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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
161/165

【 夢とお告げ 】



「では改めまして。お久しぶりです、タクトくん」


「あ、あぁ」



ネムレの急成長?から数分後、落ち着きを取り戻したタクトに向けて、ネムレはニッコリと微笑みながら再会の挨拶をした。



小さかったネムレが頭に被っていた大口のヌイグルミは、ネムレの首に背後から抱き付くように掛けられており、フードの様になっている。


そのヌイグルミと、チラッと見えている義足が、目の前の人物が紛れも無くネムレなのだと、タクトに実感させた。



「そういえば、俺に何か用事があるって言ってなかった…ですか?」



子供っぽいネムレと同一人物だと頭では理解しているが、目の前にいるのは自分より少し歳上くらいに見える女性である為、どう接していいかわからない。



「うふふ、いままで通りで構いませんよ。ネムレはネムレなんですから」


「そう、なのか?」


「はい。子供の姿とのギャップで少し大人っぽく見えるかもしれませんけど、年齢もタクトくんと同じピチピチの16歳です。1人の女の子で2度楽しめるなんて、お得だと思いませんか?大きくなったネムレもサービスしますよ〜チラッ」


「わ、わかった!わかったからやめろって!」



今のやりとりで目の前の女性はネムレだと完全に理解したタクト。



「それよりネムレ、さっき俺に用事があるって言ってただろ?用事ってなんだよ?」



チラチラと肌触りの良さそうなワンピース形のパジャマを捲りながら悪戯っぽい笑顔を向けるネムレを制止させると、タクトは小さいネムレが言っていた事への質問をした。



「あっ、そうでした。もう時間もありませんから、ちゃっちゃと済ませちゃいますね」


「時間がない?済ます?」


「はい。説明は後でしますから、まずはしっかりと聞いて、聞いた事をちゃんと覚えておいて下さい。それから、ネムレは今からまた少し光りながら浮くと思いますけど、そこはスルーでお願いしますね」


「あ、あぁ。天井は壊さないでくれよ」



言動や物腰は柔らかくなったネムレだが、行動は小さい時と変わらないネムレに不安を感じつつ、一応言われた通りにちゃんと聞く姿勢を整えた。



「じゃあ光って浮きますねっ」



ピカッーー、



ネムレがそう言うと、宣言通り少しだけ浮き上がって全身が光に包まれていった。


先程の様な激しい光ではなく、淡い光に包まれたネムレ。


光に包まれた直後から生気が抜け落ちてしまったかのようなネムレの目は、開いてはいるのだが、どこかうつろな表情でタクトを見ていた。





『・・・世界から幸運が取り除かれ、黒き雨の影に群がる悪意が絶望を蔓延させる・・・』



「ーーーは?」



光に包まれたネムレは、光の宿らない瞳でタクトを見ながら意味不明な発言をし始めた。



『・・・この地から出てはいけない、失ったものは戻らないから・・・』


「どういう意味だ?」



忠告、と受け取っていいのか困惑するタクトの胸中に配慮する事なく、ネムレは続ける。



『・・・信じてはいけない、それは光を持たぬものだから・・・』


「ーーーーー」



何を言っているのかはわからない。


だが、聞き逃してはいけない気がする、とタクトの直感が告げてきていた。



『・・・変わってはいけない、全てが消えてしまうから・・・』




スゥーーー、



そこまで告げたネムレは、ゆっくりとベッドに降りてきた。



「ふぅ〜、ちゃんと聞いてくれましたか?」


「あ、あぁ。でもなんだったんだ、今の?」



身体を包む光が消え、瞳に光が戻ったネムレは雰囲気も元に戻っていた。


元に、といっても大きいネムレの方だが。



「今のはお告げです。ネムレが何を言っていたのかネムレにはわかりませんけど、今のお告げはタクトくんの未来にとって大事なお告げだと思います。ネムレと結ばれる的な事を言っていましたか?」


「いや、そんな事はこれっぽっちも言ってなかったけど……お告げ?それはネムレのアイデンなのか?俺には忠告か警告のように感じたけど…。なんでいきなり俺にお告げなんかしようと思ったんだ?」



突然訪問し、色々破壊した挙句に警告紛いのお告げをされたタクトだが、怒りや苛立ちなどの感情は無く、多くの疑問が頭を埋め尽くしていた。



「ネムレの能力ではありますけど、アイデンではありません。お告げはネムレのジーニアススキル《夢》の副産物みたいなものです」


「っっ!?ネムレはジース持ちなのかっ!?いやいや、また俺を揶揄ってるんだろ?」




ジーニアススキル、通称ジース。


発現者が極めて少ない特別な力で、全ての能力の頂点に位置する力であると言われているジーニアススキル。


ジースを持つ者は生まれつき魔力値が高い傾向にあると言われているが、ジースを自覚した上で発動した瞬間に、魔力、心力、魂力の総量がさらに飛躍的に上昇すると言われており、その力は1人で世界の形を変える程であるとも言われている。



世界の形、というのは地形の事だけではない。


既出のところでは、ザッハルテの《ウェザーコントロール》。


天恵天女と呼ばれる如来を具現化し、ありとあらゆる自然現象を意のままに操る事が出来るジース。



ザッハルテはこのジースを良い事に使っていた。

結果、世界では天恵不足や天災が激減し、人々は安定した暮らしを安心して過ごす事が出来ていた。


しかし、万が一悪い事に使っていたのであれば、世界各所でその真逆の事が起きていたであろう。


時間を掛ければ海の水位を上げる事も、下げる事も可能。


自然を豊かにする事も、不作にする事も可能。


砂漠にオアシスを作る事も、極寒の地に太陽の恩恵を与えないようにする事も可能。


世界のバランスを保つ事も、崩す事も出来てしまう強過ぎる固有能力。



それが、天に選ばれし者だけが発現できる力、ジーニアススキル。



大国の王でもなければ世界的に有名な英雄でもないただの不登校の旧友が、そんな極稀で特別な能力を持っていると言われても、あぁそうですかと納得出来るはずもない。



だが、目の前で多様な変化を見せたネムレからは噓を吐いている様子も冗談を言っている様子もなかった。



特別不登校許可生徒。


もしも本当にジース発現者だとしたら、生徒会役員でもないただの居眠り少女がその制度に適用されているのにも頷けるというもの。


なにより、お告げという名の警告を発信していた時のネムレからは常人とはかけ離れた雰囲気が漂っていた事で、タクトの心境は、信じられない気持ち50% もしかしたら本当にジース持ちなのかもしれないと思う気持ち50%といった半信半疑の状態であった。




「あれ?もう忘れてしまいましたか?ーーーあっ、言ったのは夢の中でしたね。まぁジースの事はどうでもいいんですけどね」


「いやいやっ、ジースがどうでもいいって!?ジース持ちってだけで人間国宝になれるとまで言われてる力だぞ!?」



揶揄っている様子のないネムレの軽口に、興奮やら衝撃やらが入り交じった複雑な感情のまま全力で物申すタクトだが、ネムレはタクトの興奮を放置して勝手に話を続ける。



「夢を見たのです…」


「夢?それはジースのって事か?」



夢を見た、と言ったネムレの表情は先程までの明るい雰囲気から一転し、悲しそうに頷いた。



「夢で、タクトくんが泣いていたのです。悔しそうに、悲しそうに、苦しそうに…」



悲しそうに俯きながらそう言うネムレだが、ジース持ちだと言っていた事を100%信じ切る事が出来ていないタクトは、悲しい夢を見て落ち込んでいるだけなのかもしれないと思っていた。


そんな考えが伝わったわけではないだろうが、ネムレは悲しそうな表情を崩す事なく話を続けた。



「ネムレの夢は、ただの夢ではありません。ネムレが望んでいない夢を見る時は、それは必ず予知夢になるのです」



「そうなのか?以前にもそういう夢を見たりしたのか?」


「何度もあります」



「何か俺の知ってるような事とかあったりするか?」


「はい」



前例がなければ、必ずという言葉は出てこないはず。


その前例を聞いてみて、ネムレの言っている事が妄言か真実かを判断しようと考えたタクトの質問に対し、ネムレは間を置かずに頷いた。



「この前、タクトくんがセントクルス遠征に行った時に、八英雄のパンデルちゃんとラストルネちゃんがセントクルス王城に魔獣を放ったのを覚えていますか?あれを予知夢で見て、サラちゃん達に報告しました。万が一、ネムレが予知夢の事を伝えていなければ、あの遠征でセントクルス中心街は大きな被害が出てしまい、タクトくんの想い人…ムカッ!あっ、失礼しました。イリアちゃんが亡くなっていたはずなのです」



「っっ!?ちょ、ちょっと待てネムレ!色々とんでもない事を言ってる自覚はあるか!?遠征は…確かに行った。魔獣も出た。だけど、あれをやったのが八英雄だって!?しかもイリアが死んでたかもしれないってどういう事だ!?」




実際に起きた事、起きなかった事、知っている事、知らない事。


悪夢に悲しむネムレの発言が妄言か真実かを見極めようと思い、安直な質問を投げ掛けただけのはずが、未知の情報を突然大量に聞かされてしまい、タクトは完全に混乱させられてしまった。



「む〜、混乱させてしまいましたか。でも、ネムレの事を信じてくれないと、タクトくんが悲しむ予知夢が当たってしまうのです…。サラちゃん達にはネムレの能力の事は他の人には言ってはいけないって言われてるんですけど、他ならぬタクトくんの為ですから仕方ありませんよね。乙女心は止められません。あ、今キュンとしました?」



か細い両手をグッと握り締め、何かに決意したネムレは力強い目でタクトを見つめる。



「少しだけ詳しくお話ししますね。冷静に聞いていただけますか?」


「ーーーあぁ、努力するよ」



イリアといる時の胸の高鳴りとは毛並の違う鼓動の高鳴りを押さえつけ、タクトは1度深呼吸をしてからネムレの話に集中した。



「夢は、色んな場面を時間に囚われること無く見せてくれます。あの日、まずネムレが見たのはタクトくんがイリアちゃんという巨乳といつも通りに楽しそうに遠征…ムカッ!お、おほんっ。遠征に行っているのが見えました。中心街と言われている場所の巡回をしながら歌姫ちゃんのライブグッズを見て周っていました」


「ーーーーー」



相槌も打たずに真剣に話を聞くタクトは考えながら想像していた。


もし、遠征で王城に行っていなかったとしたら、今ネムレが言っていたようにイリアと一緒にシオンのライブ会場付近で巡回とグッズ漁りをしていたかもしれないと。



「ライブを見に来たお客さんがいっぱい居て、みんな楽しそうにしていたのですが、突然数名の人の首がスポーンってなったのです・・・。スポーンって表現可愛いなって言ってくれないのですね。ネムレは悲しいです」


「そういうのいいから早く続きを言えよ」



頬を膨らませるネムレに対し、タクトは表情を一切変えずに先を話せと圧を掛けた。



「むぅ〜。仕方ないですね…。で、人の頭を飛ばした犯人はカマキリイタチでした。赤い滝が逆流したような流血が広場に何本も立ち昇りました。何が起きたかわからない人達は数瞬の沈黙を余儀なくされ、その後は一瞬で広場はてんやわんやになりました。人が人を押し退けて、大人が子供を踏み、老人を押し倒し、我先にとみんな逃げ惑っていました。滑稽ですよね」


「ーーーーー」


スポーンの表現が可愛いかどうかはさておき、その内容は可愛さとは無縁の悲惨な物だった。




「そんな中、タクトくんやイリアちゃんは人命救助に走り回っていましたが、カマキリイタチの後にも魔獣がわんさか中心街に雪崩れ込んでしまいました」


「いや、ちょっと待てよ。おかしいだろ。場所は中心街で間違いないのか?それならセントクルス兵が救援に来ないのはなんでだ?ジャスティンやリードイスト王だって居るはずだろ。王都中心街は学園島と同じくらい安全って言われてる場所だぞ」



ネムレの話を聞きながら、タクトは疑問に思った事を口にした。


その疑問は当然で、今ネムレが言った事はあり得そうだが絶対と言ってもいいほどあり得ない状況だったからだ。



「ん〜言われてみれば以前に夢で見た時より軍人さんは少なかった気がしますね。みんなでお出掛けでもしていたのではないですか?」


「お出掛けって…いや、待てよ。あの日は確か…」



そこまで言って、タクトは遠征の依頼を受けた時にクローツが言っていた言葉を思い出した。


北と南の建設支援でセントクルスに軍がほとんど残っていない…と言っていた事を。



「まぁ魔獣だけなら良かったのですが、暴徒が大量に出たのが大変そうでしたね。魔獣が人を襲い、逃げる人を更に人が襲う。しかも暴徒の中には軍服を着た人まで居て、子供の首をゴキンってしてましたからね。本来は市民を守るはずの軍人さんがそんな感じだったので王城は王城で手一杯だったのではないでしょうか?あ、ここまではサラちゃん達に教えるの忘れちゃってました。てへぺろっ」


「人が…?セントクルス軍が…?なにがどうなってるっていうんだ…」



頭をクリーンにしてネムレの話を聞くように努力していたタクトだが、さすがに現実離れし過ぎた内容に疑心の方が強くなっていった。



「リードイスト王という人やジャスティンという人がなにをしていたかは見ていませんが、魔獣に立ち向かいながら人命救助を行なっていたイリアちゃんが殺されたのは、そのすぐ後でした」


「ーーーーー」



色々気になる事はあったが、ネムレの言った事の中で1番気になったのはイリアの死。


タクトはゴクリと唾を呑みこんでネムレに視線を向けた。



「非感染者達がイリアちゃんを魔獣の方に投げ飛ばしたのです。魔獣が出たのはお前ら感染者のせいだ〜とか訳のわからない事を言って。しかも言い出しっぺはイリアちゃんに治癒してもらったジジイ…あ、ごめんなさい。おじいちゃんですよ!笑っちゃいますよね」



「ーーーっっ!?」



タクトは、言葉を発する事が出来なかった。



「その状況をタクトくんが目撃しちゃって大変だったんですから。怒鳴るわ泣くわ暴れるわ共存で乗り移りまくるわ…。ネムレは予知夢の場合は夢に干渉出来ないので、そんなタクトくんを見ていられなくなって原因を探す夢の旅に出ました。そこで魔獣を放った人を見つけたのでサラちゃん達に報告したのです」



現実で起きた事ではない。


そんな事、起こってはいないのだ。


だが、起こっていないはずなのに…



「魔獣で王城を襲ったのは間違いなくパンデルちゃんとラストルネちゃんです。理由はリードイスト王という人に威嚇と警告をする為。パンデルちゃんの支配下にあったはずなのに、なんで王城に放った魔獣が外に出ちゃったのかまでは知りませんけどね。

それから、タクトくんは多分業族という名前で聞いていると思いますが、その名称は八英雄の2人が悪の道に走った事を世間にバレないようにする為の隠語みたいな物です。サラちゃんお得意の誤魔化し作戦ですね。まぁネムレには関係のない人達の事なので詳しくは知りませんが、偉い人が悪い事をしたのがバレるのはサラちゃん達にとって都合が悪いみたいでしたから、そんな感じなのではないでしょうか?」



「・・・なんだよ、それ」



にわかには信じられない話。


しかし、それを否定するだけの気力が出ない。


たかが夢の話だろ、と切り捨てる事が出来ない。



魔獣が王城に出たのは確かな事だし、遠征に関わっていない人でも知る事は可能なのかもしれない。


だが、不登校で人と関わる事が極端に少ないはずのネムレにもそれは当てはまるのだろうか…



「ただの予知夢の話です」



たかが夢ではなく、ただの予知夢だとネムレは言う。


そして、それ以上の言葉を発しない。


夢の事だから気にする必要はない、とは言ってくれない。



「ーーーーー」



タクトがここまで深刻に思考の沼に嵌ってしまったのは、あり得ないネムレの話の中で、あり得そうだと思える点が何個もあったからであった。


その中で一際そう思えたのが、非感染者の暴挙とタクト自身の行動だった。



今でこそMSS感染者は正義だと認知されているが、非感染者視点でいうならば、ほんの何年か前までは迫害の対象であり、敵であり、脅威であり、化け物であった。


英雄達の働きと感染者達の善行の数々が認められて、ようやく今の共存共生が成り立っている。


しかし、その関係は確固たるものなのか?


一度は魔獣と変わらない目で感染者の事を見ていた非感染者達が、これからもずっと自分達の事を同じ人間として見てくれる保証は?



「ーーーーー」



感染者である自分がこんな風に疑心を持っているという事は、非感染者だって疑心を持つ人が居るかもしれない。いや、居て当然。


それでも、平和な世の中が続いている限りは無意味な争いや昔みたいな迫害はないだろう。

それはこの10年くらいで実体験として理解している。


だが、さっきネムレが言ったような状況…魔獣などが日常を切り裂くような非日常の危機的状況になった時、誰のせいでもない悲劇の責任を誰かに押し付けてしまうような弱い人達は、自分とは違うMSS感染者にその責任を押し付けてくるのではないだろうか…。



そんな事はあり得ない……と、言い切れない自分がいる。


そして、その騒動に巻き込まれ、イリアが被害を被るような事がありでもしたら…ネムレの夢の通り、我慢など出来るはずがない。



「タクトくん。予知夢は回避出来ます。その為のお告げなのです」


「ーーーーー」



沈黙するタクトに、ネムレは優しい視線を向ける。



「遠征の事に関しては、夢で良かった。そう思って下さい。でも、予知夢は何もしなければ必ず夢の通りになります。ネムレがジースを発現したのはMSSに感染するよりも前の事です。だから、あの大雨の事も、脚を切られた事も、予知夢で知っていました。知っていても、ネムレは何もしなかった。だから予知夢の通りになっています。信じて下さい」


「・・・どうして、それを俺に伝えるんだ?」



ネムレと関わったのなんて、たった数回。


しかも初対面の時には木から落っことしてお互いおデコに怪我までした。


ネムレにとって良い記憶なんてないはず。

それなのに、なぜそこまで親身になって俺の信用を得ようとするのか分からない…。



「ネムレにとって大切な事は2つ。静かな場所で誰にも邪魔されずに好きなだけ眠る事。それと、タクトくんが幸せである事、です」


「なんだよ、それ…」



ネムレが感染者である事がもどかしい。


本心が分からないのに、本気でそう言っているように見える。


そこまで思われる理由などないし、ネムレの辿って来た軌跡にそこまで深く関わった事もない。


なのに、、、



「ネムレはあの日、木から落っこちてタクトくんとおデコをぶつけ合ったあの瞬間に、タクトくんに一目惚れしてしまったから仕方ないのです。惚れた弱みというやつですね。

本当はネムレの隣でずっと一緒に眠ってて欲しいくらいなのですけど、タクトくんは沢山のお友達が居て、タクトくんの幸せはタクトくんのお友達が幸せである事だって、ネムレはちゃんと理解していますから。そのお手伝いを健気にしようと思ったのです。あ、今トキメキました?」



冗談のような言葉を、真剣な表情で伝えるネムレ。


マキナやルークから向けられる好意的な視線と同種の様で、少しだけ違う視線。



「・・・ははっ。なんだよ、それ」



小さく笑いながらそう言ったタクトは、いつの間にかネムレの言葉を全面的に信じている事に自分でも驚きつつ、それを受け入れていた。



「む〜、乙女の会心の告白に対して素っ気なさすぎるとネムレは苦情を入れたい気分なのですよ。もうっ、夢であんな事やこんな事までしてやりますから、覚悟しておいて下さいねっ」



「何をしようとしてるか知らないけど、なるべくやめてくれ」



頬を膨らませてわざとらしくムスッとした態度を取るネムレ。


そんなネムレに、今度はタクトが優しげな表情で視線を向けた。



「ネムレのお告げがどういう意味かはまだよくわからないけど、ネムレが俺を本気で心配してくれてるのは伝わったよ。ありがとうな」


「っっ!ず、ズルいのですよ。そんな優しい顔でそんな事を言われたら、不貞腐れた振りをして頭を撫でられるのを待つ作戦が続行出来ないではありませんか…。でも、信じて貰えて嬉しいです」




ネムレの予知夢は回避出来る。


ネムレの事を信用したタクトは、ネムレがその力を使って自分の事を助けようとしてくれた事も嬉しかったが、なによりイリアの危機を未然に防いでくれていた事への感謝が大きかった。




まだ、お告げの意味は分からない。


それでも、言われた事は忘れない様に肝に免じておこうと決めた。





「なぁネムレ、予知夢を回避する為のお告げは聞いたけど、結局夢の中で俺は何で泣いてたんだ?」


「あ、それを伝えるのを忘れていましたね。ネムレってばおっちょこちょい。あ、今可愛いって思いましたよね?」


「いや全然。それで夢の内容は?」


「むぅ〜、仕方ないですね。夢でタクトくんが泣いていた理由はですねーーー」



ズォォォォォォッッッーーー



「な、なんだっ!?」


「あ、やばいです…。ネムレは幼女に戻って狸寝入りさせていただきますね、おやすみなさぁ〜い」



久しぶりに再会した旧友と、一風変わった親交の深め方をした2人。


タクトはネムレの事を信用しつつあったが、信用したからこそ聞きたい事が山程出来てしまい、今から色々聞いてみようと思っていた。



しかしそれは、窓を補強したダンボールの方から聞こえて来る轟音により、中断させられてしまった。



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