【 偶然は必然的に厄介な事になる 】
「おじちゃん、あたしのホッペにシオンちゃんが踊ってるやつ描いてっ!」
「はいよっ、ほら出来たぞ」
立ち寄ったお面屋では様々なお面や髪留め、サングラスなどの飾り物が沢山売っているが一番の目玉商品はムーブペイントという書き物で今マキナがやってもらった物だ。
「わぁ、ありがとっ!ねぇねぇ見て見てっ、シオンちゃんだよっ、可愛いでしょー」
そう言いながら俺達の前でほっぺたを披露するマキナの頰には可愛らしく踊る歌姫シオンが描かれていた。
お面などに比べると少し値段が高いのと書き手によって上手い下手がある為、中々手が出しにくい商品ではあるが、ここのおじさんはかなり上手い方でマキナは満足したようだ。
ちなみに昨日の前夜祭でイリアと回っている時に俺が顔にペイントをしたのもムーブペイントだったのだが、個性的過ぎる書き手だった為かなり恥ずかしい思いをした。
まぁそれはいいとして、マキナに描かれたペイントはかなり上手い、まるで本当に小さくなったシオンがそこで踊っているように見える程でそれを見た他の皆んなもそれぞれ書いて欲しい物を頼んでいった。
イリアは手の甲に蝶々、ラピスは手の甲に花火、デュランはラピスの猛反対を押し切っておでこにラピス、セルはにゅるにゅる動き回る大ウナギを身体へ入れていた。
俺はというと
「なんだあれは…」
お面屋さんの隣に自動販売機くらいの大きさの箱があり、その箱に満遍なく貼り付けられた学園長の仮面…それが気になっていた。
販売員などはおらず備え付けの看板に
[みんなの大好きなガックエンチョーになれちゃう仮面だよー、ご自由に持ってちゃいなよー]
と記載されており、沢山の人がその記載通りに自由に持っていっていた。
しかも誰かが仮面を取ると同じ仮面が同じ場所に無限湧きしているのが、なんとも気持ち悪い。
ちょっと興味を持ってしまった俺は、イリア達がムーブペイントを書いてもらっている間に1人でその箱を見ることにした。
「うわぁ、近くで見ると毛館よりよっぽど気味が悪いな」
仮面だらけのその箱に近づいて見ると、全ての仮面に見られている気分になってくる。
これを喜んで持って行く人は完全に祭りの雰囲気に飲まれているとしか思えない。
と、思いつつ俺も周りの人達と同じように仮面に手を伸ばしてしまった。
なんとなく選んだ仮面を箱から取り外そうとしたのだが
「あれ、取れないぞ。なんでこれだけ取れないんだ?」
他の人は普通に取り外して持って行っているのに、俺が取ろうとした仮面だけビクともしない。
すると
「大当たりっー!ていっ!」
「ぐわっ」
取り外せない仮面を意地になって外そうとしていると、急にその仮面が飛び出してきて俺の顔面に張り手を喰らわせてきやがった。
なんとか転倒せずに耐えた俺は何が起きたか理解出来ないまま、とりあえずいきなり張り手をかましてきた奴に文句を言ってやろうと思い目を向けると、そこには見慣れたピシッとしたスーツの上に法被を着た道化師…学園長が立っていた。
「呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!みんなの大好きなガックエンチョーだよー。あれれ?ぼくを引き当てたのはぼくの事が好き過ぎて夜も眠れないって言ってたタクト・シャイナス君だったのかー!さすがだねっ、ラブだねっ」
う・うぜぇ。
そんな事より、この人は一応この島の最高責任者だ。
もうすぐセントクルスの王様が挨拶をするってのにこの人はこんな所でなにやってんだよ。
「何やってるんですか学園長。後30分くらいで王様の挨拶があるのにこんな所にいていいんですか?」
「いーのいーの、ぼくはホラ、ピエロみたいなもんだから。なんてのは冗談で後でちゃんと行くよ!人を迎えに来たんだけど時間まで暇だったから人間観察しながら勝手に学園長当てゲームをしてただけっ。まさか君がぼくを引き当てるとは思ってもみなかったけどねっ!もしかしてぼく達って相性いいのかもよっ、ハグでもしとくっ?」
「しませんよ。ったく…」
そんな話を学園長としていると、次第に人が集まってきてしまった。
集まってきた人達はみんな、学園長に挨拶をしたり拝んだり何かをプレゼントしたりしている。
変な人だし関わると面倒くさいしうざいのだが、学園長は人々にとっては偉人であり、恩人だ。
この島の人だけではなく、世界中の人達から感謝されているし信頼もされている。
もちろん俺もその内の一人だ。うざいけどね。
「あっ、学園長だ!あははっタクトお兄ちゃんも学園長になってるっ」
学園長が人だかりを解散させると入れ替わりにイリア達がやってきたのだが、マキナの意味不明な発言に嫌な予感を感じた俺は、自分の顔に手を当ててみた。
嫌な予感の通り、俺の顔には仮面が張り付いている。
付けてる感触が全くしなかったので気付かなかったが、さっき学園長に顔面を張り手された時に付けられてしまったようだ。
それよりも厄介なのは
「取れないっ。学園長、これ外して下さいよ」
「いやー、取ってあげたいのは山々なんだけどねっ、5時間は外れないように魔力を込めちゃったから無理なんだよねー、おめでとっ」
最悪だ。
だが、文句を言っても外れない物は外れないので後5時間は我慢するしかない。
幸いだったのは付けてる感触がないので邪魔にならないという事と、今日が祭りだという事。
俺の他にも沢山の人が同じ仮面を付けているので悪目立ちする心配はなさそうだという事だ。
「そういえば学園長、人を迎えに来たって言ってましたけど誰を迎えに来たんですか?サラ先生ですか?」
「違うよー、サラ君は王子君と待機してるしねっ。おっと、ちょうど来たみたいだねー。おーいこっちこっち」
俺の質問に答えている最中に約束の人物が近くに来たらしく、学園長は飛び跳ねて手を大きく振りながら存在をアピールし始めた。
「申し訳ありません学園長。遅くなりました…あれ、セルスがどうして学園長と一緒に?」
「俺はタクト達と一緒に祭りを回っていたんですよ。ちゃんと犯罪と可愛い女の子にはしっかり目を光らせてるんで任せて下さい」
「まったくお前は。それより、あの学園長の仮面を被っているのはタクト君なのか?」
学園長を目印に近づいて来たのは、周囲の視線を集めるような爽やかな英雄クローツ先輩と、お祭りの陽気さとは縁遠そうな雰囲気を漂わせるティーレさんと、デュランよりも縦も横も大きい風紀委員長ダイゴロウ先輩だった。
「時間通りだよクローツ君っ!ちょっと遅刻してくるくらいの方が可愛いのに。君はわかってないなー。いっつも真面目なクローツ君が寝坊して寝癖をつけたまま走ってくるっ、どーだい?萌えると思わないかいティーレ君?」
「クロさん、コレは放っておいて早く済まそ。時間の無駄」
「いや、タクト君達もいるみたいだから少し待とう。学園長、タクト君達への説明をお願いします。こちらはいつでも大丈夫なので」
よく分からないがクローツ先輩の言い方から俺達がここにいたら作業の邪魔になるという事らしい。
この前の任務の時になんの役にも立てずクローツ先輩に気を遣わせてしまった謝罪と、任務終了の時には倒れていたと聞いたので労いの言葉をかけたかったが、また次の機会にした方が良さそうだ。
「じゃあ俺達はこれで失礼します。クローツ先輩、何が出来るかわかりませんが俺に何か手伝える事がある時はまたいつでも声掛けて下さい。では失礼します」
俺がそう言ってイリア達と一緒に立ち去ろうとすると学園長が引き止めてきた。
「タクト・シャイナス君はぼくを引き当てたからご褒美にここに居させてあげるよっ!もちろん他のみんなもね。みんなタクト君に感謝した方がいいよー」
学園長のその言葉を聞き、クローツ先輩が「いいのですか?」と聞くと学園長は楽しそうに「ばっちりオッケー問題なーし」と言っていた。
そして俺達は全員意味がわからないままここに残ることになった。