【 優しい決意 】
「ボ、ボクを攻撃して欲しいんだっ。初めは優しくね、手加減してほしいんだけど…、少しずつ、強くして……ダメ、かな?」
「ちょっ・・・」
モジモジしているように見えたのは、羞恥心のせいなのか…?
ウジウジしているように見えたのは、人には言えない性癖を友人に告げる事を躊躇ったせいなのか…?
いずれにせよ、これはマズイ!
ルークが……
控え目だけど優しくて真面目だったあのルークがっ…!!
「ちょ、ちょっと待てルーク!何に覚醒しようとしてるのかはしらないけど、ドMキャラはセルとマゾエルさんだけでいいだろ!確かに趣味嗜好は人それぞれだと思うし、俺が口を出す事じゃないのかもしれないけど……考え直すんだルーク!今ならまだ間に合うはずだっ」
予想外のお願いをされたタクトは魔獣と対面した時とは毛色が違う危機感を感じて、ルークが誤った道に進むのを必死に止めようとした。
「・・・!?」
一方、自分がお願いをした途端に慌てだしたタクトを見たルークは、一瞬だけ首を傾げたが、すぐにタクトが勘違いしている事に気付いて大きく首を振った。
「ち、違うよタクトくん!そういう意味で言ってるんじゃなくてね、訓練に付き合って欲しいって事だよ!ボ、ボクのアイデンは防御特化型だから、どうしても1人だと練習に限界があって…」
「訓練…?あぁ、なんだそういう話か!よかった…。そういう事なら全然付き合うよ。あっ、グルルとイリアも一緒に居ていいか?」
「うん、もちろんだよ。ありがとうタクトくん」
「そういう事だけど、グルルもイリアもいいか?」
タクトの想像は良い意味で外れ、ホッとした表情でルークのお願いを快諾した。
ルークの訓練に付き合うのは承諾したが、タクトは見ての通りイリアとグルルと一緒に帰ろうとしていた所だったので、話を隣で聞いていた2人にも同行出来るか尋ねると、
「おおー!ぐるるはパーパといっしょなんやおー!ルククとキントレやるまじおー」
グルルは案の定 一緒に訓練を付き合うと言い、
「ごめんね、私はこの後少し用事があるから…」
イリアは何か用事があるらしく、チラッとルークの方へ視線を向けながら申し訳なさそうに断った。
「用事?なにかあるのか?」
「うん、ちょっと友達に付き合って欲しい事があるって頼まれてて、一回家に帰って着替えたらすぐ出掛けるの」
「そうか、1人で大丈夫なのか?何かあったらすぐに電話でもメールでもいいからしろよ。もし街の方に行くなら俺のヘッドホン貸しておいてもーーー」
「大丈夫だよ。友達と少し公園に行くだけだから。それよりも三人共無茶して怪我しないでね。
遠征へ行った時にタクトに渡したお守り、まだ持ってるよね?万が一誰かが怪我をしたりしたら忘れずに使ってね」
「あぁ、わかった」
心配性のタクトと世話焼きのイリアの話し合いが終わると、イリアは3人に挨拶を済ませて一足先に教室を出て行った。
「パーパ、おまもりってなんだお?」
「ん?これの事だよ。中にイリアのアイデンで作った花弁が入ってて、これに魔力を与えると傷が治るんだ」
「えっ?遠征って夏休み前だったよね?まだ効力が持続してるなんて…さすがイリアちゃんだね、すごいね」
イリアが教室から出ていくのを見送ると、グルルが知らない物への興味を示した為、タクトは鞄に入れっぱなしにしていた小さなお守り袋を2つ取り出してグルルへと手渡した。
「それは大切な物だから食べたらダメだぞ」
「おおー、ほほー!こーはイーリャのクンクンすんねー!」
お守り袋を興味津々に見ていたグルルは鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、笑顔でそう言った後 お守りをタクトへと返した。
グルルから返却されたお守りを再び鞄へしまい、タクト達は教室を出て訓練場へと向かった。
ーーーーー
ーーー
ー
「やっぱり訓練場は放課後でも結構人が居るんだな。ーーーん、あっちに居るのはヤンバルとポンタルか・・・ポンタルはいいけど、ヤンバルに見つかると面倒そうだから少し離れた所でやるか」
「う、うん。気を遣わせちゃって、ごめんね」
ガイ達が戦闘訓練を見てくれるようになってからは、毎日戦闘訓練授業が行われるようになった為、タクト自身もここの訓練場に来るのはすでに慣れたものだった。
「よし、ここならヤンバルに見つからないだろうし、ここら辺でやるか。それで俺は何をすればいいんだ?」
「ありがとタクトくん。ーーーま、まずは初級魔法をお願いしても、いいかな?属性やタイミングは、僕には言わずにタクトくんの好きに打ってくれて大丈夫だから」
見つかると面倒臭いヤンバルから離れる為だとタクトは言ったが、それは方便。
本当は、人が苦手なルークの為に生徒達が多く集まる中央から少し離れた訓練場の隅っこに陣取った。
そんなタクトの小さな気遣いに小声でお礼を告げたルークは、意識を感謝から訓練へと切り替えた。
「動物にはコアはなく、コアがあるのは、マジュウとマモノ。ほほー!
みわける目安は、マジュウはコアをかくす。マモノは見えるところにコアがあることがおーい。ほほー!
丸見えはオッピロゲってセルルが言ってたお。マモノはオッピロゲなんやおね。もひひー」
既にトレードマークになっている歌姫シオンがプリントされたバスタオルに包まれながら教科書を楽しそうに読んでいるグルルに荷物番を任せて、タクトとルークは訓練を開始した。
「じゃあ適当に打ってくぞ。キツくなったら無理せず言えよ」
「う、うん。お願いします」
2人は少し距離を離して向かい合うと、タクトは言われた通りに低級魔法のモエルを放ち、ルークはそれを小さな城門を出して防ぐ。
モエルがちゃんと防げたのを確認したタクトは続いて速度の速いビリルを放ち、ルークは再び小さな城門を出現させて防ぐ。
魔獣との模擬戦の時には城門を一々出したり消したりはしていなかったが、今はただの訓練だからか ルークはわざわざ燃費の悪くなるやり方でアイデンを使用していた。
「いつもは1人でやってるのか?訓練場は、使ってないんだよな?」
「いつもは家の近くで、ララに見てもらってるんだけど…。
ララは一緒には居てくれるけど、ボクに魔法を打ったりはしてくれないんだ。
それに、もし打ってくれたとしてもララは非感染者だから、たぶんボクはMSSに頼っちゃうと思うんだ…」
「あー、なるほどな」
タクトも毎日自主トレはしているので、誰かと一緒に訓練をする重要性は理解していた。
防雨結界や防風結界などの練度上げは1人でも効率良くやる事は出来るが、攻撃魔法に対する防御魔法やルークのアイデンのような受けメインの能力は、魔法を打ってくれる人がいないとどうしても効率が悪くなってしまうからだ。
タクトの場合はグルルやセルやイリアなどがそれをやってくれるが、ルークの場合はそういった友人が極端に少なく、ララくらいしかいない。
ララが悪いという訳ではもちろんないのだが、レベル3のルークが非感染者のララと訓練をするとなると、ルークはララの初動よりも先にMSSでどんな攻撃が来るかわかってしまうので、訓練には不向きな相手といえるだろう。
まぁそれ以前にララは、日頃からあれだけ頻繁にルークにラリアットをしているにも関わらず ルークに攻撃魔法を打つ事を嫌がっているらしく、ルークがやりたい練習を出来ていないようだ。
ボッーーーカキンッ
ビリッーーーカキンッ
「でもやっぱりルークの《ソロキャッスル》は凄いな。属性関係無く完璧に魔法を防げるって、防魔も結界もいらないんじゃないか?」
「そ、そんな事ないよ。アイデンの方が確かに性能は高いし、咄嗟に使っちゃうけど、心力が切れるのは魔力が切れるよりも危険が大きくなるし、
それに、今のままだと・・誰かをちゃんと守れる程じゃ、ないから」
一方的なキャッチボールの様な訓練をしながら、タクトがルークのアイデンを褒めると、ルークは悔しさを噛みしめる様にそう言った。
誰かをちゃんと守れる程じゃない…と言っていたが、その『誰か』とは、ララである事は明らかだった。
意識改革の為のガイの授業初日の時も、擬似魔獣が現れた瞬間にルークは一目散にララを守る為に走り出しており、その時ルークの近くに居たタクトはその事も見ていた。
そして、その結果がどうなったかもしっかりと覚えていたタクトは、今のルークの発言に疑問があった。
「守れる程じゃないって、前の戦闘訓練でルークはララさんをしっかり守れてたじゃないか」
ダメージ量によって4つにグループ分けされた最初の授業で、ララはイリア達と同じ無傷枠に居た。
それは、今タクトが言った通り、ルークがララを守ったからに他ならない。
「う、うん。でもボク、あの後ララにすごく怒られたんだ。だから、もっともっと頑張らないとダメなんだ…、タクトくん、中級魔法でお願い」
フードで顔が隠れていても、ルークがやる気に満ち溢れているのが伝わってきた為、タクトは話の内容に引っ掛かる点はあったが、まぁいいかと気持ちを飲み込んだ。
「あぁ、でも本当に無理はするなよ」
「うん、まだまだ大丈夫だから、どんどんお願い」
タクトは言われた通りに中級魔法をルークに放っていき、ルークはそれも全て城門で防いでいった。
「そういえば、ガイさんとアックスさんが言ってたアイデンの強化についてだけど、ルークはなにか掴めたか?」
「制御と自覚の事、だよね。でもボク、よくわからないよ。魔力と心力は意識するまでもなく別々に扱ってると思うし、アイデンは子供の頃から自然に使ってて体の一部みたいな物なのに、これ以上何をどう自覚すればいいのか…」
「そうだよな…」
ガイ達による戦闘訓練の中で、アイデンの強化について抗議を受けた日があり、そこで言われたのが『アイデンの成長の可能性を模索して自覚する事』と『心力と魔力、両方を完全にコントロール出来るようにする事』であった。
しかし、タクトもルークもそれが何を意味するものなのか理解できていなかった。
そもそもアイデンティティスキルとは幼少期に勝手に身に付く能力で、身に付いた時点で性能はほぼ決まっているし自覚もしている。
アイデンの成長と言われたのであれば、言われるまでもなく幼少時代から制御や範囲の拡大を意識して扱うようにしている。
だが、アイデンの成長の可能性と言われると、どう模索すればいいのかさえわからなかった。
「イリアとかハイナさんはほとんど合格点って言われてたよな…」
「うん、他にも何人かは成長の可能性は見つけられたみたいだったよね。
みんな、すごいよね…。ボクも、頑張らないと…」
アイデンの成長の可能性。
そこに既に到達している生徒は何人もおり、イリアを含む少数は既にほぼ完成されていると評価を受けていた。
「イリアが出来ていて、俺に出来ていない事…」
イリアとは幼い頃から時間を共にしてきたタクト。
マキナやタクトに比べると体力が少なく、真面目でしっかり者だが時々抜けたところもあり、頻繁にというわけではないが目眩や立ち眩みを起こす事もあるイリアの事を、タクトは自分が守ってあげなければいけない人であると思っている。
その、自分が守らなければいけないと思っている相手が既に自分より高みにいると知ったタクトだったが、そこで落ち込んだり恥ずかしくなったりなどはしていなかった。
むしろ、その時の感情は安心や喜びだったくらいだ。
そして今は、既に完成されていると評価を受けた幼馴染のイリアと自分を比較して、少しでも自分の成長の可能性を見つけるヒントを得ようと頭をフル回転させていた。
バッシャーン、
タクトがガイの言っていた成長の可能性について考えを巡らせながら 流れ作業のように魔法をルークへ向けて放ち続けていると、水の中級魔法ヌレルツアートを放った直後、今までのような城門で魔法が弾かれる音ではなく 魔法が直撃した音が聞こえてきた。
「なっ!おいルークッ、大丈夫かっ!?」
「ゲホッ、ゴホッ、、、うん、ごべんね。だ、大丈夫」
幸いな事に直撃した魔法は殺傷能力のほぼないヌレル系の魔法だった為、大事には至らなかった。
ピチャ、ピチャ、
ダメージ自体はないルークだが、全身びしょ濡れになってしまったので訓練は一旦中止。
「すぐ乾かすからちょっと待ってろよ。グルルも手伝ってくれ」
「おおー!もわわんするまじおー!」
タクトとグルルはびしょ濡れになったルークにドライの魔法を掛けて乾かしてあげた。
「あ、ありがとう。ごめんね…やっぱり失敗しちゃった」
「失敗って、アイデンをか?心力にはまだ余裕ありそうなのにルークがミスするなんて珍しいな」
心力の残量が少なくなると、体力や気力が著しく低下するのは万人共通。
しかしルークは息が上がっている様子も疲労した雰囲気もなく、心力にまだ余裕があるのは本人でなくともわかる。
「う、うん。ごめんね。ちょっと試してみたい事があって、やってみたんだけど、やっぱりダメだったみたい」
「試す?何をだ?」
「アイデンを魔力で発動してみたらどうなるんだろうって思って…。普段アイデンを使う時って、何も考えなくても勝手に心力を使ってるよね。だから、それを意図的に魔力でやろうとしてみたんだ。
ガイ先生が魔力と心力のコントロールの話しをしてたから、もしかしたらそれがアイデンの成長の可能性のヒントなんじゃないかなって思って…。でも、やっぱり出来なかったよ」
「アイデンを魔力で・・・考えた事もなかったな」
ただ我武者羅にアイデンを使って訓練をしているだけではなく、ルークも自分なりに色々考えながら訓練をしていた。
自分とは違う発想を持ち、小さな体をずぶ濡れにしながらも試行錯誤して必死に前進しようと努力する友人にタクトは尊敬を感じつつ、自分も頑張らないとな と心の中で己を奮い立たせた。
「あ、ありがとう。後は自然に乾くと思うから、訓練の続き、お願いしてもいいかな」
「あぁ。よしやるか」
まだ半乾きではあったが、2人は訓練を再開させた。
ルークのやる気に触発されてか、タクトは先程の流れ作業のような魔法ではなく、1つ1つの魔法に集中して魔力に緩急をつけたりして自主トレも交えながらルークの訓練に付き合った。
ーーーーー
ーーー
ー
2人は訓練にかなり集中しており、訓練場に居た生徒達がちらほら帰り出す時間になっても手を緩める事なく、魔法、防ぐ、魔法、防ぐ、を繰り返していた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「ふぅ〜、今日はこれくらいにしとくか。いつの間にか結構人も減ってるし」
ルークが肩で息をし始めたのを見て、タクトは魔法をとめて訓練の終了を提案し、ルークの元へと歩いて行った。
タクト達が訓練場に来てからすでに3時間以上経過しており、びしょ濡れ以降はノンストップでやっていたのでルークに疲れが出るのも当然。
一方、心力を使っていたルークとは違い、魔力のみを使っていたタクトに身体的な疲労はないが、練度上げの為にあえて得意属性以外を使うようにしていたタクトの魔力も尽きる寸前だったので、切り上げるにはちょうど良いタイミングだった。
「グルル、悪いけどジュースを三本買ってきてくれるか?ここを出たらすぐに売店があるから」
「おおー!わかたおー!」
グルルにお使いを頼んだタクトは、疲れて床に座り込んでいるルークの隣に座った。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ」
「大丈夫かルーク?」
「う、うん。タクトくん、付き合ってくれてありがとう。やっぱり1人でやるよりも色々考えながら出来るし、すごく捗った気がするよ」
ルークはポタポタと落ちる汗と上がった息を整えて、満足そうにタクトへお礼を告げた。
「最近ルークすごい頑張ってるよな。授業は元々真面目に受けてたけど、飯の時も鬼気迫る感じだったし」
「そ、そうかな…。周りのみんなが、すごい人達ばっかりだから、焦る気持ちが出ちゃってたのかも」
「焦る気持ちは俺も同じだから良くわかるけど、無理し過ぎてぶっ倒れたりしたらルークだけじゃなくて俺までララさんに怒られそうだから程々にな」
軽口のようで結構本気なタクトの発言に、ルークは愛想笑いと頷きを返した。
「そういえばララさんに怒られたって言ってたけど、なんで怒られたんだ?」
「え、いつの事?ボク、ほとんど毎日ララに怒られてるから」
「た、大変だなルーク。俺が聞きたいのはあの黒い靄の授業の時の事だよ」
ルークの隣に座ったタクトは、ルークの日常に同情しつつ、気になっていた先程の話の続きを聞いた。
「あ、あの時は『弱虫の癖に他人の事ばっかり守るなっ!阿呆ルーク!馬鹿ルーク!』って怒鳴られたよ。
ーーーでもね、ララは心声で、ボクに黒い靄が付いてた事を悲しんでいたんだ」
「・・・そういう事か。ははっ、ララさんらしいな」
心の声が聴こえる人が怖いと言うルークが、非感染者で心を開く数少ない存在、ララ。
口は悪いし、すぐに手が出るし、素直じゃない癖に真っ直ぐ過ぎて融通も効かないが、人一倍優しく、ルークの事を誰よりも気遣っている。
その事は付き合いの短いタクトにも分かっており、怒った理由のララらしさに小さく笑いながら納得した。
「だから、ボクはもっと頑張らないとダメなんだ。ララを魔獣から守れた時はすごく嬉しかったけど、結局ララを悲しませちゃったから…。
ララを悲しませないようにする為にもボクは、ララもタクトくん達も、ボク自身の事も守れるように頑張らないとダメなんだ」
「・・・そうか。ルークらしいな。俺でよければいつでも訓練付き合うから、遠慮なんかしないでいつでも誘ってくれよ。俺もルークに負けないように頑張らないとだしな」
「う、うんっ!ありがとう、タクトくん」
ララがルークに怒るのは、それほどルークの事が心配で、大切だから。
ルークが必死に頑張るのは、大切なララを魔獣や悪人の魔の手から守るだけでなく、ララの心も守りたいから。
自分の事よりも相手の事を大事に想う、似た者同士で不器用な友人2人の事を、タクトは誇らしく思った。
「パーパー!ジュースおつかいしてきたおー!」
汗だくになりながらも揺るぎない決意を抱くルークに尊敬の念を抱きながら優しい表情で見ていたタクトだったが、グルルが訓練場の入り口付近から大きな声でそう言った為 視線をグルルへと移した。
ダッダッダッダッダッダッーーー
「ーーっ!ララさんっ!?」
タクトがグルルの声がする方へ視線を向けると、グルルの後ろから猛スピードで駆け寄って来るララが視界に入った。
【また無理してっ、こんな時間までっ!私がどれだけ心配したと思ってるのよっ、そんなに汗だくになって疲れた顔までして…】
「ルゥゥゥゥクッ!!!」
「えっ、ララ!?どうして居るの…ちょっ、ちょっと待って!今ボク疲れぇぇぇわぁぁぁぁっ・・・」
ヒューーー・・・・バキッ
タクトがララを視認したのも束の間、グルルの背後に見えたララはもの凄い速度でルークへと駆け寄り、勢いを弱める事なくラリアットを炸裂させた。
ララ登場からほんの数秒。
一瞬の出来事過ぎて、綺麗に飛んで行くルークをタクトは冷や汗を垂らしながら見送る事しか出来なかった。
「ララちゃん、怒らないって約束だったのに…。あっ、タクトいきなりごめんね。さっき一応メールは送っておいたんだけど、やっぱり見てなかったよね」
「ーーーイリア?」
ララが現れ、ルークが飛ばされ、タクトは棒立ちしながら固まっていた。
するとそこへ、グルルと一緒にジュースを持ったイリアが歩み寄りながら謝罪を口にしてきた。
「え、なんでイリアがここに居るんだ?用事は?ララさんもなんで?」
「あのね…あ、でもちょっと待ってて。先にルーク君を助けてあげないと、1人だと結界壁から抜けられそうにないから」
突然のラララリアットに続き、居るはずのないイリアが私服で現れた事でさらに混乱するタクトだったが、イリアの言葉と視線につられてルークの方を見てみると、ラリアットで飛ばされたルークが見事に訓練場の壁の内側に張られている結界壁に突き刺さっているのが目に入ってしまった為、ひとまずルークを助けに行く事にした。