【 最新魔具は愛の束縛 】
家を見れば目を輝かせて「おおー」と言い、自動販売機を見れば楽しそうに「ほほー」と言う元気なグルルを連れて、ようやく目的地である警察署にたどり着いた。
総合病院ほどではないが そこそこの大きさを誇る学園島唯一の警察署に着き、母さんを呼んで欲しいと窓口で告げると10分ほどお待ち下さいと言われたので、綺麗に並べられてある椅子に座って待つ事にした。
ダダダダダダダダッッーーー
しかし 椅子に座った直後に、地鳴りと共に母さんがもの凄い勢いで走ってやって来た。
「タァァァァッくぅぅぅんっっっ!!!」
「うわっ、ちょ、やめっーーぐはっ」
ガシャーンーーー
「おおー、ほほー!」
走ってきた母さんは速度を落とさないまま俺にタックルをかまし、綺麗に並んだ椅子達はボーリングのピンのように見事に弾け飛ばされてしまった。
「いってぇ。ーーーってなんだこれ!?おいっ 母さん!このロープはなんだよ、早く外せよっ」
椅子と一緒にぶっ飛ばされた俺は、痛みを我慢して起き上がろうとしたが…体が動かなかい。
首から上は普通に動かせたので目線を体に移すと、魔力が込められているであろうロープが俺の体を拘束しており、そのせいで体が全く動かせなくさせられていた。
「デュフフフフ・・それは最新の拘束具よ。まだ試験段階ではあるけど、魔力を封じるだけではなくて体の自由も奪う 警察と軍専用の魔具。でも私はこれを渡された時に思ったわ…これでタッ君を拘束すればいいってね・・・警察勤務万歳っ!」
ーーヤバイ。
完全に目がイッてる。
多分連日勤務で溜まったストレスのせいだとは思うが、それを俺で発散するのは本当にやめてくれ…
「・・グルル、悪いけどこのロープ外してくれ」
「ろぷ?おおー!」
今の母さんに何を言っても無駄だと判断した俺は、近くで楽しそうに俺達を見ているグルルに助けを求めると グルルは俺の言葉を理解してくれたようでロープに手を掛けた。
「無駄よ。これを外すには専用のナイフがないと切れないわ!諦めてお母さんの抱き枕になりなさい!今日一日で許してあげますからじゅるるっ」
まずい・・これは本気でまずいやつだ。
「うぅーん、うぅーん、おろ?おろろ?」
「無駄よショタ君!耐久試験の時に英雄ジャスティンが額に血管を浮かばせるほど力を入れて ようやく千切れた物をただの可愛いショタっ子が外せるわけないでしょ!これは私とタッ君を繋ぐ愛のロープなのよ。決して切れないわっ!おーっほっほっほっ」
くっ…ジャスティンが本気でやらないと千切れないような物なら、ショタだろうが大人だろうが無理に決まってるだろ・・
案の定グルルが必死にロープを引っ張っているが、切れる気配どころか緩まる気配すらない。
「ほほー、んー?んー?おおー!がるる、がるるー!」
グルルも引っ張っても無駄だと理解したのかロープから手を放して立ち上がってしまった。
しかし立ち上がったグルルは首を傾げながら何かを考え始め、数秒の思考を終えたグルルは名案を思いついたようなスッキリした顔で、再度しゃがみ込むとロープに触れた。
するとーーーー
ブチッという音と共に、俺の体に自由が戻った。
「お、おぉ…?切れた、のか?」
半ば諦めていた俺は、突然の解放感に少し戸惑ってしまった。
「おおー!ぐるるすごー?たっくと、ぐるるすごー?」
そんな俺のすぐ隣では、満面の笑みで自分の功績をアピールするグルル。
まさかとは思うが、ジャスティンでも千切るのに苦戦するような物をこんな小さな子供が切ったとでも言うのか?
あり得ない・・とは思うが、防雨結界の件でグルルの天才的な一面を見せつけられてしまった為、100%あり得ないとは言い切れなかった。
「なんですとぉ!?ーーーあんのポンコツ上司、粗悪品なんか掴ませやがってぇぇ!私のタッ君捕獲快眠大作戦が台無しじゃないっ!くぅぅっ、こうなったら忙しいのが確定してる時期に貯まりまくってる有給使って困らせてやるわっ!覚えてなさいよぉ」
粗悪品・・・
なんだ、そういう事もあるのか…納得したし 少し安心もした。
「偉いぞグルル、助けてくれてありがとうな」
なにはともあれ 解放されたのは確かだし、俺を解放するために頑張ってくれたのも確かだ。
それにグルルは自分が切ったと思っているようだし、褒めて欲しそうにしていたので 俺はグルルの頭を撫でてお礼を言った。
「えへへー、もひひー、ぐるるえらー!がるるすごー!」
「えへへーは分かるけど、もひひーって笑うのはやめとけよ。メシクレが聞いたらモヒられるぞ」
モヒるが何かは知らないけどな。
ーーーーー
ーーー