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光のタクト  作者: セカンド
序章
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【 酢豚とおでこと戒めの昼休み 】

〝生徒の皆様、午前の授業お疲れ様でした。ランチの時間です、本日の献立表を見て、食べたいメニューの札を自席の上に表向きにして置いておいて下さい。それ以外の物が欲しい場合は各階に設置してある売店でお求め下さい〟


先輩達の襲撃以降はトラブルもなく授業が進み、学園全体に校内放送が響き渡りお待ちかねのランチタイムがやってきた。


「はー、メシだぁー。おっ酢豚があるじゃん、Cランチ決定。タクトは弁当か?」


大きな伸びをしながらお腹をさするセルがCの札を机の上に置き、こちらに机を寄せてきた。


ランチのメニューは内容は毎日代わるがジャンルはA和食B洋食C中華D軽食で固定されている。

札に大盛りや少なめと書いておくとそのように支給してくれる。

置いた札が点滅しその後高速点滅に変わってから3秒後に転送されてくる優れランチだ。


「あぁ、俺は母さんが作ってくれた弁当。たまにはランチも食べたいけど弁当いらないって言ったら、母さんこの世の終わりみたいな顔で落ち込むからね」


と言いつつも、なんだかんだで母親が作ってくれる弁当は大好きなので毎日感謝している。

恥ずかしくて面と向かってお礼などは言えてないけど。


そんな事を考えながら弁当の蓋を開けてみると、中から顔を出したおかずのメインがピカピカ輝く酢豚だった。。。


隣で俺の弁当を覗き込んでいたセルが、身体をくねくね動かし下手すぎるウインクと気色悪い投げキッスをしながら「ですてぃにぃー」と言ってきやがった。


今日だけは感謝より憎しみが勝つが、母さんにも酢豚にも罪はないのでおいしく残さず頂きます。




「お食事中ごめんあそばせタクトさん、少しよろしいかしら?」


弁当とCランチの酢豚と酢豚を1つずつ交換し、他愛ない会話をしながらセルと昼食を食べていると、キラキラと手入れの行き届いた綺麗なパーマのかかった金髪を揺らしながらハイナ・エステイムがこちらに声をかけ近付いて来た。

歩くたびに髪留めにしているティアラとツヤツヤのおでこが光を反射して眩しい。


「どうしたのハイナさん、わざわざ隣のクラスまで」


ハイナさんは1-Bでクラスが違う。

隣とは言ったがAクラスだけは他のクラスと校舎が違い、かなり距離が開いている。

昼休みなどは問題ないが、授業の合間の休憩時間などでAクラスの人が他のクラスに行ったり、他のクラスがAクラスに来るのは時間的に難しいくらいの距離だ。

それなのにわざわざAクラスまで来るのは珍しい。


「えぇ、大したことではないんですの。伝言をお願いしたくて伺っただけですわ」


伝言?俺はあまりこのクラスから出たりしないから、このクラスの誰かにって事か?

それなら俺ではなく、普段からハイナさんと関わりがある俺の隣のセルに頼めばいいのに。


「あぁ、いいよ。誰に何を伝えればいいの?」


疑問はあったが、伝言くらいなら別にいいかと思い返事をした。


「感謝致しますわ。では、本日生徒会ミーティングが放課後にありますので、タクトさんのご友人の少し背の高い短髪のゴミクズに忘れずに来るようにお伝えください」


「まてぇい」


隣でご飯を食べながら話を聞いていたセルが立ち上がりハイナさんに詰め寄るが、ハイナさんは完璧にセルを無視し俺に笑顔で「それでは、ごきげんようタクトさん」と言って教室の外へ出て行ってしまった。


シカトされたのが堪えたのか、セルはショックを受けた表情でハイナさんが出て行ったドアを見つめたまま酢豚の刺さったフォークをぷるぷる震わせていた。



しばらく放置したが、動きがないので仕方なくセルに声をかけることにした。


「・・・さっきハイナさんが来て、放課後に生徒会ミーティングがあるから忘れずに来るように俺の友達の少し背の高い短髪でゴミクズの変態に伝えてくれってさ」


「聞いてたよ!ミーティング以外の事は伝えなくていい事だよ!あと変態は追加しなくていい事だよ!」


さすが記憶力に定評のあるセルだ。

俺が勝手に付け足した言葉もハイナさんが言っていないという事にすぐ気付いた。




昼食を食べ終えて自分の席からボーっと窓の外を眺めていると、昼休み中ずっとどこかに行っていたイリアが教室に戻ってきた。


「おかえりイリア、どこ行ってたんだ?」


いつもは大体自分のクラスで弁当を食べているイリアが今日は昼休みになってすぐにどこかへ行ったきり帰ってこなかったので、少し気になって聞いてみた。


「マキナがお弁当忘れて行っちゃったから、共同食堂で待ち合わせして届けたついでに一緒にお弁当食べてきたの」


「共同食堂で食べて来たのか?大丈夫だったか?」


少し疲れた表情で答えたイリアが心配になり、俺は慌てて質問を重ねてしまった。


そんな俺を見てイリアは驚いた顔をした後すぐに、子供をあやすような優しい笑顔で俺を見ながら


「心配してくれてありがとう。大丈夫、何もなかったよ。合流した後はあまり人がいない外の芝生にシート広げて食べてたから。マキナが元気すぎて少し疲れたのが顔に出ちゃってたかな。心配かけてごめんね」と言って心配はないと伝えてくれた。


その答えと表情を見て本当に何もなかった事を理解し安心したが、今度は逆に心配しすぎな俺をイリアが心配していた。


他の人が見れば過保護すぎると思うかもしれない。

しかし、自分の目の届かない所で何かあったらと思うと気が気じゃない。


俺は過去に大きな罪を犯した。

その罪のせいで消す事のできない大きな傷をイリアに付けてしまったのだ。


自分の犯した罪から逃れるつもりはないが、俺がどんな事をしたとしてもイリアに付けてしまった傷を消す事は一生できない。


俺にかろうじて出来る事は、イリアが負ってしまった傷の痛みを思い出させないようにする事くらいだ。


学園での生活にも慣れ、平和な日常が続いていた事で気が緩んでいたのかもしれない。


今日の朝にしてもそうだ。

いつもは大体一緒に登校するか、俺がいなくても妹のマキナと一緒なのが当たり前になっていた事で、イリアが一人で登校するなんて考えもしなかった。


偶然は重なる事がある。

今日みたいに偶然一人で登校している時に、偶然トラブルに巻き込まれるかもしれないのに、そんな想像をする事すら出来ないくらい気が緩んでいた。

気を引き締めないとな。





〝本日の授業は全て終了となります。生徒会役員、MSSLV3、部活動のある生徒以外の生徒は速やかに下校して下さい。尚、本日の生徒会ミーティングは生徒会室、MSS集会は第3体育館で行います〟


一日の終業を告げる放送が流れ、部活などをしていない生徒達は学業から解放され、登校する時よりも軽い足取りで下校していく。

そんないつもと変わらない景色を教室の窓から見下ろしながら、俺も帰り支度を整えた。


「タクトも今日は集会か。俺もミーティングあるし終わったら一緒に帰ろうぜ」


「あぁ、じゃあ集会終わったら校庭の噴水の所でイリアと待ってるよ。何かあったらメールしてくれ」


帰りの約束を取り付けてセルは生徒会室へ向かい、俺とイリアは第3体育館へと向かった。

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