【飛んで、戻って。食われて、吐かれる。】
雲一つない空を見上げると、目が眩むほど力強く輝く太陽が世界を照らしており、
太陽の祝福を受けた世界が色取り取りの風船や花火を舞い躍らせて喜びを表現しているみたいだなぁ。
などと、どうでもいい事を考えながら
もの凄いスピードで一直線に飛んで行くデュランを見ていた。
「うわぁ〜めちゃくちゃ飛んでってるけど、あれ大丈夫なの?」
「デュラン君…」
「うーん、あっ!スピード落ちないから諦めて飛ばされながら寛いでるっ!さっすがラピ兄だねっ、タフ過ぎるし面白すぎるっ」
「マキちゃんよく見えるね。お兄ちゃんは心配ないけど、落ちた時に人にぶつかったり物を壊したりしないか心配だなぁ」
「サディお姉様っ!あ〜ん、いつ見ても惚れ惚れする見事な一撃ですわ。素敵過ぎますわっ」
俺と同じように空を飛ぶデュランを見ていた各々が好き放題言っている。
イリアとセル以外はデュランの心配なんて全くしていない。
なにか悪い事をしたわけでもないのに理不尽に殴り飛ばされたデュランに対して皆んなちょっと冷たくないか?と思うかもしれないが、この光景を度々目にしているので慣れてしまったのだ。
なので俺も特に心配などはしていない。
同情はするけどね。
なんといってもサディスのパンチなので、殴られたのがデュランではなく俺なら首が胴体と別居するのほぼ間違いない。
まぁそれはそれとして、さてどうしたものか…
あの勢いでは当分戻ってこれないだろうし、こちらから探しに行って入れ違いになってしまったら合流するのも難しくなってしまう。
迷子とは違うが逸れてしまったデュランとどうやって再会するかを考えていると、唐突に目の前の空間が歪み出した。
転移魔法を使った時に出来る歪みに似た空間が現れ、そこから真っ赤な髪の大男が怒った表情で姿を現した。
「おいサディ!毎度毎度いきなりぶん殴りやがって。殴るなら殴るって言ってから殴れって何回言えばわかんだよてめぇは!」
歪んだ空間から出てきたデュランがサディスに詰め寄り、ちょっとズレたクレームを吐いた。
「あん?あたいの物覚えの悪さナメてんの?それにおまえ、あたいに殴られるの好きなくせに生意気に文句なんか言ってんじゃねぇーよ。あとサディって呼ぶなシスコン」
「ふんっ」
いや、もういろいろツッコまないでおこう。
「とりあえず無事で良かったな。デュランが転移魔法を使えるなんて知らなかったよ」
転移魔法は高度というよりは繊細な魔法で扱いが難しい。
普段はガサツに見えるデュランだが、ラピスと話してデュランが意外と繊細な作業が出来る人物だと知ったものの、転移魔法が扱える程だとは思っておらず素直に驚きと感心を覚えた。
「女に殴られて怪我するほどヤワじゃねぇよ。それに転移はおれじゃねぇ。変な奴が急に飛んで来ていきなり転移魔法を掛けてきやがったんだよ」
「なんだそれ?まぁ無事に戻ってこれたんだから、転移してくれた人には感謝しないとな」
あの速度で飛んでいたデュランに近付いて的確に元の位置に送るなんて相当魔法の扱いが上手い。
たまたまにしろ、そんな人が近くに居てくれてよかった。
「そんな事よりよぉ、空から見てたら人がすげぇ集まってる場所があったんだが誰か有名人でも来るのか?」
「それってさっき俺達がタクト達と合流した櫓があった場所じゃない?だとしたら15時からセントクルスの王様が挨拶する場所だね。それと、まだ発表されてないけど王様が挨拶した後に同じ場所で歌姫シオンちゃんがサプライズミニライブやる事になってるんだぜ。後1時間で王様の挨拶も始まるし、折角だから俺達も行ってみない?」
デュランの質問に生徒会役員でもあるセルが一般に公表されていない情報を交えつつ答えてくれた。
王様と歌姫か…という事はもしかしたらケントも来るのかもしれないな。
つい先日、その3人を近くで見る機会があった。
しかも王様とケントに関しては2人っきりで話すという、一般人には中々経験出来ない距離で。
そのせいか普段は有名人や流行りモノなどには大して興味を持てない俺も、王様の挨拶と歌姫のミニライブは見に行きたいと思ったので、セルの提案に賛成をして他のメンツにもその事を伝えた。
皆んなに伝えると全員が喜んで賛成してくれたので晴れて満場一致で次の目的地が決まった。
のは良かったのだが、マキナのはしゃぎっぷりが凄い。
まだ公式では発表されていない歌姫のミニライブなのだが、騒ぎまくるマキナとダダ漏れの心の叫びによって歩く宣伝カーになってしまっている。
そんなマキナの事を情報漏洩の第一人者であるセルが笑って見ているので特にバレても問題はないようだ。
問題があるとすれば…
「サディお姉様とお祭りをご一緒できるだなんて、わたくし嬉し涙で前が見えませんわっ」
ハイナさんが壊れてしまった事だろう。
以前セルから、ハイナさんはサディスを崇拝していると聞いた事はあったが…
まさかここまでとは思わなかった。
そしてなにより、あれ程までにハイナさんが喜んでいるという事はサディスもこれから一緒に行動するという事になるだろう。
大丈夫なのだろうか…
「…えすねぇ、おいで」
マリアが呼ぶと、ハイナさんの隣にいたサディスが残像が出来るほどの速度で走り寄ってきた。
マリアに呼ばれた事が嬉しかったのかニコニコと笑うサディスに向かって、俺の背中にいるマリアがいつの間にか取り出したお気に入りの桜模様が入ったウサギのぬいぐるみを投げ渡した。
突然投げ渡されたぬいぐるみをサディスが受け止めようとした瞬間、それまでは両手に乗るくらいに小さかったぬいぐるみが大型犬くらいの大きさに変化した。
そして
バクッ
サディスが大きなウサギのぬいぐるみに食べられた。
「ーーーーーぺっ」
サディスを飲み込んだ大きなウサギのぬいぐるみはその場で3回跳びはねた後、ペットボトルくらいの大きさの何かを地面に吐き捨てた。
「…タクト、ひろって」
「拾えって、今うさぎが吐き出したモノをか?唾液でベタベタなんだが…」
俺がそう言ってもマリアは頑なに拾えと言ってくるので仕方なくヨダレまみれのペットボトルの様なものを拾う事にした。
ベタベタのソレを拾う為にしゃがむとソレが突然動き出し、飛び付いてきた。
「うわぁ!サディスさん!?なんで小さくなったんですか!?」
ソレは小さくなった唾液まみれのサディスだった。
「ギャハハ!これであたいが一緒に行っても問題ねぇな」
不敵無双のサディスだが、自分が問題のある人物だと認識している事に俺は密かに驚いた。
初めて見る現象に戸惑った俺はマリアに詳細を聞こうとしたが、相変わらずマリアは言葉数が少なすぎて一番聞きたかったサディスの小人化の事は聞けず、ウサギのぬいぐるみの名前がウサクラさんって事しか俺には理解できなかった…。
その後、俺の背中から降りたマリアが大きなウサギの背に跨り、ウサギの頭にサディスが胡座をかいて座ったのを合図に、俺達は櫓がある祭りの中心地へと戻る為に全員で歩き出した。




