【 一緒にお風呂 】
サラ先生が立ち去ってから数分経つと、ようやく母さんとグルルが戻ってきた。
「お待たせぇー!遅くなってごめんねタッ君。今日はお母さん もう帰れるようにしてもらったから、みんなで一緒に帰りましょう。海老パーティーよ!」
「ぱるる、えびぱ?えびぱー!」
何故か先程より仲良くなった雰囲気の2人が手を繋いで戻ってくると、母さんは何の説明もなしにそう言ってきた。
「いやいやいや、ちょっと待て母さん!説明しろよ。何が海老パーティーだっ!グルルの親は?ってかみんなでって言ったか?」
海老は好きだが、それよりもグルルだ。
それにさっきの母さんの態度も気になっているのに、あぁそうですか海老嬉しー、とはいかないだろ。
俺の困惑に母さんは、人差し指を顎に当てて「んー?」と言って首を傾げた。
「バカなぶりっ子を演じても誤魔化されないぞ。ちゃんと説明しろ」
バカなぶりっ子のフリをする親を持つ子の気持ちも察して欲しいところだが、それよりも状況を理解したい。
しかし母さんは【帰ったらちゃんと話すから】と心の声で伝えてきた。
ーーその顔はまた一瞬だけ真剣な物だった為、俺は渋々だが母さんに従う事にした。
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ーーー
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帰りは大雨ということもあり、転タクを呼んで3人で帰宅することになった。
普通のタクシーは学園側の指示で運行休止中だった為、値段の高い転タクを使うしかなかったが 俺がMSSレベル3を保有しているので半額で済んだ。
「タッ君のおかげで転タク代が安くて助かっちゃった!さぁ今日は海老パーティーよ!ご飯作ってる間に2人はお風呂済ませちゃいなさい。え、なになに?お母さんも一緒に入って欲しいって?もうタッ君は甘えん坊さんねぇ、わかったわ!じゃあお母さんも一緒にーーー」
「俺は何も言ってないし、母さんと一緒に入るわけないだろ。とりあえずグルルと風呂入ってくるから 母さんは飯の準備を頼むよ。それと、もし風呂に入ってきたら通報するからな」
体をクネクネさせながら いけずぅーと言う警察勤務の母さんを放置して、俺はグルルを連れて風呂場へと向かった。
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風呂場に着くと早々にグルルの質問遊びが始まり、目をキラキラさせながら浴室内をはしゃぎ回っていた。
「おおー!こーは?たっくと、こーは?」
「これはシャワーでこっちは石鹸。この石鹸で体を綺麗にしてシャワーで洗い流すんだ。汚れを落としたら次は湯船で疲れを落とす。ーーーよし じゃあまずはシャンプーするぞ」
浴槽に湯を溜める間にシャワーでグルルを洗ってあげ、一つ一つグルルの質問に答えていく。
色々なものに興味を示し、教えた事をすぐに覚えていくグルルとの会話は なんだか歳の離れた弟が出来たみたいでとても楽しかった。
前髪は短めのパッツンで傷のあるおでこが丸出しのグルル。
前髪以外は長くも短くもなく、とても柔らかい毛質だった。
シャンプーをしてあげると白く綺麗な泡達が、グルルの柔らかくて手触りの良い灰色の髪を優しく包み込んでいった。
「しゃんぷ?あわあわー、せけーん!もひひー!」
「だからその笑い方はやめとけって。聞き慣れてきちゃったじゃないか」
シャワーや石鹸を見て楽しそうに興奮するグルルは無邪気そのもの。
子供らしいと言えばそうかもしれない…
だが俺は少し違和感を感じていた。
何にでも興味を示し、教えた事はすぐに理解して記憶していくグルルは間違いなく頭がいいはずなのだが……あまりにも知識が無さ過ぎる。
まるで風呂に入るのも初めてのような反応・・しかしこの平和なご時世でそんな事があり得るのだろうか…
「いたまーす!」
「おいおい、いただきますはご飯を食べる時に言う言葉だぞ。まぁいいけどなーーーよし、綺麗になったな。じゃあグルルは先に湯船に浸かってていいぞ。俺も体を洗ったら入るから」
今は考えても分からないし、グルルがもっと言葉を覚えていけば何かわかるかもしれない。
それに、今日は何故か俺の家に連れて来る事になってしまったが、明日にはグルルを両親の元へ連れていく事が出来るかもしれないので、その時にでも聞いてみればいいか。
と、俺は深く考えるのをやめて体を洗う為に石鹸に手を伸ばしたーー
「あれ?石鹸がない。今さっきグルルを洗うのに使ったのにな……落としてどっかに滑っていったのか?」
ーーー隅々まで探したが石鹸は見当たらず、仕方がないので新しい石鹸を予備袋から出して体を洗い、ひと通り体を綺麗にしてから俺もグルルと一緒に湯船に浸かって身体を癒した。
「ふうぅ〜・・・気持ちいいなぁ」
「おほー!ちもちー、ちもちー!」
昨日までの怠惰な生活からかけ離れた濃い一日の疲れも、温かい湯に溶けていくようだ…
『ーータッ君とグルちゃんの着替え、置いておくわねぇ』
「母さんありがとう、もう少ししたら出るよ」
脱衣所から声を掛けてきた母さんにお礼を告げ、それから少しの間、俺とグルルは緩み切ったスライムのような顔で湯船を堪能してから風呂を上がった。
出会った時のグルルは全裸だったので着替えをどうしようと思っていたのだが、風呂場を出た脱衣所には俺が子供の頃に着ていたパジャマが用意されていた。
ーーー
「ほらグルル、髪の毛を乾かすから大人しくしてろよ」
「おおー、もわん?もわわん!ほほー」
ーー風呂を出た俺は初級魔法であるドライでグルルの髪を乾かしてから服を着せてあげた。
「たっくと、もわわん!ぐるる、もわわん!」
その後で自分の髪も乾かそうとしたが、驚いた事にグルルがドライの魔法で俺の髪を乾かしてくれたのだ。
「凄いなグルル、もうドライの魔法が使えるんだな。ーーおっ、もう乾いた。ありがとうな」
ドライは低級魔法よりも下位の初級魔法で、詠唱さえ知っていれば使えない者がいないほど簡単な魔法だが、学校や学園で習うのはだいたい初等部3年生くらい。年齢にすると8歳くらいからだ。
なので、おそらく5歳くらいで言葉もまだ使いこなせていないグルルが元々使えたとは考えにくい。
ーーやっぱりコピー系のアイデン持ちなんだろうな。
「もひひー!ありあとー、すーき!ありあとー!」
ーーーズシッ
俺がありがとうと言った事が嬉しかったようでグルルは楽しそうにピョンピョン飛び跳ねながら俺に抱き着いてきたがーーーお、重い・・
嬉しそうなグルルは離れようとしないので、そのままリビングへと戻る事にした。
「ーー良い匂いがするな」
リビングに近づくにつれて、おいしそうな芳ばしい匂いが鼻を刺激してきた。
どうやら母さんの言っていた海老パーティーとやらは本当に開催されるようだ。
夕方にたこ焼きっさで軽く食べてはいるが、海老の焼ける良い匂いのせいで急にお腹が空いてきてしまったので、グルルを抱っこしたまま足早にリビングへと向かった。




