【 新生Aクラスの日常 】
ーーー2日後
ハイナさん達がAクラスに来てから2日が過ぎた。
ポンタルとハイナさんは昨日の時点で予想通りすぐにクラスに溶け込んでいったが、ウラルだけは2日たった今日も相変わらず浮いた存在として教室の中央の席に座っていた。
「おっはよウラルさん、今日も一日頑張ろうね」
「おはようごさいまつミントたま。本日もよろちくお願い致ちまつ」
今のように誰かが声を掛ければ丁寧に返事が返ってくるし、何かを質問すれば全てきちんと応えるのだが、ウラルから誰かにコミュニケーションを取る事はない。
それに、授業が終わって休み時間になると直ぐに転移でどこかへ行ってしまうので 探り探りなクラスメート達はウラルと仲良くなりたくても深く関わる事が出来ないでいるようであった。
「まぁ、HRが始まるまでの短い時間と授業だけだとそうなるよな…」
見ている感じでは人付き合いが苦手というわけでもなさそうなんだけどな…。
「おっすタクト!なーにを朝からブツブツ言ってんの?」
「おはようセル。なんでもないよ…ってか俺、声出てたのか?」
「たはっ、自分で出した声に気付いてなかったのかよ!MSSレベル3なのに自分で心声を漏らしちゃうタクトに萌え〜」
いつもの様に登校した俺は、俺よりも早く教室に居たウラルを見ながらぼぉーっと考え事をしていると、頭で考えていた事が口から出てしまっていたらしく、それを見たセルが朝っぱらから揶揄いの言葉とうざい顔で挨拶をしてきた。
まぁ独り言を聞かれたのは多少恥ずかしかったが、聞かれたのがセルで良かったと安心もした。
しかし、、、
俺が気付かない内に声を出してしまっている事に気付いたのなら『声出てたぞ』だけで良かったんじゃないか?
その後の『MSSレベル3なのに〜』とか『萌え〜』とかは いらなくないか??
「・・・・・」
別にムカついた訳ではない。
だけど、揶揄われっぱなしなのはなんか癪だな…
そう思った俺は、少しだけセルに仕返しをしてやる事にした。
「そういえばセル。あれってなんだっけ?えーと、アレだよアレ」
「ん?アレだけだと流石のセルス様でも分からないって。何かキーワードでも言ってくれないと…」
ーー掛かったな。
「セルが昔フレド兄さんに見せられたって言ってた本のタイトルってなんだった?」
「ーーっ!?ちょっ、タクトこのヤロ・・・ぶほっ…」
はい、仕返し終了。
セルもまだまだアイデンの制御が甘いな。
俺の策略通り 鼻血を出して机に突っ伏したセルにポケットティッシュを差し出すと、セルは手慣れた様子でティッシュを鼻に詰めながら俺に文句を言ってきたが、一通り文句を言い終えると会話は今日から始まる戦闘訓練の事へとシフトしていった。
「4時限目の戦闘訓練、どんな事をするんだろうな。俺は選択授業で戦闘訓練を受けた事がないからな…」
「ん〜、どうだろうね。本格的なって言ってたから、試合形式でやったりするんじゃない?でも今日は初日だから多分説明だけでしょ?」
最近は特に復習授業が続いている為、今セルが言ったように戦闘訓練も今日は説明だけなのではないかと、俺も予想していた。
まぁ考えたところで、結局は4時限目になればわかる事なので 深くは考えずに会話を雑談に戻すと、丁度ハイナさんが教室に入って来た。
「イリアさんタクトさん、ごきげんよう。本日もお暑うございますわね。グルルお坊ちゃまは・・・朝から大人気のご様子ですわね。大変残念ですが、ご挨拶は後ほどに致しますわ」
ハイナさんはクラスメート達に挨拶を済ませた後、自分の席に着いて俺達(セル以外)に挨拶をした。
たった2日だが、もう見慣れた光景だ。
「・・・朝から鼻血を出すような事を考えていらしたのかしら?あなた、ここが学び舎である事をちゃんと理解していらっしゃいますの?」
「なんでいつも俺にだけ挨拶なしで罵倒から始まるんだよハイナは・・・。あなた、朝はおはようという挨拶をするのが常識だと ちゃんと理解していらっしゃいますのぉぉぉ?って嘘嘘!ごめんなさいごめんなさばげぶっ」
たった2日だが、もう見慣れた光景だ…。
ーーーーー
ーーー
ー
HRが終わり、授業中にデュランが窓から出て行った事以外は特に変わった事もなく授業は進んでいき、次はいよいよ戦闘訓練の授業。
戦闘訓練は訓練場で行われるとの事なので、休み時間の内に移動をして来た俺達は雑談しながら授業が始まるのを待っていた。
「んん?レウカーサが来とらへんやんけ。あいつどこ行きよったんや?なぁシエート、なんか聞いてへんか?」
「デュランは多分来ないと思うよ。ヤンバルが気持ち良さそうに寝てた3時限目の時に、体育で膝をちょっと擦りむいたラピスちゃんが窓から見えたらしくて、そのまま窓から飛び降りて出てったから」
「なんやねんそれっ!あいつの妹ファースト精神はどないなっとんねん。呆れる通り越して尊敬するわほんま…」
俺からすれば、授業中にイビキをかいて寝れるヤンバルの精神も呆れるを通り越して尊敬出来るけどな。とは言わずに、訓練場内を見渡していると HRで聞いた通り訓練場にはAクラスの生徒だけではなくBクラスの生徒もちらほら集まって来ていいるのが視界に入った。
Aクラスの生徒が殆ど集まっている中、Bクラスの生徒はまだそれほど多く集まってはいなかったが、集まっている少ないBクラスの生徒の中に見覚えのある人物が居り、その人物がイリアと親しげに話しているのが見えた。
「おおー!ラーラがいるおー!」
グルルが指を差して名前を呼んだ見覚えのある人物とは、ララ・リアート。
確かCクラスの生徒だったはずだが…今回のクラス替えでBクラスに替わったのだろうか。
ララは成績も運動神経も良いとは聞いているが、、、MSS非感染者だ。
MSSレベル3が在籍するAクラスに非感染者が入れないのは言うまでもない事だが、Aクラスと合同授業を行う事があるBクラスにも非感染者は入れないものだと思っていた俺は少しだけ驚いた表情でララを見ていると、俺の視線に気が付いたララがイリアと一緒にこちらへと近寄って来た。
「ちょっとタクトくん、あんた何をジロジロ見てんのよ!驚いた顔なんかして…私がここに居たらダメだって言いたいの!?」
ズイズイと歩み寄ってきたララは、両手を腰に当てながらグイグイと俺に顔を近づけて 威嚇するようにそう言ってきた。
これが初対面とかだったら、俺はララに対してかなり苦手意識が芽生えていただろうが、カカカ祭り以降、何度か顔を合わせる機会があったのでこれがララの素である事を知っている俺は、一歩だけ後ろに下がってから普通に会話を続けた。
「いや、そんな事は思ってないけど…まさかララさんがBクラスに居るとは思わなかったから驚きはしたかな。もしかしてルークの事が心配だからBクラスに入れてくれって先生に頼んだりしたとか?」
「なっ!そんな事あるわけないでしょ!ぶっ飛ばすわよっ!?」
【なんで知ってるのよ!?もしかしてルークも私が学園長に直接掛け合った事を知ってるの!?】
俺が冗談交じりに言った言葉を聞いたララは顔を赤く染めてプイッと横を向いた。
「・・・いや、なんかごめん」
まさか本当に直談判していたとは…しかも学園長に直接って。
ちなみにルークもレベル3なんだから間違いなくバレてると思うぞ…
それにしても、デュランといいララといい 俺の周りには過保護な人が多過ぎる気がするなぁ…と苦笑いしていると、俺と同じくララの心声が聴こえてしまったイリアと目が合い、俺達は2人でクスクス笑い合った。
「あっ、ララやっと見つけたぁ。ボ、ボク ララを探そうと思ってBクラスの方に行ったんだけど…知らない人がいっぱいで、怖くて…。タクトくん達と一緒に居たんだね、よかった…。でも、どうしてそんなに赤い顔してるの?だ、大丈夫?」
ララを探していたというルークが俺達の所へ小走りでやって来ると、心優しいルークは顔を真っ赤に染めるララを心配そうに気遣った。
しかし、ツンが発動している時のララに不用意に近付くと、、、
「なっ、なんでもないわよっ!あんたはあっちで大人しく座ってなさぁぁぁぁいっ!!!」
「え、ララッ!?ちょっと待って どうしてラリアァァァァッーーー」
バコッ、ピュ〜〜〜・・・
不用意に近付くと危ないぞ、と言おうとしたが間に合わず、ルークはララのラリアットによって訓練場の端まで吹っ飛ばされていった。
「おおー!ルクク飛んでったおー!」
「え、えげつないラリアットやなぁ…。ルークの奴、別になんも悪い事しとらんかったやんけ…」
目の前で理不尽すぎる強力なラリアットにぶっ飛ばされたルークを見てしまったヤンバルは、冷や汗を垂らしながらそう呟いた。
「あ?そこのチビ猿、何か言った?あんたもぶっ飛ばすわよ!?」
「ア、アカン!この女めっちゃおっかないやんけ!グルル、ポンタ、退散すんでぇ!」
ララに免疫のないヤンバルはララのラリアットを見て危険と判断し、ポンタルとグルルを引き連れて素早く退散していってしまったが、退散したヤンバル達と入れ替わりに戻って来たルークを交えて雑談をしていると、次第にBクラスの生徒達も訓練場に集まってきて、チャイムが鳴る少し前にララもBクラスの輪へと戻って行った。