【 それぞれの後夜祭 】
翌日
ーーーーセントクルス王城最上階会議室
2日前に密談を行なっていた時と同じように全てのカーテンが閉められた会議室内だが、密談の時とは違い 天井に飾られた豪華なシャンデリアが人工的な光を放ち、明るく室内を照らしていた。
会議室内にいる人物は2人。
リードイストが前回と同じ場所の椅子に座っており、その横で 赤くて綺麗な髪で顔が隠れた内気な女 モネアが立っている。
「ではモネア、報告を聞こう」
「は…はい。リードイスト様」
リードイストがモネアに視線を向ける事なく報告を命じると、真紅のドレスに身を包んでいるモネアはモジモジと返事をした後 報告を始めた。
「い…いつも通り、予定外の事だけ…お伝えいたします。まずは1つ目ですが、ワインベルクの…人払いが難航したようで、レ…レスカーさんが現地の住人に、少し手を出したとの事…です」
モネアの報告を目を瞑ったまま静かに聞くリードイスト。
モネアからリードイストへする報告は 予定外もしくは想定外の事が起きた事だけを報告し、予定通り行われた事の報告はしない。
「つ…次に今回の地震は、モネアが直接の原因…では…ないと思い、ます。今回はベベルさんの装置で、モネアの魔力は完全に結界内に、抑え込まれていました、ので」
モネアは自分がミスを犯した訳ではないと言い訳をしているのとは違い、ただ事実を報告しているようであった。
そしてその発言は4日前に起きた セントクルスを中心に世界を揺らすほどの地震を起こしたのは自分であると言っているようにも聞こえる。
「さい、ごに…任務とは別なのですが、シスさんとニイさんが、少しでいいから…カカ、カ祭りが見たいので学園島に行くと、言って姿を…消してしまい、ました。報…告は以上です」
「そうか、立て続けの任務 ご苦労だったな。私が指示を出すまではモネアも自由にして構わないが、まずは休息をとり魔力の回復に専念しろ」
報告を聞いたリードイストはモネアに退室しろとニュアンスで伝え、モネアもその旨は理解したが リードイストの側から離れようとしない。
「どうした?まだ何かあるのか?」
「……なぜ、彼等の勝手な振る舞いを咎め…ないのですか?レスカー、さんはいつもリードイスト様に暴言を吐くっ!シスさんとニイさんは、表に出てはいけない存在なのに…いつも勝手にどこかに行ってしまうっ!モネアは…モネアは我慢が出来ません。あの方達の力は…認めます。ですが、少しでも彼等の行動がリードイスト様の妨げになるのならば、モネアは…」
怒りと憎しみに肩を震わせながらモネアはリードイストに訴えた。
リードイストがいつも正しい事はわかっている。
そのリードイストがこの計画の為に自ら集めた人達が無能である筈がない事も理解している。
だが、モネアにはどうしても許せなかった。
モネアはリードイストを親愛よりも深く愛し、尊敬よりも高く敬い、神よりも遥かに尊く想っているからだ。
そんなリードイストという存在に選ばれたにも関わらず、独断で行動をし予定を狂わせるシス達や、敬意を払わないだけではなく暴言まで吐くレスカーの事を疎ましいを超えて殺意すら覚えていた。
「シスとニイは幼いが馬鹿ではない、誰かに素性を明かすことも探られる事もないだろう。レスカーも言葉と態度は悪いがそれ以上に役に立つ。私の目的に早く辿り着くためには必要な存在だ」
「…は、い。申し訳…ありません」
感情のない声でリードイストが言葉を発すると、モネアは小さく返事をして俯いてしまった。
モネアはわかっていた。
自分なんかが何かを言ったところでリードイストが考えを変える事などあるはずがない事も、邪魔にしかならないという事もわかっていたのだ。
それでも言わずにはいられなかった。
モネアにとってはリードイストが全てだから。
他の奴等など必要ない、自分だけでリードイストの願いを叶えてみせる…そんな事を言える実力と勇気が自分にない事が、モネアは苦しくて悔しくて仕方なかった。
小刻みに震える髪の毛に隠されたモネアの瞳からは涙が溢れていた。
ーーースッ
肩を震わせるモネアの頭に、リードイストの右手が優しく乗せられた。
「っ!?えっ、あ あ あの、その…リードイスト様!?」
動揺するモネアの頭を、リードイストは優しく撫でた。
「モネア、私にはお前も必要だ」
「は、はいっ!」
リードイストの一言でモネアは浄化されたような気分になり、浮わついた足取りで会議室を出て行った。
会議室で1人になったリードイストは窓際に立ち、先程モネアの頭を撫でた自分の右手の掌を見ていた。
何を考えているのかは本人にしか知り得ない事だが、しばらく掌を見た後 その手でギュッと拳を作ると、リードイストも会議室を出た。
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同時刻
ーーーー学園島
リードイストが会議室で報告を受けている時、アルバティル学園の地下でも報告と話し合いを行う人物達がいた。
客間と呼ばれる隔離された一室では現在、ソガラムとサラがテーブルの席に着き 半仮面の執事少女ウラルが2人に紅茶を出しているところである。
「じゃーサラ君、君の話しを聞かせてちょうだいな」
出された紅茶で一度だけ舌を潤わせたソガラムがウキウキした様子でサラに報告を求めると、サラは紅茶を入れてくれたウラルにお礼を告げた後 報告を始めた。
「はい。ですが今回 私が得たものはどれも確証のない憶測の物になります」
「うんうん、ラブは目に見えないものだからねっ!確証なんていらないよっ、フィーリングでばっちオッケー」
温度差の激しさはいつもの事、サラは気にした様子もなく事務的に報告を始めた。
「まずジャスティンはやはり何も知らない様子でした。次にリードイスト王なのですが、今の段階で言える事はあの方はやはり危険だという事だけです」
リードイスト王と腹の探り合いをしたサラは、リードイストを危険だと判断した。
腹の探り合いが終わる時に見せた気の抜けたような態度は、これ以上は踏み込んでは危険と判断したサラが一芝居打っただけのこと。
「んー、サラ君が危険と判断しちゃったのかぁ。いやだなぁ・・・。一応その危険だと思った理由を聞かせてくれる?」
ガクッと肩を落としたソガラムはサラの事を信頼しているからか、理由を聞く前からサラの意見が正しいと思っている様子であった。
「まずはジャスティンがあまりにもいつも通りだった事です。公私共に側で仕える彼は 王の右腕と言って間違いないはずです。その彼がリードイスト王の考えを把握してなさ過ぎるのは、リードイスト王が表向きではなく裏で何かを始めていると思って間違いないかと。何もしていないから何も知らないと考える事も出来ますが、今起きている様々な状況は何もないと言うにはあまりにもタイミングが重なり過ぎています」
「なるほどねぇー。確かに最近ちょっと色々重なってるもんねぇ。王子君の力が使われていると思っちゃうのも仕方ないよねぇ。実際ぼくもそう思ったから警戒してたんだけどさー、王子君は何をしようとしてるんだろうね?悪い事じゃないならいいんだけどなぁー」
頭をふらふら揺らしながら話すソガラムはリードイストの持つ力は警戒しているが、リードイスト自身の事は警戒と言うほどでもない軽い感覚があるように見える。
「私もリードイスト王の力は強大であるが故に警戒は必要だと思いますが、リードイスト王が人々に危害を加えるような事をする人物だとは思えません。二度目の地震の時も私はずっとリードイスト王の側に居りましたが、彼が何かをしたようには思えませんでした。その事が1度目の地震もリードイスト王の仕業ではない理由にはなりませんが。いずれにせよ 楽観は出来ませんが、今は警戒と調査をしながら見張るのが無難かと思われます」
「そーだねっ。じゃー王子君の事はそーゆーことで。次が本題だよサラ君。ジャスティン君とは何か進展あったの?チューしたの?ねぇねぇチューしたのっ?」
シュッーーー
「それでは私はこれで失礼します。ウラルさん、紅茶ご馳走様でした」
「どういたちまちて。お気をつけて行ってらったいまて」
報告を終えたサラは客室から出て行き、残されたソガラムは案の定 ムチで首を絞められた状態でテーブルに倒れ込んでいた。
「パパたま、邪魔なのであっちで首吊りごっこちて下たい」
「冷たいなぁウラル君は。ここは優しく『大丈夫ですか?一緒に遊んであげるから起きて下さい』って言うところでしょー?」
ウラルが台拭き雑巾でソガラムの顔をペシペシ叩くと、ソガラムはケロッとした様子で起き上がった。
「まだここにいるのは、何かわたくちに言いたい事があるからではないのでつか?」
「うーん、何も起きなければ今まで通りでいーんだけどね。もしかしたらダイソン君には仕事してもらうかもしれないから、充電だけは切らさないように伝えといてくれるかな?」
ソガラムが伝言を頼むとウラルは一瞬だけ左目をピクッと動かしたが、すぐに丁寧なお辞儀をして了承した。
そのお辞儀を確認したソガラムは、用事が終わったからか ウラルが頭を上げる前に姿を消した。
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ーーーーーシオン・ヴィーナス家
「ふんふふふーん♪らんらららーん♪」
いつものように小さなステージのある部屋で楽しそうに歌うシオン・ヴィーナス。
ステージの前にあるソファでは、こちらもいつもと同じようにギターの手入れをするケント・ウッドベル。
ケントはギターの手入れをしてはいるが、頭の中では別の事を考えていた。
「おいシオン、お前 もう頭は大丈夫なのかよ?」
「ちょっとケンちゃん、その言い方は問題あると わたしは思うなっ!ケンちゃんと比べたらおバカなのは認めるけど、来世までケンちゃんよりバカかどうかは わっからないんだからねっ」
今世の賢さはすでに諦めたシオンにはケントの言いたい事が上手く伝わらなかったようだ。
「来世の話しはまだ早ぇだろ。そうじゃなくて、地震の時に意識ぶっ飛んでただろ。今まであんな事なかったじゃねぇか、今はなんともないのか?」
ケントが心配していたのは、学園島で地震が起きた時にシオンの様子がおかしくなった事だ。
室内から炎天下に突然出て行ったので それが原因かも知れないが、ケントはどうも引っかかっているようだ。
「うん もうなんともないよっ。ごめんねケンちゃん。多分テンション上がり過ぎたからだよっ。ケンちゃんとお友達になってくれたタッちゃん達にも迷惑かけちゃったね。今度会えたらちゃんと謝らないとなぁ」
「はっ、あいつらなら迷惑なんて思ってもねぇだろ。まぁ身体が問題ねぇならいいが、あんま無理はするなよ・・・って言っても お前には無駄か」
爽やかな笑顔でケントの言葉を肯定するシオンに、ケントはため息を吐きつつも口元だけは笑っていた。
シオンはケントに友達ができた事が嬉しいと言っていたが、ケントからすればシオンにもちゃんと喋れる同世代の友人が出来たのは嬉しい事だった。
ケントは自分の意思で人との距離を置いていたが、シオンは違う。
MSSがなければ 沢山の友達と一緒に学校にもお祭りにも行きたかったはずだ。
歌姫でなければ、普通の友人が出来たはずだ。
シオンの気持ちとは別に 世間がシオンを特別な存在にしてしまった事で、シオンは普通の女の子になる事が出来ない。
友達と遊びたいという小さな願いすら、叶える事が出来ないでいたのだ。
そんな時にタクトやその友人達と会う事が出来たのは幸運だったと、ケントは思っていた。
「また時間が出来たら、学園島に遊びにでも行くか」
ケントがそう言うと、シオンは分かりやすくキラキラした顔で喜んだ。
「うんっ!よぉーし、それまでにもっともっと歌の練習して みんなをビックリさせちゃうんだからっ!ほらほらケンちゃん、セッション セッションッ」
ケントは、少しでもシオンに普通の女の子としての願いを叶えさせてやりたい思って言った言葉だったが、シオンの喜びの理由は ケントが友達に会うためにわざわざ学園島にまで行こうと言った事だった。
2人の間には優しいすれ違いが起きていたが、お互いを想う気持ちは歌とギターのように綺麗に絡み合っていた。
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ーーーーー学園島
学園島では片付けをして帰って行く人達も沢山いたが、まだまだ沢山の人達が祭りを楽しんでいた。
昨日に引き続き巡回という大義名分でハイナに連れ回されるセルス。
迷子や落し物で困った人達の為に汗水流して働くパール。
特に何かをするわけでもなく、ただ人混みを散歩する黒ずくめの幼女シスと黒ずくめの継ぎ接ぎ男ニイ。
お揃いの手作りエプロンを着て、並んで料理を作るデュランとラピス。
まだ夢の中にいるタクト。
今日も学園島は日常的な非日常で楽しい一日が繰り広げられていた。
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その日の夜、人の住まない西大陸の小さな島で真っ黒な雨が降った。
黒い雨は水溜りを作る事なく、落ちた地面に溶け込んでいった。
12年前、世界に変革をもたらせた【選別の大雨】とは異質のこの黒い雨は
後に【消滅の大雨】と呼ばれるようになる。
選別の大雨による悲劇と激動を乗り越えて、やっと訪れた平和な世界。
様々な想いが交差し、未来にも希望が見え始めた最中
世界を変える第二の大雨によって、再び世界は壊れていく事になる。




