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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
162/165

【 小さな立役者達 】

ズォォォォォォッッッーーー



「す、吸われるっ!!ネムレ大丈夫か…って、なんで今眠れるんだよっ!いつの間にか元に戻ってるしっ」


「スヤスヤ〜、むへへ〜」



巨大な掃除機でも稼働させているかのような轟音が部屋中に響き渡り、折角補強した窓や壁の穴が更に広がっていく中、タクトのベッドの上では幼い姿に戻ったネムレが気持ち良さそうに寝息を立てていた。




「ヨゴレタラ、ソウジシナイト」


ズォォォォッゴゴッ、



窓の外ではブラックホールの様な歪な球体が光すらも飲み込む勢いで壊れた窓や壁の破片を吸い込んでいる。



「っっ!?あの球体…もしかして、いやまさか…。でも、この強過ぎる魔力は……」



吸い込まれない様に踏ん張る事に精一杯で、窓や壁を破壊しながら吸い込んでいく暴挙を止める言葉すら発する事が出来ないタクトであったが、この時、ふいに脳裏に過ったのは、この暴挙を行なっている人物の予想だった。



会った事はない。だが、見た事はある。


実際に能力を見た事は無い。だが、知識として知ってはいる。



ズオンッ。



「ダイブ、キレイニナッタ」



荒々しく乱雑にシャイナス家を破壊しようとしていた人物がそう呟きながら魔力球を握り潰すと、タクトの目の前ではあり得ない光景が作り上げられていた。




飲み込まれた筈の窓、粉々に砕かれた筈の壁、吸い込まれた筈のカーテン。



「う、嘘だろ…」


タクトの驚きは正常な反応だった。



「マタヨゴシタラ、ソウジシテヤル」



外で浮遊しながら聞き取りづらい声でそう言った男の子の存在。


ワックスでも掛けたかのようにピカピカな窓ガラス。


埃1つ付着していない壁。


新品と言われても納得してしまいそうなカーテン。



数秒前の荒れた部屋からは想像も出来ない程の綺麗な仕上がりと、目の前に浮遊する異質な存在に、驚きの表情のまま固まるしかタクトには出来なかった。



「ヘンナカオダナ、ソウジシテヤロウカ?」


見覚えのあるだらし無い執事服に身を包み、見覚えのある半仮面を付ける、見覚えしかない少年。


「も、もしかして…八英雄の、闇喰ダイソン…なのか?いや、でも…」



相手への問い掛けではなく、自問自答のようにタクトは呟いた。


教科書で見た姿、教科書で習った特徴、圧倒的な魔力濃度。

これで一般人ですと言われる方が信じられないが、八英雄の1人がたかが学生の家の窓をわざわざ直しに来たとも思えない。


それに加え、もしも八英雄のダイソンだとするのならば、目の前にいるのが少年なのはおかしい。


英雄と呼ばれた当初の写真が教科書に載っているが、その当時…つまりは10年前と姿形が変わっていないのはおかしすぎる。


まさかダイソンもマリアのようにトラウマか何かで成長が止まったとか…?いやいや、そもそもこの少年が八英雄だと決まった訳では…、でもあの魔力の強さは並じゃなかった……と、タクトの頭は混乱の極みに立たされていた。



「突然のご訪問、大変ちつ礼致ちまつ。ダイ君もタクトたまにご挨たつを」


「うわっーーって、ウラルさん!?」



窓の外に浮遊する少年に視線を奪われていると、ふいに背後から声を掛けられ、驚いて振り向くとそこにはクラスメイトのウラルが立っていた。


いつの間に室内に入り込んだのか、そんな小さな疑問は今のタクトの頭には入る余地がない。



混乱するタクトを置き去りに、ウラルに呼ばれたダイ君という少年も窓から部屋に上がり込み、マジマジとタクトの顔を覗き込んだ。


「ーーーっっ」


「ダイソンダ。コノヘヤ、ナカナカキレイ」


「ダイ君、ちつ礼でつよ。申ち訳ございまてんタクトたま。夜分の訪問についてもかたねてお詫び申ち上げまつ」



部屋とタクトをジロジロと見るダイソン。


ダイソンと同じ執事服をだらし無く着こなし、丁寧に謝罪するウラル。


鼻風船を膨らませながら狸寝入りを決め込むネムレ。


そんな面子が自分の部屋にいるという現状に、困惑と疲労のダブルパンチを喰らっているタクト…。



「なんなんだよ…今日は…」


考える事が多過ぎたタクトは考える事を放棄し、ガックリと肩を落としてため息を吐いた。



これからどうなるのか、また部屋が荒らされてしまうのか、何故ウラルまで現れたのか、八英雄と同じ名を持つダイソンという少年とウラルは何故同じ服装と半仮面を付けているのか、、、ネムレはいつまで寝ているのか。


様々な何故がタクトに疲労を与え、良からぬ未来予想図しか浮かばない現状に項垂れていたが、タクトの未来予想図はすんなりとハズレる事になる。



「とれでは、おたわがて致ちまちた。わたくち達はこれでちつ礼致ちまつので、タクトたまはごゆっくりとおやつみ下たいまて」


「え、は?」


「オジャマ、シマシタ」



ウラルに続いてダイソンまでもが丁寧なお辞儀をし、タクトに背を向けた。


タクトに背を向けたというよりは、ベッドで寝息を立てているネムレに視線を移したといった方が正しいかもしれない。



「ダイ君、ネムレたまをお願いちまつ」


ウラルの指示を受けたダイソンは頷きだけで返事をし、右手で真っ黒な魔力球を作り上げた。



ズオンッーー



「むぶゃっ!?嘘寝のつもりが〜、本当に眠っちゃってた〜。吸〜わ〜れ〜る〜、えいっ」



ガシャーーーシュゥィン。



ダイソンは作り上げた魔力球でネムレを吸い込み終えると、役目を終えた黒い球を消して視線を再びタクトへと向けた。



「ベッドニツイタヨダレモ、キレイニシトイタ」


「え、あ、ありがとう…」



満足気に報告するダイソンに反射的にお礼を告げたタクト。



「ではタクトたま。またあちた、学園でお会いいたちまちょう」


「いやちょっと待っーーー」



ズオンッ。




呆気に取られてしまっていたが、別れの挨拶を告げられた途端、一気に冷静になったタクトは3人に聞きたい事も物申したい事も山程あったが、タクトの呼び止めの言葉が出終わる前にウラルとダイソンは再び作り出された魔力球の中へと消えていった。



「・・・・・なんだったんだよ」



先程のため息とは比べ物にならない程のため息を吐き、やけに綺麗にベットメイキングされたベッドに腰掛けた。



「ーーーん?」



ベッドに腰掛けたタクトはそのまま仰向けに倒れ込み両手を広げたのだが、伸ばした右手が枕の下に入り込むと、その右手に何かが当たった感触があった。



手に当たった機械じみた感触に嫌な予感を感じ、そっと枕をどかすと、そこにはいつも目覚まし時計の役割を果たしてくれている自分の携帯電話が握り潰されたように無残な姿で悲し気に隠されていた。



「・・なんなんだよっ」



特に愛着がある訳でも頻繁に使用している訳でもない携帯電話だが、無駄に壊された事に多少の苛立ちを感じたタクトであったが、文句を言う相手は既にここには居ないので怒りをぶつける事ができず、再び大きなため息を吐いた後、携帯電話だった残骸をビニール袋に詰めて机の上に置いた。



「ハァ…。グルルに癒されながら、今日はもう寝よう。それにしても、あれだけ騒がしかったのによくグルルは目を醒さなかったな…。五月蝿くても寝れるタイプなのかな。それとも、よっぽど疲れてたのかな?」



家が半壊するかもしれない程の衝撃や轟音が起きていたにも関わらず、隣の部屋から飛び出して来なかったグルルに感心しつつ、癒しを求めたタクトは枕だけ持ってグルルの部屋へと移動した。


コンコンッーー


「・・・・やっぱり寝てるみたいだな」


小さくノックをしても返事はなく、扉を開けて部屋に入ると、案の定グルルは気持ち良さそうに寝息を立てていた。



その姿に少し癒されたタクトはグルルの横に枕を置き、可愛くて柔らかいグルルの頬っぺたを優しくツンツンして更に癒されてから、眠りについた。












シャイナス家から移動したウラルとダイソン。


その2人に連行されるネムレ。



3人は今、学園島の中にある『魔獣出現区間、立入禁止』と書かれた看板の奥にある、無機質で真四角な白い箱のような家に来ていた。




「ただいま〜、ネムはもう寝るから〜、帰っていいよ〜。さよ〜なら〜」



無機質な家には窓も扉も無く、入るのも出るのも転移のみ。


この家も歌姫シオンの家と同じく、ソガラムが作り上げた特別な家だが、シオンの家のように地下深くに造られている訳ではなく地上に建てられている。


人払いの魔機がこの家を囲むように設置されている為、強い意志を持ってここに来ようとしない限りは来られないうえ、学園島の最高責任者であるソガラムと英雄サラが立入禁止だと決めた場所であり、魔獣の巣窟でもあると聞かされている島民達がこの場所に来る事はまずあり得ないが、万が一この家の場所まで辿り着いたとしても、入る事は出来ない。


悪戯心や破壊衝動に駆られてこの家に攻撃を加えたとしても、ウラルの結界が張り巡らされているので並大抵の力ではこの無機質な箱のような家に傷跡を残す事も出来ないだろう。




「申ち訳ございまてんが、ムチ姉たま達が来られるまでは眠らないで下たいまて」


「は〜い。わかったよ〜、おやすみなさぁ〜い」



ズォォッンッッ



「むぅ〜。わかったよ〜、起きるからそれ止めて〜」



ウラルの言う事を聞こうとせずに眠ろうとするネムレだったが、ダイソンが魔力球を練り上げて轟音を立てると、五月蝿さに負けたネムレは渋い顔をして嫌々ながらも上体を起こした。



「もうつこちで来られると思いまつので、とれまで何か飲み物でもいかがでちょうか?ネムレたまのつきな温かいミルクもございまつよ」


「む〜、お砂糖いっぱい入れてね〜」


「かちこまりまちた」



お姫様ベッドの上で体を起こしはしたが、ベッドから降りる気は毛頭ない不機嫌なネムレ。


この場面だけを切り取って見ると、わがままな小さなお嬢様に仕える小さなメイド2人が甲斐甲斐しくも仲睦まじくお世話をしている日常風景のように見えるかもしれない。



「お待たて致ちまちた。甘々ホットミルクでございまつ。よろちければ、こちらのクッキーもお召ち上がりくだたい」


「ん〜、くるしゅうな〜い。いただき〜」


「コボシタラ、ソウジシテヤルカラ、アンシンシテコボセ」



お互いに付き合いが長く慣れた関係でもあり、見た目の年齢もほぼ変わらない為か、狭い室内には違和感や緊迫感などない緩やかな空気感が漂ってはいるが、ここにいる3人はただの少年少女とはわけが違う。


MSSレベル3とジーニアススキルという希少と貴重の両方を持つネムレ。


サラ達と並び八英雄として崇められ、学園では人知れず掃除に勤しむダイソン。


ある所ではクラスメイト、ある所では学園長専属執事、ある所では学園島の統括管理者、ある所では…と、学園島の中であらゆる顔を持ちながら、その存在を知る者は極めて少ない舌ったらずなウラル。



世界の中心にある小さな島が、広い世界と対等以上のパワーバランスを保つ事が出来ている要因の1つが、この狭い部屋の中に居る3人であり、サラ達にとっての切り札の1つでもある。



表立って活躍するのが、サラやクローツを含むアルバティル学園とその生徒達。


その活動を陰ながら支えているのが、ネムレの予知夢であり、ウラルのサポートであり、ダイソンの後始末。


サラの切り札ではなく手駒という意味では、他にもマカオやカモメ団などが暗躍してはいるが、学園島という括りで言うならば、この3人の活躍の方が遥かに重要な役割を担っているだろう。





「んん〜、クッキーおいしぃ〜」


能力や才能は申し分ない。


しかし、能力の高さはお行儀の良さとイコールではないらしく、ぼろぼろと食べカスをベッドに撒き散らしながらクッキーを頬張るネムレは、さっきまでの不機嫌が消えてご満悦な様子。


スッーー


満足気な表情でクッキーをこぼしまくるネムレの行儀の悪さを叱る者はこの場にはおらず、ダイソンはネムレが溢したクッキーの食べカスを音も無く魔力球で吸い込んでベッドを綺麗に保っていた。



「むむ〜?音を出さずに掃除できるなら〜、いつもそうしてよね〜。どうして〜、いつもはズォォッてするの〜」


「オトガアルホウガ、ソウジシタキブンニ、ナレルダロ」


「うざ〜」










ー=ー==ー=ー==ー=ー



学園島の小さな立役者達がゆったりとした時間を過ごし、ネムレのホットミルクが残り僅かになった頃にようやくサラとクローツが姿を現した。




「遅くなってしまい申し訳ありません。無事確保出来たようですね。ウラルさんダイソンくん、お疲れ様でした」


「ふぅ。ネムレが居なくなったと聞いた時はさすがに肝が冷えたよ。無事に帰って来てくれて本当に良かった…」


「あ〜、クロ〜ツくんも来たんだ〜。2人ともお洋服がボロボロ〜。たいへんだったんだね〜」



到着した英雄2人に軽口で挨拶をするネムレの言う通り、サラ達の服は破れたり焦げたりしていた。


2人にダメージが残っている様子は無いが、衣類はなぜか満身創痍。


普段はシワひとつない黒スーツをピシッと着こなしているサラだが、今は前ボタンが全て無くなっており、穴の空いた箇所からは地肌が顔を見せている。


クローツも同様で、白かったカッターシャツは泥塗れになり、ズボンの至る所に焦げ跡が残されていた。



「つぐにお着替えをご用意をいたちまつので、ちばらくお待ち下たい」


「いえ、ウラルさん達はすぐに学園長室に向かって下さい。今はなんとか落ち着きましたが、学園長がまた錯乱するようでしたら手荒で構いませんので拘束と隔離をお願いします。それから、ここは念話も無線機も通じませんので、私達が戻る前にマゾエルさんが訪ねてきた場合は、申し訳ありませんが知らせに来て下さい」



サラ達の格好を見たウラルが着替えの用意をしようとしたが、サラはそれを制止してウラル達へ指示を出した。


サラの指示を聞いたウラルとダイソンは反論も質問もする事なく頷き、すぐに転移でこの場を去って行った。




「ネムレさん、いくつかお話とお願いがあります。よろしいですか?」


ウラル達が居なくなった部屋に残ったサラとクローツ。


サラはネムレを真っ直ぐに見ながら声を掛けた。



「い〜よ〜。それが〜、安息の条件なんだしね〜」


表情の変わらないサラとは対照的に、ヘラヘラと笑みを浮かべるネムレ。



「まずは、元の姿に戻って頂けますか?」


「え〜?こっちの方が〜、ネムは可愛いと〜、思うんだけどな〜」



サラの要求に応えるつもりが全くないネムレに対し、クローツはやれやれと首を横に振って困った顔を見せた。


困り顔のクローツとは違い、表情の変わらないサラは小さなため息をわざとらしく吐き出してネムレに一歩近付く。



「その姿では会話が必要以上に長くなります。私達に早く部屋から出て行って欲しいと思っているのであれば、元の姿に戻って会話をした方が円滑に進みお互いの為かと。ネムレさんが私達にずっと居て欲しいとお思いでしたらそのままで構いません。何時間でも何日でも私はここにーーー」


ピカッ、


「はいっ、セクシーネムレちゃん爆誕しました!サクッとお話を終わらせて、さっさと出て行って下さいね」


「・・・ご協力感謝します」



クセが強いアルバティル学園生の中でも一際個性的な生徒が集まるAクラスを纏め上げているサラだが、個性派揃いのAクラスの中でも特別枠の存在であるネムレは、やはり扱いにくい存在であった。


クセが強いとはいえ、Aクラスの生徒達のほとんどは英雄サラに対して感謝や尊敬の気持ちを持っているうえ、クラス内ではクラス内での関係性もある程度出来上がっており、サラが手を焼く前にクラス委員長のチェルチなどが問題を解決してくれるのも、上手く生徒達をまとめる助けになっていた。



しかし、ネムレはそれに当て嵌まらない。


特別不登校許可生徒というのも理由の1つではあるが、理由はそれだけではない。


世界中の人々を恐怖に陥れていたフレイク魔教団を壊滅させた偉業やMSS感染者達の保護と教育をしながら非感染者達との共生を根底から作り上げた功績はおろか、静かに眠る事が出来る隔離された安住の地を与えてくれているサラ達に対して感謝も尊敬もしておらず、与えられた家であるにも関わらず邪魔者扱いをする始末。



感謝をしていない、というのにも理由は一応ある。


フレイク魔教団に関しては夢でしか見たことがなく、ネムレに直接悪さをしてきた訳ではないのでネムレからすれば「悪人が倒されたんだ〜、ふ〜ん」くらいの感情しかないのが1つ。


もう1つの理由は、1人で眠る事が好きなネムレにとって非感染者との共存共生は不必要であり、MSS関連の事についてはそもそも興味すらないので感謝をするという発想すらないという事。



しかし、ネムレにとって最重要である安息な眠りが出来る場所と環境を与えてくれているのに感謝をしていないのは何故か…



それは先程ネムレが言っていた、条件という言葉がそのまま答えになっている。



ネムレはサラ達にアイデンとジースで様々な情報提供をする代りに、この安住の地で誰にも邪魔されず、食事などの世話もしてもらっている。


他の人から見れば決して自由とは言えない環境ではあるが、ネムレはそれを望み、ネムレからサラ達にこの条件を出したのだ。



条件を出したのはネムレから。


2人の人物を知っている人ならば、ネムレの能力を知ったサラから条件を出しそうだと思うかもしれないが、実際はそうではない。


8年前、ネムレを発見するまでサラはネムレの能力の事を当然知らなかった。

いや、知っていたとしてもサラからネムレに伝える事は変わらなかっただろう。


当時のサラは感染者が優れた能力を持っている持っていないに関係なく保護する事が目的であった為、いつもの様に学園島に来るように勧誘しようとした。


しかし、ネムレはサラが現れる事を知っていたような態度をとり、初対面のサラに対して図々しくも条件という名の提案と、自分の能力の詳細を話し出したのだ。


当時から表情の変化がないサラであったが、この時ネムレの話を聞いたサラの内心は悪い意味で穏やかではなかった。


保護対象であるはずのネムレを殺すか、それともネムレの条件を呑むか…。


そんな二択を考えなくてはいけない程に。



だが、サラの出した答えは今ネムレが元気に生きている事から分かる様に、ネムレの出した条件に多少の要望を上乗せして承諾した。



そうしてネムレはほぼ希望通りの自由気ままな睡眠生活を手に入れた。


手に入れたのは物ではなく日々の生活である為、サラ達の世話になってはいるが、それの対価として能力を提供しているので、ギブアンドテイクだとネムレは思っている。


それが、サラ達に感謝を感じていない理由であった。





「それでどうでしたか?お告げは役に立ちました?」


先に口を開いたのは、先程タクトの部屋でも会話の主軸を担っていた成長した姿のネムレであった。



「はい。と、言っていいかは難しいところですが、今回もネムレさんの能力には助けられましたので、まずは感謝をお伝えします」


「いえいえ、ネムレはピカッて光ってちょこっと浮いてペラペラお喋りしただけですから…。あ、今のちょっと可愛いかったですね。メモメモっと」


「・・・・・」



感謝を伝えるといいながらも一切表情を変えず、頭を下げる事もしないサラ。


謙遜したかと思えば、自分の言葉に可愛さを発見してメモを取り出すネムレ。


2人のやりとりを困った様子で見守るクローツ。



まともな人間が1人しかいない話し合いが、隔離された真っ白な箱家の中で始められようとしていた。




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