【 憂鬱と歓迎のクラス替え 】
〝生徒の皆様、午前の授業お疲れ様でした。ランチの時間です、本日の献立表を見て、食べたいメニューの札を自席の上に表向きにして置いておいて下さい。それ以外の物が欲しい場合は各階に設置してある売店でお求め下さい〟
聞き慣れた放送が流れて昼休憩の時間になると、教室内に明るい騒がしさが広がっていき 弁当を広げる者 談笑する者 購買に走って行く者、各々自由に行動を始めていた。
「パーパ、イーリャ、お弁当いたまーすするおー!」
「ちょまってぇなグルルゥ。なんでワイの事は呼んでくれへんのぉ?悲C超えて悲Dやんけぇ。ワイも一緒に食べさせてぇな」
かくいう俺も弁当を取り出して、グルル ヤンバル イリアと共に昼飯を食べ始めるところだ。
ついさっきまでイリアに対して変に意識をしてしまっていた俺は、イリアと顔を合わせながら昼飯を食べるのがなんだか少し気恥ずかしかったのだが、今まで普通に一緒に食べていたのに急に余所余所しい態度をとってしまうと変に思われてしまうので、心情を隠す為にも 俺は平静を装っていつも通りイリアと向かい合って座り、弁当を広げた。
ガラガラッーーー
「重役出勤っ!!セルス・シエート、ただいま帰還致しましたぁぁぁっ!」
ヤンバルの大盛りAランチが転送されてきたのとほぼ同時に教室のドアが勢い良く開かれ、生徒会の仕事で遅れてくると言っていたセルがやっと登校してきた。
「登校してすぐに昼飯って、なんかかなり得した気分っすわぁ。おっ ヤンバルは和食か、美味そうだし俺も今日は和食にするかな!」
「うざいくらい元気だなセル。昼休みが終わったら違うクラスから何人かはこのクラスに来るって言ってたから、あんまり恥ずかしい事するなよ」
登校してきたセルは、俺達の輪に加わって早々 やけに元気だったので俺が溜め息混じりにそう言うと、セルはピタリと動きを止めた。
「ん?どうしたんだ、セル?」
「・・・いやぁ、これが俺にとって最期の平和な昼飯だと思うと……胃が痛くなってきただけ…」
何故か遠い目をしながらそんな事を言い出したセル。
「セルルどっか痛いお?イーリャ、イーリャ、セルルにお花してあげて!セルル、痛いって言ってるおー!」
「たはっ、グルルは天使かっ!どこも痛くないから大丈夫だぞ、グルルありがとなっ」
胃が痛くなってきたと言うセルを心配したグルルがイリアに花吹雪を出してあげてくれとお願いする可愛い一幕もありつつ 昼休憩を満喫していると、あっという間に昼休憩が終わって いよいよこのクラスに新しい生徒がやってくる時間になった。
ーーー
「皆さん揃っていますね。朝は来る事が出来ずに申し訳ありませんでした。早速ではありますが、先週お話しした通り本日はクラス替えがあります。Aクラスからの移動はありませんがAクラスに加わる生徒が3名居ます」
5時限目の開始を告げるチャイムが鳴ったと同時にサラ先生が教室に入ってきて、朝の謝罪をした後 教室のドアの方へ視線を向けると タイミングを待っていたようにドアが開かれた。
ガラガラッーーー
サラ先生の言葉を合図に教室へと入ってきたのは男子1名、女子2名。
「ーーーっ!?」
その3名は全員、俺の知っている顔触れだった。
3名はサラ先生の横で一列に並んで立った。
「知っている生徒も居ると思いますが、これから一緒に授業を受ける事になるので一人一人自己紹介をお願いします」
サラ先生がそう言うと、3人の中で唯一の男子生徒が一歩前に出て自己紹介を始めた。
「自分、Bクラスから来ましたポンタル・アニマールです!Aクラスのマジ半端ないみんなと一緒のクラスになれてマジ嬉しいです!マジよろしくお願いします!」
1人目は少しポッチャリとした体型で人の良さそうなポンタル。
ポンタルはたまに選択授業で一緒になっていたBクラスの生徒なのだが、顔は知っているが特に関わったという記憶はない。
たしか先週の魔修授業でも一緒だったはず、だよな?という程度。
まぁそれはいいのだが、問題は残りの女子2人だ。
ポンタルの挨拶が終わると、2人いる女子の内 前額部から眩ゆい光を放つ女生徒が一歩前に出て挨拶を始めた…。
「誇り高きアルバティル学園の最優クラスと呼ばれておられますAクラスの皆々様、わたしくはハイナ・エステイムと申します。この度は恐縮ながらわたくしもAクラスの一員とさせて頂く運びとなり、大変嬉しく思っておりますわ。アルバティル学園の名に、そしてAクラスの名に恥じぬようにわたくしも・・・!!!あぁーん、グルルお坊ちゃまっ!これから毎日グルルお坊ちゃまと御一緒出来るのですわねっ。わたくし、感無量でございますわっ!」
・・・女子の1人目はハイナさん。
ハイナさんもポンタル同様 元々BクラスだったのでAクラスの連中とは授業でも多少関わっているし、なにより風紀委員という事でハイナさんの事を知らない生徒は多分この学園には居ない。
クラスのみんながハイナさんの事をどう思っているのかは知らないが、グルルに対してデレデレになるハイナさんを見て みんな少し引き気味に驚いた顔をしていた。
「はぁ〜・・・」
好きな人物に対しては頭のネジが2、3本ぶっ飛んでしまうハイナさんを見るのは初めてではないので、俺は苦笑いしながら見守っていたが 隣の席のセルは心底呆れたような表情で溜め息を吐いていた。
隣で溜め息を吐くセルが昼休みの時に言っていた『最期の平和な昼飯』の意味……それはハイナさんがAクラスにやって来る事を示唆していたのだろう。間違いなくな。
ハイナさんがAクラスに来た事には驚いたが、それよりも俺が気になっているのは3人目の女生徒だった。
「(なんであの子が・・・)」
俺が気になっている3人目の人物。
俺とは気になっている理由が違うと思うが、異質な雰囲気を纏う最後の女生徒に クラスメイト達も興味の視線を向けていた。
ズズッーー
そんな中、クラスメイト達の視線を浴びる最後の女生徒は、長すぎるスカートを地面に引きずりながら一歩前に出て 挨拶を始めた。
「みなたま、初めまちてーーー」
その人物は、以前会った時と同じように舌ったらずで、
「わたくちはウラルと申ちまつ。以後、お見ちり置きを」
顔の右半分に学園長と同じ仮面を付けたまま、以前俺に名乗った名前と同じ名前を口にした。
ウラルは以前着ていたダラダラの執事服ではなくアルバティル学園の制服を着用しているのだが、涼しそうな夏服ではなく サイズの合っていない暑そうな冬服を着ており、両手はスッポリと袖の中に隠れているしスカートは地面を擦っているしと、着こなし方は相変わらずだらし無かった。
「3人ともありがとうございました。皆さん、今日からこの3名はクラスメイトになります。同じ学園生であるとはいえ、クラスが変わって慣れない環境に戸惑う事があると思いますので 皆さんがしっかりサポートしてあげて下さい。では、5時限目はこのまま自習にします。チェルチさん、後はよろしくお願いします」
「はい」
そう言うと、サラ先生はチェルチの返事を聞いた後 教室を出て行ってしまった。