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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
148/165

【 0点の精鋭達 】


ザッハルテさんが雨雲を消し去ってくれてからは 平和な毎日を体現するかのような晴れた日が続き、今日もいつもと変わらない賑やかな学園で授業が進んでいった。




「ふぁ〜ぁ。よぅ寝たわぁ。おっ、次は戦闘訓練やんけ!今日こそはホンマにバッチバチの戦闘訓練させてくれへんかなぁ。そしたらレウカーサの奴をワイがボッコボコにしてやるんやけど…ってレウカーサの奴おらへんやんけ!あいつまた戦闘訓練の授業サボるつもりやないやろなっ!?」


相変わらず寝ている時以外はうるさいヤンバルが目を覚ましたのは3時限目が終わった直後、そして次はヤンバルが大好きな戦闘訓練授業だ。


とはいえ、AクラスとBクラスの戦闘訓練授業は他のクラスに比べてハードな訓練になると言われていたにも関わらず、今ヤンバルがボヤいてた通り 今日まではこれといってキツイ訓練も危ない訓練もなく、魔学や魔修授業の延長みたいな事しかやっていない。


当初の説明では対人や対魔獣を想定した訓練も行うと言っていたのに、それらしい事はまだ一度も行われていないのだ。


最近少しだけだが調べてみてわかった事だが、黒い雨や魔獣騒動が思ったよりも深刻化していないようなので、戦闘訓練もそこまで急務ってわけではないのかもしれない。


「なんにしても、俺達はただ授業を受けるだけだけどな。グルル、俺達も行こうか」


「おおー!ごーどー授業は人いぱーいで楽しいんやおー」



ーーー



訓練場に着くと、いつもの様に左側にAクラス 右側にBクラスの生徒が集まっており、授業が始まるまでの僅かな時間を仲間同士で談笑しながら待機していた。


談笑する生徒達に戦闘訓練初日の時のような緊張感はまるで無く、体育の授業が始まる前と変わらない様子だ。


かくいう俺も今までの戦闘訓練授業が普通過ぎて緊張感などは持ち合わせていないが。



「なんや今日はワイらのクラスいつにも増して少なないか?シエートはおらへんし、レウカーサはサボるし…おまけにウラルまでおらへんやんけ」


元々Aクラスは他のクラスより人数が少ない…Aクラスの人数が少ないというよりは他のクラスの人数が多いだけなのだが。

まぁそれはおいといて、確かに今日のAクラスは少なく感じる。


その理由は今ヤンバルがブツブツ言っていた通り、クラスの中で良くも悪くも目立つ存在の3人がこの場に居ないからだ。


デュランは戦闘訓練の授業には今まで一度も顔を出していないのでいつもの事だし、セルは生徒会の仕事なので仕方ない。

だけど、今まで全ての授業にちゃんと出席していたウラルまで居ないのは何故なのだろう…。



コツッ コツッ コツッ


「おっ、今日はサラ先生か。……ん?後ろにいるのは……」


ヤンバルの愚痴を聞きながら、集まりの悪いクラスメイトの事を考えていると 授業開始のチャイムと同時にサラ先生が訓練場に入ってきた。


しかし、入ってきたのはサラ先生だけではなく、その後ろに3人引き連れている。


「あのオッサン達は誰や?っつかなんでウラルもあそこに居るんや?」


「ちょ、ちょっとヤンクエ聞こえちゃうよ。そんなに大きい声でオッサンなんて言ったらダメだって。マジ怒られちゃうよ」



サラ先生の後に訓練場に入ってきたのは、痩せ型で長身のメガネを掛けた男と、小さくてゴツいドワーフの様な男で どちらもサラ先生より年上に見えるが、学園の教師ではないのは明らか。


そしてその2人のすぐ後ろに、何故かウラルが付き添っていた。



『皆さん集まって居ますね。では戦闘訓練の授業を始めます。今日は現役の軍人の方々が授業の手伝いをして下さいますので、失礼の無いよう気を引き締めて授業に取り組んで下さい』



サラ先生はそう言うと、全員の視線が集まる自分の場所を長身のメガネの男に譲った。


場所を譲られた男はサラ先生に軽く頭を下げた後、今度は俺達の方へ体を向けて丁寧なお辞儀をした。



『どうも皆さん、初めまして。私はディミド国から来ましたガイ・ナッシュソウグと申します。こちらも同じくディミド国軍のアックス・バンビッグ中佐です。ディミド国と言っても知っている人は少ないのではないでしょうか?普段は学園島とあまり関わりのない小さな国ですし、私達なんかは見ての通りただの怪しいおじさん2人組ですからね。皆さんは警戒したままで結構ですので、今日はどうぞよろしくお願いしますね』


「「「よろしくお願いしますっ」」」



薄く笑みを浮かべながら作り込まれたような柔らかい口調で自己紹介をするガイ、その隣で一言も喋らずにムスッとした表情を浮かべながら腕を組んで生徒達を凝視するアックス。


ガイという男の言う通り、ディミド国軍と聞いても多くの生徒は関わりのない国の軍人という認識しかしておらず、普段から英雄サラの授業を受けたり セントクルスの軍人達と少なからず関わりのある生徒達には特に緊張した様子はなかった。



『良い返事、それに良い表情。緊張感はなく各々が自信に満ちた顔をしていますね。なるほど、なるほど』


ガイは薄い笑みを消す事なく生徒達を見渡し、ウンウンと小さく頷きを繰り返した。


何に納得をしたのか、何に対しての笑みなのか、タクト達はそれを察する事が出来なかった。


「なぁなぁパパやん…」


性格の悪そうな笑みを浮かべながら壇上に立つガイを見ていると、近くに居たヤンバルがタクトに小声で声を掛けた。


「あの性悪そうなおっさん、何を考えとるか聴こえるか?」


「いや…聴こえるのはBクラスのララさんの心声だけだな。この距離なら聴こえるはずなんだけど…」


2人の会話はMSSで聴こえる心声についてだった。


ヤンバルはMSSレベル2なので感情などは感じる事が出来るが考えまでは聴く事が出来ない上、ガイとの距離が遠い為 感情すら読めないようでMSSレベル3のタクトに聞いてきたというわけだ。


しかし、察知距離の長いレベル3を持つタクトですらガイの心声は聴こえなかった。


見た目より老けた顔の感染者なのかもしれないとタクトが勝手に結論を出そうとしていると、こちらの会話が聞こえたかのようにガイはタクトに視線を向けて口を開いた。


『なるほど。この中にレベル3は3人居ると伺っていましたが、1人はそこの男子生徒のようですね。もう2方は・・・あぁ、彼の近くに居る貴女とフードの貴方でしたか』


「なっ!?」


「なんで分かったんだ!?感知系のアイデンか?」


ガイの発言にタクトを含むクラスメイト達がどよめきだしたが


ーーーパンッ


ガイは手をパンッと鳴らしてそれを鎮めた。



『はい。私の採点では現在あなた方は全員0点ですね。先程 私が警戒したままでと言ったばかりであるにも関わらず、私が1人のレベル3感染者を当てた事で動揺し、残り2人のレベル3に視線を向けてしまうなど愚の骨頂。貴方達…あぁもう君達でいいですね、君達は得体の知れない怪しい私に 稀少であり貴重なレベル3感染者を自ら手渡したようなもの。もちろん周りと同様にレベル3の君達3人にも言える事ですよ、油断し過ぎだと』


「・・・・・」


『自覚が足りない、配慮が足りない、経験が足りない、何もかもが足りていない。ある程度腕に覚えのある方も居られるようですが、今の君達が持っているのは自信ではなく ただの慢心。これが世界最高峰の学園に通う生徒達とは正直ガッカリしました…。いえ、安心したと言っておきましょうか』


ガイは眼鏡越しに鋭い視線を生徒達へ向けながら、小馬鹿にしたような顔で全員を見回した。



『あぁ失礼。何を言っているのか分からないといった顔ですね。いえね、実は私は以前 一度こちらの学園の生徒とお会いした事があったのですが、あの方達のように完成された生徒ばかりでしたら私からお教え出来る事などないと思っていましたので。皆さんが完成とは程遠い甘ちゃんばかりで安心した、という意味で安心と言っただけですよ。皆さんのように危機感のカケラも持ち合わせていない方達にでしたら、強者とは程遠い私にでもお教えする事が多分にある事がわかりましたのでね。では、授業を始めましょうか』


ガイは小馬鹿にしたような顔ではなく、完全に小馬鹿にしながら生徒達にそう言った。



しかし、今ガイが言った通り 仮にも世界最高峰の学園と言われるアルバティル学園に通う生徒達。

それも無数と思える程に多い生徒の中でも精鋭と言われるAクラスとBクラスの生徒達が無能であるはずがなく、生徒達の中にはAクラスやBクラスである事を誇りに思っている生徒も居り、魔力やアイデンや学力や戦闘力で自信を持っている生徒も多い。


なのでーーー


「おいおいおいおい軍人さんよぉぉぉ!えれぇ馬鹿にしてくれるじゃねぇか!」


「はぁ?ディミド?そんな豆粒みたいなど田舎の軍人が俺達に何を教えれるって?」


「そーだそーだ、言っとくけど俺達はそこら辺の警察や軍人なんかよりよっぽど多くの犯罪者を捕まえたりしてんだぞー!」


案の定、ガイの挑発的な言葉に反応する生徒が何名か立ち上がって反論しだしてしまった。


立ち上がったのはBクラスの男子生徒数名。



「はぁ、あの方達は…相変わらずでございますわね…」


その数名を以前からよく知っているであろう元Bクラスのハイナは溜め息を吐きながら冷ややかな目を向けてはいたが、ガイの発言にハイナも癪に触るところがあったからか 授業を妨害するような行いをしているその男子達を止めようとはしなかった。




しかし、そこで初めて動いたのは ガイの隣でずっと険しい表情を崩さずに立っていたアックスであった。


アックスは一歩だけ前に足を進めると、大きく息を吸い込み、



『じゃっっっかましぃいぃぃぃぃっ!!!!!』



とんでもなく大きな怒号を発した。



訓練場が揺れるのではないかと思うような大きな声は、生徒達の鼓膜を激しく揺らし キーンと耳鳴りが残る程の破壊力があった。


いきり立っていたBクラスの男子達もその怒号を受けて、耳を塞ぎながら棒立ちしてしまっている。




『おい嬢ちゃん、もう結界はいらねぇ。俺の方だけ消してくれ』


『・・・かちこまりまちた』


耳鳴りが治らない生徒達から視線を外さないまま、アックスは隣に立っているウラルへそう指示を出す。


指示を受けたウラルは、予定と違う行動をとろうとするアックスに対して一瞬躊躇ったが、背後で待機しているサラが頷くのを確認してから アックスに掛けていた結界を解除した。



ウラルが結界を解除したのと同時に、一部の生徒達に変化が起きる。


【ったくガイの野郎は相変わらずまどろっこしい真似ばっかしやがって。にしてもこの嬢ちゃんの魔力コントロールはすげぇな】


「ーーー!?」


「???」


「ーーー??」



その変化を受けたのは、タクト イリア ルークの3人。


MSSレベル3感染者達であった。


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