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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 選別の大雨 】

体育館に着くと、すでにほとんどの生徒が来ており学年毎に並べられてあるイスに座って談笑していた。


初等部の生徒は昼食を食べたらHRをしてすぐに帰宅するので、今体育館に集まっているのは中一から高三までの生徒達だ。


時間まで特にやる事もないので、他の生徒達と同じように俺とイリアも高1ーAと書かれたプレートのあるイスに座って集会が始まるのを待つ事にした。


まだいつもの集会の時間には少し早いが空席はほとんどなく、いつもの顔ぶれが揃ってきている。


ここにいる全員とは既に顔馴染みで学年こそ中一から高三とばらばらだが、MSSLV 3という共通点があり、気兼ねなく話せる仲間だと俺は思っている。


と言っても1学年につき数人ずつしかおらず一番多いのが俺達高等部一年の六人と数が少ない。

それに用事などで毎回集会に顔を出さない人もいるので集まる人数はさらに少なくなり、おのずと親睦も深まっていくというものだ。




MSS。これは一種の病気のようなものだ。


マインドスキャンシンドローム


治療院や病院などでは、他精神窃取症候群などと失礼な病名で呼ばれる事もあるが、一般的にはMSSで周知されている。


このMSSは生まれつきとかではなく、ある災害が起きた時に一気に世界に広まった。

その災害とは12年前の6月下旬に降った、大きすぎる粒の大雨だ。


選別の大雨と呼ばれるようになるその雨は、人間の大人くらいの粒の雨で、その雨に当たってしまった子供に特別な能力が身につくというものだった。


雨に当たって能力が発症したのは20歳くらいまでの人達で、その原因は今もはっきりとは解明されていないが、おそらく発達途上である人のみが感染したものである。と言われている。


12年前の選別の大雨は全世界にほぼ同時に降り、各地で大混乱になったらしい。

混乱の原因は大人サイズの大雨だったのもそうだが、それよりも雨に濡れた子供達に突然身に付いたMSSの能力のせいってのが大きい。


大雨は通り雨のようにすぐに止み、大粒の雨で騒がしかった人達も次第に落ち着きはじめたが、人々が静かになった事でようやく子供達が自分の異変に気付き始めたのだ。


口を開いてない人達から声が聞こえるようになってしまっていた。


口では「風邪を引いたら大変よ、早く拭かないとね」と言いながら、同じ声で同じ時に「あぁ洗濯物もう一回やり直さなきゃ」と聞こえてきたりしてパニックが広がっていった。


世界規模で起きたこの災害は、文字通り世界を変える事態となった。


大雨の日から一ヶ月は世界中の機能がほぼ停止。

学校はもちろん会社なども休職者が相次ぎ、本来なら人が多く集まる娯楽施設やデパートなども人がほとんど寄り付かなくなってしまっていた。


しっかりと動いていたのは病院などの医療機関、メディア系、各国の上層部の人達、警察の一部と軍くらいだった。


人が出歩かないのをいい事に、お店などに物や金を盗みに入る一般人もいるにはいたが、そういう人達は案の定、この混乱の中でも自分の心配よりも市民の安全や治安維持を優先して職務を全うする優秀な警察官などにことごとく捕まっていった。


それからひと月が過ぎた頃、メディアを通して現在までにわかった事などが告げられた。


1、症状が出ているのは0歳〜20歳までの人

2、雨には強力な上に特別な闇の魔力が込められていた事

3、症状には個人差がある事

4、人から人への感染は起きていない事

5、医学でも魔法でも現時点では治すことはおろか症状を和らげる事も出来ていない事。


その事を伝えた上で各国の代表達は、世界が一丸となり被害にあった全ての子供達が不自由なく暮らせる環境を整える為に全力で取り組んでいる事を発表した。


国の代表同士の話し合いは、世界地図で東に位置するセントクルス大陸の王を中心に話がまとめられ、それまでは大小様々な戦争などを繰り返していた北と東と南の国が休戦協定を結び、対策や設備建設などを力を合わせて進めていった。


大きな被害と混乱はあったが、たくさんの命が消えていく無価値な戦争などがなくなり、世界中に忙しい平和が訪れた。

ちなみに俺とイリアは当時セントクルスに住んでいた。


大雨の日からしばらくは同情や哀れみの目で見られていたMSS感染者達だったが、しばらく経つと非感染者達の中で、感染した子供達を非難する声が出始めた。


「人の心を盗み見る。気味が悪い。怖い。あいつらが悪事を働こうとしたら俺達には止められなくなるぞ。お前達のせいで落ち着いて生活できない。化け物。近寄るな。見るな。聞くな。覗くな。消えろ。死ね、、、」


被害者だったはずの子供達が、なにも罪を犯していないのに加害者のように扱われ迫害されるようになっていったのだ。


生きにくい生活を強いられた感染者とその家族はひっそりと人目の付かないように暮らすしかなかった。




それから2年


様々な事があったが、人とは不思議なもので一見では大雨以前のような日常に戻りつつあった。


MSS専用の施設や交通機関などが作られた事で大きなトラブルも減り、改善の兆しすら見えないMSSだが解ってきた事もあった。


一番大きな発見は個人差の度合いだろう。

その度合いの発見と発表は、感染者よりもむしろ非感染者に安心をもたらした。


LV1、人の機嫌が伝わる程度、じゃんけんをする時などに相手が何を出そうとしているかが、なんとなくわかるくらいの軽い症状で範囲も半径1メートルが最大であり、感染者の約7割がLV1。


LV2、自分に向けられた好悪感情を無意識に感じ取り、集中すれば近くにいる人が何を考えているのかを断片的に読み取る事が可能で範囲は最大で5メートル、感染者の約3割がLV2。


LV3、人の考えが無意識に聞こえてしまい、集中すれば人が忘れている潜在記憶まで読み取る事が可能。範囲も最低でも半径10メートル以上で最大値は不明だが、感染者の1割にも満たない、ごく僅かな症例。


尚、MSS感染者同士はレベルに関わらずお互いの考えが聞こえる事はない。


メディアのこの発表によって、非感染者の人達は自分の考えが盗み見られる心配が激減し安堵した。


レベル1と2の感染者達も、今までは少なからず避けられたり怖がられたりした事があったが、これで少しはマシになると喜んだ。


それでもレベル3感染者だけは喜ぶ事も安心する事もできずに苦しい生活はより深い絶望の生活へと変わっていくことになった。


人がいる所にいけば嫌でも聞こえてくる声。

自分がレベル3だとバレれば畏怖され暴行を加えられる事も珍しくない。

バレないように聞こえないフリをすれば、本当に声を掛けられていたのに気付けず、無視した事でレベル3だとバレる。


非感染者の目から見れば、レベル1と2は人間でレベル3は化け物という認識になりつつあった。


レベル3の子供にとっては、誰かに見つかれば大勢にイジメられる、鬼が多すぎる恐怖のかくれんぼのような地獄の生活になっていき、自殺する子供や一家心中する人達も少なくなかった。

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