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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
158/165

【 雨 】



ララのラリアットによって結界壁に突き刺さってしまったルークを救出し、タクト達はひとまず落ち着きを取り戻す為にジュースを飲んでいた。



「・・・・・」


「ーーーーー」


「ゴクッ、ゴクッ、ほほー!ジュースうまうまだおー!」


「・・・・・」


「ーーーーー」




・・・気まずい。



グルル以外は何故か誰とも視線を合わそうとせず、手に持ったジュースをちびちび口に付けては離すという作業のみを行なっていた。



なんだ、、、?


なんでこんなに気まずい雰囲気なんだ…





いや、重い空気の原因はわかっている。。。



それは、


【訓練が遅くなるならそうやってメールでも寄越せばいいのに、何も連絡もないままこんな時間まで私のメールも見もしないで…。メールくらいこまめにチェックしなさいって何回言ったら分かるのよ。馬鹿ルーク。

怪我とかはしてなさそうだからいいけど…

あぁもうっ、またついつい強くやり過ぎちゃったじゃないっ。

どうしていつも私は素直に心配してるんだって言えないのよ!馬鹿、私の馬鹿!】




先程からずっとララの心声が聴こえてくるが、言葉を掛けられる雰囲気ではないからだ…。



内容としては、ルークを心配し過ぎて、それがなぜか怒りに変わってラリアットをしてしまい、その事を反省しつつ自己嫌悪に陥っている。

といった感じなのだが、反省と照れが入り混じっている状態のララに不用意に声を掛けるとルークの二の舞になりかねない。




「ご、ごめんねララ。ちょっと夢中になり過ぎちゃって、メール見てなかったよ。心配掛けて、ごめん」


「べっ、別に心配なんかしてないわよっ!タクトくんとの訓練が終わったら連絡するとか言ってたくせに、いつになっても連絡が来ないからムカついただけなんだからっ!心配なんて、1ミリもしてないわよっっ」



うわぁ、典型的なツンデーーー


「ちょっとあんた!思ってる事があるなら口に出していいなさいよねっ!私はあんた達みたいに考えてる事が聴こえないんだから、ハッキリ言葉で言いなさいよっ」


心声は聴こえなくともタクトの雰囲気や表情で何かを考えていると察したララはビシッと指を差し、矛先はタクトへと向けれてしまった。


顔を赤くしながらも真っ直ぐにキッとした視線と指先と矛先を向けられたタクトは、



「いや、その、ははは…。ララさんはツンデーーー」


「それ以上言ったら、ぶっ飛ばすわよ?」


「・・すみません」



素直に言われた通り思った事を口にしようとしたのだが、ララの威圧に負け、再び飲みかけのジュースをちびちび飲む作業へとシフトした。



そんなやり取りを見ていたイリアが、楽しそうに小さく笑った。



「ふふっ、ルーク君が無事で良かったね。ララちゃん、すごく心配してたもんね」



「ちょっとイリアッ!あんまり変な事言うと、あんたの代わりにタクトくんをぶっ飛ばすわよっ!」

【イリアの馬鹿っ!なんで余計な事言うのよっ、あぁもうっ、恥ずかしい恥ずかしいっっ】



「いやいやっ、それで俺をぶっ飛ばすのは流石に勘弁してくれよっ」



「ご、ごめんねタクトくん。ララは、恥ずかしくなるとすぐ怒っちゃうけど、本当はとっても優しいんだよ」



「おろろー?パーパもルククもジュースおのこししてるおー!ぐるる飲んでいいお?」




ーーーーー


ーーー






タクトとルークの訓練が終わり、イリアとララが訓練場に来た後、いつも通りの一悶着を交えつつ休憩も兼ねて暫く訓練場でワイワイと談笑してから帰宅する事にした。







サァーーー・・・・



「お、雨か。なんか久し振りな気がするな。いつの間に降り出したんだ?」


「私達が学園に向かう時にはまだ曇り空くらいだったよ。でも本当にすごく久し振りな気がするね」



「やっぱり降ってきたのね。なんだか空が近く感じるわね」


「そ、そうだね。空が近く感じるのは多分、雨雲のせいだね。最近はずっと、天気が良かったから」



訓練場を出て噴水の前を通り正門まで辿り着くと、学園全体を覆う結界の外では久し振りの雨が通学路を濡らしていた。


ザッハルテの恩恵以降、学園島では本降りの雨はなく あっても小雨程度だった為、しっかりと降る雨を見るのが久し振りだったタクト達。


黒い雨が降った地域の住民達は『雨』というだけで恐怖を感じる人も居るが、実被害に遭っていないタクト達にはその感情はなく、久し振りの雨を見上げながら極々普通の感想を呟き合っていた。





「休憩して魔力も少し回復したから、防雨結界は任せてくれ」


「うん、ありがとう。魔力が切れそうだったら代わるから、その時は言ってね」



タクトは、会得してからあまり使う機会が無かった防雨結界を、帰る方面が自分と同じイリアとグルルも入れて発動した。



「あ、じゃあララはボクがーーー」


「バテバテなあんたの結界になんか入ったらいつ結界が壊れるかわからないでしょ!私がずぶ濡れになったらどうするのよっ。いいからあんたは黙って私のに入ってなさい」

【ルークはいつも無理しすぎなのよ。疲れてる時くらい、私に頼ってくれてもいいじゃない…】



「う、うん。わかったよ、ララありがとう」


「わ、私は自分が濡れる可能性があるのが嫌だっただけよ!別にあんたにお礼言われる事なんて・・・って、ちょっとイリアもタクトくんも、なんでそんなに微笑ましい顔で見てんのよっ!ぶっ飛ばすわよっ」



帰る方向がタクト達とは途中で分かれてしまうルークとララは、優しい優しいララの防雨結界に入って帰宅するようだ。






サァーーー・・・



星空を隠す雲から絶え間なく降り注ぐ雨は、防雨結界によって5人を避けるように地面に落下していく。



ひと粒ひと粒は米粒と然程変わらない大きさだが、歩道には逃げ場がない小さな雨粒が集まって大小様々な水溜りを作っていた。



「ーーーーー」


「ん?ルーク、どうしたんだ?」



本降りの雨ではあるが打ち付ける様な土砂降りではなく、サァーっという柔らかい雨音が心地良く感じる雨であった為、なんとなく楽しい気分で歩いていたタクトだったが、隣を歩くルークが少しだけ口元をほころばせながら空を見上げているのが気になって声を掛けた。



「あ、うん。ボクね、雨が好きなんだ。この雨みたいに、柔らかくて大降りの雨が、特に好きで…。で、でも不謹慎だよねっ、どこかの国では黒い雨で悲しい思いをしてる人が沢山いるのに…。ご、ごめん」


「へぇ、ルークも雨が好きなのか、ちょっと意外だな」


「そ、そうかな。ごめん」


「なんで謝まるんだよ。好きなものは好きでいいだろ。俺も雨、結構好きだぞ」



黒い雨が世界中で猛威を振るっている事をガイやアックスから聞かされ、魔獣に襲われる恐怖とその後に襲い来る絶望を疑似体験して知ってしまった事。


ルークが、好きな雨を好きと言った事に罪悪感を感じながら謝ったのは、元々の性格だけではなくそういった理由もあっての事であった。



【雨が好き…か。その言葉、久し振りに聞いたなぁ。初めてその言葉を聞いたあの時も、ルークは今みたいに笑ってたなぁ…】


「っっ!?ラ、ララあのねっ、昔の事を考えるのは、恥ずかしいからやめてほしいかな…。

あ、そうだっ!ほら、今日の晩御飯のお話をしようよっ!ボ、ボク今日は久し振りにクリームシチューが食べたいなっ。ララ、具材は何がいい?」



ルークは昔から気が弱く、感染者の中でもかなり辛い経験をしてきた事を知っているタクトは、ルークが雨を好きだと言った事に少しの驚きと興味が湧いていたが、ララから聴こえた心声と、その心声に慌てた様子で反応したルークを見て、きっと雨が好きになる特別な理由があったのだろうと察した。


昔の話とはいえ、2人の様子を見る限り暗い話題では無さそうだったので興味はあったが、タクトはそれを根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。





ーーーギュッ



「ーーー?」



雨の思い出話を誤魔化したルークと、クリームシチューの具材について真剣に考えているララを微笑ましく思いながら歩いていると、珍しくずっと無口だったグルルがタクトの足にしがみ付いてきた。



「どうした、グルル?」



痛みを感じる一歩手前くらいの力でタクトの太ももにしがみ付くグルルの顔を覗き込むと、グルルは目をギュッと瞑りながら小さく首を横に振っていた。




サァーーー・・・・ピカッ!



「おっ、雷か?」


「あれ?でも音がしないね。大分遠くで鳴ってるのかな?」


「え?でも、真上で光ったような気がしたけど。ボクの気のせい、かな?気のせいだったら、ごめん」


「・・・なんか変な感じがするわね。もしかしたら黒い雨の前兆とかかもしれないから、早く帰った方がよさそうね」



タクトの太ももにしがみ付きながらブルブル震えているグルル以外の4人は、低い空に鎮座する雲を訝わしい顔で見上げた。



「そうだな、急いで帰るとするか。ルーク、何かあったらすぐに連絡しろよ」


「う、うん。今日は付き合ってくれて、ありがとう。また、明日ね」



一瞬だけ光を放った空からは、雷であるのならば次に来るはずの音が無く、その後もフラッシュの様な光だけが何度も空を点滅させた。


不自然な自然現象に不気味さを感じたタクト達は、ゆっくり歩いていた足を速めて帰宅して行った。





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