【 極まってる奴ら 】
カカカ祭りの中心地ともいえる大きな櫓が設置されている場所に近づくにつれて、客や警備兵の数がどんどんと増えてきた。
陽気な喧騒が島全体に響き渡っている中、俺達一行(特にマキナとハイナさん)も周りに負けず劣らず騒がしく人の波の中にいた。
「あぁサディお姉様は小さくなられても素敵ですわっ。このままわたくしのお家へ持ち帰って家宝にしてしまいたいですわぁ」
「…デコ姉、まぶしい」
「おいデコムスメ!あたいの可愛いマリアが眩しがってんじゃねーか。あっち行ってシスコンでも照らしとけよっ」
「ふんっ」
前を歩くマリア達の方はハイナさんが絶好調にはしゃぎまくってるし
「もぐもぐっ、七色ポテトうまー!あれ、ラピ食べないの?ならあたしが食べてあげるっ。あっ!センモロコシ焼き売ってるよっ、買いに行こっラピ早くぅ!」
「1人で行ったら迷子になっちゃうよ、もう。先輩方すみません、マキちゃんの買い物を済ませてすぐに戻りますね。あっ、マキちゃん待ってよぉ」
こっちはこっちでマキナが好き勝手に屋台巡りをしてラピスを困らせている。
「ふふっ、みんな楽しんでるみたいでよかったね」
「あぁ。デュランとサディスさんが降ってきた時はどうなるかと思ったけど、なんとかトラブルもなく回れてるしな」
「まぁデュランは力の制御があんま効かないだけで、元々トラブルとかを自分から起こそうとするような奴じゃないしね。それよりタクト、小さくなったサディスさんちょっと可愛いと思わない?持ち運べる年上のセクシー美女!また俺の記憶レパートリーに新たな1ページが追加されてしまったよ」
「そんな事言ってると、またハイナさんに怒られるぞ」
記憶のアイデンという素晴らしい能力をエロい事に使用するセルに、お目付役のハイナさんの名前を聞かせると苦虫を噛み潰したよう顔で項垂れてしまった。
しばらくゆっくりと人波に流される様に歩いていると、センモロコシ焼きと唐揚げを両手に持ったマキナと、走り回るマキナのパンツが見えない様に必死に隠しながら付き添うラピスが戻ってきた。
「たっだいまぁ、はいタクトお兄ちゃん、あーん」
「なんだ?ーーーっん!こ・これは」
戻ってきたマキナが、買ってきた唐揚げを俺の口へと押し込んできたのだが、この味は
「このピリッとした辛味、しっかりした歯応えを感じさせつつも柔らかい食感。そして中から溢れ出る肉汁とあとをひく辛味が絶妙に絡み合い、一つ食べるとまたすぐに次が欲しくなる中毒性…これは円源のピリリ唐揚げじゃないか!まさかカカカ祭りでもこの幸せを味わう事が出来るなんて。偉いぞマキナ、よし頭を撫でてやろう」
最近は忙しかったり母さんが早く帰ってきたりで二週間くらいは食べれていなかった円源ラーメン屋の唐揚げ。
メインのラーメンがないのは少し寂しいが、サイドメニューのピリリ唐揚げは毎回俺が頼む定番メニューだ。
これを見つけ出して俺の為に買って来てくれたマキナは控え目に言って天使に見える程に俺は嬉しかったのでマキナの頭を丁寧に優しく撫であげた。
「やった、褒められたっ!円源の屋台を見つけたのはラピなんだけどね」
なにっ…真の功労者はラピスだったのか。
「よし、ラピスの頭も撫でてやろう」
俺がそう言いながら手を伸ばすと、マキナに連れ回されたのと日差しが強いせいか顔を赤くしたラピスが目をギュッと閉じて頭を差し出してきた。
「ふんっ!」
ラピスの頭に俺の手が触れる直前にデュランが間に立ち塞がり、仁王立ちで妨害をしてきた。
しかし、今の俺の喜びと感謝はそれくらいの妨害では止める事は出来ない。なので仕方なく…
「おいシャイナス。なんでおれの頭を撫でるんだ?」
「抑えきれない感謝の気持ちだ」
ラピスの代わりにラピスの兄であるデュランの頭を撫でる事にした。
「ぷっ、あはは。タクトの円源愛もデュランのシスコンぶりも極まりすぎだろ。さすがの俺もちょっと引くわっ」
セルが腹を抱えながら笑っているが、今の俺は気にしない。
デュランもシスコンと言われる事に慣れているのか認めているのかわからないが、腕を組みながら「ふんっ」と言っているだけで特に気にしていないようだ。
「みんな置いてくよっ。マリア達もう見えなくなっちゃってるしっ、あっ!お面屋さんがあるよっ、はやくはやくぅ」
「ーーーあれ?頭撫で撫では・・・」
円源のピリリ唐揚げに心を奪われてしまったせいで前を歩いていたマリア達を見失ってしまった。
ハイナさんが付いている事と目的地が決まっているという事で慌てて探したり合流する必要もないと思い、俺達はマキナの目に留まったお面屋さんへ寄ってから櫓のある広場へと向かう事にした。
ずっと目を閉じていたラピスが少し不貞腐れた顔をしていたような気がしたが、きっと気のせいだろう。