【退院祝いはネジリーのたこ焼きっさで!】
イリアの退院から2日が過ぎ、今 俺達は約束通りネジリーのたこ焼きっさにやって来ている。
イリアの退院を祝う為に集まってくれたのは、最近ではお馴染みのメンバーだ。
セル、ハイナさん、ララ、ルーク、マキナ、デュラン、ラピス、マリア。
マリアがここに来た時にはサディスとマゾエルも一緒に居たのだが、2人は用事があるという事でイリアに退院おめでとうと伝えた後どこかへ行ってしまった。
サディスさんはここに残ると最後まで渋っていたが、マリアにシッシッと手で追い払われるとガックリ肩を落として去って行った。
サディスが去ったのを見たネジリー店長は心からホッとした顔をしていたが、先日の大食いでは食材がほとんど無くなる事態になってしまったので気持ちは分かる。
そんな一幕を終えて、現在はこのメンバーでテーブルを囲んでいるわけだ。
一通り全員が注文を済ませ、ドリンクだけ先に出してもらったところでハイナさんがコホンッと咳払いをして立ち上がった。
「では、僭越ながらわたくしが・・・。イリアさん、この度はご退院おめでとうございますですわ。イリアさんの回復を祝しまして、乾杯っ!ですわ」
「「「かんぱーーいっ」」」
各々が手に持ったグラスを掲げ、互いに軽くぶつけ合うと 店内に小気味良い音が響き渡った。
「いやぁ、それにしても本当によかったよなぁ!イリアちゃんも起きたし、ナースのお姉さん達もしっかり記憶に焼き付けたし、実家の手伝いからも逃げ出せれたし!いやぁ、めでたいっ」
「わたし、いつも元気なマキちゃんがあんなに落ち込んでいるのを初めて見ました。イリア先輩が無事に目覚めて下さってマキちゃんにも元気が戻ってきましたし、わたし本当に嬉しいですっ!」
「あははっ、あたしも自分があんなに落ち込んだ事にびっくりだったよ。もう倒れたりしないでよねっ、おねえちゃんっ」
セルもラピスもマキナも、イリアが退院して本当に嬉しそうだ。
ここにいる全員には昨日の時点でイリアが直接お礼の電話を掛けたと言っていた。
その中で今日の話しになり、雨も止む気配はないし お見舞いに来てくれた上に退院祝いまでされては申し訳ないから来なくていいと伝えたらしいのだが、誰一人イリアの言う事を聞いてくれなかったようだ。
「みんな心配かけちゃって本当にごめんなさい。天気が悪いのにお見舞いにまで来てくれて、今日も私なんかの為にわざわざ集まってくれて」
セル達に喜びの言葉を掛けられたイリアは、自分のせいでみんなに迷惑をかけた事が申し訳なくて仕方ないといった表情で頭を下げた。
ーーーガタッ
しかし、その表情を見たララが眉間にシワを寄せて イリアの顔を指差しながら立ち上がった。
「ちょっとイリア!退院して早々に辛気臭い顔しないでよね。申し訳なさそうな顔はルークで見飽きてるんだから!」
【私は元気になったあんたの笑顔が見たくて来たのに・・まったくもう】
「ボ、ボクって申し訳なさそうな顔してるんだ…。ご、ごめんねイリアちゃん。聴こえてると思うけど、ララは素直じゃないんだ。イリアちゃんが退院したって聞いた時なんて泣きながら喜んでたんだよ」
「こらっルークッ!あんたは余計な事言わなくていいのっ!ぶっ飛ばすわよっ」
謝罪をするイリアに文句を言っていたララであったが、ルークの発言に顔を真っ赤にしながらグラスに入ったジュースを一気飲みし出した。
ララが怒っていた訳ではない事も、イリアの退院を本気で喜んでくれている事も、心の声を聴かずともここにいる全員に伝わっている。
「ララちゃん、ありがとう。みんなも、ありがとう」
ララが心の声で伝えた想いは、ここにいる全員が思っていた事だった。
その事をイリアも肌で感じたのだろう。
目には薄っすらと涙を滲ませながら、とても嬉しそうに微笑み『ありがとう』とみんなに伝えた。
「へいお待ちっ!『オクトパスペシャル』と『ネジリーおじさん特製タッコタコにしてやんよケーキ』だ!」
「あれ?今日は俺、オクトパスペシャルじゃなくて『味タコとないぞ、こんなピザ』を頼んだんだけど。誰か注文した?」
みんなでワイワイ話しながら料理を待っていると、ネジリー店長は誰も注文していない物を運んできた。
「詳しくは聞いてないが、そこの嬢ちゃんが入院しなきゃいかんかったのは辛い事だったと思う。だけど無事に退院できた!それに 友達との絆もより深まったみたいだし、うちにも元気な常連さんがこんなに沢山 出来た。雨降って地固まるってやつだな!だからこれはサービスだ!タコ食って、これからは入院しなきゃいかんような事にならんように、しっかり体力つけな」
「ありがとうございます、店長さん。はい、いっぱい食べて もうみんなに心配かけないようにしますね」
と、イリアは言っているが。
このケーキはヤバそうだ・・・。
ケーキと言っているが、見た目は怒り狂ったデカいタコ。
ケーキなのだから切り分けるのが一般的なのかもしれないが、ナイフを近づけたら襲い掛かってきそうで気が引けてしまう…
グサッーー
「・・・タコ、んまぃ」
俺が怒り顔のタコケーキと睨み合っていると、突然マリアがタコケーキの脳天にフォークを突き立て モグモグと食べ始めた。
「あら、本当においしいですわ。ゲテモノは美味と言いますが、本当でしたのね」
「このタコケーキ、お 怒った顔してるのに 甘い・・・なんか ララみたいだね」
「ちょっとルーク!それって私がタコみたいって事!?」
マリアが先陣を切った事で、みんな次々にケーキを食べ始めた。
みんなの感想を聞いてから俺も恐る恐る食べてみると、見た目からは想像も出来ない程の甘さが口いっぱいに広がり、自然と頬が緩みそうになってしまった。
タコケーキと同時に運ばれてきたセルがいつも注文するオクトパスペシャルも、見た目はかなり厳つい。
頭は小さく怒った表情もしていないのだが、足が異常なほどムキムキなタコが丸っと1匹皿に乗って出てくる。
8本あるムキムキの足にはそれぞれ違う味付けがされており、足の中にはライスやサラダや肉などが詰められているので、オクトパスペシャル一品でコース料理が味わえるようになっている。
グサッーーー
「・・・こっちも、んまぃ」
そのオクトパスペシャルも、我等が特攻隊長マリアの手により脳天を突き刺された。
「やっぱオクトパスペシャルはうまいなぁ、デュランも食ってるか?最高だろ、オクトパスペシャル!」
「ふんっ、ラピスの料理の次くらいだな」
「もうお兄ちゃんっ!わたしのお料理がここのお料理より美味しい訳ないでしょ。どうして素直においしいって言えないの?」
いや、俺から見ればラピスの料理の次に美味いって言うのはデュラン流の最高の褒め言葉だと思うが・・・
カランカランッーーー
「へいらっしゃっい。2名様だね?こんな雨の中よく来てくれたね、こっちの席にどうぞ」
外は大雨の為 本日もほぼ貸し切り状態の店内であったが、珍しく来店があり ネジリー店長が嬉しそうに接客し始めた。
来店した2人の客は向かい合ったまま両手を繋ぎ合い、まるで周りが見えていないように お互いを見つめ合っていた。
「あぁハニー、雨に濡れた君も見てみたい気持ちはあったけど、雨なんかに君を触れさせる事が我慢できなくて防雨結界を張ってしまった愚かな僕を笑わないでおくれ」
「笑ったりしないわよダーリン、私こそごめんなさい。私 ダーリンと手を繋ぎたいから荷物を持たないようにしているの。だからハンカチも傘もなくて、ダーリンに頼り切ってしまったわ」
うわぁ・・・
なんか濃い人達だなぁ。
「あら?あちらの方々はオッシーさんとドリーさんではございませんの」
「あ、本当だ。相変わらずアッツいなぁ」
「えっ?ハイナさんとセルはあの人達知ってるのか?」
来店したカップルを冷ややかな目で見ていると、セルとハイナさんは見知った顔のような反応を見せた。
「あぁ、あの2人は学園生だよ。俺達の一個上の2年生でオッシー先輩とドリー先輩。MSSはレベル2だけどちょっと変わったアイデンを持ってるAクラスの生徒。生徒会に来る依頼とかをたまに手伝って貰ってるから俺は顔見知りなんだよ」
「あの方々は学園ではあまり教室から出たりしませんので、同じくあまり教室から出ないタクトさんがご存知ないのは仕方のない事ですわ」
セルは生徒会関係で知り合ったようだが ハイナさんは学園内でイチャイチャする2人は風紀を乱すと思ったようで、何度か注意しに行った事で知っているらしい。
「はいダーリン、あーん」
「あむっ、あぁハニー。僕はこんなに美味しいタコ焼きを食べた事がないよ。ほら ハニーも食べてごらん。あーん」
「まぁ本当、とっても美味しいわ。きっとダーリンが愛という隠し味を入れてくれたからね」
「違うよハニー。君への愛は隠したりなんかしないさ。あぁ君がレベル3で僕が非感染者だったのなら、この愛の奥底まで君に伝えられるのに」
「ダーリン…。今、私も同じことを考えていたのよ。大丈夫、私とダーリンはMSSなんて関係なく通じ合っているわ」
「そうだねハニー、愛しているよ」
「嬉しいわダーリン、愛しているわ」
うわぁ・・・・
同じ学園にこんな人達がいたのか。
俺の冷ややかな反応とは違い、ラピスは目をキラキラさせながら2人を見ていた。
「素敵ですね。普通の人では恥ずかしがって言えないような事を、真っ直ぐ伝え合えるなんて」
「ラピは乙女だねぇー。あたし的にはさすがにあれはなしだなぁ」
俺もマキナと同意見だ。
カカカ祭りの時にジャスティンが大声で婚約宣言した時も思ったが、ラピスはどうやら極端なくらい真っ直ぐな愛情表現が好きなようだ。
でも、そんな話しをしていると またデュランが反応してしまうぞ…
「ラピス、お兄ちゃんはラピス「お兄ちゃんっ!」・・・」
案の定デュランはラピスに何かを言おうとしていたが、どうやらラピスも学んだようで デュランが言い終わる前に食い止めた…仲良いな。
オッシーとドリーは一皿のタコ焼きを2人で仲良く食べ合い、食事が終わるとすぐに出て行った。
顔見知りだと言っていたセルに挨拶はしなくていいのか、と俺が言うと「あの2人は基本的に部外者が見えてないから挨拶しても意味ないんだよ、それに 邪魔しちゃ悪いからねぇ」と言っていた。
その後は客も来ず、俺達は談笑しながら食事を楽しんだ。
イリアも美味しいと言ってくれていたので、連れて来れてよかった。
〝では次のニュースです。連日の豪雨はまだ続く模様です。無用の外出は控え、急用で外に出る場合は1人で出ないようにして下さい。強雨は防魔では防ぎ切れない恐れがありますので防雨結界を使える人と共に行動し、海や川などーーー〟
店内にあるテレビでは、この雨のニュースが取り上げられており 雨はまだ止みそうもないみたいだ。
悪天候が続くのは嬉しい事ではないが、イリアが意識を失っていた時のような心の曇りは 今の俺にはない。
みんなと楽しく食事が出来ている今は、外の天気とは真逆に 晴れ晴れとした気分だった為、ニュースの声は仲間達との楽しい会話に掻き消され 意識の外側の雑音に成り果てた。
〝尚、世界各地で目撃されている黒い雨の詳細は未だ解明されておりませんが、黒い雨が降った付近の村や街では魔獣被害が多数報告されているとの事です。関係性は未だ不明ですが、黒い雨を見かけた方は軍または警察に連絡をして 決して近付かないようにして下さい〟
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大いに盛り上がった退院祝いは終わり、その場で解散する流れになった。
マリアだけは学園寮で生活しているので、一人で帰すわけにもいかず送っていこうとしたが タイミング良くサディスとマゾエルが迎えに来てくれたので、そのまま見送ってから俺達も帰ることにした。
俺はイリアの防雨結界に入れてもらったが、マキナは「雨に濡れたい気分」と わけのわからない事を言い、ずぶ濡れのまま走って先に帰ってしまった。
風邪でも引かれたら余計な心配がまた増えてしまうので追いかけようとしたが、全力で走るマキナに追いつくのは 俺にもイリアにも到底無理な事なので、諦めて仕方なく2人で帰ることになった。
「今日はありがとうね。とっても嬉しかったし すごく美味しかった。タクトがラーメン以外でハマるなんて珍しいなぁ って思ってたけど、あれなら納得。タクトが言った通り、店長さんも良い人だったね」
イリアの防雨結界に守られながら寄り添って歩いていると、イリアが改まってそう言ってきた。
「何度も何度も家族自慢してくるけど、飯の味もネジリーさんも最高だったろ?またこの雨が止んでから一緒に行くか」
「うん!早く晴れるといいね」
嬉しそうな笑顔で返事をするイリアと些細な約束事を交わし、ゆっくりと歩く。
どんな些細な事でも、明るい未来への約束ならいくらでもしたい。
楽しい事がこれから沢山ある、嬉しい事も沢山起きる。
その 目には見えない約束という未来への光が、イリアの心の傷を優しく包み隠してくれるかもしれないから。




