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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
156/165

【 ルークのお・ね・が・い 】



ーーー



サラがアックス達と話し合いを行なっていた一方で、戦闘訓練を終えた生徒達は昼食の時間を迎えていた。




「腹減ったわぁぁ、今日は大盛りだけやと足らへんでほんま。そや、シエート休みやし、シエートの机でも注文したろ!和食と洋食の大盛りコラボやっ」


「おおー!ぐるるもぱるるのおべんと、いたまーすするおー」


「ヤンクエもシャイグルも本当にスゴイね…。自分、ちょっと食欲出ないよ…」



ガイのアイデンによって付けられていたダメージの深さを示す黒い靄は訓練場を出る頃には全員消えていたが、精神的なダメージが残っているのか ポンタルはげんなりした顔をしながらそう言った。



タクトの席の周りでは、そんなポンタルを含めて最近ではお馴染みになった席の近い面子が机を囲んでいたが、そこにウラルとセルスの姿はない。




「ポンタルさん。お気持ちはお察し致しますが、お食事は勉学や運動と同じく大切な事ですの。先程の授業で苦い思いをしたのなら尚更、しっかりと栄養を摂って英気を養うべきだと わたくしは思いますわ。

ほら、ポンタルさんもあちらのルークさんを見習ってはいかがかしら?」



ハイナがポンタルにそう言うと、ポンタルだけではなく その場に居るタクトやイリアも教室の1番右前の席に座っているルークへと視線を向けた。


昼休憩中のルークは、ララに誘われて出て行く時以外は大体いつも自分の席で1人でちまちま食事をしていたが、今日は普段とは様子が違った。



「ぱくぱく、ガツガツ……うぐっ!んぐぐ、ゴクゴクッーーーふぅ。ぱくぱく、ガツガツ・・・」



普段はサンドイッチをひと切れ食べただけでお腹いっぱいだと言うほど少食なルークが、持参したサンドイッチとは別に洋食ランチを机に並べて必死に食事をしていた。


「ーーーーー」


そんなルークの姿を見ても、よほどお腹が空いていたのかなぁ、などと思う者はいないだろう。


必死に食事を口に運ぶルークからは、食べなくては!という使命感のような物が全身から溢れ出ていたからだ。



「す、すごいな。あんなルーク 初めて見た」


「そうだね…。きっと、ルーク君もさっきの授業で何か感じた事があったんだね」



小さな体で必死に食事をするルークを見たタクト達は、その後 いつもより静かに昼食を済ませた。








ガラガラッーーー



昼食を終えたタクトは、午後の授業までの時間を静かに待っていたが、ふいに教室の扉が開いた音が聞こえて視線をそちらへと向けた。



昼休憩で購買などに行っていた誰かが帰ってきたのだろうなぁと思い、頬杖をつきながらボーッと視線だけを教室の扉へと向けるとそこには 戦闘訓練には不参加だったデュランの姿があった。


さらに、教室の扉をくぐるように入ってきたデュランの大きな体に隠れていたが、その背後にはウラルも居た。


教室に入ってきたデュランは何事もないように自分の席に歩いて行こうとしたが、ヤンバルがガタッと椅子から立ち上がって声を掛けた事で立ち止まった。



「おいこらレウカーサおまえっ!いつんなったら戦闘訓練に顔出すねん!っつかお前いつも戦闘訓練授業ん時なにしてんねんっ!?今日の戦闘訓練めっちゃおもろかってんぞ!どっちがようけ魔獣倒せるか勝負したかったのにっ。今回はワイの不戦勝やで!それでええんか?ええんやな?ヤハハッ、やーいやーい負け負けレウカーサ・・・って、嬉しないねんっ!アホかっ!」



「ふんっ」



ヤンバルに声を掛けられて足を止めたデュランだったが、ヤンバルのいつもの戯言だと分かると そのまま自分の席に座った。


デュランが席に座わると やいやい言っていたヤンバルも椅子に座り直し、それ以上デュランに絡む事はしなかった。



うるさいヤンバルのせいでクラスメイト達の視線は自然とデュランとヤンバルに向けられていたが、それが収まると今度はウラルの方へと視線が集まっていった。



「ウラルさんおかえりー!ねぇねぇ、なんでさっきの授業でウラルさんは先生達と一緒にいたの?あっ、もしかして軍人さんのどっちかがウラルさんのパパだったり?」



教室の真ん中の席にちょこんと座ったウラルに対し、ウラルの隣の席のミントが早速質問をしていた。


質問をしたのはミントだが、他の生徒達も気になっていたらしく 数名の女子がウラルへと近付いていく。



「いえ、わたくちのパパたまはパパたまだけでございまつ。

てん闘訓練中はたまざまな結界が必要でちたので、ムチ姉たまに命じられてわたくちは結界を張っておりまちた」



「そうなんだー。なんか戦ってたミント達より大変そうだねー」



「それより、サラ先生の事をムチ姉様って呼ぶ人はじめて見たよ…。ウラルちゃんって、意外と怖いもの知らずなんだね…」



「えー?サラ先生は怖くないよ。怒ってるところなんて見た事ないじゃん!笑ってるとこも見た事ないけど!」



「あははっ、そうだよねー!」




セルとの一件もあり、ウラルの事が多少気になっていたタクトはミント達を遠巻きに見ながら会話を聞いていたが、最初の質問以降はただキャッキャッと談笑しているだけだった為 視線を窓の方へ戻し またボーッと次の授業が始まるのを待つ事にした。






昼休憩が終わる直前になると、いつも通りクラスメイト達は自分の席に着いて授業の準備をしていたが、今朝までとは明らかに雰囲気が違った。



基本的に真面目な生徒が多いAクラスだが、3時限目までと比べると授業に対しての意識が更に強まったように思える。


午後の授業が始まってからもその意識が途切れる事はなく、あのヤンバルでさえ眠らずにしっかりと授業を聞いていた。


作業の様にこなす授業と、自分の為に取り組む授業では吸収率が段違い。



それは次の日も、その次の日も変わらずに続いて行った。






ーーー




翌日以降の戦闘訓練もガイやアックスは手を抜く事はなく、厳しく激しい授業が行われた。




「いいかお前ら!魔力の総量が多いからって自惚れてっと痛い目を見るぞ!魔獣や悪人の中には魔封じをしてくる奴もいるんだ!魔力が使えなくなっても戦える術を身体で覚えろっ!」



封魔錠を装着しての魔獣討伐模擬戦を行ったり、







「では、今から攻撃しますので避けるか防ぐかしてみて下さい。いきますよ」

【右の斬撃、と見せかけて左殴打ーーー】



「よしっ、こっちだ!」


ビリリリッーー


「ぐわっ!なんだっ!?」



「と見せかけて、本当はトラップ魔法への誘導がメインです。

いいですか?MSSは便利ですが、レベル3だとバレている状態では逆に利用されるケースもあります。自然に聴こえる心声だけを頼るのではなく、戦闘になった場合にはもう一段深い心声を聴く癖をつける様にしなければ、今の様に予め仕掛けておいたトラップ魔法へ誘導される可能性もある、と 常に考えて下さい」



MSSの弱点克服や思考訓練を行ったりと、対魔獣や対人をメインにした強化訓練を行っていった。



戦闘訓練授業は以前から選択科目としてあったが、実戦形式の戦闘訓練を行う事で生徒達は飛躍的に強くなっていった。







ーーーそんな毎日が2週間ほど経った放課後






「タ、タクトくん。今からって、予定あったりするかな…?」



1日の授業が全て終わり グルルとイリアと一緒に帰宅しようとしていたタクトに、フードで顔を隠しながらモジモジとした態度でルークが声を掛けた。



「ん?帰ってから餃子を作るくらいしか予定はないから、用事ってほどのものはないな。どうしたんだ?」



帰り際にルークから挨拶以外で声を掛けられる事などほとんどなかったタクトは足を止めてルークの話を聞くことにした。



「あ、あのね。忙しかったり、気分じゃないなら全然断ってくれていいんだけど…、タクトくんに少しお願いが、あるんだ。あっ、でも本当に全然断ってくれて大丈夫だからね」



「友達なんだから遠慮なんてするなよ。俺に出来る事ならなんでも言ってくれ」



モジモジというよりウジウジした態度のルーク。


親しくない人ならばイラッとする人も居るだろうが、ルークの事をある程度知っているタクトはイラッとするどころか 少し嬉しそうだった。


人との交流が極端に苦手なルークが自分から話しかけ、更には頼ってくれようとしている。

それがタクトにはすごく嬉しかったのだ。


俺に出来る事なら、と言ってはいたが、タクトは出来る事でも無茶振りでもなんでも引き受けるつもりでいた。


そう思う背景には、何も言わずに1人で何かを抱え込んでいるであろうセルスの事が 頭の片隅にあったのかもしれない。



「う、うん。ありがとう。あのね、ボク、タクトくんに…攻撃して欲しいんだ」


「・・・・え?」



ルークに「お願いがある」と言われた時点でOKを出す気まんまんだったタクトだが、ルークのお願いの内容を聞いて固まった。




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