【 おちょく事のお時間でございまつ 】
ザワザワーーガヤガヤーー
ウラルとのやり取りがあった分、クラスメイト達よりも遅れて教室に戻った俺達。
教室に入ると、いつもの昼休みの賑やかさとは少し違う騒がしさが俺達を出迎えた。
「なんや妙に騒がしないか?・・・それに、みんなパパやんの事めっちゃ見てんで…」
ヤンバルの言葉に釣られて俺もクラスメイト達を見てみると、確かにみんな俺の方を見てヒソヒソと話しているようであった。
なんだ?
クラスメイトに注目される理由もヒソヒソ話しされる理由も思い当たらない俺は、居心地の悪い気分を味わいながらも、なるべくその視線を気にしないようにしながら自分の席へ戻ろうとして、、、みんなが騒がしくしている理由を理解した。
「なっ・・・」
その理由は俺の席にあった。
「お待ちちておりまちた。おちょく事は各自ご持たんたれているとの事でちたので、お飲み物とデザートをご用意たてて頂きまちた。他にもご要望がございまちたら、何なりとお申ち付け下たいまて」
俺の席があった場所に、教室には不釣り合い過ぎる豪華なテーブルが用意され、王室よろしくなティーセットやフルーツ盛りがセッティングされていた。
そしてその傍らでは、この奇行を行った犯人であろうウラルがティーポットを片手に持ちながら俺達に向けて丁寧なお辞儀を披露している。
「・・・・・」
変わり果てた俺の席。
無駄に研ぎ澄まされた所作で腰を折るウラル。
違和感しかない光景を見ながら、俺はツッコミを入れる事すら出来ずに呆然としていたのだが、そんな俺の困惑などお構いなしにクラスメイト達は俺を取り囲んで口撃を始めた。
〝シャイナス君!どうやってウラルさんをご飯に誘ったの!?〟
〃共存以外にも幼い子を惹きつける能力を身に付けたって噂…本当だったんだ…〟
〃シャイナスきさま…フラワールという幼馴染がいながら、なおも美少女を求めるというのか…許せん、、、許せんぞぉぉっ〟
「いやちょっと待てお前らっ!俺はただ普通に、、、痛っ!誰だ今どさくさに紛れて蹴った奴!」
「もひひー!ぐるるもわちゃわちゃするんやおー!」
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それから数分後。
「ふぅ…酷い目にあったな」
疑問と興味が尽きないクラスメイト達による質問責めはチェルチとハイナによってなんとか収拾がつき、好奇の視線はまだあるが ひとまず自分の席に戻って落ち着く事ができるようにはなった。
ちなみに、派手過ぎるテーブルは俺がウラルに片付けてくれと頼むと 転移系の魔法で一瞬で片付けてくれたのだが、フルーツ盛りはヤンバルが食べたいと言ったのでそのまま残し、ティーセットはウラルの要望で片付ける事なくそのまま机に置かれている。
「あかん、ワイの腹が背中とこんにちわしてまうわ。ウラルも突っ立っとらんと はよ座って一緒に飯食おうやぁ」
「わたくちはおちょく事の必要がございまてんので、どうぞ皆たま おちょく事をお楽ちみ下たいまて」
俺達が全員席に座って昼飯の準備をしている中、ウラルは1人だけ立ったまま席に座ろうとしなかった。
ヤンバルが座るように促しても結果は変わらず、ウラルはティーポットを手に持ったまま俺達の様子を見ていた。
「タクトたまとグルルたまのおちょく事は残酷丼でございまつか。とれではこちらの和茶とおつい物が合うかと思われまつ。どうぞお召ち上がり下たい」
「あ、あぁ。ありがとう。でも親子丼を残酷丼って言うのはやめてくれないか…。食べにくくなる…」
机を合わせてそれぞれが弁当や持参したサンドイッチなどを机の上に置くと、ウラルはそれぞれの食事に合った飲み物やスープなどを添えてくれた。
「あの、ウラルさん。ウラルさんも一緒に座ってご飯を食べませんか?」
「お心遣い感ちゃ致ちまつイリアたま。でつが、わたくちは皆たまが充実ちたお時間をつごして下たる事が喜びであり務めでつので、わたくちの事はお気になたらず どうぞ皆たまおちょく事をお楽ちみ下たいまて」
「・・・・・」
イリアは何度かウラルに一緒に席に座ってご飯を食べようと声を掛けていたが、ウラルが首を縦に振る事はなく 席に座る事もなかった。
しかし、ウラルは遠慮しているというような雰囲気ではなく、むしろ俺達に飲み物を注いでいる時は心なしか生き生きしているようにさえ感じたので、俺やヤンバルは初めこそ座るように促したが それ以降は無理強いするのをやめて食事をする事にした。
「ん!ウラルさん、このお吸い物すごい美味いよ。ありがとうな」
「勿体ないお言葉、喜んで頂けたのならたいわいでございまつ」
ウラルの出してくれたお茶もお吸い物もとても美味しく、俺はウラルにお礼を告げるとウラルは少しだけ嬉しそうな表情になり丁寧にお辞儀をした後、少し減っていたお茶を適量まで注ぎ足してくれた。
俺達が昼飯を食べている中、ずっと飲み物を注いでくれるウラルをイリアは手伝おうとしたり座らせようとしていたが、全て拒否されてしまい 最終的にはイリアも諦めて食事を始めた。
「ウラルさんマジこのジュースおいしいって!まだおかわりってあるかなぁ?」
「ポンタおまえ何杯目やっ?そろそろポンタの腹ん中で泳げるんちゃうか!?ヤハハッ、ワイも負けへんでぇ!ウラル、ワイもおかわりくれやっ」
「おおー、ぐるるもおかわりー!」
「かちこまりまちた」
ウラルが加わった事でかなり異質なフリードリンク付きのランチタイムになってしまったが、それなりに楽しい時間を過ごす事ができていたのだが…、なんとなく、セルの様子がおかしい気がする。
どちらかと言うとヤンバル達のように騒がしい組に分類されるはずのセルが、ここまでほとんど会話に入って来ないのは珍しいし、それよりも気になるのは、、、
「テルツたま、ドリンクもツープも手を付けておられまてんが…お口に合いまてんでちたでちょうか?」
「ん?ああ、ごめんごめん。俺ってば最近忍者映画にハマっててさぁ、人から貰った物は口にしないってのがマイブームなんだよねぇ。たはっ」
「た様でございまつか。テルツたまのお考えを汲み取る事が出来ずに申ち訳ございまてんでちた」
・・・やっぱりおかしい。
表情はいつも通りだが、今のやり取りでセルがおかしい事に俺は確信を持つ事が出来た。
セルは人の好意を決して無駄にする奴じゃない。
たとえ誰かがセルの嫌いな食べ物を知らずに、好意でそれを渡したとしても、セルは絶対に笑顔でありがとうと言って 相手の目の前で完食するような奴だ。
そんなセルが映画の影響なんかで好意で出してくれた飲み物を拒絶するはずがない…。
しかもセルが食べているサンドイッチは持参した物ではなく購買で買った物なので、人から受け取った物を口にしないって言った言葉と矛盾する。
「・・・・・」
そういえば…訓練場で俺達がウラルを探している時も、セルは1人だけウラルを探そうとはせずに戻ろうと提案をしてきた。
今思えば、セルらしくない冷たい態度だったと思う…。
もしかして、ウラルさんの事が嫌いなのか?
「なぁセル……」
「ん、どうした?最近やたら注目を浴びているタクトくん。タクトも忍者映画に興味があるのかね?確かに今俺がハマってる映画に出てくるくノ一はエロかっこいいけど、タクトにはまだ早いシーンも・・・し、しまった…煩っっ脳ぉぉぉぉっ」
「おおー、またセルルのお鼻からケチャプー出たおー!」
俺はセルに 何故そんな態度を取るのか聞こうとしたが、ウラルさんがこの場にいる状況で聞く話ではない事に気付き、言葉を止めた。
俺が言葉に詰まったのを見たセルは勝手に自爆してしまい、いつもなら鼻血を出すセルにため息を吐いているところだが、今はセルのアホな発言に救われた気分だった。
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