【 到着 】
恐怖の象徴であったフレイク魔教団を壊滅させて、人々に安心と安全な暮らしを与えてくれた英雄クローツ・モデレーター。
選別の大雨による混乱の中、自らが所有する島全てを改造し、MSS感染者の子供達を正しく導いていくための学園を創り、感染者も非感染者もお互いが支え合って暮らしている今の世界の形を作った第一人者であり、英雄サラ・ストイクトの上司でもある学園長。
そんな2人が一緒にいれば人が集まってくるのも至極当然な事だ。
当の2人は人々に囲まれる事に慣れているのか、大勢に囲まれながらも丁寧にそつなく挨拶を交わしていた。
「クロさん、時間。そろそろ散らして」
ティーレさんの進言を受けた事で、人々に囲まれていたクローツ先輩が同じく人々に囲まれている学園長へと目を向けた。
「学園長、そろそろ約束の時間ですので。よろしくお願いします」
「はいはーい。それでは皆さーん、カカカ祭りを楽しんで来てねー、さよーならー」
クローツ先輩に合図を送られた学園長が右手を上げ、さよーならーと言うのと同時に魔力を放出した。
弾けるような光が人々に降りかかると、それまでは餌に集まる蟻のように増え続けていた人々が、まるで催眠術でもかけられたように散っていき残ったのは俺達だけになった。
「人がいなくなるのは寂しいねー。とりあえず人払いはオッケーだよ。それではダイゴロウ君、結界よろしくぅー」
「小僧っ子達、あまり離れるんじゃないぞ」
俺達に向けて優しくも大きな声で指示をすると、ダイゴロウ先輩が両手に魔力を練り始めた。
キッカーボール程の大きさになった凝縮された魔力を、胸の前で合掌するように押し潰すと半透明で緑色の結界が俺達がいる空間を囲むように展開された。
「相変わらず完璧な結界だね。さすがダイゴロウ、優秀だ」
「当たり前じゃ。守る事がワシの役目じゃからのぅ。これで誰も入れんし見えんし聞こえんし気付けんわ。ワシの方はこれでお役目御免じゃな、後は頼んだぞ、ティーレっ子」
「うん、もうやってる」
言うが早いかやるが早いかのタイミングでティーレさんがいつもの様にアイデンの転移を発動した。
転移の出入り口である時空の歪みが出来上がると、そこからすぐに2人組が姿を現した。
「うそっ!!!」
「えっ?本物!?」
「あわわわわわわっ」
「ふんっ」
現れた2人組はどちらも浴衣を着ているのだが、帽子とサングラスで顔を隠している。
しかし、正体はバレバレだった。
「わぁ、お出迎えさんがこんなにたくさんっ!えへへっ、なんだかテレるなぁ」
「ちっ、わざわざこんな所に出す必要ねぇだろうが。めんどくせぇ」
歌姫シオン・ヴィーナスと相棒ケント・ウッドベルが祭り会場に到着した。