回るのが普通ではないんですか?」


王城が狙われてるのに学生に任せるなんてどうかしている。

いくらLV3が多くても俺達はまだ未成年だ。

武装した大人の集団なんか相手にしたら命だって危ない。


「軍は先月から北と南の建設支援でほとんどセントクルスに残っていないんだよ。基本的に平和だからね、人材を警護よりも支援に回すのが今のセントクルス王の方針なんだ。今回はそこを狙われてしまったんだと思う。警察も中心街で行われるライブの警備などに当たる予定だ。それに襲撃の情報は一般の警察には伝えていないし、伝えない」


伝えない…か。


「相手にこちらが情報を掴んで待ち伏せしているという情報が漏れない為…ですか。という事は襲撃を阻止するのではなく待ち伏せして捕まえるって事ですか?」


万が一相手に加担するLV3がいた場合、一般の警察官に情報がいくと全て漏れてしまう可能性がある。


阻止するだけなら、むしろこっちが相手の襲撃情報を持っている事を相手に伝えた方が抑止力になるので一般の警察などにも伝えておいた方が都合がいい。

なのに伝えないなら、そういう事なのだろう。


「察しがいいね。うん、優秀だ。でもおしい。今回は捕縛ではなくて殲滅が任務なんだ」


爽やかな笑顔で褒めてくれるのは嬉しい。


だけど、冗談じゃない!

襲撃を未然に防ぐ為に警備するなら喜んで引き受けるが、襲撃者を捕まえるのでもなく殲滅する!?

無理だ。俺にそんな力はないし、なによりいくら悪人だとしても人を殺すなんてしたくない。

クローツ先輩には申し訳ないが、断ろう。


「今回の襲撃者は魔獣を操る特別な力を持った奴でね、殲滅するのは魔獣だけだよ。操ってる奴はおそらく王城に来ない。襲撃の目的も警告と威嚇みたいなものだからね。王様を狙って本気で攻めてくるわけでもないから」


俺が断ろうとしたらクローツ先輩から補足が入った。


相手が人ではないと聞いて少しほっとしたが、魔獣が相手と聞いて違う心配が湧いた。


「あの、すみません。俺そんなに強くないですし、そもそも魔獣相手じゃMSSって効かないんですよね?俺で役に立てる事があるとは思えないんですが、なんで俺なんですか?」


強い人は他にいくらでもいる。

クローツ先輩がわざわざ俺に頼む意味が全くわからないし、引き受けても逃げ回るくらいしかできないと思うんだが、、、囮か?エサなのか?俺は美味そうって事なのか!?


「あぁごめんごめん、君の役割は警備でも戦闘でもなく〝王城の巡回を担当してもらう事〟だよ。最初に言った通りね」


巡回?

ますます意味がわからない。

王城で魔獣と戦いがあると言っているのに、何もせずに王城をぐるぐる巡回しろって事なのか?

やっぱり囮って事か??


「魔獣の数は僕が調べた限り、少なく見積もっても二百は来る。弱い魔獣でも1匹倒すのに並の軍人なら2人か3人で討伐するのが一般的だ。二百となると正直、手に余る。」


っ!?ありえない!!

魔獣が10匹出ただけで軍が動くし、間に合わなければ小さな村ならすぐに壊滅するほどだ。

二百なんて国家クラスの戦力で部隊を組まないと、いくら最大の国セントクルスといえども大きな被害が出るのは目に見えている。


「だから今回は、サディスとマゾエルに協力をお願いしたんだけど、条件を出されてね」


「条件、ですか?」


あの二人の名前が出た時点で、良い予感なんてするはずがない。

それにサディスとマゾエルが行った所で二百の魔獣をどうにか出来るとは思えないんだが…


「君はあの二人の妹のマリアという子を知っているよね?」


「、、、えぇ、まぁ。」



マリア・アイソレシオン。


マリアは中等部3-Cに通っている子で、かの有名な嵐先輩、サディスとマゾエルの妹だ。


イリアの妹のマキナとはクラスメートであり、いつも一緒に行動するくらい仲が良いので、その兼ね合いで俺も何度かマリアとは顔を合わせているのだが…


マリアはなぜか初対面の時から俺の事を気に入り、会えばいつでもどこでもベッタリ…いや、ガッシリくっついてくる子だ。


セルあたりが聞けば『ひとつ歳下のおにゃにゃの子にくっつかれる奴はジゴクニオチロ』とか言われそうだが、マリアの見た目は初等部低学年と変わらない。


ロリ顔であるとか、幼児体形というわけではなく、小さい頃に母親を亡くしたショックで身体の成長が著しく遅れてしまっているのが原因らしく、本当に小さい子供のままなのだ。


実年齢は15歳だとわかっていても、見た目が7歳くらいなので無下に扱うのも心苦しく、いつもされるがままの状態になっている。


悪い子ではないのはわかるのだが、口数が少ないので何を考えているのか分かりにくい子ってのが俺のマリアに対する印象だ。


「サディスもマゾエルもマリアと離れる事を極端に嫌がっていてね、マリアが行くなら協力すると言ってくれたんだけど、マリアにその事を伝えに行ったら、君が一緒に王城で遊んでくれるなら行くって言い出してしまってね」


「…なるほど。話しはわかりましたが、魔獣の方は大丈夫なんですか?二百の魔獣なんて軍隊やそれこそ国家クラスの討伐隊とかじゃないと勝てないんじゃないんですか?」


俺に頼んできた理由は把握したが、一番の問題は魔獣だ。

そっちは大丈夫なのだろうか?


「君がマリアと一緒に来てくれるのなら問題ないよ。サディスとマゾエルでお釣りが来る戦力だからね。その代わりに王城が壊れないように腕の良い結界師を集めなくてはいけないけどね」


ははは、と困った顔で笑いながら話すクローツ先輩を見て、俺も引き攣った笑顔を作るしかなかった。


俺の中で、元気すぎる先輩として見てたサディス達が、国家戦力並に元気な先輩にランクアップしてしまった。

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