【 膨らむ気持ち 】
充実した土日が終わり、騒がしい学園に到着した俺は窓際の自分の席に座ってぼぉーっと外を見ながら時間を潰していた。
HRが始まるまでの時間、いつもならセルと談笑したりしているのだが、今日は生徒会の仕事があるとかで午前の授業は来ないと さっきメールが届いたからだ。
ガラガラガラッーーー
「おーっすみんな、おはよう!おいおい男子、サラ先生じゃないからってガッカリした顔するなよなっ」
暫くの間、窓から外の風景を眺めていると 教室のドアが開き 先生が入ってきたのだが、入ってきたのはサラ先生ではなくフレド兄さんだった。
「サラ先生は用事で来られないから、今日のホームルームは俺が進行するぞー。えぇーと、これで全員か?クラス委員長、まだ来てない奴は居るか?」
「不登校中の生徒と生徒会のセルっち以外は全員揃っていますので、進めていいと私っちは思うのです」
体育の授業以外でこのクラスと関わる事がなかったせいか、1-Aの内情をよく分かっていないフレド兄さんは空席の多い教室内を見渡して質問をし、それに対してクラス委員長のチェルチ・チェリオットが答えていた。
「そっかそっか、ありがとうな委員長ちゃん!んじゃ報告始めっぞー。今日のイベントとしてはクラス替えがある事くらいだな。お前達が移動する事はないけど、他のクラスからこのクラスに移ってくる生徒が何人か居るから みんな仲良くしてやれよっ」
それからもフレド兄さんは、サラ先生なら絶対しないようなくだけた雑談を交えながらHRを進めていき、チャイムが鳴ってフレド兄さんが出て行ってからも賑やかな雰囲気は消える事なく1時限目が始まっていったのだが、不思議な事にテストが終わったというのに授業は未だに復習メインで行われた。
復習授業なら俺は自分の為にするよりも先週同様グルルに付き添って教えてあげようと思ったのだが、グルルの隣の席のヤンバルが面倒を見てくれると言い出したので、グルルの事はヤンバルに任せて 俺はまた窓の外を見ながら時間を潰していた。
1時限目が終わり、2時限目も終わった。
それから3時限目も終わって今は既に4時限目。
同じ様な復習授業が続いていき、その間も俺はずっと 何かを見ているという訳ではなく、ただぼんやりと窓の外を見続けていた。
授業を進める先生の声は耳には届いているのだが頭には入って来ず、眠いわけではないが起きているのか寝ているのか分からないような状態の俺は、透ける鏡のように綺麗な窓を眺めながら、HRでフレド兄さんが話していた事を思い出していた。
「(クラス替えは昼休憩が終わってからって言ってたな…。誰が来るんだろうな…)」
テストが終わり次第クラス替えがあると言われた時は、テストの結果でクラスを決めるのかと思っていたのだが、あんな簡単なテストでクラスを決めるのは不可能なはずなので何を基準にクラスを決めるのかもわからない。
まぁ誰が来ても別に構わないのだが、俺の個人的な気持ちで言わせてもらえば Bクラスの誰かが来てくれたらいいなぁと思っていた。
Bクラスの連中とは選択授業でよく顔を合わせているので馴染みの生徒も多く居るが、Cクラス以降のクラスとはほぼほぼ関わった事がないので なんとなく気が引けてしまう…
「(レベル3が居るAクラスに非感染者の生徒が来る事はないと思うけど、なるべく知ってる人が来てくれたらいいな…)」
そんな事を考えながらぼぉーっとしていた俺は、窓の外の風景を見ていたはずだったのに いつの間にか……窓に映る後ろの席のイリアを見ている事に気が付いてしまった。
ドクンッーーー
自分の視線がいつの間にかイリアに向いていた事に気が付いてしまった俺は、ドクンッと高鳴る自分の鼓動を感じつつも 窓に映る半透明のイリアから目が離せなかった…。
ノートを取る必要など無さそうな復習授業なのに、真面目に授業を聞きながらペンを走らせるイリアの優しそうで真剣な表情。
ノートに文字を書き込もうとした時に、触り心地の良さそうな綺麗な髪の毛が視界の邪魔にならないように左手で髪を耳にかける仕草。
見慣れている筈の幼馴染の横顔に、俺の鼓動はまた少し速まっていった。
「(・・・・・っっ!?)」
頬杖をつきながら窓越しにイリアをぼぉーっと見ていた俺の視線に気付いたのか、不意にイリアが窓に視線を向けて 窓の反射越しに目が合ってしまった。
窓越しに目が合った事に気が付いたイリアは、窓に映る俺に向かって微笑みながら小さく手を振っていたが、手を振られた俺は驚き4.5割 気まずさ5.5割の衝撃を受けて身体がビクッと震えてしまい、その反動で俺の机がガタッと大きな音を立ててしまった。
「うおっ、なんやなんやっ!?いきなりビックリするやんけ!なんやパパやん、居眠りでもしとったんか?」
「あ、あぁ。悪い、なんでもない」
俺が突然大きな音を出してしまった為、すぐ前の席でグルルと一緒に勉強をしていたヤンバルが驚いた顔で振り向いてしまった。
俺は気まずい気持ちと赤くなった顔を隠してヤンバルに謝った後、フゥーっと息を吐いて気分を落ち着かせようとしたが、高鳴る心音と赤くなった顔が正常に戻る前に 背後からイリアに背中をトントンッと軽く突かれてしまい、落ち着く事が出来なかった。
大きく脈打つ心音が漏れる事はないと思うが 赤くなった顔をイリアに見られたくなかった俺は、首を少しだけ横に向けて後ろの席のイリアに耳を傾けたのだが、傾けた耳に息がかかる程の距離でイリアが小声で『ごめんね、大丈夫?』と言ってきた事で、俺の顔は更に赤くなってしまった…。
ーーー