【 関係のない関係 】
病院に入った俺達は受付で携帯やヘッドホンを預け、写真の持ち込み申請をしてからイリアの病室へ向かった。
道中すれ違った若いナースを見てセルが興奮していたのはいつもの事なので割愛。
エレベーターを降り、イリアの病室に着くと先客がいたので俺は少し驚いた。
ベッドで辛そうにうなされているイリアを、立ったまま無表情で静かに見下ろす女性は このジメジメした日にも関わらず いつもと同じタイトな黒のスーツをピシッと着こなしており、立ち姿だけで出来る女の雰囲気を醸し出していた。
「えっ!?サラ先生?なんでこんな所にいるんですか?」
「シャイナス君にセルス君ですか。私は自分の受け持つクラスの生徒が入院したと聞いたのでお見舞いに来ただけですが、何故そんなに驚いているのですか?」
俺が驚きと疑問をそのまま質問に乗せて聞くと、サラ先生はいつもの様に淡々と答え、俺の疑問の意味がわからないと言った風な質問を返してきた。
「いや、そういう意味じゃなくて学え『いやぁ、本日もサラ先生はビューチクルっすねぇ。このセルス・シエート、夏休みにまでサラ先生のグラマラスなお姿を見る事が出来て感無量でございますっ』・・・」
しまった。
セルが誤魔化してくれなかったら学園長が倒れた事を俺達が知っているとサラ先生にバレるところだった。
はははー、と笑いながらサラ先生を褒め称えるセルを サラ先生は冷ややかな目で見下していた。
「フレド先生ですね。セルス君はフレド先生の弟ですから伝わっているのは理解できます。ですが、あまり口外されては困ります。よろしいですね?」
さすがに誤魔化しきれなかったか。
だが、バレてしまったのなら好都合だ。
「口外するつもりはありません。でも学園長が倒れた原因だけでも教えてくれませんか?」
偶然だとは思う。
だが、同じようなタイミングでイリアと学園長が倒れたのはやはり引っ掛かる。
サラ先生なら 少なくとも学園長が倒れた原因は知っているはずだと思ったので聞いてみることにしたのだ。
「シャイナス君は同じタイミングで倒れたイリアさんと学園長になにか関連があるのでは、と思っているのでしょうが、おそらく関係性はありません。なぜなら、学園長はすでに目を覚ましていますし そもそも学園長が倒れたのは私が少し過激にお仕置きをしてしまったからですので。みんなには秘密にして下さいね」
「は、はい」
もし学園長とイリアが倒れた原因が同じであったのなら、イリアを助けるヒントが得られるかもと思ったのだが・・・
サラ先生の返答は期待通りではなかったが、まさかの予想通りだった。
「イリアさんの状態はロキソ先生から伺いました。原因は心と言っていましたが、心の傷の理由が何もわからないまま専門家を呼んで無理に治療をすると 今より深い傷を負う可能性もあるので、暫くはこの病院で経過を見ると言っていました。この病院なら設備は申し分ありませんから、貴方達もお見舞いに来るのは良い事ですがあまり気負い過ぎないようにして下さい。お見舞いに来ている貴方達が倒れてしまっては イリアさんも安心して休めなくなってしまいます。では、私はそろそろ戻ります。それとセルス君、イリアさんが寝ている時に道徳に反することはしないように」
「ちょっ、サラ先生まで俺だけ名指しっすか!わかってますよ!学園長にもお大事にって言っといて下さいねっ」
サラ先生が病室から出たのを切っ掛けに、俺達はイリアの眠るベッドに近づき 様子を見る事にした。
相変わらず起きる気配はないが、この部屋に来た時に見せていた辛そうな顔ではなく 穏やかな寝顔を見せてくれている。
「写真はここでいいよな。ほらイリア、みんな心配してるんだから いつまでも寝てないで早く起きろよ」
「それにしても、ほんとどうしちゃったんだろうな。こうやって見てると、ただ寝てるだけに見えるんだけどなぁ」
暫くは2人でイリアの寝顔を見ていたが、その後はイリアを真ん中に、ベッド越しのセルと実のない話をしながら時間を過ごした。
室内にある時計が15時を指したのを見ると、朝飯しか食べていなかった為 多少の空腹感を感じてきた。
セルも同じだったようで今日のお見舞いはこれくらいにしようとなり 俺達は病室を後にした。
ザァーーーー・・・
「うわぁ、どしゃ降りじゃん。タクト 傘持ってきた?俺持ってないんだけど、相合い傘してくれてもいいんだよ」
「いや、俺も邪魔になると思って持って来てない。セルは防雨結界使えないのか?ちなみに俺は使えない」
病院を出ると 叩きつけるような雨が降っており、とてもじゃないが歩けるような状態ではなかった。
「まぁ使えるけど、得意属性じゃないからこの雨だと完全には防げないかもよ?魔力の消費もでかいし、どっかで雨宿りしてこうぜ」
セルの提案に合意すると、病院から少し離れた場所に喫茶店があるという事なので そこまで走って 昼食も兼ねて雨宿りしようと話が決まった。
セルの言ったように雨も風も強いこの状態では完全に防ぎきる事が出来ずに2人とも結構濡れてしまったが、なんとか喫茶店まで辿り着くことが出来た。
「ふいぃぃ、やっと着いたぁ。びしょ濡れになっちまったな。なんで隣でびしょ濡れなのがタクトなんだよ。ここは透け透け美少女ってのが定番だろ?空気読めよなぁ」
なに言ってんだこいつは?
なんの定番だよ。
「へいらっしゃっい、こんな雨の中よく来てくれたね。ってあんたらずぶ濡れじゃないか、ちょっと待ってな。今タオル持ってきてやるから」
店内には俺達以外の客はおらず、古ぼけた喫茶店の中には店長と思われる捩り鉢巻きをした恰幅の良いおじさんがテレビを見ているだけだったが、俺達が来店すると店長さんは店の奥から大きなバスタオルを2枚持ってきてくれた。
「ありがとうございます。助かりました・・・って、あんたはあの時のっ!」
「なんだい?どっかで会ったかな?」
一通り拭き終わった後、店長さんにお礼を告げる為に改めて店長さんの顔を見ると 見覚えがあった。
店長が着けている前掛けには
〝ネジリーのたこ焼きっさ〟と書かれている。
そう、このおじさんはカカカ祭りの時に熱々の美味しいたこ焼きをマリアに与えた張本人。
俺がお礼と恨み言を言いそびれた人物だ。
「カカカ祭りの屋台で連れがたこ焼きを頂いたんですよ。俺も頂きましたが、めちゃくちゃ美味しかったです」
恨み言など言えるはずがない。
びしょ濡れで店内に押し入った俺達に文句1つ言わずにタオルを貸してくれる優しいおじさん。
たこ焼きで火傷した件にしても、マリアが悪いわけであって おじさんが悪い事は何一つないのだから。
「そぉかそぉか、あのめんこいお嬢ちゃんをおんぶしてたのは兄ちゃんかっ!いやぁ、今年の頭にうちにもようやく念願の赤ちゃんが産まれてな!あのお嬢ちゃんがうちの娘と同じ綺麗な金髪で、眠そうな目までそっくりだったもんだからついサービスしちまったんだよ」
嬉しそうに笑う店長さんが、奥さんと赤ちゃんの写真を自慢げに見せてくれた。
お世辞抜きでとても綺麗な奥さんと可愛らしい赤ちゃんだった。
その後、気を良くした店長さんがたこ焼きをサービスしてくれて食べたが、やはりめちゃくちゃ美味しかった。
セルはオクトパスペシャルという謎のメニューを注文していたが、そちらもかなり美味しかったようだ。
雨の勢いが弱まると、店長さんが傘を二本くれたので 俺達はお礼を告げて帰宅する事にした。
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ーーーアルバティル学園 地下客間
先日、フレドがここを訪れた時には暴れた傷跡があった客間も 今は何事もなかったかのように綺麗に片付いていた。
「ただいま戻りました。学園長、お身体はいかがですか?」
中央に置かれたテーブルにだらし無く突っ伏している学園長にサラが声を掛けた。
「ごめんねーサラ君。もう大丈夫なんだけどさー、やっぱりなんかおかしいみたいなんだよね。上の様子はどうだった?異常なさそう?」
「はい。特に変わりはありませんでした。学園長と同時期に倒れたイリアさんも、ロキソ先生の言う通り心の問題で間違いなさそうでしたので 学園長の感じた〝なにか〟とは関係ないと思われます」
2日前、学園長室でサラとソガラムがいつものように業務連絡をしている時、突然ソガラムが〝なにか〟を感じ取り 暴れ出したのだ。
いつものふざけた様子とは異質のソガラムを見たサラは、学園内にある学園長室で暴れられると寮生や島民達に被害が出る可能性があると思い ソガラムと共に転移車まで転移し その車で地下の客間まで連れてきたのだ。
ソガラムがサラの前で我を忘れて暴れるのはこれが初めての事であった。
サラはなんとかソガラムを押さえ込もうとしたが 力の差があり過ぎた為 1人では手に負えずウラルとダイソンに協力してもらい、なんとか拘束する事に成功した。
事態を重く見たサラは同じ学園の教師仲間であるセルスの兄フレドに雑務を任せ、原因究明とソガラム不在の対応に手を回した。
理性のないソガラムを放置するのは危険だとは思ったが、動きを封じる事に関してはサラよりも上位の力を持つウラルとダイソンが2人で見ていてくれると言ったので単独で動く事にしたのだ。
夜通し調査を行なったが、原因となる物は何一つ見つからず 変わった事と言えば学園生であるイリアも倒れたという事だけだったが、今日 様子を見てきた結果 それも関係性はないと判断した。
「それで学園長、今後はどのようにしますか?正直に申して、また学園長があのような発作を起こされると私の手には負えなくなる可能性があるので、原因究明は急務かと思われますが」
「んー、だよねぇ。ぼくだってサラ君達に迷惑をかけるのはイヤだし、原因がわかるならそれに越した事はないんだけどさぁ。なんでかなぁ?気が乗らないんだよねぇー」
現状の危うさは理解しているようだが、ソガラムはまるで空腹と疲れがピークの時に溜まった宿題をやらなくてはいけない学生のように気だるそうな態度でそう言った。
「今後もあの発作が起こる可能性はどれくらいありますか?」
やる気のないソガラムを見たサラが次案を考える為に質問をすると
「多分もう大丈夫。昨日は不意打ちみたいに来たから対応できなかったけど、覚悟さえあればあんな風にはならないよ」
「そうですか、わかりました。ですが、急務である事には変わりありません。原因に心当たりがあれば些細な事でも構いませんのお話ください」
サラの質問にソガラムはうーんと唸りながら考えていたが、思い当たる事が見当たらない様子であった。
その様子にサラは別の質問を投げかける
「状況も状態も異なりますが、学園長の様子が急変したのは私が知る限り これで2度目です。あの時となにか関係があるのでは?」
ピクッ
サラの質問にソガラムは一瞬だけ肩を震わせた。
暴れたのは初めてだが、ソガラムに異変が起きたのは2度目。
関係があるのではとサラが思うのも当然の事であった。
「んー、いや。多分関係ないと思うよっ。イヤだなぁ、あの時もサラ君の前で取り乱しちゃったんだよねぇ。もうぼくの恥ずかしい部分はサラ君に全部見られちゃってるねっ、はずかしっ」
戯けてみせるソガラムに いつものキレはなかった。
「とーりあえずっ、ぼくもちょっと調べてみるからサラ君は今まで通り子供達をお願いねっ。あと、学園島以外の様子も気にしといてくれるかな?あの地震からは特になにも起きてないけど、これからもなにも起きないとは限らないからさっ」
「わかりました。ですが学園長は暫く安静にしていて下さい。病み上がりとは違いますが、3人がかりで攻撃を加えてしまいましたから まずは回復に専念しておいて下さい。あまり無茶をするようであれば、ダイソン君に吸って頂きますので」
「吸われるのはイヤだなぁ。でもあの2人にも後でお礼を言わないとね。じゃあぼくは暫くここでゆっくりしてるから、何かあったら報告してねっ」
サラの言う通り大人しく待つと言ったソガラム。
一通りの話しを終えたサラは情報収集の為、客間を出て地上に戻って行った。
サラを見送ったソガラムは
「よぉーし、それじゃあぼくも出掛けてこよっかな。ウラルくーん サラ君が来たら、ぼくはトイレで踏ん張ってるからソッとしといてって言っといてねっ」
「かちこまりまちた、パパたま」
話し合いには参加せず 客間の奥で植物に水をあげていたウラルにそう告げて、客間を出て行った。
その直後
「1つお伝えするのを忘れておりました・・・学園長?」
数分もせずに戻ってきたサラが目にしたのは、後片付けをするウラルしかいない客間であった。
「ウラルさん、学園長はどちらへ?」
「パパたまはトイレで踏ん張っていると伝えてくれと言った後、つぐにどこかへ出て行きまちたよ」
サラの表情に変化はなかったが、ウラルの目にはサラの周りに鬼も逃げ出すようなドス黒いオーラが見えたとか。




