【 再会のラリアット 】
俺達は光の糸を頼りに橋の下にやって来た。
橋の上とは違い、人が誰もいない静かな橋の下を歩いていると 先程までの喧騒がまるで夢の中の出来事だったかのような気さえしてくる。
「ララちゃん、あのお城って ルーク君じゃないかな?」
しばらく光の糸を頼りに川に向かって歩いていると、ポツンと小さな城のような物が建てられているのをイリアがいち早く発見した。
城は高さ2メートル程、幅も1メートル程の大きさで 城と呼ぶには小さすぎる城なのだが、光の糸はその城に繋がっている。
「見つけたっ!ルゥゥゥゥクッッッ、出て来なさいよねっ」
城を見つけたララは川辺の足場の悪さなどお構いなしに 凄い速さで駆け寄って行った。
ララの声に応えるように 城は音もなくスゥっと消え去り、城が建っていた場所に フードを深く被った小柄な男の子ルークが姿を現した。
「もお、ララ遅いよ。ボク ずっと待ってたんだよ・・・え?えぇ?ちょっと待ってララ!なんでラリアットの構えしてるの!?」
ドカッーーー
ーーーーパシャーン
再会を果たした2人はハグではなく、見事なラリアットがルークに炸裂した。
「ガボッ、だず、けでっ。ボグッ、泳げなぃブクブクブク・・・」
ーーーーー
ーーー
ー
「ご、ごめんねタクトくん。ボク またタクトくんに助けられちゃったね」
「いや いいよ。助けたって言っても、落ち着いて立てば足が着くくらいの深さしかないんだけどね」
ルークが溺れそうになっていた川は浅く、立てば腰くらいの深さしかない。
それでも自分でカナヅチだと思い込んでしまっている人は浅い場所でも溺れてしまう事があるので、念の為 俺のアイデンでルークの身体に入って ここまで戻ってきたのだ。
後先考えず共存の力を使ってしまった為、意識を外した本体の俺はうつ伏せに地面に倒れ込んでしまい 現在砂まみれになってしまっている。
後先考えずなのは俺だけではなくララもだけど。
ルークがカナヅチなのわかってるくせに川に向かって飛ばすなんて・・・まぁその後すぐに「しまったぁ!」って言いながら後悔してたけど。
「よろしいかしら?少し状況がおかしいのではないですの?ルークさんは別に逃げも隠れもしてた様には見えませんでしたし、迷子になった様子も見受けられませんでしたわよ?」
ハイナが腕を組みながら疑問を投げかけたが、俺も同意見だ。
ララにぶっ飛ばされる前にルークは「待っていた」と言っていた気がする。どういう事だ?
「ボ、ボクは迷子になんかなってないよ。ララと逸れちゃったのは事実だけど、ちゃんと逸れた時の待ち合わせ場所のここで待ってたんだから」
【待ち合わせ場所・・・しまった、忘れてたっ!】
…なるほど、把握した。
完全にルークはラリアットされ損って事か、お気の毒に。
「みんなごめんっ!私が待ち合わせ場所の事すっかり忘れてて早とちりしてただけだった。せっかくのお祭りなのに邪魔しちゃって、本当にごめんなさいっ」
俺達の中にはララの後輩であるマキナもいるのに、先輩としてのプライドも見栄も全く気にせず深く頭を下げて必死に謝るララ。
「ごめんなんて言わないで。見つかって本当に良かったね、ララちゃん」
そんなララにイリアはホッとした様子でそう言い
「美女の前屈みを拝めた俺は逆にありがとうと言いたいねっ。ーーー痛っ!ちょ、ハイナ スネはダメだって!スネはっ!」
セルも気にするなと遠回しに言っている・・・と思う。
「おほん、わたくし達はもうお祭りを充分に堪能させて頂いた帰り道でしたし、同じ学園生が困っているのを助けるのは風紀委員として当然ですのでお気になさらず」
ハイナさんもセルを蹴りながらそう言ってくれている。
「何事にも全力のララ先輩、やっぱりカッコいいなぁ。久し振りにララ先輩のラリアット見れちゃった。あれ すっごい痛いんだけど、なんか愛を感じるんだよねー」
マキナはちょっとズレた感想を言っているが、みんななんだかんだでルークが無事に見つかってホッとしているようだ。
「そうだ ルーク。一応紹介しとくけど、そっちのミニスカ浴衣来てる子はイリアの妹のマキナだ。非感染者だけど、大丈夫か?」
ルークは人を恐れている。
それも心の声が無意識に聞こえてしまう非感染者の事が怖くて堪らないと、以前言っていた。
今ここにいる中で非感染者はマキナとララの2人だが、ララとは昔から仲が良いらしいので大丈夫なのはわかるが、マキナはルークから見たら恐怖の対象になってしまうと思い 小声で確認をすると
「う、うん。マキナちゃんは大丈夫だよ。ララに無理矢理紹介されてから もう何度か会ったことあるし。あの子 心の声と普通の声がほとんど同じだから。珍しいよね、あんなに真っ直ぐ素直な子。ララとは真逆のタイプなのに、怖くない」
ララとは真逆?
よく分からないが、ルークとマキナが面識があったのは驚きだ。
まぁマキナみたいなタイプなら確かに怖がる必要もないだろうけど。
「ねえタクトくん、よかったらみんなで一緒に花火やらない?いつもタクトくんが遊びに誘ってくれてるのにボク 外が怖くて遊べてなかったから。
ここなら誰もいないし、怖くない人だけだから・・・だめ、かな?」
「いいに決まってるだろ。でも花火なんて持ってないぞ?セルにでも買いに行かせるか」
ルークはモジモジと自信がなさそうに花火に誘ってくれた。
その事が俺はとても嬉しかった。
いつもビクビクしているルークが自分から誘ってくれた事も、俺にとってかけがえのない友人達をルークが受け入れてくれてる事も。
この学園島にはMSS感染者は大勢いるが、レベル3はごく僅かしかいない。
そして数少ないレベル3はこの狭い島では顔が割れている者がほとんどなのは仕方のない事だ。
今の世界ではレベル3というだけで様々な特権が得られたり優遇されるので、尊敬されたり羨ましがられたりもするが同時に妬まれたり嫉まれたりするのも必然。
クローツ先輩は別格だが 世間に貢献するレベル3は尊敬される者が多くいるし、そこまででは無くとも俺のようにある程度 堂々と世間に溶け込みつつ 手の届く範囲だけでも人の役に立つ事をしていれば感謝をされたりする。
だが、ルークのように外の世界を恐れ 隠れるように生活をしていると苛められたり逆恨みされたりしてしまうのが現状だ。
欲しても簡単に手に入れる事が出来ない力を持っているのに、何もしないなんてクズだとでも言うように…。
昔はこの力を持っているだけで化け物だ怪物だと言っていたくせに。
まぉそれは置いといて、ルークの場合は見た目が年齢より幼く見える事もあり 昔はひどい苛めを受けていたらしい。
今はララが付いているので迂闊にルークを苛めようとすれば強烈なラリアットで成敗される為、嫌がらせもほとんど受けなくなったらしいが、やはりトラウマは中々消えないようで 普段からなるべく人目に付かないようにコソコソしている。
フードを深く被って顔を隠すようにしているのも、臆病さの表れみたいなものだ。
クラスでも誰かと話しているのはあまり見かけず、たまに俺やセルが話しかけてはいるが いつも大体一言二言で会話が終わってしまう。
そんなルークが顔見知りしかいないとはいえ、学園の外で花火をやろうと言っているのだ。
これはセルをパシリに使ってでも花火をやるしかないと思い、俺はセルに全速力で花火を買って来てくれと頼もうとしたが ルークが「ちょっと待って」と言いながらゴソゴソと手荷物を漁り出したので待つことにした。
「花火ならボクが持ってるから大丈夫だよ。ほら」
ずぶ濡れになりながらも先程から大事そうに抱えていた大きなカバンの中には沢山の花火が詰まっていた。
「ちょっとルーク、なんであんたはずぶ濡れなのにカバンは濡れてないのよ。普通まずは自分が濡れないように防魔を張るでしょ!馬鹿なの?風邪引きたいの?」
ずぶ濡れのルークが全く濡れていないカバンから花火を取り出すのを見たララは、呆れた顔をしながらルークにそう言った。
ララのラリアットで川に飛び込むハメになったルークは、自分ではなく花火の入ったカバンが濡れないように防御魔法を張っていたようだ。
一応ツッコンでおくが、全ての原因はララの勘違いラリアットだ。
「だって・・ララがすごい楽しみにしてたから。それにボクもララと花火がしたかったし。・・・ごめん」
全く悪くないはずのルークだが、ララに怒られたと思ったのか 申し訳なさそうな顔をしながら謝っていた。
「・・っ!ほんと馬鹿っ、知らないっ!」
【なによ。私が悪いのに、そんな顔されてそんな事言われたら 素直にごめんねもありがとうも言えないじゃない・・優しすぎるのよルークは】
「なるほど、マキナと真逆ってのはこういう事か」
「うん、ララは素直じゃないけど とっても優しいんだ」
赤面しながら怒った顔をするララだが、俺とルークにはララの心の声がしっかり聞こえてきた。
マキナのように思った事を何でも口にするのとは違い、言葉とは裏腹な想いには優しさと甘酸っぱさが感じられ 俺とルークは顔を見合わせて笑い合った。
「なによっ 2人でニヤニヤして!これだからレベル3はっ!もういいから花火やるわよっ!ほらイリア達もこっち来なさいよっ」
ララが呼ぶとイリア達も近くにやって来たが、なぜかセルは顔面がボコボコになっていた。
セルが何をしたかは知らないが、まず間違いなくハイナさんにやられたのだろう。
「わぁー、花火いっぱいあるっ!ララ先輩あたしもやっていいの?」
「もちろん、沢山あるから遠慮しないでバンバンやりましょ」
そして俺達はカカカ祭りで賑わう町を横目に、少し離れた橋の下の静かな川辺で、花火を楽しむ事にした。