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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 凱旋演説 】

地獄と平和がアンバランスな共存をする日常が続いていた。

そんな中、まだ若いと言うには幼過ぎる八人の男女が世間を揺るがす程の快挙を成し遂げたとメディアが取り上げた。


今まで警察や軍でも尻尾すら掴めなかった最悪の魔教団の一角を、子供を含むたった八人で壊滅させたというのだ。


潰された魔教団は、500年前に実在したと言われてるフレイクという名の魔王を崇拝している狂った教団で、セントクルスの中だけでも毎年数百人が残虐の限りを尽くされ殺されている。


過去に一度だけフレイク魔教団員の一人を軍が捕らえた事があったが、尋問をしようとしたところ質問を始める前に教団員は、魔王の偉大さ、人間の無力さ、生贄の為に人を攫っている事、攫った人の殺し方、生贄にした後はスノーフレークの花で死体を包む事を勝手に喋り出し、その直後に大声で笑いながら自決してしまいそれ以外の情報を得られなかったらしい。


しかし、その情報だけでもフレイク魔教団が過去にどれだけ多くの命を奪ってきたのかは理解できた。


今までに国内で発見された、身元も原形も不明な変死体のそばには必ずと言っていいほどスノーフレークの花が落ちていたことから、少なく見積もっても50万人以上はフレイク魔教団に殺されていた事になる。


この事実を知り、危険過ぎると判断した軍の上層部は世間にフレイク魔教団の危険性を伝え情報提供を呼びかけたが、1つとしてまともな情報が入る事も、変死体の数が減る事もなく、民衆に恐怖を植え付けるだけの結果になってしまった。


小さい子供を叱る時

「悪いことをすると、魔獣に食べられちゃうわよ」と叱る親はたくさんいるが

「悪いことをすると、フレイク魔教団に連れて行かれるわよ」と叱る親はいない。

そんな事は、口に出すことすら恐ろしいと誰もが思っているからだ。


そんなフレイク魔教団を二十歳くらいの男女を筆頭に、たった八人で壊滅させたのだ。




演説台の前の大広場には、凱旋演説をする英雄を一目見ようと人で溢れかえっていた。


リーダー格の男女2人以外は仮面で顔を隠したまま演説台に立っており、仮面の6人の中には、顔はわからないが明らかに小学生くらいの子供もいて世間を驚かせた。


驚きと喜びで興奮が収まらない民衆の、尊敬と感謝の眼差しを一身に受けながら、リーダー格の男の方がマイクの前に立ち、演説を始めた。



「まずは皆様に声を届ける機会と場所を与えて下さった事に感謝を。そして、私のような若輩者の声を聞くために集まって下さった皆様に深く感謝を」


感謝されるべきはずの英雄が民衆に感謝を述べながら深く頭を下げた。


民衆は困惑したが、英雄の言葉を一言一句聞き逃すまいとし、次第にどよめきも収まり広場は静寂に包まれた。


どよめきが収まるまで頭を下げていた英雄が頭を上げ再度マイクに顔を近づけ声を発した。



「皆様にも伝わっている通り、フレイク魔教団の一角を壊滅する事に成功致しました」


〝うおおおおおおおおお〟

全員が一番聞きたかった言葉を聞けて爆発音のような歓声が上がる。


TVやラジオで既に聞いていた事だが、それをやってのけた本人から聞けた事で現実味が増し、半信半疑だった人も素直に受け入れる事ができて大喜びした。



「今回壊滅させた教団はフレイク魔教団の中でも異質で、生贄こそが魔王を復活させる唯一の方法だと信じ、毎日のように人を攫い、あらゆる痛みと苦痛を与えてから殺すという最悪の教団でした。今までこの国で起きた魔教団絡みの殺人は全て、この教団の仕業だった事も確認しました。

フレイク魔教団の一角とお伝えしましたが、今回壊滅させた教団以外の派閥は、人や動物を殺したりしない人達で脅威になる事がないのも確認済みです。

もうフレイク魔教団に怯えて暮らす必要はありません」



先程の歓声とは打って変わり、今は安堵の阿吽とすすり泣く声が広がっていた。



色々な想いがあるのだろう。


大切な人を奪われた恨みを晴らしてくれた英雄達への感謝。


脅威がなくなった事への安堵。


もっと早く壊滅してくれていれば恋人が死ぬ事はなかったのにと、やり切れない悔しさを感じている人もいただろう。


その様子を見ながら、英雄は悲しそうな表情のまま語りかけるように再び静かに話し出した。



「私は人が好きです。花を愛でる人が好きです。美味しそうに食事をする人が好きです。本を読み涙を流す人が好きです。家族の為に必死に働く人が好きです。動物好きの人も、野菜が苦手な人も、人見知りする人も、言葉遣いが乱暴なのに甘い物が好きな人も。大好きです。

私にとって人は尊く大切な存在です。決して生贄などという理不尽な理由で奪われていい物ではない。罪もないのに奪われていい命などあっていいはずがない。私はそう思いました。

ここにいる皆様も、多くの方が大切な人を理不尽に奪われてしまっている事は痛いほど伝わってきました。

その大切な人は、命を奪われても仕方ないと思える程の罪を背負っていましたか?」


「そんなわけねぇ!!」

「弟は虫も殺せない優しい子だったのに」

「俺の娘はアイドルになってみんなに元気をあげたいって、ううっ」


英雄の問い掛けに多くの反論が飛び交い、失ってしまった大切な人を思い出し涙を流す人々に、英雄は再度頭を下げた。


「フレイク魔教団は罪も害もない人を惨殺し、善良な人々に恐怖と混乱を与える化け物だと私は思いました。しかし、どれだけ調べても足取りすら掴めず今まで野放しになってしまっていた。

もっと早くに壊滅できていれば、悲しい思いをする人を少しでも減らす事が出来たはずなのに。

本当に申し訳ありません」



悪いのは魔教団だ。


軍でさえなし得なかった快挙を成し遂げた事よりも、救えなかった命に胸を痛め、沈痛な面持ちで頭を下げる青年が悪い事など何一つない。



正義感の強すぎる見当違いな謝罪をする英雄に、民衆は「あんた達は英雄だ」「これからは安心して暮らせる」「本当にありがとう」と大きな声で感謝を伝えた。



「お心遣い感謝致します。ですが、私達はまだ1つ皆様にお伝えしていない事があります」

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