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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
49/165

【 毛館からの帰還 】


暗い。いや、黒い…か?


大きな毛の手に捕まった俺は真っ暗で何も見えない場所に連れて行かれたようだ。


暗くて確認は出来ないが柔らかい椅子のような物に座らされている。


手足を何かに縛られていて動かす事も立ち上がる事も出来ないが、身体のどこにも痛みを感じないので怪我はないと思う。


「ーーー!?」


顔以外動かせない上に暗闇のせいで周りを確認する事も出来ないので、一緒に毛の手に捕まってしまったマリア達が無事か確認をしようとして声を出そうとしたが、声が出ない。


口を何かに塞がれている訳ではないのに何度試してみても声が出なかった。


あの状況で縛られたとなると、おそらく髪の毛で手足を縛られているはずだと思いモエルの魔法で焼き切ろうしたが魔法も使えない。


得意属性の光魔法でせめて周りが見えるように照らしてみようとしたが、魔力そのものが練れなくなっていた。


「(これはさすがにまずいぞ。なんとか状況だけでも把握したいが…)」


目はだめ、魔法もだめ、音もない、身体は動かない、声も出せない…それなら。


俺は暗闇の中で目を閉じて、MSSに意識を集中させた。


レベル3の俺は意識をしなくても周りの声が常に聞こえてしまう。


そしてこうやって意識を集中させればより遠くの声を聞いたり、よりハッキリ聞こえたりする。


意識の仕方によっては相手が忘れている記憶までなんとなく把握することが出来るほどに強力なので、自分の魔力が練れなくても外付けのようなこのMSSの力なら発動出来るかもしれないと思い、藁にもすがる思いで意識を集中させた。



「(ーーーダメか。)」


全くなにも聞こえない。


音を遮断されていると言うよりは周りに誰もいないように静かだ。


しばらく試してみたが願った結果を得る事が出来ず諦めた。


そして目を開け、暗闇の中へ視線を戻すと変化があった。


人がいる。



「ーーーー」


少し離れた場所に金髪の子供が立っていた。


暗闇のせいで金髪と外見のシルエットしかわからないが、雰囲気から察するに5.6歳くらいの少年のようだ。


俺は必死に自分の存在を知らせようと、出ない声を出そうとしたり身をよじらせて摩擦音が出るようにしてアピールした。


その成果があってか、金髪の少年はゆっくりとこちらへ近づいてきた。



突然現れた金髪の少年に対して警戒よりも先に安堵した自分を疑問に思う事もなく、少年がこちらに気付いて近づいて来てくれた事に喜びを感じていたが、後五メートル程の距離で少年は足を止めた。


お互いが手を伸ばしてもまだ届かない距離で少年はこちらを見ている。


暗闇のせいで表情を見る事は出来ないが敵意は一切感じない。

それどころか、どこか懐かしい感じさえする。



コツッコツッ コツッコツッ


俺の全ての意識を金髪の少年に向けていると、不意に背後から足音が聞こえた。


その音に驚き、俺はとっさに立ち上がり振り返った。


それまで動かす事の出来なかった手足が自由になった事への違和感を考える余地もないまま振り返えるとそこにはまた新たに人がいた。


暗闇のせいでやはり表情などは見えず、綺麗で長い金髪を後ろで一つに束ねた女性がいるのがわかった。


「…サラ先生?」


背後に現れたサラ先生のような雰囲気を持つ女性に驚き、不意に名前を呼んだ。


突然声が出るようになった事など意識する事も出来ない程の疑問が頭を埋め尽くしていると、今度は右側から足音が聞こえてそちらを向く。


すると茶髪で短髪の青年らしき人物と少し暗めのミディアムヘアーの少女らしき人物がいた。


「セルと、イリアか?」


訳がわからないまま、セルとイリアらしき人物がいる場所に向かって歩いて行く。


しかし近付こうとしてどれだけ歩いても距離が縮まらない。


俺はセル達に近づくのを諦め、サラ先生らしき人物の方へ近づいて行く事にした。


しかし結果は同じだった。


「なんなんだよ…」



歩き疲れた俺はその場にしゃがみ込んで膝を抱えた。



スッ スッ


誰かが優しく頭を撫でてくれた。


髪の毛から伝わる女性らしく優しい手の感触、懐かしくて暖かくて安心する。


ポンッポンッ


今度は違う手が頭に優しい刺激を与えてくれた。

大きくて少し熱くて大好きだったような気がする手の感触。これは…


「…父、さん?」


懐かしくて嬉しくて寂しい気持ちが心を埋めていく感覚を味わいながら、俺は意識を失った。


意識を失う直前、最初に見た金髪の少年がすぐ近くで声を掛けてきた気がした。


「大丈夫だよ。僕がなんとかしてあげるから。安心して…」


・・・・・


・・・・


・・・


・・



「ケッケッケッ…お目覚めですか?」


目を覚ますと、聞き覚えのない声で聞き覚えのある笑い方が聞こえてきた。


その発信源は、目の前にいるカラフルな洋服に身を包み、艶々の黒髪をヘアーバンドで横に一つ纏めにした綺麗なお姉さんのようだ。


変な笑い方のお姉さんはイタズラっぽい笑顔を向けて俺を見下ろしている。


当の俺は椅子に座り寝ていたようだ。


「ーーーっ!?って、ここはどこだ?マリアとマキナは?毛は?父さん……は、いる訳ない。夢、だったのか」


父さんは俺が小さい頃に死んでいる。


なのであれが現実ではないのはわかっている。


声が出なくなったり、急に治ったり、それなのにその事に疑問を感じなかったりと不可解な事を不可解と認識できないのは夢ではあるあるだからな。


ってかどこからどこまでが夢なんだ?


「あっ、タクトお兄ちゃんやっと起きた!おっそよー!うんうんっ、良い感じっ!いつもそれくらいセットしてたらモテモテなのにっ」


「…タクト、グッ」



騒がしい横を見てみるとマリアとマキナも俺と同じ様に椅子に座っていた。


二人共浴衣を着ている事から、カカカ祭りに来たとこまでは現実のようだ。


「二人共そんな髪型だったか?どこから現実かわからなくなってきた」


二人の浴衣はさっきまでと同じだが、二人の髪型は見覚えがない。


マリアはいつもボンボンのようにボリュームのあるツインテールにしているのだが、今はストレートに下ろして毛先をゆるふわな感じに内巻きにしている。


マキナは俺の記憶ではさっきまで走り回っていたので、セットなどしていなかったと思うのだが今は手の込んだ編み込みで綺麗に纏められている。


「ケッケッケッ、君は乙女心を理解していないね。まずは感想を言ってあげるのが男の子のマナーだよ。私がせっかく良い男に仕立ててあげたんだからそのヘアースタイルに見合う男になって貰わないとね」


いや、まず現状を理解するのが普通の人の思考だと思うのだが…ん?仕立てた?


そこで初めて俺は近くにあった鏡を見て自分の変化に気付いた。


「うおっ、いつの間に!?」


いつもはセットなどせずに無造作なままの俺の髪の毛が、長さは変わらないが毎日手入れをしているかの様なツヤ感を出している。


それに普段は前髪で少し目が隠れるくらいで、黒髪なのも相まって多少陰気な雰囲気があったと思うのだが、今は前髪が上がっておりどこかキリッとして見える。


「ちょっとお兄ちゃんっ!感想は?マキナ可愛いよマジ天使って言う感想は?」


「…マリアも、てんし」


「あ、あぁ。二人共良く似合ってるよ。女の子みたいだ」



そして俺は二人の息の合ったコンビネーションによってぶっ飛ばされた。



ーーーーーーーーー


その後二人の機嫌が治ってから、変なお姉さんに色々と説明をしてもらった。


まず変なお姉さんはモーテルという名前らしい。


そしてあの毛館は現実だったようだ。


モーテルさんは美容師で毛のスペシャリスト。

あの毛館全てモーテルさんの髪の毛で作った物だと聞かされた時はさすがに疑ったが、目の前で髪の毛を自在に伸ばしたり縮めたりしてくれたので納得した。


そして毛館に入った時点からスタイリングのカウンセリングが始まっていたと言うのだ。


まずは毛館を三人で歩いている時に俺達の事を隅々まで観察してそれぞれに似合う髪形を考えていたらしい。


その後の毛の手に引きずり込まれてからも夢ではなく記憶や性格を見るためのもので、軽い催眠状態にさせられていたらしい。


夢とは違い、最初は思考が普通だったのに時間が経つにつれて頭が回らなくなっていったのは催眠状態が深くなっていったからのようだ。


俺は暗闇でマキナは学園だったらしく、個人差も大分あると言っていた。


そこまでする必要があるのかを聞いたところ

「髪はその人にとっての神。その人の全てを統括する存在。手なんか抜いて人の髪を触るなんて私には出来ないね」との事らしい。


その他にも色々言っていたが、髪が神かどうかは俺の価値観ではわからない。

だが、なんとなく納得できる部分もあった。


髪の毛とシルエットしかわからなかった暗闇でもセルやイリアだと瞬間的に把握した。

それはやはり髪の毛もその人物を作り上げている大事な一部だとは思えたからだ。




「髪は全てを見ているし覚えているんだよ。君の記憶は髪の毛を通して私も見たよ。辛い事を思い出させてしまって申し訳なかったね。でも大切な思い出と温もりも髪を通して思い出せたんじゃないかい?」


モーテルさんは先程までのイタズラっぽい笑顔ではなく、穏やかな笑みを浮かべて俺にそう言った。




父さんの記憶はほとんどないが、あの熱くて大きな手は覚えている。


褒められる時、慰められる時、あの大きな手で俺の頭を優しく不器用に撫でてくれた。


俺はその大きな手が好きで、不器用だけど誰にでも優しい父さんに憧れていた。


それでも目まぐるしく変わっていく環境や生活が続いていくにつれて、少しずつ父さんの事を思い出せなくなっていった。


今では顔もハッキリと思い出す事が出来ないが、暗闇の中で触れた熱くて大きな手の温もりが、幼かった頃の気持ちを思い出させてくれたのは確かだ。


「はい、色々文句も言いたいところですが良い経験をさせていただきました。ありがとうございます」


「ケッケッケッ!素直なのか素直じゃないのかわかんないね。まぁいいか、私も君達のおかげで良い毛い毛んが出来たしね。」


楽しそうに笑うモーテルさんの言葉を聞いて、さっきから気になっていた事を聞いてみた。


「受付をしてくれた怪しい雰囲気のおじいさんと同じ話し方ですけど、親子とかですか?」


「ケッケッ。あれは私だよ。メイクが得意な友達がいてね。ホラーな雰囲気に合う感じにメイクしてもらったんだよ。こんな綺麗なお姉さんが受付してたら誰も怖がらないだろ?」


なるほど、納得。


受付をしてくれた人は明らかに老人だったのに今思えばMSSで声を聞いていない気がするし、こんな濃い親子がいると言われるよりも現実的だ。


モーテルさんは俺達よりは大人だが、まだ20代半ばのように見えるし心の声が聞こえないのでMSS感染者なのだろう。



そんな話をしながら歩いていると出口に到着した。









いつも更新遅くなってしまい申し訳ありません。


見てくださっている皆様に深く感謝しています。


セカンド

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