【 シスコンは空からやって来る 】
「ぷはぁー食ったぁ!あぁ毎日カカカ祭りでいいのになぁ」
「だらしない座り方はやめてくださいます?一緒にいるわたくし達の品位まで低く見られたら、どう責任を取って下さるのかしら」
「祭りの時くらい多少気ぃ抜いたっていいだろぉ、今日は実質非番みたいなもんなんだし。ってかハイナはあんま食ってなかったけど口に合わなかった?」
「わたくしもちゃんと頂きましたわ。あなたやマキナさんの食べる量と比べられたら誰でも少食に見えますわよ。さっきもあなた達はなにか召し上がっていたのに、よくあれだけ食べられますわね。あぁもう、口の周りが汚れていますわ。だらしない」
色々と買い食いをしてから、噴水のある小さな広場でベンチに座って休憩をしながら満足そうにお腹をさするセル。
そんなセルの事を汚物を見るような見下した目で見ながらも、口に付いたタレをハンカチで拭い甲斐甲斐しく世話を焼いてあげているハイナさん。
そんな2人のやりとりを隣のベンチに座りながら見ていた。
「うーん、やっぱりあの2人はお似合いだよな。さっきのハイナさんは怖いと思ったけど、こーやって見てるとカップルというより熟年夫婦みたいだし」
「ふふ、そうだね」
俺の隣に座るイリアもセル達を見て俺と同じ事を思っていたようだ。
ちなみに現在後輩3人衆は広場に来ている魔劇団のパフォーマンスを見に行っている。
遠目からでもマキナがはしゃいでいるのがわかるので、見失う心配はなさそうだが若干恥ずかしい。
「おっ、バルドリ配ってるな。みんなの分も貰ってくるからイリアはマキナ達を見といてやってくれ」
「うん、わかった」
そう言って俺はバルドリを配っている場所まで1人で歩いて行った。
バルドリとはバルーンドリンクの略で名前の通り、見た目が風船の飲み物だ。
風船の中にジュースが入っていて手で持つ紐の部分がストローになっている。
中にジュースが入っているのだが普通の風船のようにふわふわ浮いていて重さも感じないので持ち歩くのに適しているうえに、飲み終わったらそのまま手を放して風船を空に飛ばすと空中でキラキラと光りながら雲散霧消するのでゴミも一切出ない祭りの定番ドリンクだ。
「7つでいいかな?はいどうぞ」
「ありがとうございます」
身体中に風船を張り巡らせたバルドリガールから7つのバルドリを受け取りイリア達の所へ戻ろうとすると、セルが手伝いにやってきた。
「半分持つよ。ってかバルドリガールのお姉さん可愛いな!それにあの風船がなんか、ブフッ」
「なにを想像して鼻血出してんのか知らないけどバルドリは飛ばすなよ」
セルと2人で無事にイリア達の元へ戻ると、魔劇団を見ていた3人衆も戻ってきていた。
「あっタクトお兄ちゃんおかえりっ!魔劇団すごかったよっ!なんかね、鳥がタマゴ産んでタマゴから小っさいおじさんが出てきてねっ、小っさいおじさんがくしゃみすると増えたのっ!すっごい増えたんだよっ!すごくないっ!?あーおもしろかったぁ、あっバルドリありがとうっ!ずずぅーーー・・・おかわりっ!」
「自分で貰ってこい」
元気MAXのマキナをスルーしてイリアとマリアにもバルドリを渡し、半分持ってくれていたセルを見るとセルもハイナさんとラピスにバルドリを渡そうとしていた。
が
ズドンッという重いものが地面に落下する音と共にセルの進路が妨害されていた。
「あぶなっ!壁!?」
突然の事に驚いたセルの目の前に舞い降りたのは壁…ではなく
「お兄ちゃんっ!?」
クラスメートの問題児【デュラン・レウカーサ】
ラピスの兄だった。
「シエート先輩大丈夫ですか?ちょっとお兄ちゃん、どうしていきなり降ってきたの?もう少しでシエート先輩に怪我させるところだったんだよ!」
ギリギリぶつかってはいないセルだが、本当にギリギリだった。
降ってきたデュランの足下はコンクリートなのにも関わらず足がめり込んでいる。
万が一セルに直撃していたら怪我では済まなかったかもしれない。
「おいシエート。エロい事考えながらおれの妹に近付くな。消し炭にすんぞ」
「いや、俺は別にエロい事なんて考えてないぞ。この鼻血はさっきのバルドリガールのお姉さんが原因だしな。そりゃラピスちゃんは可愛いし将来絶対美人になるだろうけど…ってデュラン、額の血管がピクピクしてらっしゃるのは何故でしょう…」
あぁセル終わったな。
デュランの腕力は桁違いなので、本気で殴られたら多分本当に消し炭にされる。
まぁデュランが本気で殴る事はないと思うし、横を見るとイリアが一応治癒の準備をしていたので万が一の時は任せよう。
「お兄ちゃんっ!いい加減に…しないと…わたし、怒るよ…?」
「ひっ…」
「ヒィ…」
デュランの大きな背中で見えないが、ラピスが何か言った瞬間にセルとデュランの小さな悲鳴が聞こえ、デュランの怒りのオーラも鎮火していった。
ーーー
「皆さん、お兄ちゃんがお騒がせしてすみませんでした。ほら、お兄ちゃんもちゃんと謝って」
「ふんっ」
「まぁまぁ、デュラン君もラピスちゃんの事が心配だったんだよね?良かったら私達と一緒にお祭り見て回らない?」
と、いう事でデュランも参戦して祭りを回る事になった。
まぁデュランの事だからどこかで見ているのかもとは思っていたが…
実際デュランはラピスが家を出た直後から気配を殺して尾行していたらしい。
190センチを超える大男がよく今まで気付かれずに尾行できたな、と感心さえしてしまった。
しかもちゃっかり色々食べ物も買ってやがるし。
「ヘクチッ…あ」
まぁ何はともあれしっかり休憩も取れたのでそろそろ移動しようかと思いマリアを背中に乗せると、俺の後ろ髪がマリアの鼻を掠めたのか背中から可愛らしいクシャミが聞こえてきた。
クシャミをしたマリアが俺の肩を叩き、空を指差してきたので目をやるとマリアのバルドリがふわふわと飛んで行っている最中だった。
「…まだ、あったの」
まだ中身が入っていたようで、寂しそうな顔でバルドリを見つめるマリア。
一番背の高いデュランが取ろうとしたが、手を伸ばしてもすでに届かない場所に行ってしまっていた。
ジャンプをすればデュランなら届くのだが、デュランが飛ぶと地面が割れるので自粛したようだ。
バルドリは中身が入っていてもある程度上空まで行くと中身ごと霧のように消えてしまうので諦めてもらうしかない。
祭りの時は無料で配ってくれている事が多いので、また後で貰えばいいだろうと思っていたのだが…
ーーヒュンッ
「ほらマリア!もう放すんじゃねぇーぞ、まぁ放したらまたあたいが取って来てやるけどなっ、ギャハハ」
「…えすねぇ、ありがと」
「やっほーい!マリアがあたいにありがとって言ってくれたぜぃ!この嬉しさは暴力でしか表せねぇよ!おぉ、シスコンがいんじゃん。喰らえっっっ、ギャハハハハまた飛んでった」
国家戦力並みのサディスまでもが飛来参加をしてしまった。




