【 マキナ・フラワールはぷんすかぷん 】
「おっ、今日は珍しくマキナもいるみたいだな。じゃあ今日も歩きで向かうか」
いつもイリアと合流する場所にマキナもいるのが見えたので、今日は歩いて登校だろうと予想を立てながら2人の元へと歩いていく。
学園までの距離は近くも遠くもないのだが、俺とイリアの家から少し歩くと駅があり それに乗ると歩くよりかは早く学園に着く事が出来るので、イリアと2人で登校する時はいつも電車を使っている。
まぁ昨日は二学期初日だったのでなんとなく歩きで行ったけど。
普段電車を使う理由は楽だからというのももちろん理由の1つだが、MSS専用車両があるからってのがでかい。
タイミングがズレてイリアと合流せずに一人で学園に行く時なんかは俺は学園まで歩いて行くが、イリアと一緒の時はほぼ毎回電車を使うようにしている。
イリアは歩きでもいいよって言うけど、俺はイリアに少しでも心声による負担を掛けたくない為 イリアといる時は頑なにMSS専用車両に乗るようにしていた。
だが、マキナが居る時は3人で歩いて登校していた。
理由はもちろん非感染者のマキナはMSS専用車両に乗れないから。
感染者も非感染者も一緒に乗れる共同車両はもちろんあるが、学園生だけではなく非感染者の大人達も多く利用している為 朝の電車は混雑する。
朝の憂鬱な心声を聴きながら窮屈な思いをして電車に乗り 歩く距離を少し短くするくらいなら、ゆったり歩いた方が断然いいので マキナがいる時は歩きにしている、というわけだ。
「あっ!タクトお兄ちゃんとグルが来たっ!」
俺とグルルがイリア達に向かって歩いていると、俺達に気が付いたマキナが大きな声でそう言いながらこっちに向かって走り出した。
「あ、マキナ!ダメだよっ!」
ダッダッダッダッーーー
イリアの制止を聞かず一直線に走ってくるマキナは、運動部に所属しているだけあってかなり足が速い。
【アホアホッバカアホ裏切り者っ!】
ーーっ!?
なんだ?マキナから意味がわからない心声が聴こえてきたが・・・
「ブーストッ!!」
「っな!?なんだっ!?」
「おおー!マキキはやー!」
心の中で暴言を吐きながら走り寄って来ていたマキナが、アイデンによる自強化で更にスピードを上げた。
「何を朝から全力疾走してんだよマキナは……って、おい!マキナ危なーーー」
マキナは勢いを弱める事なく走り、近くまで来た途端俺に向かって頭を突き出してジャンプをし 一の字になるように水平に飛び込んで来た。
「タクトお兄ちゃんのアホォォッ」
ドガッッーー
「ぐはっーー」
アイデンの《ブースト》でスピードを上げたマキナのジャンピングヘッドバットが俺の腹に直撃した。
まさかそのまま突っ込んで来るとは思っていなかったので防ぐ事が出来ずにもろに受けてしまい、俺は意識が飛ぶ寸前だった。
電光石火の速さで喰らうヘッドバットは、もはや事故と変わらない……
「タクト大丈夫っ!?ちょっと待ってね、すぐに花弁で治癒するから!」
「う…あぁ。た、頼む」
ヘッドバットの衝撃で上手く呼吸が出来ずにうずくまっていると、小走りで寄ってきたイリアがいつもの花びらで治癒をしてくれたのでなんとか無事に起き上がる事が出来た。
だが、何故マキナがヘッドバットしてきたのかわからなかった俺は、近くで未だにプンスカしているマキナに詰め寄った。
「おいこらマキナ。なんで朝っぱらから全力ヘッドバットしてきたんだよ?冗談抜きで死ぬかと思ったぞ」
「タクトお兄ちゃんが悪いっ!アホアホッ!」
「いやいや…まったく意味がわからないって。俺、なんかしたか?」
実際の声でも心声でも馬鹿とかアホとか裏切り者と連呼するマキナだが、罵られる理由が思い当たらない。
マキナを裏切った記憶もないし、馬鹿とかアホとか言われるような事をした記憶もないのに…
「おおー、パーパ元気になたー!イーリャのお花、すごいおキレイだおー!」
俺がマキナの妄言に頭を捻らせていると、先程俺を復活させたイリアのアイデン《花吹雪》で作られた花びらを見たグルルが楽しそうに称賛した。のだが、そのグルルを見たマキナは額に血管を浮かばせながら憤怒の表情を浮かべていた。
「アホッー!やっぱり本当だったんだ!もう知らないっ!タクトお兄ちゃんのアホォォッ」
怒りの表情を浮かべたマキナは再度俺にアホォォッと叫ぶと、そのまま学園の方へと走って行ってしまった。
「あっ、マキナ待ちなさいっ・・・行っちゃった。ーーーごめんねタクト、マキナったら昨日学園から帰って来てからずっとあんな調子で…」
マキナの暴走に対してイリアが謝罪をしてきたのだが…
「・・・意味がわからない…」
俺は何がなんだがわからなかった。
まぁマキナが理解不能な行動や言動を取るのは珍しい事ではないので、そこまで気にする必要はないのかもしれないけど…
「パーパ、はよガクエンいこー!ガクエンでおべんと食べたいおー!」
マキナの妄言は腑に落ちないけど、ここで考えても仕方ないので 俺達は学園へと向かう事にした。
道中でマキナの事をイリアに聞いてみたが 話を濁されてしまい結局分からずじまいだったので俺は考えるのをやめた。
ーーーーー
ーーー
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お散歩楽しいねーというグルルの言葉に流されてしまい、結局歩いて学園に登校した俺達。
警備員が笑顔で学生達を見守る正門を通り抜け、見慣れた噴水の横を通り過ぎて兄棟へと向かっている途中、先程1人で走り去って行ったマキナが誰かにギャーギャー言っているのが目に入ってきた。
「ん?マキナに絡まれてるのは…」
「マーマ!マーマー!」
マキナにギャーギャー何かを言われていたのは、ウサクラさんに跨るマリアだった。
身長だけならマリアよりマキナの方が高いのだが、ウサクラさんの背中に乗っている為 今はマリアの方が目線が高く、マキナを見下ろしている形なのだが それだけではなく、なんとなくマリアの表情が勝ち誇っているように見えた。
「ーーーーー」
マキナに何かを言われていたマリアだが、俺達の存在に気がつくとマキナを放置してこっちに近付いて来た。
「…おチビ、パパ。…おはよ」
ガシッーー
「マーマおはおー!ぐるるもパーパにくっつくおー!」
ズシッーー
「重っ!2人とも頼むから離れてくれっ」
「ふふっ、マリアちゃんおはよう」
近づいて来たマリアはウサクラさんから降りて いつも通り俺の右脚にコアラの様にしがみ付いてきた。
そしてそれを見たグルルもマリアの真似をして俺の左脚に飛び付いてきたのだが、グルルは重過ぎる…
側から見れば平和的な光景かもしれないが、しがみ付かれている俺は立っているだけで精一杯。
そんな俺の悲劇的日常を遠くから憤怒の表情で睨みつけていたマキナは・・・
「タクトお兄ちゃんのバカアホロリコンッ!」
と、馬鹿阿保に上乗せして誤解を招きかねない発言を大声でして また走り去りやがった。
「ちょっ、人聞きが悪過ぎる事を大声でーーーおいっ2人ともいい加減離れろって!」
「…いや」 「ぐるるもいやだおー!もひひー」
「ごめんねタクト。マキナには後でちゃんとお説教しておくね・・・それよりタクト、すごい注目されちゃってるから早く教室に行った方がいいと思うよ」
マキナが大声で変な事を叫んだせいで生徒達がヒソヒソ話しをしながらこっちをチラチラと見ていた。
「・・・だな。マリア、俺達は教室に行くから本当に離れてくれ」
「………うん」
俺もイリアも人から注目されるのは得意ではない為、さっさとこの場から退散したい気持ちを抑え切れず マリアに離れてくれとお願いすると、渋々ではあったが素直に言うことを聞いてくれた。
マリアが離れてくれた事でグルルも俺の左脚から降り、マリアにお別れを告げてから俺達は足早に教室へと向かった。
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