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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 妹達 】


太陽がほぼ真上に辿り着き、世界を力強く照らしている。


眩しさも暑さも普段なら溜め息どころか愚痴が出るほど憎らしく思うが、今はその全てが友達に思えるほど気持ちの良い昼だ。



ーーーーーーー



「みんな早く早くぅー!」


「もぅマキナったら、走ったら危ないよ」



昨日の騒がしくもほのぼのとした雰囲気とは打って変わり熱気と活気と多くの人で溢れ返る道で、人混みをすり抜けるようにグングン進むマキナが飛び跳ねながら俺達を誘導しイリアがそれを窘める。



いつもと違う街、いつもと少し違う面子


いつもと同じ平和な日のいつもと違う特別な日。



年に一度の一大イベント夏花火祭り、通称カカカ祭りに俺達はやってきた。


天気は快晴、体調も良好、腹もいい感じに減っている。



今日はマリア達の保護者の役割もあるので高鳴る鼓動と高ぶるテンションをなんとか抑え、ラピス達とはぐれないように気を配りながら人混みを進む。


背中に張り付くマリアに重さは感じないが、照り付ける日差しのせいで汗が額を濡らしてくるのが少しだけ煩わしく感じる…



「タクト先輩 額に汗が。いま拭きますね」



そんな事を考えていると隣を歩くラピスが手に持った黄色の巾着袋からハンカチを取り出し、マリアをおぶっている為に手が空いていない俺の汗を拭ってくれた。



「悪いなラピス、ありがとう」


「いえ、疲れたりしたら無理せず言って下さいね」



俺がお礼を言うと、はんなりした笑顔で気遣いの言葉をかけてくれる【ラピス・レウカーサ】。



ラピスは俺のクラスメートの問題児デュランの妹でマキナとマリアのクラスメート。


今までは顔を合わせても挨拶をする程度に接した事しかなかったが、大人しく気遣いの出来るとても良い子ってのが俺の中のラピスに対する印象だ。


背が低くまだ幼い感じはあるが整った顔立ちをしており、将来は間違いなく美人になるだろう。


今日は祭りという事で俺達は全員気合いを入れて浴衣を着用している。


ラピスは深みの強い瑠璃色に小鳥としゃぼん玉の刺繍が入った浴衣を着ており、控え目だが綺麗でおだやかな顔つきと相俟って、儚くも可憐な人形のようだ。


歩けば物を破壊するとまで言われているデュランと血の繋がった妹だというのがいまだに信じられない。



「ーーどうかしましたか?わたしの顔に何かついていますか?」


「いや、その浴衣よく似合ってるなぁと思ってさ」



デュランとは似ても似つかないラピスを見ていると、俺の視線に気付いたラピスが少しモジモジしながら顔を下に向けてしまったので俺は率直な感想を伝えた。



「っ!?あ、ありがとうございます。お兄ちゃん以外の男の人にそんな事言われたの…初めてです」



顔を真っ赤にして下を向き、はにかみながらモジモジと早口に喋るラピスを見てデュランが過保護になる気持ちがなんとなく理解できた。


なぜか守ってあげたくなる雰囲気の子だな…



「兄妹仲が良いみたいだな。デュランがレベル3だから2人は寮じゃなくて一軒家で2人暮らししてるんだろ?不便な事はないか?」


「はい、意外に思うかもしれませんがお兄ちゃんはあれで結構綺麗好きですし家事も料理も2人でなんとかやれています。実はこの刺繍もお兄ちゃんが縫ってくれたんです」


「デュランが!?それは確かに意外だな。まぁこれだけ可愛い妹がいたら兄として頑張るってのもわかる気がするな」


「っっ!?」



まさかあのデュランが裁縫とは…


195㎝の真っ赤な髪の大男が正座しながら夜な夜な縫い物をしている姿を思い浮かべると、暑くて少しだけ沈んだ気持ちがどこかに飛んで行った。




そんなシュールな想像に浸っていると、背中で寛いでいたマリアが俺の肩をトントンっと叩いてきたので首だけ振り向きマリアの方を見た。



「どうしたマリアあッッッつッッ!!!」


「…たこ焼き、できたて」


振り向いた瞬間に口の中に熱々のたこ焼きを突っ込まれた。


ずっとおんぶしてたのにどーやって出来立てのたこ焼きなんか買ってきたんだ!?



「…タクト、おいし?」


「まず熱いっ!次に痛いっ!……でも、うまい。ってかいつの間にたこ焼きなんか買ってきたんだ?」



熱いし火傷して痛かったが確かに美味かった。


それよりも気になった事をマリアに聞くと後ろを振り返り指を差した。



「…おぃちゃん、くれた」


マリアの指の先に目をやると、捩り鉢巻きをした恰幅の良いたこ焼き屋のおじさんがマリアに気付き大きく手を振っていた。


あのおっちゃんが元凶か。

くそっ、後で美味しかったたこ焼きのお礼と火傷の文句を言うついでにたこ焼きを買いに行ってやる。



「タクト先輩がわたしの事を可愛いなんて言うから、きっとマリアちゃんはヤキモチを妬いたのだと思いますよ。マリアちゃんタクト先輩の事大好きですから」



一連の流れを見ていたラピスが優しく微笑みながらマリアの奇行の理由を伝えてきたが…それは違うぞラピスよ。


君は知らないのだろう。


俺がいつもマリア達三姉妹に散々おもちゃにされているという事を…



「…マリアも、かわい?」



ラピスの迷言に乗っかるようにマリアが小首を傾げながら浴衣姿をアピールしてきたが、マリアは現在俺の背中におぶさっている状態なので全く見えない。


しかしここでマリアの機嫌を損ねさせると、また無防備な背後から理不尽な奇行を繰り出される可能性が高くなるので俺はキメ顔で返事をしてやる事にした。



「あぁ、世界で一番輝いてるよ。眩しいのは太陽のせいじゃなくて近くにマリアが居たからなんだな。ハハハ…あッッッつッ!」


頼んでもないのに熱々のたこ焼きのおかわりをまた口に突っ込まれた…



ーーーーーーーー




「もぉ、みんなおっそいぞぉー!ってマリア何食べてるのっ!ずっる、一個ちょうだい!やっぱり二個ちょうだい!」


「…マキ、お手」



円形に屋台が並び中心に巨大な櫓がある祭りの中心部へと到着した。


先についていたマキナとイリアは俺達が来るまで飲み物を飲みながら待っていてくれたようだ。



「マキちゃんそんな格好で暴れたらダメだよ。女の子なんだから気を付けないと」



マリアにたこ焼きを貰うために犬の真似をしながらお手をするマキナに対してラピスが注意をする。


マキナも一応浴衣なのだが動きやすさを重視すると言って裾を膝上20㎝に仕立て直したのを着用しているので、スレスレというかギリギリだ。



「わかってるって!でも大丈夫、今日は見えてもいいようにおねぇちゃんのパンツ履いてきたから」


「えっ?マキナそれ本当?冗談だよね?」


「じょ、冗談に決まってるよー。うん、あはは」

【やばいこれ絶対後で怒られるぅ。帰ったらバレないように返しとこっ】


「マ〜キ〜ナ〜!あっコラ、待ちなさいっ」



…アホだ。やっぱりマキナはアホだった。


いくら姉妹といえど人の下着を勝手に履くのに抵抗はなかったのか?


それにバレないようにって考えた時点でバレるのもわかってるだろ。


マキナはMSS非感染者でイリアはレベル3なんだから筒抜けだっつーのに。


まぁマキナの場合はMSSに関係なく嘘が下手すぎるからどっちみちバレるだろうけど。



「あまり離れると合流するのが大変そうだから、とりあえずイリア達を追いかけるか」


「そうですね。いつもマキちゃんがご迷惑をおかけしてすみません」



いつものように好き勝手に走り回るマキナの行儀悪さを恥じるように謝罪するラピスと並んで、イリア達の後を追いかけた。




マリアが揶揄いマキナがはしゃいでラピスが窘める。


きっといつもこんな感じなのだろうな。


この3人は全員MSSレベル3ではないのだが、中等部の中では優秀だと言われている。


マキナはスポーツ万能で陸上部に所属しているが、他の部活の助っ人なども度々頼まれては活躍している。


ラピスは学力で常に上位にいるらしく、テスト前になるといつもマキナはラピスに勉強を教えてもらいに行っているし魔力もかなり強いらしい。


マリアもこう見えて意外と頭がいいし、あの二人の姉からわかるように魔力が圧倒的だ。



なかなか良いチームなのかもな…。






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