セントクルス王城広場攻攻戦《後半》
すぱぱぱぱぱぱぱんっ
ぷしゃー
マシンガンのような殴打音が響き渡り
広場に視線を戻すと、サディスがマゾエルを攻撃して力を増幅させていた。
瞬く間にサディスを纏う魔力が先程より濃く大きくなっていったが…
「あれは…やり過ぎではありませんか?」
サディスを纏う魔力が、炎というよりマグマに見えるほどの濃さになっている。
あれほどの魔力を攻撃に使用してしまったら、魔獣どころか王城…いや、国が消えて無くなってしまうのではないだろうか。
「クローツ君、少し予定と変わりますがサディスさんの魔力にマグネットをお願いします。結界は私とマゾエルさんで強化します」
サラ先生の意図を理解して、魔獣に使用しているマグネットを解除した。
そして空に向けて十字ナイフを投げて空中で固定させる。
広場のナイフを始点にサディス、空中のナイフ、マウスハウスが一直線になるように自分の魔力を付着させて準備は整えた。
サディスが攻撃を放った時に、威力が横に広がらないようにする為にサディスの魔力をマグネットで誘導する作戦だ。
正直あの魔力を誘導できる自信はあまりないのだが、サラ先生がやれと言うのなら、やれば出来るという事なのだろう。
いや、やるしかないのだ。
「わかりました。すみませんが結界の方はお任せします」
マゾエルがサディスに投げ飛ばされるのと同時に、サラ先生は監視塔を出て行った。
ふぅ。
一人きりになった監視塔で僕は大きく息を吐いた。
タイミングが全てだ。
マグネットを発動するタイミングが一瞬でも遅ければ全員が死ぬ。
逆に早すぎれば攻撃の軌道が逸れて魔獣を殲滅できずに当初の目的が達成できない可能性が高くなる。
どちらも絶対にあってはならない事だ。
額を流れる汗が目に入らないように手で拭い、その瞬間を待っていた。
視界の端に、先程と同じ場所にいるタクト達が見えた。
マゾエルにマリアにタクト君…
もう長い付き合いになるが、未だにマリアは謎だらけだ。
マリアに気に入られているタクト君も謎といえば謎だが、彼はどちらかと言うと普通の学生な気がする。
少し考え込む癖がありネガティブではあるが、正義感が強く、優しくて頭の回転も早い。
だが、特に何かが優れているわけでもなさそうだ。
しかしマリアや学園長が気に掛けているのは事実だし、僕自身も彼とは少ししか話してはいないが気に入っている。
「将来有望…ってところかな。それにしても…」
遠目から見ても、やはりマゾエルは圧倒的だね。
マゾエルの周りだけ空間が歪んで見える…
これはサディスの炎と同じ原理だ。
原理は同じなのだが、魔力の扱いに関してはマゾエルの方が遥かに上手い。
あれだけやられた身体の傷がもう治っているし、すでに結界の強化も済ませているようだ。
「さすがだね。怖いくらいに優秀だ」
サディスとマゾエルを知っている人達は、サディスの圧倒的な力に目がいってしまうだろうが…
僕から見ればマゾエルの方がおっかないんだよね。
マゾエルの能力は【オンガエシ】というらしく、受けたダメージを魔力に変換する事が出来る。
サディスと違いパワーやスピードが上がったりはしないが、その分を全て魔力に変換して扱う事が出来る。
元々パワー型ではないマゾエルにはその方が都合が良いのだろう。
マゾエルは魔法の天才だ。
僕は得意属性が四つあり世間では天才だと言われているが、マゾエルは六つ。
それに元々の魔力や魔力操作もマゾエルは僕なんかよりも遥かに高みにいる。
特に回復魔法では、おそらく世界中を探してもマゾエル以上はなかなかいないだろう。
少なくとも僕はマゾエル以上の魔法の使い手を見た事がない。
僕を含めたあの八英雄の中でさえも、だ。
魔法の才能は戦闘においても桁違いな強さを発揮する。
並の攻撃ではそもそもダメージすら与える事が出来ないし、
強力な攻撃をしてもすぐに完治されるうえに魔力を上昇させてしまうので結局ジリ貧になる。
そして【オンガエシ】の能力で恐ろしいのは、一度でもマゾエルに攻撃を与えて魔力を吸収されてしまうと、どこに逃げてもマゾエルの攻撃を避けられなくなるという事だ。
これは追尾するという意味ではなく、マゾエルが受けたダメージと同じ痛みを共有させられるという意味だ。
マゾエルが自分で自分を傷付ければ、その痛みだけを相手も味わう事になるという事。おっかないだろ?
死ぬほどの痛みに快楽を得るマゾエルと痛みを共有するなど、地獄でしかない。
なので、もしもあの2人と敵対した場合、サディスには攻撃をさせずにひたすら攻撃をして倒す事。
マゾエルの場合は回復の間を与えずオンガエシも発動する前に一瞬で存在ごと消滅させる事が条件になるだろう。
これが、僕がサディスよりマゾエルの方がおっかないと言った理由だ。
しかしあの2人は大体いつも一緒に行動しているので、倒すのはほぼ不可能。
こちらが何もしなくてもサディスがマゾエルを攻撃するだけでお互いの力が無限に増え続けていってしまうからだ。
さっきサディスがマゾエルを殴っていたみたいにね。
「おっと、そろそろみたいだね」
通路の3人を見ながら強すぎる後輩の事を考えていると
広場上空で魔力の揺らぎを感じて視線を戻すと、サディスが魔力の塊を両手で圧縮していた。
「なんて濃度の魔力なんだ…」
ゴクリと息を呑み、すぐにマグネットを発動した。
その直後、サディスがニヤリと笑った…
「ーーーーー終炎ーーーーー」
ドゴォォォォォォぉぉぉぉぉォォォッ
サディスが魔法名を口にして広場に魔力球を投げると
まるで活火山に隕石が落下したような爆発音と閃光が迸った。
マグネットによって導かれた炎は勢いが収まることなくマウスハウスと城外の結界も破壊して
天を割った。
城外の結界は破られたが、広場を覆う場内の結界はサラ先生とマゾエルが補強していたおかげでヒビ割れで済んでいる。
もし割れていたら場内の僕達は全滅だったな…。
ひとまず任務は無事に終了だ、みんなと合流しよう。
「っく。とっと…。はは、さすがに力を使いすぎたかな」
立ち上がろうとしたが、足に力が入らず膝をついてしまった。
まったく、サディスは無茶苦茶だな…。
まぁとりあえずは誰も怪我せずに済んだみたいだし、ここで休ませてもらうかな。
その場に崩れ落ちるようにして、僕は気を失った…
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